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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第2章 マリブサーフ列島国編
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246,ラルーガンと島ワタリ 3株目


「最近の若い奴等の殆どは知らないだろう、この島で昔から語られてるちょっとした寝物語だ。

おれも小さい頃お袋に毎日の様に聞かされてたし、お袋も祖母さんから聞かされていた。

その祖母さんも祖母さんの母さんからって感じで代々親から子に語られてた話な訳だ」


そう言ってお爺さんはラルーガンの実が出てくる話を語ってくれた。

それは何時から続いてるのかも、誰から始まったのかも分からない。

そんな古い古い口承の1つだそうだ。



「昔々、遥か昔。


世界は悪逆非道の魔王に支配されていた。


ある日巨大な4対の目の魚に乗って奇妙な医者が現れた。


医者はゾンビにされた人達を助ける為に来たのだと言った。


『ゾンビにされた人達を助ける為には薬の元になる植物が必要だ』


それだけ言うと医者は火山や海に何度も潜り、鳥達に邪魔されながらも見た事ない青い苔やラルーガンの花や実を集めて去っていった。


それからまた暫くして巨大な魚に乗った医者が帰って来た。


医者は薬が出来たと言ってゾンビにされた人達にその薬を振りかけた。


薬を振りかけられた人達は人間に戻れた。


魔王は勇者に倒され、ゾンビも人に戻り、世界に平和が訪れた」



以上だ。


とそこまで一気に語ったお爺さんがお茶を飲んで深く息を吐く。

それと同時にお爺さんの興味は完全に俺達からやって来た従業員さんの手の中の大盛塩焼きそばに移ってしまった。


「確かにラルーガンの実の事も出てるし、その実を使ってなのかは分からないけど死んだ人を生き返らせる薬を作ったとも言ってるけど・・・・・・」

「それだけか?意外と短いな」

「そりゃあ、口々に伝えてる話だからな。

生きていくのに役立つ先人の知恵とかが含まれてる訳でも無いんだ。

長過ぎちゃあ漁に関係ない変な話なんて一々覚えらんねぇよ」

「あぁ、だからですか。

だから今は、若い人達が知らない様なマイナーな昔話になってしまったんですね。

優先順位が高い他の話に埋もれて消えかけてしまった」

「まぁ、そんな所なんじゃ無いのか?

頭良い奴の難しい考えなんざよく分かんねぇけど」


マシロが感想を言う様に今の話が自分達にどう聞こえてるかさり気無く教えてくれる。

そのどこか戸惑った様なマシロの言葉を引き継ぐ様にルグはそうお爺さんに言った。

けど肝心のお爺さんは興味なさげに口の中一杯に詰め込んだ焼きそばを飲み込んでそう言うだけで、視線を一瞬俺達に向けるだけ向け焼きそばを啜るのに専念している。

確かにお爺さんの言う通りこの話が日々の生活に何か役立つ情報を含んでるとは思えない。

漁の成果に関係ありそうな潮の満ち引きに月が関係あるとか、怪我や病気の時役立つ薬草とか。

そう言う事が含まれてる訳でもなく、ただ奇妙な医者が何処からか現れて薬を作ったと言うだけ。

その薬も『死者を生き返らせる薬』と言う御伽話の様な物。

だからこの世界の人達からしたら荒唐無稽な御伽話としか思えないんだろう。


でもこの話は確かに俺達に必要な情報かもしれない。


「魔王に支配されていたって事は1万年前が舞台ですかね?

その時代に起きた、『巨大な魚に乗って現れた医者』が『ラルーガンの実や青い苔を集め』て『ゾンビを人間に戻す薬』を作った話」

「ッ!!」


そう俺がどう聞こえたかお爺さんに聞く様に伝えたら、ルグとマシロも察したんだろう。

両隣から息を飲む音が微かに聞こえた。


そう、恐らくだけどこのどこか聞き覚えのある話は『蘇生薬』を作る為に旅をしていたジャックター達の事を伝えた話だったんだ。


ジェイクさんが解読したリーンの研究日誌によれば、あの絵本に出てきた8人でジャックター達も素材探しの旅をしていたらしい。

それも模様の関係で目が8個ある様に見える超巨大なクジラの姿をしたケーストのスクリュードの背中に乗って。


お爺さんの話だけじゃ確証を得られないけど、事前に聞いたジェイクさんの話と被ってる所があるから可能性は十分にあると思う。

もう少し詳しく聞く事が出来ればきっと本当にこの話がジャックター達の事か分かるはずだし、本当にそうだったら『コナ付近の海』の場所も分かるかもしれない。

そう思って俺は焼きそばに夢中になっていようが関係ないとお爺さんに声を掛けた。


「今の話、もう少し詳しく聞いても?」

「・・・・・・・・・ング。

詳しくも何もこれ以上は何も出ないぞ?

あぁ、だが、おれが聞いたのはこんな感じってだけで、家毎に話の内容も長さも違うらしからな。

他の年寄り連中ならもっと詳しい話知ってるんじゃないか?」

「それか図書館に行くかだね。

何年か前にどっかの学者先生がこの島の昔話をまとめて本にしてたはずだよ」


間違いなくリスやハムスターの様に焼きそばを詰め込んでいたのが原因だろう。

やけに長く感じる程無言で口をモグモグ動かして漸く飲み込んだお爺さんが待ち時間を無駄にする様に首を傾げた。

そんなけんもほろろに言葉を返すお爺さんに替わりに1皿目の焼きそばを完食したお兄さんが口元を拭いながらそう教えてくれる。


「あ、その話なら他の方からも聞きました。

なのでこの後行こうと思ってたんですよ。

この島の図書館にはそう言う話の本が多く置いてあるんですよね?」

「そうそう。

確かその学者先生、同じ話でも何人にも。

と言うかこの島のほぼ全員に聞き回ってたからね。

その学者先生の様に祖父ちゃん達に聞いて回るより、その本読んだ方が効率が良いと思うよ?」

「確かにそれなら図書館で調べた方が良いですね」


島民ほぼ全員に話を聞くなんてその学者さんは凄い知的好奇心と根性の持ち主だなぁ。

お陰で俺達は楽が出来そうだ。

いや、その学者さんの手で脚色され原話からかけ離れてしまってる可能性もあるか。

その学者さんが重度の英勇教信者だったら無関係の所まで勇者が出っ張ってくるだろうし、そうじゃなくても民衆受けを狙ってほぼ口承そのままだったメルヒェン集から現代の絵本の内容になったグリム童話の様に改訂に改訂を重ね当り障りのないハッピーエンドに作り替えられてる可能性だってある。

そう言う可能性も頭の隅に置いて調べるべきだな。


「あ、それともう1つ。

島ワタリが今どこに巣を作ってるか知ってますか?」

「島ワタリィ?島ワタリなら確かぁ・・・・・・」

「アルバの東側の沖合に集まってなかった?」

「東側・・・あぁ、あの何もない島か」


何でそんな事聞くのかと顔にデカデカと書きつつもそう教えてくれるお爺さんとお兄さん。

2人によると島ワタリは今年アルバ島の東側にある小さな島に巣を作ってるそうだ。

その島は特に何か有益な物があるって訳でもなく、場所も場所だけに漁師さん達が休憩に立ち寄るって事も無い。

その上景色がスッゴク良いって訳でもないから王族貴族の別荘地と言う訳でもない、まさに誰からも見向きもされない島だ。

逆にそのお陰で『ゲート』使用許可地候補の1つに選ばれてる訳なんだけど。


「それで?島ワタリがどうした?」

「いえ、その年に使われてる島ワタリの巣が薬の素材と何か関係あると言う話を聞いたので・・・・・・

そう言う話、何か聞いていませんか?」

「無いな。

腹ん中に宝石が有るって話なら有名だけど・・・

祖父ちゃんは何か知ってる?」

「あぁ、多分アレだな。

カラドリウスの正体が島ワタリだって言われてた奴。

今は偉い先生方が証明して勘違いだって知れ渡ってるけど、昔、島ワタリはどんな病気でも治せる奇跡の鳥だって言われてたんだよ」


苦虫を潰した様な顔で遠くを見つめたお爺さんがそうぼやく。

アルさんが話してくれた通り、長い間カラドリウスの正体だと思われていた島ワタリは一時期乱獲されていたらしい。

それは成鳥の島ワタリのみに止まらず、卵や巣まで魔の手が伸び、あと1歩で狩り尽くされると言う所まできていたそうだ。


結果、勘違いだと公式に発表された頃には島ワタリ達は絶滅しかけていた。


そこから保護と繁殖にこれまた一騒動起きて、丁度その頃お爺さんは生まれたらしく、色々島ワタリ関連で苦い思いをしてしまったらしい。


「まぁ、そう言う訳で、兄ちゃん達が読んだ本の作者も勘違いしてたんだろう。

島ワタリにも島ワタリの巣にも病気や薬になる様なモンは一切無い!」

「そうですか・・・・・・そう、ですね。

確かにその可能性も十分ありえるか」


確かに長い間勘違いされていたなら、この条件を追加しただろう1000年前に生きていた壁の仕掛けを追加した人も間違って本来無関係な島ワタリの事を条件入れたかもしれない。

でも、現状殆ど何も分かってないんだ。

だから直接関係なくても何らかの形で島ワタリとラルーガンの実が関わってるかもしれない。

その可能性を完全に今ここで否定する事も出来ないんだ。

どっちにしろ島ワタリの巣を見つけないといけない事に変わりない訳だし、そこも含めもう少し図書館で調べるべきだな。


「本当、色々お話し頂きありがとうございます」

「いいよ、いいよ。タダで話したつもりないから」

「・・・・・・え?」

「おれ達の分の会計もよろしくなー」

「あ、はい」


わぁ、この爺孫かなりちゃっかりしてるー。

まさか最初からそれ目的で此処に食べに来たんですか?

・・・・・・あぁ、それ目的で食べに来たんですね。


そうそのお兄さんとお爺さんの満面の笑顔を見て俺は内心で頭を抱えた。

ルグ位お兄さんもお爺さんも遠慮なくお替りするから少し懐が心許無くなる。

あぁ、本当、船の中でアルバイトしていて良かったよ。


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