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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第2章 マリブサーフ列島国編
477/498

245,ラルーガンと島ワタリ 2株目


 俺達が泊まってる懐に優しい宿屋がある地区で軽く聞き込みして、その後近くにあるケルピー牧場にも話を聞きに行って。

結果、大した成果すら得られなかった。


その牧場は自分達でケルピー用のラルーガンも育ててる様で、その牧場の人達が代々そうやって生活していて1度も実どころか花すら見た事無いと言ってるんだからよっぽどだろう。


もしかしたら俺達が探してる『ラルーガン』は今ラルーガンって呼ばれてる品種じゃ無くて、その原種とかのもうこの世に存在しない種類なのかもしれない。


『何時か『隷従の首輪』が復活した時の為に『蘇生薬』やその素材を保存し続ける』ってレーヤの遺言も歴史の闇に消えて。

いや、恐らく黒幕達に消されてしまってどの宗派の英勇教信者達も誰も守って無いだろう。

例え宗教観に反するとしても、徹底的に消され最初から知らないモノは守りようがない。

寧ろよくタスクニフジ研究所の所員さんはこの話を見つける事が出来たなって称賛の嵐を浴びせたい位だ。


よくよく考えればその位今までの運が良かっただけで、本来なら『蘇生薬』の素材達は1万年もの長い時間の間に自ずと進化していって自然と消えてしまう物だったんだ。

それが自然の摂理。

それが運良く、いや、この世界を救いたい見えない誰かの意思達の小さな頑張りが細々とでも残し続けてくれていたんだ。

でもそれが何時までも『ある』とは限らない。

本当はここまで『蘇生薬』の自然な素材を順調に集められたのが奇跡っと言って良い様な幸運な出来事だった訳で、そうなったらつまり、当然『ミドリの手』で出す以外手に入らないって事になる訳だ。


・・・・・・ラルーガンの情報を集めるのはこのまま終わらせて、島ワタリの巣探しをした方が良いかな?


「心が折れそうなのは分かるけどさぁ。

まだそう決めつけるのは早いだろう?

今日1日位はラルーガンの情報集めようぜ」

「そうだよ!

まだ話を聞ける所は沢山あるんだから、諦めちゃダメだよ、キビ君!!」

「そう、だな。ごめん、弱気になってた・・・」


冒険者達が集まる地区でも、牧場でも、『ラルーガンは花も実も付けない』と言われ続け、最悪な仮説も相まって正直天然物を探す事を諦めかけていた。

そんな俺をルグとマシロが励ましてくれる。


そうだよな。

存在しない伝説上の生き物だと言われていたクエイさん(カラドリウス)達も実在したんだ。

二度ある事は三度も四度もある!

きっとまだ誰も知らないだけでラルーガンの実も存在するはずだ!!

あぁ、本当諦めるには早すぎたな。


「よし、着いた!早速聞き込みだな!」

「それと図書館!

マリブサーフ列島国のマイナーな伝説の話とかも置いてあるらしいし、何かヒントになる様な本が置いてあるかもしれないよ」


昼間は殆どの住人が他の島に働きに出て物凄く静かなノアノア島の中で唯一ガヤガヤと賑やかな中心地区。

邪魔にならない様にその中心地区の端の方まで行き、『フライ』で飛ばしてた木箱ボートを降ろした俺は気合を入れ直す様にそう言った。

その声を聞いてマシロが図書館にも行こうと提案する。

アーサベルやマリブサーフ島の図書館に比べたらかなり小さいらしいけど、この島にも図書館があるらしい。

今までの聞き込みによるとその図書館には有名だったり人気な本より地方の昔話の様な本の方が多く置いてあるようで、俺達が探してる物のヒントがあるかもしれないと教えて貰った。


「取り敢えずぅ・・・・・・

図書館に向かいつつ道中で人に会ったら片っ端から聞き込みって感じで良いかな?」

「賛成!

・・・と言いたい所だけど、その前に昼にしないか?」

「あー、確かにもう12時過ぎてるな」


賛成と言いつつお腹を鳴らしたルグが懐中時計を取り出し見せてくる。

字幕の文字はとっくに12時を半分以上過ぎていて、1時近い事を告げていた。

もう、そんな時間なのかぁ。

まだ10時位だと思っていたけど意外と時間が経ってたんだな。

確かにこの時間ならルグのお腹が鳴るのも納得だ。


「うーん・・・

此処等辺、レストランとかあるのかな?

1度宿屋まで戻った方が良い?」

「良い匂いがプンプンするからきっとある!!」

「何処かのお家がお昼ご飯作ってる匂いじゃ無くて?」

「そうかもしれないけど、折角此処まで来たんだから探してみようぜ!!」

「あ!待てよ、エド!!」


そう言って駆け出すルグを慌てて追いかける。

そんなルグの鼻と聞き込みついでの雑談を頼りに辿り着いたのは小ぢんまりとした老舗の大衆食堂だ。

ガイドブックとかに載っていて全国的に有名って訳じゃんないけど遥か昔から地元の人達に愛されてきたお店の1つで、比較的最近開発されたかなり美味しいB級グルメの発祥の地らしい。


「おまたせしましたー!焼きそばです!!」


聞き込みした人達からおススメされたそのお店に入って早速噂のB級グルメを注文する。

調理の様子から察してたけど、出てきたのは太めの芋麵を使ったゴロゴロ具沢山の海鮮塩焼きそばだ。


マリブサーフ列島国の主食の芋で作ったモチモチの麺の表面は多めの油を使ってカリッと焼かれていて、麵だけでも食感の違いで楽しませてくれる。


その麺を彩るのは大ぶりに切られた魚介と野菜達。

ポワレっぽく焼かれ旨味が閉じ込められたサイコロ状の肉厚の白身魚は、焼きそばの具にしてるのが勿体無い位中がホワッとしている。


多分アワビみたいに大きな種類だったんだろう同じくサイコロ状に切られた貝はコリコリしていて、

シッカリ下処理されたプリプリの100玉サイズに丸まった小さなエビは色が良く臭みが一切ない。


4分割された子供の握り拳位の大きさの鮮やかな緑色を彩る様にこれまた鮮やかな赤や黄色、オレンジ、赤紫の線が入ったキャベツの様な野菜と、

黄緑色のもやしと言える姿のサツマイモの様に毒が無く安心して食べられる麺にも使われている芋の新芽。

この2種類の野菜はちゃんと火が通って甘さが引き立っているけど、まだシッカリシャキシャキ感が残っていてこれも食感を楽しむ良いアクセントになっている。


ほんの少しピリリとスパイスの効いたシンプルな塩味だからこそ素材それぞれの味が引き立っていて美味しいのは勿論、麺の黄色に野菜の緑、魚の白、貝の黒、エビのピンク。

その鮮やかな5色が見た目でも楽しませてくれる。


あえて悪い所を上げるとすれば少し油っぽいって所だけど、それも大丈夫。

味変用の串切りにされた新鮮な白い柑橘類を絞って掛ける事でかなりサッパリするんだ。


こんだけ丁寧に作られていて並盛でも俺達の世界の大盛よりも量があるのに、値段はたったの500リラちょい。

ルグが頼んだ並盛の倍以上は間違いなくある大盛もプラス数十リラと言う破格さ。

味と量と値段が全く釣り合ってない!

絶対安過ぎるって!!


「あっ!居た、居た!!」

「貴方は・・・さきほどの・・・・・・」


そんな美味しい塩焼きそばを堪能して一服。

ルグが俺が食べきれなかった分含め食べ終わるのをお店オリジナルブレンドのハーブティーを飲みながら待っていると、少し前に聞き込みしたお兄さんが顔も体型もよく似たガタイの良いお爺さんと一緒に入ってきた。


この人も家族とお昼を食べに来たのかな?


と思ってたら開いてる席を探してるかの様に当りを見回すその男性と目が合った。

そして『居た』と言う言葉と、他に開いてる席があるのに真っすぐ俺達の所に来た事。

間違いなく俺達を探して来てくれたんだよな。

何だろう?

何か別れる時落としたかな?


「先程はありがとうございます。

何かありましたか?」

「あぁ。

お前等、ラルーガンの花や実を探してるって言ってただろう?

祖父ちゃんが何か知ってるって言うから昼飯ついでに連れて来たんだ」

「そうなんですか!態々ありがとうございます!!」

「良いよ、良いよ。本当についでだから。

あと唯の好奇心」


まさか態々ラルーガンの実の情報を持っている人を連れてきてくれてるなんて!!

その様子的に本当にお昼ついでに来てくれた様だけど、本当願ってもいなかった事だ。

その思ってもいなかった善意に俺は塩焼きそばを注文するお兄さんにもう1度お礼を言った。


「それで、お前達は誰を生き返らせようとしてるんだ?」

「生き返らせる?何の事でしょう?」

「何だ?

あの昔話を知って探してたんじゃないのか?」

「いいえ。

彼に話した通り、俺達はある病気を治す薬の素材の1つがラルーガンの実の可能性があるって知って探しに来たんです。

昔話や死者を生き返らせるなんて話、俺達が調べた本の中にはなかったですね」

「そうなのかぁ。

てっきりあの昔話を再現しようとする面白いモノ好きが現れたのかとばかり・・・・・・」


好奇心を隠そうともしない笑顔で声を掛けてきたお爺さんの顔が落胆の色に染まる。

そのどこかデジャブを感じる遣り取りと態度でお爺さんが本当に好奇心だけで此処に来た事が分かった。

野次馬根性、大いに結構。

そのお陰で有益な情報が入るなら此処に来た理由がなんだっていいんだ。


「その昔話って言うのも教えていただけますか?

俺達が治したい人達はまだちゃんと生きています。

ですが、心臓や脳が動いてるけどまるで死人の様なんです。

そう言う症状の病気で・・・・・・」

「だから昔話の内容も気になると?」

「はい」


本当に死者を生き返らせれる訳ないけど、似た様な事は起きるかもしれない。

そう言って尋ねればやる気も興味も失ったお爺さんの瞳に俺達への関心の色が戻る。

その分かり易い態度にこのまま話して貰えないんじゃないかと思っていた俺は内心胸を撫で下ろした。


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