45,跳ねかえる巨大クロッグ 2匹目
「え~と、此処だよ・・・・・・ね?」
「地図だと・・・・・・
此処で合ってる・・・・・・はず。多分」
「本当に此処?
オレ、すっげー自信ないんだけど・・・・・・」
「それは私達も思ってる事だよ、ルグ君」
先ずは少しでも情報収集を、とボスに教えて貰ったバトラーさんの所に向かった。
一応ボスは他の冒険者にもバトラーさんの居場所を記した地図を渡したそうだ。
だから、何人かの冒険者はバトラーさんの所に来たはず。
そう言う事でバトラーさんの所には俺達が知らない、色々な情報が集まってるはずだ。
そう思って俺達はバトラーさんが居るはずの建物の前に来たのだけど・・・・・・
「ここってさー、国外の貴族御用達の高級ホテルなんだけど・・・・・・
1番安くても一泊8万リラもするんだぜ?」
ルグが言う通り、目の前のホテルは俺が良く行く様な場所と天地の差ほど違っていた。
建物の素材や佇まいて言うのかな?
ドンッとして存在感があるのに優雅って言うか・・・
うん。
ルグとユマさんは良いとして、既に周りの建物からしても俺の場違感。
痛い、痛い!
此処の空気が凄く俺に刺さる!
周りの店も高級店ですって雰囲気がヒシヒシ放たれているー!!
「此処に泊まってるって事は、その冒険者さんって凄い人なんだろうね」
「多分・・・」
予想ではボスと同じ位の年のベテラン冒険者。
頑固で堅物そうなイメージだ。
ちょっとどころか、かなり会いに行くのが怖い。
だけど、少しでも情報収集をしないと危険だし、何時までも此処に居る訳にも行かない。
門前払いされない事を願って入るか。
そう思って入った、外観と同じ高級そうな玄関ホール。
此処に居る宿泊客だけじゃなく従業員も総じて優雅な雰囲気を纏っている。
宿泊客や従業員が俺らを見てヒソヒソ話したり睨んだりしてくるのは予想していた事だけど、やっぱ辛いな。
早くバトラーさんに会って帰ろう・・・・・・
「すみません。
此処に泊まってるレット・バトラーと言う冒険者に用が有るのですが、今バトラーさんはいらっしゃいますか?」
受付らしきカウンターに居た従業員さんに巨大クロッグの依頼書とボスが書いた地図を見せながらそう尋ねる。
従業員さんは俺達を見て眉を潜め睨んできたけど、依頼書と地図を見るなり納得した様に頷き、作った様な笑顔を浮かべた。
「はい。
『巨大クロッグの駆除』の依頼を受けた冒険者の方ですね。
バトラー様からお話は伺っております。
ご案内いたします」
「あっ!
あの、その前に何の連絡も無しに来てしまったので、バトラーさんがお忙しそうなら明日、時間が空いている時にもう1度お伺いしたいと思います。
確認して貰えませんか?」
「分かりました。少々お待ちください」
バトラーさんも同じ依頼を受けている以上、これから巨大クロッグの依頼の準備に行くかも知れない。
ボスに貰った地図以外のバトラーさんの連絡先を知らない以上、アポ無し訪問は仕方ないとして。
だからこそ、相手の都合も考えないと失礼だよな。
そう思って従業員さんに頼むと、受付の従業員さんは別の従業員さんを呼びだし、2人は何か2,3言話すと呼ばれた従業員さんが何処かに向った。
多分、バトラーさんの所なんだろう。
一室に1台内線通信鏡が有って、ドラマとかである電話で確認するみたいに通信鏡で確認するのかと思ってたから少し意外だな。
暫くすると、その呼ばれた従業員さんが戻ってきて、
「確認したところ、今日は冒険者の方が来る事を考え1日部屋に居るそうですのでご案内します」
「あ、はい。お願いします」
そう言った従業員さんの後を俺達は付いていった。
従業員さんに案内されたのはこのホテルの最上階の最奥の部屋。
階段を上がっている時に見えた他の階には部屋が5つずつ在った。
けどこの階には部屋が3つしかない。
階段から伸びた廊下の左右に1部屋ずつ。
廊下の奥に1部屋。
ルグとユマさんの話だと、この階の部屋は全室スイートルームになっているらしい。
スイートルームってそのホテルのグレードを示すシンボルになっているって聞いた事がある。
その為に部屋が空いていてもその部屋に相応しく無い客は宿泊拒否されるそうだ。
この世界でもそうだとは限らないけど、同じだとしたらバトラーさんがどんなに凄くて有名でも1冒険者がこの部屋に泊まっているのは可笑しい。
ルグとユマさんの話と玄関ホールに居た人達の様子を考えても、泊まれるのは王族とかだろう。
もしかしたらバトラーさんはユマさんの様に何らかの事情があって冒険者のフリをした王族か、継承の権利が低く冒険者になった王族の可能性もある。
「という事で、俺はこの世界のマナーとか詳しくないし、バトラーさんと主に話すのはユマさんに頼みたいんだけど良いかな?」
「うん、分かった。
聞く事は此処に来る前に決めた事で良いんだよね?」
「うん、今の所は。
それと、出来るだけ今のうちにマナーについて聞いておくけど、何か合った時はルグの真似するから。
よろしく、ルグ」
「任せとけって!
こう見えても礼儀作法は叩き込まれてるんだ。
大船に乗った気でいろよ、サトウ」
2人共礼儀正しくても極々普通の一般冒険者として違和感が無い範囲でやってくれそうだし、ルグが代表でも良かった。
けど、挨拶の仕方とか、リーダーとヒラの話している時の立ち居地とか。
そう言う動作が男女で違うかも知れない。
だからもしもの時は同性のルグの真似をした方が間違いが無いと思ったんだ。
それに話し相手が女性のユマさんの方が相手に受けが良いと思うし。
従業員さんに聞こえない様に小声でした話と、ルグとユマさんによる超簡略マナー講座を受けていると、部屋の前に着いた。
「バトラー様、先程の冒険者を連れてまいりました」
「ありがとう。どうぞ、いらっしゃい」
従業員さんがノックした戸を開けたのは、穏やかな笑顔を浮かべた黒い髪に金色の目の健康そうな浅黒い肌の男性。
一見笑顔を浮かべた優しそうな人に見えるけど、雰囲気は何処と無く戦ってる時のルグに似てる。
その人に招かれて入った応接間の様な部屋には、ソファーに座った赤茶色の髪の天然ぽいポワポワした若い男性。
それと、少し離れた後ろに立った黒い前髪で目を隠した地味な雰囲気の、3人の中で1番年上らしい女性が居た。
顔立ちとか肌の色を見るに3人共別々の国の出身なんだろうな。
でも3人の服装はギルドで見かける冒険者と変わらない、この部屋には場違いな極々普通の冒険者の恰好をしている。
冒険者の服装は全国共通なのか、此処に来る冒険者達に合わせているのか、旅をしていて今は普通の冒険者の服しか持ってないのか。
それとも俺が知らないだけで素材がとんでもなく高級な物や特殊な物なのかもしれない。
だからだろうか?
3人共違和感を感じる位、不思議な程静かに動くんだ。
よくよく3人を観察すると、殆ど足音や衣擦れの音を立てずに動いている。
漫画とかだとこう言う人達の腕は本物だってあるよな。
服とかの付属スキルによる物かも知れないけど、固有スキルや追加スキルでやってるのなら、この3人も相当な実力者なんだろう。
多分。
「突然、お邪魔してしまい申し訳ありません。
お初にお目にかかります。
私はこのパーティの代表を勤めさせて頂いているユマと申します。
後ろの2人はパーティの仲間、ルグとサトウです」
「あー、そう硬った苦しいのはいいよ。
もっとリラックス、リラックス」
優雅に一礼するユマさんに対し、ソファーに座った男性がニコニコと声を掛けて自分の向かいのソファーに座るよう促した。
でも、俺とルグは男性に言われるままソファーに座ったユマさんの真後ろに、2人並んでピシッと立つ。
事前に習ったマナー講座によると、こういう風に促されたらリーダーは座って良いけど、それ以外は相手を威圧しすぎない程度に何時でも戦える様身構えて後ろに立つのがマナーらしい。
座らないのは身分や役職による物で、直ぐに戦える様に身構えるのは相手の実力を認めていると言う意味とリーダーに対する忠義心。
それと、『リーダーは相手と話すのに集中するから後ろに居る仲間に自分の命を預ける』と言う意味での仲間同士の信頼を表している。
但しやりすぎると『貴方を一切信用していません』と言う意味になるそうだ。
逆に全く身構えないのは『貴方を格下と見てナメにナメまくってます』と言う意味になる。
ある意味、後ろに立ってる仲間の動作でそのパーティが相手をどう思っているのかが決まるらしい。
本当は立ち方とか位置とかも決まってるらしいけど、今回は習ってないからルグの真似をして背筋を伸ばして相手を真っ直ぐ見る感じで。
「・・・あれ?
そっちの黒髪の男の子は・・・・・・」
「はい、俺ですか?」
「うん。君、本当に冒険者かい?
体付きとかそうには見えないけど・・・・・・」
冒険者じゃ無いなら関わらない方が良い。
そう言う相手を気遣う様な、でも何処と無く拒絶を含んだ雰囲気を出しながら俺を見てソファーに座った男性がそう言った。
「彼、サトウはまだ冒険者になって1カ月も経っていない新米ですが、間違いなく冒険者ですよ」
「そうだったのか。
サトウ君、だよね?ごめんね。
不愉快な思いしたでしょ?」
「いえ。よく言われるので、御気になさらず」
リーダーらしく堂々とユマさんが答えてくれた言葉にソファーに座った男性が謝ってきた。
常に命の危機に晒されるでも、毎日がサバイバルな訳でも、何かと戦ってる訳でもない。
そんな平和で安全な異世界から来た俺が、たった2週間ちょいで冒険者らしくなれるはずが無いんだ。
それに、ルグとユマさんは兎も角、俺が受けている依頼は近場で簡単な採取依頼限定。
2人がコカトリスとか狩ってる間、俺は薔薇草を血道に摘んでるとかの方が多い位だ。
ギルドで会う冒険者にも、
「同業者?」
と良く首を傾げられるし、場合によっては、
「冒険者に向いて無いから転職した方が良い」
と熱心に勧められる位だ。
向いて無い自覚はありまくりだけど、こっちにだって転職出来ない理由があるんだよ。
転職出来るならしたいよ、俺だって。
だから悲しい事に冒険者なのかと疑われるのには慣れてしまった。
今回も言われるだろうと予想していたからダメージはない。
「そう?じゃあ、改めて。
僕が今回の発案者、レット・バトラーだ。
で、後ろに居るのが僕のパーティーの仲間のロア君とマキリちゃん。
後1人今は居ないけど、エスメラルダに行く時はちゃんと居るから。
よろしくね」
「はい、此方こそよろしくお願いします」
「・・・・・・それにしても、皆さんそれぞれ別々の国の方なんですね」
「そうだよ。
僕のパーティーには同じ国の人は1人づつしかいない。
世界中を旅して出会った最高の仲間さ!!」
俺が不意に、違和感を覚えて此処に来てからずっと気になっていた事を口にすると、気のせいかと思えるようなほんの一瞬。
ソファーに座った男性改め、バトラーさんの動きが僅かに止まった様に見えた。
その後はとても嬉しそうに仲間の事を話すバトラーさんの様子を見るに、本当に俺の気のせいだったのかも知れない。




