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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第2章 マリブサーフ列島国編
468/498

236,求水病 カルテ2


   * 注意 *


 今回、虫やカタツムリが苦手な方にはかなり不愉快に感じると思われる描写があります。

苦手な方はご注意下さい。


 細長いピンク色の体に薄っすら青紫色の筋が入ったまさにイカの塩辛そのものの様な寄生虫。

コイツのせいで求水病が起きてるんだ。


「何時も通り買い取った魚を、レモラを捌いていたんです」


クエイさんの薬で全ての寄生虫を吐き終え気絶したシェフと入れ替わる様に厨房に入ってきた船長達。

その船長達に促され医務室に運びる出されるシェフと、魔法で凍らされた寄生虫達と、何時も通り何種類もの魚達が元気に泳ぐ生け簀を交互にチラッと見てから俺はそう話し始めた。

一体何が起きたのか。

それは何時も通り夕食の仕込みをしている時から始まった。


「最初は気づかなかった。

いや、見間違いだと思ったんです」


この船での生活で慣れてしまった作業。

海や魚市場が近くにある訳でも、生け簀があるちょっと高級な魚屋さんを常に日頃から利用してる訳でも、釣りが趣味って訳でもない。

だから今まで知らなかったけど、釣った魚は『締める』って言う作業が必要だったらしい。

シェフから初めて聞いた後で叔母さんからも教えて貰ったけど、この世界だけじゃなく俺達の世界でも当然やってる事で、ストレスを感じた魚が暴れて味が落ちてしまうのを防ぐ為に即死さ血を抜く。

『締める』とはそう言う大事な作業だったらしい。


つまりベッセル湖で釣り上げたヒュドラキスが若干イマイチな味だったのは完全に俺の知識と技術が不足していた事が原因だった訳だ。

そんな釣って直ぐの早い段階から調理の下準備が始まっていたなんて・・・・・・

無知故にヒュドラキスには長く苦しめる様な本当に酷い事をしてしまったし、ルグとユマさんには本当に美味しいヒュドラキスを食べさせてあげれ無かった。


このバイトを始めて直ぐの頃、そう思って落ち込んだのは記憶に新しい。

その反省を生かしてシェフに教わった氷を入れた海水に入れる『氷締め』って言う方法でレモラを締めようとしていた時、最初の異変が起きた。


「一瞬、不自然にレモラの瘤の部分が動いた気がしたんです。

こう・・・内側から滅茶苦茶に殴られてるみたいに」


氷塩水にレモラを入れた瞬間、コバンザメの様な出っ張た額の瘤の部分。

普通なら吸盤の様に滑らかな平らになってるはずの部分が内側からボコッと殴られる様に歪んだ気がしたんだ。

『あれ?』と首を傾げなかった訳じゃ無いし、念の為にシェフにも確認した。

でも本当にほんの一瞬の事だったしシェフも気のせいだと言ったからその時は揺れてる氷水の中に入れてるから見間違ったんだ、と納得したんだ。

その後入れた他のレモラにはそんな異常現象起きなかったのも見間違いだと言う思い込みを加速させた原因だろう。


本当は熱耐性や火耐性が高い分、寒いのや冷たいのが大の苦手な寄生虫が仮死状態前の最後の抵抗をしていた訳なんだけど。


だからシェフが吐いた寄生虫達も直接凍らせる事で漸く大人しくさせれたんだ。

その事になかなか気づけず船員さん達が焼き殺そうとして2回目の事件が起きたのは・・・

ほんの数分前の事だけどもう思い出したくもないし、話題にも出したくない。

絶対あれは伏せたボウルの中の存在と一緒にラウマとして今夜の悪夢に出てくる!!


うぅ・・・・・・

何かこの世界に来てから俺、トラウマが増え続けてないか?

『状態保持S』や『環境適応S』のスキルの効果が無い元の世界に帰ってもちゃんと生きていけるのかなぁ。


「それであの寄生虫に気づいたのは?」

「大分後。下準備が全部終わった後です」


そういつもの癖で余計な事まで考えてしまっていたせいで少しの間遠い目をして固まってしまっていたんだろう。

黙って俺の話を聞いてるだけだった船長が痺れを切らした様にそう訪ねてきた。

それに慌てて答えつつ部屋の隅に。

正確に言えば、部屋の隅に置かれた大きな生ゴミ用のゴミ箱に視線を向ける。


「洗い物をしていたらあの生ゴミ用のゴミ箱からガサゴソって音がしたんです。

最初にその事に気づいたのは料理長で、ネズミか虫が入り込んでるかもしれないからって様子を見に行って・・・・・・」

「それで調べたらアレが出てきた訳ですか・・・」

「はい・・・・・・」


シェフが吐いた寄生虫と同じ様に氷漬けにされた伏せたボウルの中に居た存在から目を逸らしつつ指さした船長に頷き返し、俺はブルリと体を震わせた。

あの光景は何度思い出しても体が震える。


ネズミか虫か。

使う駆除薬も使う範囲も使い方も種族によって細かく違うからまずは何が中で暴れてるのか確認しようと覗き込んだゴミ箱の中。

その1番上で音を立ててたのは伏せたボウルの中に居たアレだった。


瘤の部分から塩辛色のイソギンチャクを生やした、落とされた首を殻にしたカタツムリの様な存在。


落とした首の先からウネウネと触手の様に何匹、何十匹もの寄生虫が這い出し、その部分がグネグネとカタツムリが這う様に生ゴミの上を動き回っていた。

動き回っている内に飛び出た鋭い魚の骨で瘤を引っ掻き、そこから引っ掻き傷を割く様にドバっと寄生虫が溢れ出して・・・・・・

そこであまりの光景に頭を真っ白にしていた俺は1回目の悲鳴を上げた。

いや、気づいたら口から信じられない程の音量が飛び出していたと言う方が正しいか。


「その後は・・・すみません。

自分でも自分が何をやったのかよく覚えてないんです。

反射的に体が動いていたって言うか・・・・・・」


正確に言えば四郎さんが動いてくれたんだけど。

その今まで見てきた中で1番。

それこそオレンジ歩キノコやクリーチャーが足元に及ばない位の、あのマンイーターですらかなりの票差で負ける位のグロテスクなその姿に俺はただただパニックを起こす事しか出来なかった。

そんな全く役に立たなくなった俺の体を使い素早くその寄生虫の巣にされた魚の頭を隔離してくれた四郎さん。

その四郎さんが頭の中で、そしてメールでも叫ぶ。


『料理長が危ないッ!!!』


と。


そうだ。

この寄生虫だらけの魚の首から下はさっきシェフが捌いてスープの具にしたじゃないか。


そう気づかされて振り返った時にはもう遅くて、ギョッと目を見開いてこっちを見るシェフがゴクッと具ごとスープを飲み込んでる所だった。

絶望を見せつける様にスローモーションに動くその光景に2回目の絶叫を響かせるだけの俺の体をまたもや四郎さんが動かしてくれて、それでどうにかシェフにその飲み込んだスープを吐き出させ様と体当たりした結果があのルグ達が最初に見た光景と言う訳だ。

その時には既に手遅れでシェフは求水病を発症しちゃってたんだけど。

まぁ、その事を一から船長に説明しようとするとかなり脱線しそうだから、四郎さんが動いてくれた所は全部『反射的に体が動いた』で押し通す事にする。


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