231,小皿の料理
「おーい、兄ちゃん!!
これ7番テーブルに運んでくれー!!」
「はーい!!
・・・・・・あぁ、今日もですか・・・」
「今日もだなぁ」
「毎日よく飽きませんね?」
「海の男は度胸があってこそってな!」
この船に居る人達の大半が集まる夕食時。
シェフに運べと言われた料理を見て俺は心の中で盛大に顔を顰めた。
表情が変わってなくても思わず零れたその呟きで俺の心中を察したんだろう。
シェフは一瞬浮かべた苦笑いを打ち消す様に豪快に笑って『海の男は度胸』と言った。
「それにこう言う船の中で小遣い稼ぎするならコレが1番手っ取り早いんだよ。
何よりやる方も見てる方も面白い!!
どっちかと言うとこっちじゃ兄ちゃんみたいな奴のが稀なんだぜ?」
「そうなんですか?」
「理解できねぇって声だな。
まぁ、魔法の事を考えるとそうなっても仕方ないか。
新鮮な果物や野菜が何時でも自在に出せるなら船の上なら尚更重宝されてきただろうし」
「えぇ、まぁ・・・
船に乗るのは今回が初めてですけどね。
・・・いえ、それ以前に普通に働いた方が確実に稼げるし、なにより美味しい食材を使って丹精込めて作った料理が勿体無いです。
確実にお腹壊すって位腐ってたり、毒とかがあるって訳じゃ無いのに残される事が前提なんて、頑張って作ってくれた料理長にも失礼ですよ」
「ガハハッ!!俺も海の男なんだぞ?
そんな小さな事気にする様な器の小さい女々しい奴じゃないさ!!」
少し悩んでから言った言葉に対するその返答に思わず返しかけた、
「俺の事器の小さな女々しい男だって言ってます?」
とか、
「シェフが生粋のギャンブラーってだけでしょう?」
って言葉は豪快に笑って、
「さぁ、急いで運べ」
と言うシェフの言葉によって飲み込まざるおえなかった。
そんなシェフに渡されたお盆の上に乗った数種類の小皿。
まず1品目は加工して細切りにしたウミボウズと、同じく細く切られたきゅうりと白いゴーヤの中間の様な野菜、それと茹でて細く裂いたトリ肉の和え物。
味付けはお酒に合う様にしてあるのかな?
かなり辛みの強い中華サラダって感じだ。
ルグは絶対食べられないだろうって思う位辛いし味もかなり濃いけど、コリコリ、シャキシャキ、グニグニとそれぞれ違う食感が舌を楽しませてくれる。
2品目はレモラのお刺身。
ツマや大葉なんかの付け合わせは一切なく、そぎ切りにされた薄っすらピンク色に染まった白い身が3切れだけ乗っている。
シェフに端っこを貰って食べた感じ、かなり淡白で最初はちょっと付けた塩の味しか感じないけど噛んでいくと段々旨味を感じていく。
普段通りワサビ醬油をタップリ付けて食べたら多分一切レモラの味がしなくなると思う。
その位淡白なんだ。
3品目は夕方頃シェフが作ってたロレット島の郷土料理の生魚バージョン。
夕方作ってた基本バージョンとの違いは、マリブサーフ列島寄りのラズール海にしか生息してないトンピコノと言う脂の乗った赤身の魚。
その魚をサイコロ状に切って生のまま甘じょっぱい醤油風味のキノコをベースにしたタレに漬けた物を使う事と、ワカメの様な色の解れた糸の塊の様な海藻を使う事。
それ以外の野菜やナッツ、ソース、作り方は基本バージョンと全く同じだ。
トンピコノがマグロの赤身部分にかなり近い味をしてるからかどっちのバージョンも丼ものにしたら絶対美味しいって味をしてるんだ。
と言うか美味しかった。
数日前、賄いとして『ミドリの手』で出したお米を炊いて余った基本バージョンの方を乗せて食べたら予想通り滅茶苦茶美味しかったんだ。
勿論物凄く美味しいって思ったのは俺だけじゃなく、マリブサーフ列島国の主食が米じゃ無いからかこの時までこの組み合わせの美味しさに気づかなかったみたいだけどシェフも、
「これは客に出せる美味さだな!!」
とかなり好評だったし、試しに出した船員さん達からも好評だった。
魚に海藻、ナッツにキノコにお米と元々腹持ちが良い組み合わせで働く男性陣に好評だったのを更に玄米を混ぜたりとか栄養や健康面にも気を使った改良をシェフがしてくれたのがなお良かったんだろう。
出してからまだ3日も経ってないのに、今では目新しさを引いても老若男女多種多様なお客さんからも大好評の料理の1つになった。
それで4品目はマリブサーフ列島国の伝統的な主食である芋を使ったパンの様な物を使ったサンドイッチ。
外も中もモッチリな素朴な甘さの折り畳まれた薄い蒸しパンに、カルパッチョの様な香りのいい油と塩で和えられた生魚と生野菜が挟まれている。
強めの塩に引き立てられた芋の甘さと魚の旨味、シャッキリした新鮮な野菜。
シェフの腕が良いから味も調理方法もシンプルながらシッカリ調和がとれていてかなり美味しいんだ。
それが魚の種類を変え2種類。
使われてるのは、茹でた鶏肉の様な味のイカの様な白色をしたウナギやウミヘビの様に長い魚と、
ツナ缶の様な味の鮭の様なオレンジ色をした膨らんだフグの様に真ん丸な魚だ。
どっちもラズール海で良くとれるけどその見た目から食べる人が少ない、需要と供給が一致してない故に漁師達に厄介者扱いされる魚らしい。
凄くぬめっていたり毒とか持っていて処理が難しいとか言う訳でもないのに釣れても基本捨ててしまうそうだ。
こんなに美味しいのに勿体ない。
最後はテナガダコを使った洋風のたこ焼きの様な明石焼きの様な天ぷらの様な料理。
ある意味郷土料理って言って良いのかな?
島ごとに少しずつ作り方が違うけど本来はタコじゃ無くて魚や野菜を使う所が多いらしいマリブサーフ列島国の伝統的な家庭料理で、翌日まで余ったアクアパッツァの様なスープ料理のリメイク料理らしい。
シェフの下処理が良いのか、それともテナガダコそのものが柔らかいのか。
大ぶりに切ってあるけど特に苦労する事なく顎の弱い人の歯でも嚙み切れると思う位身はかなり柔らかい。
そのタコを包むのは主食の芋の粉と少しの卵、アクアパッツァの様なスープ料理の余りを沢山使って作られた魚介と野菜の旨味がタップリ染み込んだ衣だ。
他の料理に比べ少し多い油を使って揚げ焼きされたタップリ付けられた衣は外はカリカリ、中はトロリとしていて丸くないけどまさに食感はたこ焼きそのもの。
それを残りのスープに浸して食べるそうだ。
以上どれも間違いなく美味しい5品の料理はどれも普通の食事の為の料理じゃない。
残念な事に度胸試しの賭け事の小道具でしか無いんだ。




