243,一時休戦 後編
「・・・この国に居る間は本当に俺達に手を出さないんだな?」
「勿論。
じゃないと俺はナト達側に行かないといけないんだ。
さっきも言っただろう?そんなのお断りだ」
「そうなのか、田中?」
「あぁ。
キビ達が取引を破ったらキビを問答無用で連れ戻すって条件付けた」
「本当、容赦ないよな、ナトは。
まぁ、だから、ピコンさん達の体調の事もあるし、俺達が破るメリットは一切無いんだよ」
「なるほどなぁ。
じゃあ、本当にお前等はこの取引を破れない訳だ」
「そうそう。
だからお前等も自称『正義の味方』らしく約束を破る様な卑怯な真似はしないでくれよ?」
「誰がするか!
お前等と一緒にするなよ!!?
この国に居る間は絶対にお前等とは戦わない!!
一時休戦だ!!」
売り言葉に買い言葉。
悪役っぽくちょっと意地悪な言い回しをしたら予想通りムッとした高橋が反射的にそう言葉を返した。
いやぁ、本当今回ばかりは表情筋さんが有給取っていて良かったよ!
あまりに上手く事が運び過ぎてニヤケそうだ。
そう内心で笑っていたのがいけなかったんだろう。
ふと感じた視線に導かれて見たナトと視線が合って、その瞬間背中でタラリと冷や汗が流れる感覚がした。
「高橋・・・・・・」
「な、何だよ、田中!ため息なんって吐いて。
言いたい事あるならハッキリ言え!!」
「この前のキビの狸具合、もう忘れたのか?
そのせいでどれだけ辛い戦いを強いられたかも」
「・・・・・・え?」
「明らかにキビの奴、演技してるだろう?
自分達の欲求を次々飲ませようとして。
そう簡単にキビのペースに乗せられるなよ。
また隠れた大勢の魔王の味方達に襲われるかもしれないんだぞ?」
「え?・・・・・・あッ!」
うっ・・・
やっぱりナトに気づかれてたかぁ・・・・・・
視線が合った時のナトの雰囲気的に『そうかなぁ』って思ってたけど、呆れた様に高橋を見る目で完全に察してしまった。
確かになんだかんだで分かりやすいらしい元の世界では、俺がこう言う演技してるとナトが何時も1番に気づいてたよ?
でも表情が動かない分、今回もナトに気づかれないと思ってたんだ。
前回も前々回も魔女に洗脳されてる影響か比較的俺の演技に気づいてる感じがしなかったし。
それのに今回は元の世界に居る時みたいに直ぐに気づかれた。
ナトの奴、何時から気づいてたんだろう?
もしかしてお惚け劇場の時からか?
まさか盗聴器の事まで気づいてたりしない・・・
よな?
「残念ながら今回は本当に俺達しか居ないよ。
居たらこんな所で戦わずスムーズにナト達を罠の所まで誘導してるし、危険を冒してまでナトと取引なんってしてないって」
「・・・・・・今回は嘘言ってないみたいだな」
「当たり前だろう?」
あぁ言う作戦はここぞって時に実行するから意味があるんだ。
失敗した時を想定して第2、第3の刃を隠し持って相手の裏をかき、意外な一撃を与えるからこそ成功する。
無暗矢鱈やっても敵を慣れさせるだけだ。
その頭を過った言葉はナトに察せられない様にお腹の奥の奥でシッカリ溶かしきって、ナトに言い当てられ速まった心臓と気持ちを落ち着けて。
それから漸く俺は当り障りない事を言う事が出来た。
そんな俺の姿を上から下まで不審そうに何度も見回して、漸くナトは俺の言葉を信じてくれた様だ。
敵対してるし簡単に信用できないのは分かるけど、流石に酷く無いか?
生まれたままの様に綺麗って訳じゃ無いけど、俺、まだそんなにお腹の中真黒になってないぞ?
まだジェイクさんよりは黒くないはずだ!
「まぁ、それはそうとして言質は取ったから!!」
「一時休戦って所だけな」
「その前の取引の事もだろ?」
「・・・・・・あぁ、そうだな。
だからこれ以上は何も求めてくるなよ?」
「何言ってんだ、ナト?
俺、今回は最初から取引した事以外は何も言ってないぞ?
追加欲求なんってしてないって。
あ、後、ナトが迷子になった事」
「だから迷子じゃ無いし、俺を茶化して場の空気を自分の物にしようとするな!!」
「あ、ごめん。
今回はそう言うの一切なく素で言ったつもりなんだけど?」
「尚更たちが悪い!!」
えー、本当の事なのにー。
そう言ったら流石にナトの拳骨が落ちそうだからお利口さんにお口チャックしておく。
まぁ、最低限やれるだけの事はやったし、一応『ナトが見極めるまで無駄に戦いたくない』って言うこちらの欲求を飲ませられた。
今回はそれなりに上手くいったって思って良いんじゃないかな?
深追いは禁物。
調子の戻ってきたナトに色々余計な事まで察せられると困るし、これ以上余計な事は一切言わず穏便に分かれる方向に持って行こう。
「えーと・・・ごめんな、ナト?
気づかない内に俺のテンションも変に上がってたみたいで・・・・・・
えーと、その、だ。
何か更に口を滑らせて余計な事また言いそうだし、頭冷やす為にも大人しく離る事にするよ」
「余計だってちゃんと分かってるなら、今度からちゃんと飲み込んでおけよ。
変にハイになってるって自覚出来てるなら尚更だ。
だからキビは何時も詰めが甘いんだ」
「あ、あはは・・・・・・頑張って善処します」
不機嫌になったナトが容赦なくグサグサ痛い所を刺して送ってきた塩を塗りたくってくる。
本っっっ当!!!仰る通りです!!
これまで何回俺のミスで事態が悪化した事か・・・
ユマさん達の正体が魔女達にバレたのも俺のせいだし、ルグの目があぁなったのも俺が連れ去れたのが元々の原因だし、海月茸農園でナト達を連れ戻せないどころか高橋がとんでも性能の刀を手にする切っ掛けを与えてしまったのもそうだし・・・・・・
こう、今までの自分のミスを思い出していくと、今直ぐ穴を開けて臍を噛んだ状態で誰の目にもさらされない様に全身スッポリ埋まりたくなる。
その位後悔とか恥ずかしさとか色んな感情がドッと押し寄せてきて、ドンドン気分が落ちていく。
あぁ、うん。
何か打算とか関係なくこれ以上ナト達と話すのが辛くなってきた・・・・・・
「何言い負かされてるんだ、死人モドキ?」
「・・・言い負かされてません」
「だったらシャキッとしろよ、サトウ」
「・・・・・・分かってるよ」
ルグ達がピコンさん達への説明を終えたんだろう。
そう言って側に来てくれたルグ達が喝を入れてくれた。
いけない、いけない。
こんな所で落ち込んでる暇は無いんだ。
しっかりしないと!
「そう言う訳だから、サッサとどっか行けよ?」
「それはこっちのセリフだ!!
どっか行くのはお前達の方だろう!!」
「俺達はそこのホテルに泊まる予定なんだよ」
「なるほど。
泊まるなら別の島の宿屋にしろって事だな」
自分から離れるのはプライドが許さないって事なのかな?
何処かに行けと言ったクエイさんに間髪を容れず高橋がそう返す。
そんな高橋の言葉を補足する様にナトが左隣の建物を指さした。
確かに見上げた建物は魔女達が好みそうな高級な宿屋だ。
俺達極々普通の冒険者じゃ敷居すら跨げない様な、一応とは言え一国の姫が泊まるに相応しい佇まいをしている。
けど多分今回はナト達も泊まれないんじゃないかなぁ。
周りの迷惑考えずにお店の前で堂々と戦っちゃってるし。
とは口にせず、大人しく他の島の宿屋に泊まると頷き返しこの場から離れる様にルグ達を促した。
「分かった。今度こそじゃあな、ナト。
人が多い所は気を付けろよー」
「だからそれが余計だって・・・・・・
はぁあああ。もう、いい。
キビも気を付けろよ」
「うん。
・・・と言う事で。
皆様大変ご迷惑をお掛けしました!
これにて失礼させていただければ幸いです」
「残念ながらそれは無理なんだよなぁ。
君達全員、ちょーと、話を聞かせて貰おうか?」
はい、別れる事が出来なかった。
俺達の話が終わるのを律儀に待っていてくれた笑顔で怒る兵士さん達が俺達の肩を掴む。
勿論高橋達も容赦なく。
うん。
こんだけ派手に暴れたら事情聴取位はされるよなぁ。
流石に逮捕までは行かないと思いたいんだけど・・・
兵士さん達の雰囲気的に無理な気がしてきた。




