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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第2章 マリブサーフ列島国編
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235,求水病 カルテ1


「ッい、ぎゃぁあああああああああ!!!!!!」


あれから数日。

明日か明後日の朝早くにはマリブサーフ島に着くだろうと言う夕暮れ少し前。

俺は船内全部に響くだろうと言う様な大きな悲鳴を上げていた。


「ちょ、まぁあああああああああ!!!」

「どうした、サトウ!何が・・・・・・

本当、何があった!!?」


俺の悲鳴を聞いて『どうした、どうした』と集まる野次馬達。

その先頭を切って飛び込んで来たルグが俺とシェフの姿を見て心の底から出した様な驚愕の悲鳴を上げる。

まぁ、傍から見たらルグがそんな悲鳴を上げるのも仕方ないと思えるだろう。

何せ包丁やまな板、ボウルなんかの調理器具や切りかけの魚が散らばる床の上で俺がシェフを押し倒してるんだから。

何も知らない第三者が見たらどう言う状況だって思っても仕方ない。


「エドッ!!!直ぐにクエイさん呼んでッ!!!

シェフが求水病に罹った!!!

後、求水病の原因判明!!!」

「ッ!!!分かった!!!」

「おい!!直ぐに船長に連絡をッ!!!」

「そっちももう向かってる!!」

「なら俺達はこっちの手伝いだッ!!!

あの細っこいおっさんだけじゃ抑えられない!!」


俺がルグの名前を呼ぶのとほぼ同時。

ブツブツ言うだけで比較的大人しかったシェフが急にカッと目を見開きブルブルと異常な程体を震わせ暴れ出した。

焦点の合わない目が白目をむき出す様に滅茶苦茶に動き、泡の様な涎を飛ばしながら、


「水水水!!!水だ!!!

水をくれぇえええええ!!!!」


と喉が切れそうな声で叫び我武者羅に手足を動かす。

その薬の切れた中毒者の様な尋常じゃないシェフの姿に、


『悲鳴を上げたのは俺なのに何でシェフの方が押し倒されてるの?』


と唖然とざわついていた野次馬達がルグと反発し合う様に助けに入ってくれた。


「あああああああああああああああああッ!!!」

「このッ!!!大人しくしてくれ!!!」

「なぁ、一層の事望む通り水あげた方が大人しくなるんじゃ・・・」

「ダメですッ!!!」


腕っ節のよさそうな大柄な男性3人がかりで抑えても暴れるシェフはまるで怪獣の様だ。

普段のニカッとした笑顔が似合う気の良い小父さんって姿から一変して正気を失ったグチャグチャの顔をしてるから尚更そう思う。

そんなシェフの姿に抑えてる男性達も引き気味だ。

引き気味になったあまり弱気になってシェフに水を飲ませようと言う人まで現れる始末。


でもそれはダメだ。

クエイさん(医者)に止められてる。


専門的な事は理解出来なかったけど、取り敢えず求水病の人に水を飲ませちゃうと水中毒を発症するまで止まらないらしいんだ。

いや、水中毒の症状が出て別の苦痛で水を飲む手が一時的に止まるだけで水を求める事は止められないらしい。

そもそも体は十分水分を得ているのに何かが原因で脳がそれを一切認識できなくなってるのが求水病の正体らしくて、そんな人達に水を飲ませるのは悪手だから現状病院に着くか医者が来るまで求水病に罹った人に絶対水を飲ませない事が1番の応急処置になるそうだ。


「料理長の望む通り水を飲ませたら今度は水中毒で死んじゃうかもしれない!!!

クエイさんが、医者が来るまで飲ませないでッ!!」

「死!!?末期じゃ無くても死んじまうのか!!?」

「嘘だろう!?

求水病ってのはそんなにヤバイ病気だったのかよ!!?」

「なぁ・・・求水病って流行り病だよな?

まさか俺達も既に・・・・・・」

「大丈夫ですッ!!!

原因が分かったって言ったでしょう!?

求水病は空気感染する様な病気じゃありません!!

ウ、ッ!

料理長を抑える手を緩めないでッ!!!」

「わ、分かった!」


そう詳しく説明してる余裕はないから『最悪死ぬ』と脅してシェフに水を飲ませようとした男性を止める。

それを聞いてギョッとコップに伸ばした手を止める男性。

予想以上に恐ろしい病気にシェフに近づいた自分達も感染するんじゃないかと言う恐怖で抑える手が緩むのを俺は慌てて叱咤して止めた。

そのままもう1度俺もシェフを抑えに行こうとしたけど酷く痛む体が言う事を聞いてくれない。

自分が出した大声がシェフに殴られたり引っ掻かれたり蹴られたりして出来た傷に響いて思わず変な体勢のまま止まってしまった。

そのせいで思いっ切り床に体をぶつけて更に痛い。

泣きわめきたい位痛いけど、そこをグッと我慢して『手を緩めるな!』とどうにか叫ぶ。

そしてそれが更に傷に響くと言う悪循環。


「うぅ・・・本当に痛い・・・・・・

うわぁ・・・パックリ切れてるぅ・・・・・・」


男性達の抑える力が強まったのを見てどうにか痛む体を引きずって調理台下の棚に背を預ける様に少し離れた床に座り込む。

その状態で一息。

よくよく自分の体を見回したら気づかない内に落ちた包丁でも怪我していた様で、ドクドク流れる血で分かりずらいけど手がスッパリ深く切れてた。

鏡が無いから分からないけど頬とか手以外にも熱く痛む場所があるから他にも包丁でスッパリ切った所があるかもしれない。

確かにこれじゃあ叫んだだけでも痛むはずだ。


四郎さんの影響か、

思っている以上に血が流れて貧血を起こしてるのか、

それとも元凶を切った包丁で怪我して俺も求水病を発症しかけてるのか。


そうやけに冷静な内心に苦笑いを浮かべて『ヒール』を掛けようとしてやめた。

『状態保持S』のスキルの影響で症状が出てないだけで本当に俺まで求水病を発症してるなら、軽率に消毒もしてない傷口を魔法で癒すのは悪手かもしれない。

念の為にクエイさんに見て貰ってから『ヒール』掛けよう。


「キビ君、大丈夫?直ぐ手当を

「ダメだ、マシロ!!!

それ以上近づかないでッ!!!」


あ、本当に貧血起こしてるかも。

何かクラクラして息苦しくなってきた。

そう思ってただ座り込んでいるだけの俺を心配してくれたんだろう。

不安で泣きそうな顔で駆け寄ろうとしてくれたマシロに咄嗟にそう怒鳴ってしまった。

マシロが悪い訳じゃ無い。

でもそれ以上絶対進んじゃダメだ!!


「ッ!!なん、で・・・・・・」

「ごめん。

でもその足元の重ししてある伏せたボウルからゆっくり離れて。

その中に求水病の元凶を閉じ込めてるから。

他に被害者を出さない様に絶対近づいちゃダメだよ?」

「わ、分かった・・・」


酷くショックを受けた顔で立ち止まったマシロに呼吸を整えた俺はそう出来るだけ落ち着いた声で答えた。


マシロの数歩先。

後少しで蹴とばしそうになった伏せたボウルの中には求水病の原因の生き物が閉じ込められてる。

こんな短時間でシェフを襲った事からも分かる様に、あいつ等はかなり凶暴なんだ。

俺を心配してくれてたからかマシロは気づいてなかったみたいだけど、その証拠にずっとボウルがガタガタしてる。

それに漸く気づいてくれたらしいマシロがゆっくりボウルから離れてボウルを警戒しながらかなり遠回りして俺の所に来てくれた。


「おい、死人モドキ!!原因は!!?」

「寄生虫ッ!!!

食べて直ぐに求水病の症状が!!!」

「お前等、ソイツの口開けさせてろ!!!」

「は、はいッ!!!」


『ヒール』を使わない理由を説明した瞬間から全身に水をぶっ掛けられる勢いでマシロに傷口を容赦なくゴシゴシ洗われてた俺はクエイさんの声が聞こえた瞬間若干の涙声でそう叫んだ。

原因が寄生虫だと言ったコンマ数秒後には確認する事なく薬の入った小瓶を出していて、口を開けろと言った瞬間には瓶の蓋が開いていた。

男性3人の手助けがあったとは言え流れる様にあっと言う間に暴れるシェフに薬を飲ませる手際に、


「流石クエイさん」


と言う言葉しか出ない。

手際が良過ぎる。

そしてマシロから聞いてパッパッと診察して俺の傷口に薬を塗る手際も。

患者がスッゴク痛い思いをするって事を抜かせば本当素早い治療をしてくれるよなぁ。

あとシェフと同じく流れる様に口に突っ込まれた効果覿面な手作り増血剤も物凄く不味い。


「うッ・・・・・・げぇえええ!!!」

「うわぁあああ!!何だコイツ!!!?」

「コイツが原因の寄生虫か?

・・・・・・おい。聞いてんのか、死人モドキ?」

「・・・・・・・・・あい”。

ざいじょにレモラのひたい。

コブ、どころ、きせいじていまじだぁ」


誰のせいで声もなく悶えてると思ってるんですか、クエイさん?

そう、


「クエイさんの治療の方がダメージありましたよ?」


と言いたい思いをグッと飲み込んで色んな液体で顔中グチャグチャにしながらどうにか答える。

ゲェゲェと苦しそうにシェフが吐いた物の中で元気に蠢く複数の塩辛そっくりなモノ。

それが求水病の原因の寄生虫だ。


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