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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第2章 マリブサーフ列島国編
464/498

232,賭け事


「お待たせしまし・・・ってザラさん!?」

「よ、サトー君」


クエイさんによると俺達の世界の様に偶然火を発見したんじゃなく、魔法の力で最初から火を好きに生み出せたからか一部の魔族を抜かしたこの世界の人達は基本生魚を受け付けないらしい。

猫にとっての玉ねぎの様に絶対食べれないって訳じゃないけど、牛乳や海外の人達にとっての生海苔の様な感じって言えば良いのかな?

先祖代々基本火を通して何でも食べてたから消化を助けてくれる微生物とかの事も含め胃腸が生の物に対応出来る様に進化して無くて、人によっては薄く小さく切られた刺し身を一切れ食べただけでお腹を酷く壊してしまうそうだ。


寄生虫に関する知識が俺達の世界に比べて乏しいって事も相まって、最悪の場合お腹を壊し過ぎて死んでしまうらしい。


まぁ、そう言う訳で、お察しの通りそんな事知らない8代目勇者による善意のやらかしでマヨネーズ事件以上に被害者が出て幾つかの街が滅びかけたらしく、この世界じゃ毒が無い魚でも生魚全般が江戸時代のフグの様な扱いを受けてしまってるんだ。

そしてサンドイッチに使われた魚達だけじゃなくタコもクラゲもかなりのゲテモノ扱いでこっちも基本食べる事がないらしい。


でもある程度の数、その『ゲテモノ』が嫌でも釣れてしまう。


だからこんな度胸試しがマリブサーフ列島国で流行ってしまったんだ。

本能に刻まれた恐怖と嫌悪感に打ち勝ち誰が1番早く全部の『ゲテモノ』料理を食べきるか。

それを周りのお客さん達が賭ける。

この船に乗ってから夕飯の度にほぼ毎回開催される嫌な遊びだ。

因みにこの勝負、さくらを抜かしたら基本この勝負事に慣れてない俺達の様なマリブサーフ列島国以外の人達が挑戦者なんだよ。


あの手この手で勝負の場に引きずり出してある程度の時間が経っても食べきれなかったら罰金としてお金を巻き上げる。

と言うか、殆どの場合この賭け事に慣れた何人ものさくら達が混じって純粋な挑戦者が1番負ける様になってるんだ。

確実に狙った獲物からお金を巻き上げれる様に。


それを回避するには目的地の港に着くまで大人しく部屋に籠ってるか、この賭けに関わる乗員さんに少し色を付けたチップを渡さないといけない。

と言う裏ルールがある訳で、その公然の裏ルールに気づかなかった人や拒否した人は食い物にされても文句を言えないと言う訳だ。

本当に悪質な『遊び』だよ。

長時間の船旅で娯楽が少ないからってコレは流石に無い。


いや、船内の広さと綺麗さ、提供されるサービスに比べ安い乗船料故にやんちゃと言うか血の気が多いって言うか・・・

兎に角この船には少々元気が有り余る人が多いんだ。

だからこの裏ルールがそんな乗員、乗客が出来るだけ問題起こさないようにする為の皮肉の策だって事は分かる。

分かるけど、流石に過激過ぎるんじゃないかと思うんだよなぁ。

だからこそちゃんと大人しくて良い子な乗客でいるから俺達は賭け事に巻き込まない(食い物にしない)でくれって願ってたんだ。

けど、そんな俺の思いも空しくザラさんが選手席に座っていて思わず俺は叫んでいた。

いや、本当に何やってるんだよ、ザラさん!

ルグと一緒に、


「マリブサーフ列島国にはこう言う悪質な遊びがあるんだ。

乗船料的にほぼ間違いなくこの船もそう言う事日常的に行ってるタイプだな。

と言う事でお前等、気を付けろよ?」


って最初の最初に教えてくれたのはザラさんでしょ!!?

懐と相談したらこの船にしか乗れないから、本当に気を付けろって!!

本当の本当に何やってるの!!?

いや、本当に叫んだ衝撃で料理を取り落とさなかっただけ褒めて欲しいって思う位、本当に驚いたんだけど!!?


そんな言葉が口の中で渦巻いて唇をハクハクさせる俺を見てザラさんが困った様に笑った。


「クエイが喧嘩売られたから代わりに買っちゃった!」

「それで乗員さんにこっちで勝負しろって言われたんですね?

お願いですからその喧嘩、今直ぐクーリングオフして下さい!!」

「残念だけどそんなサービス存在しないな」


困った様に笑ってるけど買った喧嘩を返品する気がないらしい。

それどころか勝つつもりしかないとその目が雄弁に語っていた。

もしかしなくてもそんな顔してるのは俺が騒いでるから困ってるって事ですか、ザラさん?


「ガァハハ!!本当度胸のある姉ちゃんだな!!

ますます気に入った!

どうだ?

やっぱあんな玉無し野郎なんざやめて、おれ等と来ないか?

なんならこんな分かり切った勝負なんかしなくても良くするぜ?」

「ごめーん、サトー君。

もう1つ2つ買わなきゃいけなくなったわ」

「やめて下さい、ザラさん。

お客様もそう言うトラブルを呼ぶ様な事言うのはご遠慮下さい。

場合によってはこの場で船を降りて貰います」


口喧嘩やゲームによる勝負、賭け事は良いけど武器を使った喧嘩や重症人や死人が出る様なトラブル、またはそれを誘発する様な発言はご法度。

それがこの船の表のルールだ。

そのルールを破るなら身包み剥いで海のど真ん中に放り投げると船に乗った最初に船長さんが言っていた。

裏ルールはその表のルールの違反者に与えられたチャンスでもある。

だけど、既にルール違反して食い物にされても仕方ない要注意人物認定されてしまっているのにザラさんは更にその表のルールを違反しそうになっているんだ。

ここでその強く握られた拳を思いのまま男性に放ったら、流石に今度こそザラさんもこの海原のど真ん中に放り出されてしまうだろう。

そんな事になる訳にはいかないとザラさんを慌てて抑え、ザラさんの隣の席からニヤニヤ野次を飛ばす男性を注意する。

間違いなくこの人がザラさんとクエイさんに喧嘩を売った人だな。

そして今のこの言葉で最初にクエイさん達にどんな喧嘩の売り方したのかも大体予想がついた。

なんて無謀な事を・・・・・・

武器を持ちだしたら船を追い出されるって言われてなかったら今頃この人物理的に海まで飛ばされていたか病気にされていたぞ?

この人は心の底から船長さんに感謝すべきだな。


「はぁ?何でおれが・・・・・・」

「お客様」

「あぁ?・・・・・・ッ!!」


一目見た時から分かっていたけど、話に聞いてた通り本当に自分がトラブルの原因になる様な問題発言をしたと思いもしてないんだな。

流石船に乗って直ぐに船長公認の超要注意人物リストに載ったパーティーのリーダー。

次に他の乗客や乗員とトラブル起こしたらどんな理由でも容赦なく叩き出しても構わないと言われた人なだけある。

俺の様なアルバイトにまで話が回ってくるんだから相当な人物だと思ってたけど、予想以上だ。

それでも連絡事項通り直ぐに放り出されずこの賭け事の場に引っ張り出されて来たのは放り出す前に骨の髄まで搾り取ろうって言う船員さんの思惑があったからかな?

それとも最初から警戒してて中々賭け事の場に出ない俺達の代表としてザラさんを引っ張り出す為に利用されただけ?

まぁ、兎に角、そんな色々と自分の命が危険に晒されてるとは露程にでも気づいて無い男性は何で自分が追い出されなけいけないのかと機嫌を悪くした様だ。

そんな男性を気にする事なく俺は男性の真後ろを手で指し示した。

男性の真後ろに静かに立った無表情の船長さんを。


「な!?何時の間に!!?」

「『また』ですか、お客様。

そろそろお出口にご案内しないといけませんかね?」

「・・・チィッ!!あー、悪かった悪かった。

冗談なんだからそんなに真に受けんなよ?」

「ほう、そうですか。

ですがそれはそうとして少々お話ししたい事がございます。

早急でとても大事な話しですので、パーティーの皆様とご一緒に是非ともこちらにいらして下さい」

「いや・・・あの・・・・・・」

「さぁ、ご一緒に。

・・・・・・失礼しました。

皆様はこの後も良き船上の夜をお楽しみください」


丁寧で物腰軟らかそうなその口調と姿勢で誤魔化しても誤魔化しきれない、


「絶対逃がさない」


と言う物凄い圧。

そんな船長さんから滲み出る獲物に噛みつく寸前の猛獣の様な雰囲気に圧され冷や汗を流し視線を反らす男性を問答無用で鷲掴み、男性が振り返るとほぼ同時に貼り付けた柔らかい笑顔のまま船長さんは淡々と食堂の入口に向かって男性を引っ張っていった。

そんな船長さんに倣って近くに控えていた船員さん達も男性の仲間を連れて行く。

そして入口に着いた船長さんは優雅に一礼すると男性達を連れて出て行ってしまった。


あの、船長さん?

この雰囲気で楽しむのは無理があると・・・・・・


「あぁあああ!!もう少し粘れよ、馬鹿野郎!!」

「シャアッ!!!!俺の勝ち!!」

「あぁ、惜しい。思ってたより粘ってたなぁ」

「なぁ、なぁ!こっちの方はどうする?」

「挑戦者が1人減ったから賭けのし直しだな!!」


別にそんな事無かった。

船長達に引きずられて行った男性達が何時まで船に居られるか賭けていたらしい悲喜交交の声から始まり賭けをやり直すと言ったこの場を取り仕切る乗員さんの言葉で雑音が戻って来る。

きっと裏ルールがあってもあぁ言う事はこの船ではよくある事なんだろうな。

シェフ含め残った船員さん達は、


「またかぁ・・・」


と言いたげな雰囲気で気にしてる様子を微塵も見せないし、常連らしい乗客さん達も俺達の様にこの船に初めて乗った困惑するお客さん達を他所に1つのイベントが終わったかの様に楽しそうにお酒を飲んでいる。

いや、本当、皆さん嫌な慣れ方してるなぁ・・・

次俺達がこの嫌なエンターテイメントのキャストにならない様に本当に気を付けよう。


「えーと・・・・・・取り敢えずザラさん?

多分お相手の方は戻ってこれないと思いますけど、このままこの賭けに挑戦しますか?」

「あー・・・・・・・・・する。

ここまで来て逃げるなんって嫌だからな。

俺様の度胸を示させてもらうよ」

「いや、でも・・・」

「する」

「・・・・・・そうですか。

無茶はしないで下さいね?」


チラッと周りを見回してため息1つ。

娯楽に飢えたハイエナ達は唯一残った本日の純粋な挑戦者のザラさんを逃がしてくれなさそうだ。

それをザラさんも感じ取ったらしく、もうやる意味のない賭け事に挑戦するとやる気の削がれた顔で仕方なさそうに頷いた。

折角シェフが作ってくれた料理が勿体無いって事が気がかりだけど、それでも説得次第では今回の賭け事を中止できるんじゃないかと目で訴えつつ、


「やっぱりやめましょう」


の言葉を紡ごうとした俺の口をザラさんのハッキリと響いた言葉が止める。

これは俺が折れるしかないって事かな?

そう諦めのため息を吐いて説得するだけ無駄だと顔全体で訴えるザラさんの前に小皿を並べていく。

そのまま同じテーブルに座る他の挑戦者さん(手慣れたさくら)達の前にも小皿を置いてその席を離れようとした。

その前にこの賭けを取り仕切ってる船員さんに呼び止められて離れられなかったんだけど。


「ちょい、ちょい、バイト君。

折角だからさぁ、お前も挑戦しようぜ」

「お断りします」

「えー・・・

お仲間のネェちゃんが勇敢に挑戦してるのに?

年上の男がそんなんで良いのかよ?

それでも男か?」

「俺はまだ仕事中なんです。

なんと言われようとお断りします。

減った挑戦者の補充が必要だと言うなら、俺のパーティーの仲間以外の方を誘ってください」

「チェッ!つまんないのー」


つまらなくて結構!

そう内心で叫んでキッチに戻る。

この先ずっとカモとして見られ続けない為にと新たな覚悟を決めやる気に満ち溢れたザラさんの説得は諦めたけど、俺含め大人しく部屋で過ごしてる他の人まで巻き込んで良いなって一切言ってないからな。

何言われようがどう思われようが絶対に参加しない!!


「すみません。戻るのが遅くなりました」

「おう!お帰り。早速だが次の運んでくれ!!」

「はい!!」


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