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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第2章 チボリ国編
460/498

229,港町 コピアポア


 キャラバン村近くでナト達と再会して、大怪我をした人は居たもののルグ達が誰も死なず無事に戻って来て、1週間と少し。

塩の木の新芽を集めたり、シラタキさんに味見して貰いつつ彼岸菊のお酒作りの研究をしたり、ロホホラ村近くの依頼を受けたり。

そう言う事しつつルグやクエイさん達が完全に回復するのを待っていた俺達は今、マリブサーフ列島国行きの船が出るコピアポアと言う港町に来ていた。


因みに、ルグ達との死闘の末盗まれた『光のオーブ』を取り返したと思い込んでいるナト達は、約1週間リリーチェ近辺とウルメールを行き来していた後ほんの少し先にマリブサーフ列島国に旅立っている。

今はアスピドケロンって言う巨大豪華客船サイズのウミガメの様な動物の上でのんびりバカンス気分を味わってる様だ。

いや、確かにアミューズメント施設を背負ってゆっくり泳ぐアスピドケロンはこの世界の豪華客船に当たる生き物らしいけど、流石に楽しみ過ぎじゃ無いか、ナト達?

特に高橋と魔女。

偽『光のオーブ』に仕込んだ盗聴器と隠しカメラの様子からギャンブル狂いにならないか心配になるほど遊んでる様子が伺えるし・・・・・・


あぁ、そうそう。

あの時決行されたジンさんが考えた第3作戦。

いや、正確に言えばルグ考案のその最後の作戦はキャラさんの話を聞いて俺も思いついた、


『盗聴器や隠しカメラを仕込んだ偽物の『光のオーブ』をナト達に態と掴ませる』


と言うものだったんだ。

逃げてる間にアルさんに連絡して、大至急亀岡さんに俺達の世界産の盗聴器とかを仕込んだこの世界の素材製の『光のオーブ』そっくりなアクセサリーを作って貰って。

そのせいで出来るだけ進まない様にして貰っていた俺達の世界の日数が一気に何日も進んじゃって、出席日数がかなり心配なんだけど。

俺達が住んでる所、他県に比べて圧倒的に夏休みの日数が少ないんだよ。

俺はこの体のせいで元々諦めていたから良いんだけど、せめてナトと高橋は留年して欲しく無いんだ。

けどそれも諦めるべきかな?


「うぅ~・・・・・・

またカビ生えてるぅ・・・・・・」


ギルドで出国手続きの順番待ちをしてかなり暇な時間が出来たから彼岸菊のお酒の研究をしようと専用に買った昔ながらの薬箱の様な鞄を開けた瞬間、俺は思わずそう言って項垂れてしまった。

『プチヴァイラス』を使いつつ熟成させていた彼岸菊を漬け込んだお酒の幾つかに、一目で分かる位ブワッとカビが浮いてるんだ。

こうやって失敗するのこれで何度目だよ!!


「うわぁ・・・これまた盛大に失敗したな、サトウ」

「うん・・・・・・

あ、でもここ数日で仕込んだのはまだ無事みたい」

「やっぱり原因は消毒不足と彼岸菊の下処理?」

「多分?

ラベルを見るにカビたの結構前に仕込んだ奴みたいだし・・・」


失敗したっと見た目で分かる物を全部抜き出していると隣に座ったルグがそう顔を顰めてくる。

そのルグに頷き返しながら小瓶に張られた手書きのラベルを見る。


失敗したのは・・・・・・

初期に仕込んだ長期熟成タイプだな。

『プチヴァイラス』をあまり使わず、時間を掛けて自然に熟成させていくタイプ。


これで研究を始めて直ぐの頃の彼岸菊のお酒は全滅か。

やっぱり原因はマシロの言う通り俺の下処理が下手だったからだろう。

アルさん経由で送って貰ったり『プチヴァイラス』で作ったホワイトリカーなんかの俺の世界お酒を使って彼岸菊のお酒を作って、それをシラタキさんに呑んでもらって、その中で見つかったミワタリ村製の本物の彼岸菊のお酒に近い物をクエイさんやザラさん達にも飲んで貰って。

それでその時に使った俺達の世界のお酒に近いこの世界のお酒を選んで貰って彼岸菊を漬けてるんだけど、その近いって言われたお酒達はどれも焼酎やブランデー、ウォッカの様なアルコール度数がかなり高い物らしい。

だから手作りの梅酒とかにカビが生える原因の1つと言われてるアルコール度数の低さが原因の可能性はかなり低いと思うんだ。

と言う事で可能性があるのは他の主な原因って言われてる2つ。


瓶や道具の消毒不足で残ってった雑菌が繁殖したか、彼岸菊を洗った時の水や汚れが残っていたか。


つまり俺の雑な下処理が原因でカビが生えてしまったんだ!

そう送って貰った俺の世界の果実酒作りの本やネット情報を印刷した紙を読み返して思った俺は、ここ最近自分が思っている倍以上は丁寧にそう言う下処理を行う様に変えた。

そのお陰か気を付けて仕込むようにしたここ数日の内の彼岸菊のお酒はカビる事なく熟成が進んでいる。

いや、見た目で分かる変化が無いだけで無事仕込めてるかどうかはまだ分からないんだけど。


「そんな調子で何時になったら飲めるモンが出来るんだか」

「そんな事言うなよ、クエイー。

一応前進はしてんだからさー」

「そうそう。

ザラ君の言う通り、初めの頃よりは間違いなく進んでるんだからサトウ君もそんなに落ち込まなくても大丈夫だよ」


呆れた様にそう言うクエイさんに、俺を慰めてくれる様な反論をするザラさんとジェイクさん。

確かに『プチヴァイラス』を使って一瞬で全滅させていた頃に比べたら多少は進歩出来ただろう。

でも『蘇生薬』の素材である夜明けの甘露を『プチヴァイラス』で出す為の条件達成って言う中間地点通過にはほど遠いし、こんなんじゃ『蘇生薬』を完成させてゾンビにされたルディさんやキャラさん達ローズ国民を助けるって言うゴールに辿り着くなんって夢のまた夢。

亀やカタツムリよりも遅いこの歩みにクエイさんが呆れるのも無理は無いだろう。

はぁ・・・・・・

こんな調子じゃミワタリ村で他の条件をクリアする方が先かもしれないな・・・


「でも一応、条件達成に必要な『彼岸菊を使った売れるお酒』は造れてるんでしょ?」

「残念ですけど彼岸菊を使ったシロップで作ったカクテルじゃ『彼岸菊の花酒を作った』とは言えないので、条件達成には掠りもしませんでした」

「えぇ・・・

ただ売れる位美味しいってだけじゃダメなのかぁ。

あんなに美味しくて飲みやすかったのに、残念」


よっぽど気に入ってくれたのかそう心底残念そうな顔をするピコンさんに苦笑いで返す。


砂糖代わりの熟したダグブランの実に浸透圧の力でダグブランから水分を出す為の少量の塩の木の葉の粉末を入れて、ダグブランの実が軽く崩れる位まで火にかけて、タップリの水を入れ灰汁を取りつつ実がグズグズに崩れるまで煮詰める。

そして煮崩れたダグブランを漉して取った少しトロっとした甘い出汁。

ガムシロップ代わりのそれに水と綺麗に洗って水けを切った彼岸菊の花弁を入れて弱火でフツフツと掻き混ぜながら煮込む。

基本のこれだけでもフルーティーな甘い香りがフワッと鼻をくすぐる十分美味しいシロップになるけど、ハーブや柑橘類を一緒に漬け込んでもサッパリして美味しい。

パウンドケーキとかに使うと、苦労した自作補正抜かしてもお店で売ってても違和感ないって思う位本当に美味しんだ。


発想を変えて試しにそのシロップをお酒とリンゴジュースやオレンジジュースと混ぜたカクテルを作ったら予想以上に反応が良かった。

この研究を続けて初めて、辛口審査員なクエイさん達飲んだ人全員に、


「お金を出してでも飲みたい位美味しい!

これなら間違いなく売れる!!」


って言われたんだから、その美味しさは相当なものだろう?

まぁ、俺はお酒が飲めないからどの位美味しいのか良く分からないけど。


ただ残念な事に夜明けの甘露の条件には掠りもしてくれなかった。


多分彼岸菊の花酒の『花酒』はリキュールとかの事を言ってるんだろうな。

だから彼岸菊と『プチヴァイラス』を使った風味が本物に近いお酒でも、カクテルじゃなくてリキュール系じゃないと絶対駄目らしい。


「取り敢えず、失敗したの捨ててきます」

「あ、待って、サトウ君!

もう直ぐ僕達の番が来るからこのまま座って待ってて」

「あ、はい。分かりました」


カビた彼岸菊のお酒を捨ててこようと立ち上がったら、そうジェイクさんに止められた。

チラッと見たカウンター。

そこで今手続きしてるのは俺達の1つ前の番号を呼ばれた人達だ。

ローズ国からチボリ国に行く時はそこ等辺の全部スルーせざるおえなかったから知らなかったけど、1人1人書かないといけない書類もあるけどある程度はパーティーごとまとめて提出出来るらしい。

殆どマシロとジェイクさんがやってくれたから詳しい事は分からないけど、前のパーティーの様子を見るに後は1人1人サインすれば手続きが完了するのかな?


「あ!ほら、呼ばれたよ」

「え、あ、ちょ、ちょっと待って!!

直ぐ行くから先行ってて!」

「片付けるのは後、後!

ソファーの上に置いといて直ぐに行くぞ!!」

「わ、わ、わッ!!分かった!

分かったから引っ張らないでよ、エド!!」


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