241,3つの願い
「・・・・・・ナト。
お前はまだ思い出せてないだろうけど、あの農園で言った通り自分で調べればいい。
納得出来るまで自分の目でこの世界の事実を追求すれば良い。
だから今直ぐ俺達を信じろとは、俺達の仲間になれとは言わないよ」
「おい、サトウ」
それが今回の目的だろう?
と言いたげに俺の名前をきつい声音で呼ぶルグを何も言わず手で制す。
キャラさんからあんな話を聞いても『蘇生薬』の素材集めにだけ集中せず、変わらずナト達を追いかけてる理由。
その中で、
『直ぐに連れ帰れないならせめて説得してこちら側の仲間になって貰おう』
って言うのが今1番の理由だ。
自分達が持つ俺達に対して有効な手札を捨てる事になるって分かっている以上、間違いなく魔女達はルディさん達の設定を変えないだろう。
それこそ脅しや拷問なんて意味無いし、逆にそのカードで俺達を不利な状況に追い込んでいくはずだ。
けどもし『勇者』のどちらかが居れば大丈夫って設定なら、ナトか高橋のどちらかが協力してくれたら薬が完成するまでルディさん達を安全に保護出来る。
だからルグ達も渋々だけどこの作戦に頷いてくれた。
その作戦の提案者の俺が自分でその作戦をふいにするのか?
そうルグは言いたいんだろうけど、こう言う作戦は焦っても失敗するだけなんだ。
そもそもどんなに事実を突きつけても今のナトじゃ頑なに信じてくれないだろう。
だから強引に、
「俺達を信じろ!仲間になれ!!」
って押しまくったら逆に印象が悪くなって更に関係が悪化する。
と言う事でここはなんだかんだで王道な『押してダメなら引いてみろ』作戦だ。
海月茸農園での会話も見せたし、ナトが自ら調べる方向に持って行った方が良いと思うんだ。
事実魔女達の方が嘘吐きで酷い事してる訳だし。
「でも、ナト。
今から言う4つだけ必ず守って欲しいんだ」
「・・・・・・そこは普通1つじゃ無いのかよ」
「何時ナトの答えを聞きに行くかって事にプラスして、絞りに絞ってナトにも損は無い3つのお願いなんだよ」
何度も深呼吸して顔を上げたナトが呆れた様にそう言う。
そうだな。
普通こういう時のお約束は1つだな。
けどそんな物語のお約束なんって知ったこっちゃないし、色々我慢してここまで絞ったんだ。
だから4つ位守ってくれないかな?
「1つはさっき言ったこの依頼書の事を徹底的に隠して、記憶を変えられたと思ったら1つ開けるって事か?」
「流石、ナト。その通り」
「残り2つは?」
「1つはナト、高橋、ルディさん、キャラさんに霊薬を使わない、使わせない事。
理由はこれに。後、はい。念の為の袋」
平然と他人を踏み躙り食い物にする魔女達はどうでもいいけど、操られた何も知らないナト達に霊薬を使って欲しくない。
その思いから2つ目のお願いを言って霊薬製造場辺りの依頼書を渡す。
オカルト好きだからグロテスクな霊薬関係も平気かと思ったけど、案の定。
暫く無言で読み進めていたけど急に渡した袋に向かってえづいた。
やっぱりアレはナトでも耐えれなかったか。
「まさかキビ達が持ってるって言う霊薬の大本って・・・・・・」
「正確に言えば『持ってる』じゃなくて『居る』だな。
だから不自然に『オーブ』と一緒に連れてこいって言われてるんだろ?」
依頼書を読んでクエイさん達を生け捕りにしろと言われた本当の理由を察したナトに、俺は遠回しに正解だと言った。
流石に俺もストレートに正解を言うのはその言葉を切っ掛けにヤエさん達の話や霊薬製造場でのアレコレを鮮明に思い出しそうで精神的に耐えられなかったんだ。
それにしても本当に酷い理由だよなぁ。
キャラさんから聞いた時も思ったけど、そんな理由でクエイさんを狙うなよ!!
「ウ、ェ・・・・・・」
「念の為に聞くけどナト達は使ってないよな?」
「キビ達のせいでこれ以上作り出せないからって、全部王様に・・・
その前から王様の病気を少しでも和らげる為にって・・・・・・
だから俺達は1度も・・・・・・」
「なら良かった。
そう言う訳だからこれからも絶対に使わないで。
それで3つ目だけど・・・・・・」
「ちょっと待て・・・流石に、もう・・・・・・
今言われても真面に言葉が入ってこない・・・」
「ッ!!!ごめん、ナト!焦り過ぎた。しば
「分かった。1分な」
「5分」
「そこまで余裕が無いんだ。最大で3分」
「・・・・・・分かった。3分休ませてくれ」
ナトを捕まえてから大分経つしそろそろ高橋達がナトを探し出すかもしれない。
その焦りから急いで最後の頼みを言おうとしたら流石に精神的限界が来たナトからストップが掛かった。
心を鬼にって自分に言い聞かせてたのにやっぱりダメだったな。
それじゃダメだって頭じゃ分かってるのに、そんなナトの姿を見たら思わず反射的にナトの事考えずに先走り過ぎたと謝って暫く休んで良いと言おうとしてしまった。
きっと今までの経験から俺が遠からずそうなるって気づいてたんだろう。
少しでもナトの警戒が緩む様にナトの説得は俺に任せて自分達は基本静観に徹するって言ってたのに、その言葉が俺の口から出た瞬間すかさず冷めた態度を貫くルグが遮った。
現実問題そんなに時間に余裕が無いんだからナトのメンタルが完全に回復するまで休ませる事は出来ない。
そう言ったルグとナトの駆け引きによって3分の休憩時間が設けられる事になった。
「そろそろ時間だな。サトウ、続き」
「えーと・・・・・・」
「大丈夫。続けて」
「分かった。最後3つ目。
俺としては今1番守って欲しい事なんだけど・・・」
見た目的には変わらないけど、多少は俺達の話を理解出来るだけの余裕は取り戻せたんだろう。
懐に懐中時計を仕舞いつつそう言うルグの言葉にチラッとナトを見ると、顔色が相変わらず酷いナトからも話を進めろと言われた。
それに頷き返し口を開いて少し視線をさ迷わせる。
どう、言うべきか・・・・・・
そう言いたい事が多すぎて悩んで、結局ストレートに思った事を言う事にした。
「何があってもキャラさんの味方でいて」
「何言ってるんだ、キビ?
元々キャラは俺達の仲間なんだぞ。
最初から俺達はアイツの味方だ」
「違う。依頼書読んだから分かるでしょ?
ナトの知ってるキャラさんは本当のキャラさんじゃない。
あー、いや。
俺達からしたらそうで、でもナトにはゾンビにされた『キャラさん』が『キャラさん』で・・・」
「つまり?」
「・・・・・・・・・片目でも良いから目の色が茶色のキャラさんとひっそりと2人きりで話して欲しい。
その上で見極めて。
俺達が知ってる孤独に戦い続けてるキャラさんと、ナトの知るキャラさん。
どっちが本来のキャラさんか。
その上で『本来のキャラさん』の味方をして欲しい。
それが3つ目のお願いだ」
俺としては俺達の知る『本来のキャラさん』の味方をして欲しい。
簡単に諦めてしまう位心が折れてもギリギリ抵抗を続けてるキャラさんの味方を。
じゃないと薬が完成する前にキャラさんの心が完全に壊れてしまう。
その位あのチボリ国で会った時のキャラさんは危うかったんだ。
けど今のナトはきっとその改造されてるかもしれない依頼書の中だけのキャラさんを信じられないだろう。
だから直接話してどうするか決めて欲しい。
自分の知る今までのゾンビのキャラさんの味方をするか、
事実を受け入れて1人見えない戦い続ける本当のキャラさんの味方をするか。
そう出来るだけ真剣な態度で言った。
「ナト達が次の国。
次に『オーブ』を取りに行くだろうヒヅル国かキール氷河に着いたら答えを聞きに行くから。
何がこの世界の事実で、何がこの世界にとって正しいのか。
・・・・・・この世界に住む人達にとって何が本当に『良い事』なのか。
その答えを聞きに行く」
「・・・・・・・・・分かった。
最初2つは兎も角、最後のは必ず守る」
「出来れば3つとも守って欲しいんだけどな。
ならせめて残り2つも様子見期間の間だけは守ってよ?
納得出来なかったら破って良いから」
「・・・納得出来なかったら全部余すことなくルチア達に言うからな?」
「上等!その位のリスク、承知済みだ」
それでもナトの頭脳と良心に賭けてるんだ。
そう言って不敵に笑ったつもりだけどナトにちゃんと伝わったかな?
伝わったかどうか分からないけど、これ以上ナトを拘束しておく事は出来そうにない。
流石にもう高橋達もナトが中々見つからない事に不信がってる頃だろう。
そして1人俺達と一緒に居ると気づく。
今ここで高橋達と戦う気には俺達には無いんだ。
そこ等辺も出来れば穏便に済ませられるなら済ませたいんだよ。
「あ、そうだ。
俺ばかりキビ達の頼みを聞くのは不公平だからな。
こっちからも3つ条件を出させて貰う」
「何?」
「1つ、俺が見極めてる間。
つまり、この国に居る間はどんな事情が有れキャラ達に手を出すな。
連れ去ろうとするな。
2つ、俺達の『オーブ』集めの邪魔をしない事。
勿論今まで集めた『オーブ』も取り返そうとするな。
3つ、見極めた結果やっぱりお前達の方が悪いと思ったら何を言われようとキビを返して貰う」
帰り際、不意に足を止めそう交換条件を言うナト。
そのナトの言葉にルグ達が息を飲んだ音が聞こえた。
「分かったな?」
「それはッ!!!」
「幾ら脅そうと関係ない。
出来ないって言うなら、この話は最初から全部無しだ」
あぁ、もう少し待ってからスマホを返すべきだった。
心底驚いた様に言葉を返そうとしたジェイクさんをピシャッと強気な言葉で制し、ナトは俺達を睨む。
誰も巻き込まない此処でなら俺達を相手に戦っても構わないし、4対1でも勝てる。
そうその鋭く光る目が言ってる様な気がした。
今まで何度もルグ達に苦戦を強いて来たんだし、実際勝てるんだろうなぁ、きっと。
はぁ・・・嫌に素直だと思ってたら・・・・・・
俺達の気が少しでも抜けた最後の最後にそう言ってくるとは。
流石、ナト。
転んでも唯では起きないって事か。
「・・・・・・・・・良いよ」
「サトウ!!!?」
「キビ君!!?本気!!?」
「言っただろう?その位のリスクは承諾済みだって。
その位の条件、ドンと受け入れてやるよ!!」
「やけに自信たっぷりだな」
「当たり前だろ?
俺は俺達が嘘を言ってないって自信があって命かけてまでこの場所に居るんだ。
最後の条件に従う事は絶対に無い!!」
ルディさん達はナト達から離したら自殺しまうから連れ出せないし、ナト達が勘違いしてるだけでそもそも最初から『オーブ』に興味は無い。
だから前2つの条件も守った所で現状特に俺達の損になる事は何も無いんだ。
だからこそ、そう自信満々に宣言すれば、
「キビの頑固さがまた発動した」
とナトにまた舌打ちされた。
あぁ、頑固だよ。
梃でも動かない位の頑固さと自信を装備してナトに挑んでるんだ。
そんな不意打ちの条件で俺を動揺させようとかするなよ、ナト?
「そうかよ。
じゃあな、キビ。次に会うのは答えが出た時だ」
「うん。またね、ナト。
・・・・・・と、言いたいんだけど。
ナト、そっち来た方向と別。
そのまま進んでも行き止まりだから。
元の場所に帰るならこっち行って左手側にある3番目の通路を真っ直ぐ」
「・・・・・・」
「・・・なぁ、ナト。
高橋達とちゃんと合流できるのか?
目的地までちゃんと行ける?
一層の事近くまで送ろうか?」
「・・・・・・大丈夫だ」
「本当に大丈夫なら俺の目を見て言えー」
早速迷子癖を発動するナトについそう言ってしまう。
本人は大丈夫と目を逸らすけど、どっからどう見ても絶対大丈夫じゃ無いって。
1人で帰るんじゃなくてやっぱり何処か目立つ所で高橋達待たない?




