228,マシロの秘密
「ッ!!キビ君!!!」
「マシロ!!」
マシロ達が向かったロホホラ村に向かって飛んでいると、途中で砂漠を爆走する馬車の一団が少し先に見えた。
その馬車の1台が急に止まり、誰かが飛び出してくる。
それは距離があっても分かる位泣きそうな表情をしたマシロで、マシロを追いかけて出てきたナァヤ君と一緒に手を振って大声で俺の名前を呼んでくれた。
「良かった・・・
無事、戻って来てくれて・・・・・・・
大丈夫?エド君達は?」
「俺は平気。でも、ジェイクさんが・・・
それとエド達はジンさんの作戦通りまだナト達と戦ってる」
「そう・・・・・・」
少し先から戻ってきた馬車から救護部隊だと言うチボリ国兵さん達が出てきて、直ぐにグッタリしてるジェイクさんを馬車に運んで治療を始めてくれた。
その姿を見送りつつ、マシロに軽く何があったのかを説明する。
その説明を聞いて目に溜めた涙を引き戻そうとするかの様にマシロが小さく声を漏らした。
「・・・・・・・・・ズルい・・・
ズルいし、酷いよ・・・・・・・」
「え?」
「私も一緒に戦うって言ったのに・・・・・・
私だってちゃんと戦えるのに・・・・・・
置いてかれた。また、守られるだけだった!!」
「マシロ・・・・・・」
それでもその涙は引き戻せなくて、耐えられず流れ出した涙と一緒にマシロの口から引き裂かれそうなほど痛々しい言葉が漏れ出す。
そんな両手の甲で何度も溢れる涙を拭うマシロを前に、俺はただ視線をさ迷わせるだけで何も言う事が出来ない。
どんな言葉を掛けるべきか、本当に分からないんだ。
「そんなに・・・そんなに、私、頼りない?
ただ守られるだけの弱い女の子だと思ってるの?」
「そんな事ない!
魔法道具の知識や戦闘に関しては間違いなく俺より凄いよ。
でも、今回はそいう事じゃ無いんだ。
マシロもクエイさん達と同じ。
何があってもローズ姫達に捕まっちゃいけない人なんだ」
「なんで?なんで、私もなの!?
子孫残せないって言い張っててもジェイクは元々貴族の跡取りなんだよ!?
そんなジェイクはキビ君と残れて、なんで2番目に生まれた女の私は駄目なの!!?
いざって時、跡取りを守って戦うのは私の役目でしょ!?
いざって時大切な跡取りを逃がすのは私の役目!!
なにより、こんな見た目だけど私はカラドリウスじゃないし、ピコンさんの様に王族の血を引いてる訳じゃ無いし、ザラさんの様に敵にまわったら厄介極まりない程誰よりも強い訳じゃ無いッ!!!
替えが聞くそれなりの価値しか無くて、それなりに戦えてる!
そんな普通の人間なんだよ!?
自分の役目を奪うなって言うなら、私の役目も奪わないでよッ!!!」
「違うッ!!!違うんだ、マシロ。
それは間違った自己評価だし、役目なんだよ。
マシロはローズ姫達に絶対捕まっちゃいけない人なんだ。
チェスに置いてのキング、将棋に置いての王将。
相手に取られたら負け。
それがマシロの価値で、こちら側が相手の王様を取るまで絶対捕まらない様に逃げ続ける。
それがマシロの1番の役目だ」
記憶を失ってしまったからこそマシロの安全の為にあえて本人にも言ってない本当のマシロの価値と役割。
ポーンでも歩兵でもない。
1番価値のある駒だ。
ルグ達の事を考えると本当はこの事も言うべきじゃ無いんだろう。
それでも真っ直ぐ強い思いを抱いて訴えるマシロを蔑ろに出来なくて、俺は涙で顔を赤くしたまま睨んで訴えるマシロにそう言って説得の言葉を返した。
「それはッ!!
・・・・・・それは、ジェイクやエド君、ネイちゃんの・・・
皆の隠し事とも関係あるんだよね?
私に関わる。
私の中から消えちゃった記憶に関係する、私に隠してる秘密に」
「・・・・・・気づいて、たの?」
「うん。
私、そこまで鈍感じゃないんだよ?
ずっと一緒に生活してるに気づかない方が可笑しいでしょ?
秘密の内容までは分からないけど、ずっと隠し事されてる、誤魔化されてるって事は分かってるんだ。
だからジェイク達だけじゃない。
ナァヤ君もジェイク達と同じ隠し事してるって気づいてるんだよ?
そうでしょ、ナァヤ君?」
「・・・・・・・・・うん」
首を傾げた疑問の言葉なのに、間違いなく確信して聞いている。
そんな雰囲気と声音のマシロの質問にナァヤ君が思わずと目を見開いてマシロを見上げた。
そんなナァヤ君に困った様にも怒ってる様にも見える表情で頷き返したマシロを見て、ナァヤ君まで今にも泣きそうな程顔を歪める。
それは罪悪感からか、それとも悲しかったからか。
それは分からないけど、ナァヤ君がその年に見合わない重いモノを隠し持っている事をありありと表してる様だった。
「・・・・・・思い出した、から・・・
言った、訳じゃ、無いん・・・・・・だよね?」
「思い出してない。思い、出せない」
迷子の子供が不安を紛らわす様にマシロの服の端をギュっと片手で掴んで、深く深く俯いて。
ポタポタと零す涙の合間に記憶を取り戻したのか聞くナァヤ君にマシロは首を横に振って悔し気に答える。
そのマシロの辛そうな言葉を聞いてナァヤ君から嗚咽が漏れ出した。
「なんで、なんで私の記憶の事なのに誰も教えてくれないの!!?
記憶を失う前から私の事を知ってるジェイクだけならまだ分かるよ!?
でも、なんで、記憶を失った後に会ったキビ君達まで私の記憶の事教えて貰えて、本人の私は駄目なの!?」
「それは・・・ごめん。俺も分からないんだ。
俺も、マシロの消えた記憶の事を教えて貰った訳じゃ無いから・・・」
「・・・・・・え?聞いたんじゃ、ないの?」
「聞いて無い。
ただ、何時もみたいにジェイクさん達の様子からこうじゃ無いかって推理して、それが当たってただけ。
だから詳しい事は、根本的な事含めた9割以上の事は俺も知らないし、どうしてジェイクさん達がこの事をマシロ本人にも隠してるかも分からないんだ。
俺の予想通りなら、多分・・・それがマシロの為。
マシロの安全を守る為だからだと思うんだけど・・・」
「・・・合ってるかどうか、聞かないてないの?」
「何処で誰が聞いてるか分からないからな。
最初に何か気づいても聞くなって言われたんだよ。
それにプライバシーに関わる事だから、必要に駆られてる訳じゃ無いのに他人の俺がしつこく聞く事なんって出来ないよ」
記憶の持ち主本人である自分を除け者にして何で赤の他人の俺達が自分の記憶の事を聞いてるんだ!?
そう当然の事で怒るマシロに、自力で気づいたと首を振るう。
その俺の答えがよっぽど予想外だったんだろう。
さっきまでの激しく悲しい怒りをポロッと落っことした様にポカンとした表情を浮かべ唖然と質問を繰り返すマシロに、俺は1つ1つゆっくり答えっていった。
「皆・・・皆、ジェイク以外自力で気づいたって事?
なら、ここまで隠す必要無いじゃないッ!!」
「違う・・・気づいたんじゃない・・・・・・
ぼくも・・・コロナねぇも・・・・・・
マシロの事、昔から知ってる。
マシロは覚えてないけど、ジェックター国に居た頃から、ずっと、ずっと、一緒だったんだよ?」
「え!?」
「ごめんなさい・・・・・・
コロナねぇやししょーに、言っちゃダメって言われてたの・・・・・・
だから、ずっと、・・・
マシロの事、昔から、良く知ってるって・・・
言えなかった・・・・・・・
言いたかったけど、言わない様に、ずっと、我慢してた・・・・・・」
簡単に他人に気づかれる秘密なら隠す必要なんって無い!!
そうぶり返した怒りを吐き捨てるマシロを訴える様な濡れた目でナァヤ君が真っすぐ見上げる。
誰よりも記憶喪失前のマシロを知ってる自信がる。
その位元々は仲が良い関係だった。
そう話すのが苦手ながら必死に訴えるナァヤ君。
きっと、いや、間違いなくナァヤ君はマシロと元の関係に戻りたいと誰よりも思ってるんだ。
本当はルグ達の意見無視して記憶の事とか全部マシロに言って、思い出してって訴えて、元の仲の良い関係に戻りたいと、強く、強く、願ってる。
でもそれを実行に移さないのは、それが誰の為にならないって良く分かってるから。
マシロとナァヤ君の元々の関係を思えば、本当はロホホラ村の博物館で再会した時、コロナさんの様に脇目を振らず抱き合って再会を喜び合いたかっただろう。
それをしなかった位、グッと我慢して『初めまして』のフリをつき通す位、ちゃんと理解してその願いをずっと押し殺してたんだ。
寂しがり屋なナァヤ君にとってそれはきっと、地獄の拷問を受けてる様な苦痛だったろう。
「なら・・・なら、教えて、ナァヤ君。
私の中から消えた記憶に隠された秘密って何?
記憶をなくす前の私って何?
ナァヤ君とどう言う関係だったの?」
「ごめん・・・ごめんなさい・・・・・・
言えない・・・言っちゃダメなの・・・・・・・」
「キビ君・・・・・・・・・」
「ごめん。俺も言えない。
それが本当に正しい事かどうか分からないけど、必死にマシロを守ろうとしてるジェイクさん達を裏切る事は出来ないし、マシロにとってもとても大切な事だから確証も確信も無い中途半端な推理を聞かせて逆に混乱させたくない。
だから、ごめん。
この秘密に関してこれ以上は黙秘させて貰うよ」
ここまで話したなら、核心をつく最後まで話してくれ!!
そう憔悴にも似た必死さで失った記憶と、その記憶に関わるだろう俺達の隠し事を教えて欲しいと訴えるマシロ。
それに俺達は首を横に振って謝る事しか出来なかった。
「今は・・・
今は何があってもこの秘密を言う事は出来ない」
「なら何時になったら教えてくれるの!?
キビ君もナァヤ君もジェイクもッ!!!
私が思い出すまで教えてくれない気!?
思い出せなかったら私が、皆が幽霊になっても教えてくれないの!!?」
「それ、は・・・・・・」
「・・・・・・・・・チェックメイト。
ぼく達がチェックメイト決めたら教えれる。
だから、それまで、もう少しだけ待って?」
「ッ・・・・・・・・・分かった。
もう少しだけ待ってる・・・・・・」
何時になったら教えてくれるのか。
その何時かは何時来るのか。
そもそもその何時かを訪れさせる気があるのか。
そう怒り泣いて聞くマシロの姿に言葉が詰まる。
何時なのか。
それは表面の事を中途半端に知ってるだけの俺から言う事が出来ないものだ。
そう思って言葉を詰まらせ視線を反らし、それでもマシロのこの思いを汲むなら答えるべきだと今までのルグ達の様子からいつ頃なのか必死に推理する。
だけど、そんな推理必要なかった。
その前にこの事件が無事に解決したら教えられるとナァヤ君が言ってくれたから。
そのただ年を取っただけの大人じゃ絶対出来ないだろう真剣な表情と目で訴えるナァヤ君の言葉を聞いて、俺達が俺達なりに誠実に答えてるって分かってくれたんだろう。
深呼吸を繰り返したマシロが諦めた様に静かに頷いた。
「だから・・・だからッ!!
絶対何時かちゃんとその秘密教えて?
その時が来たら、私の為なんって言い訳せずちゃんと全部教えて!?」
「分かった。約束するよ。
必ずジェイクさん達にもちゃんと言う様説得してみせるから。
だから、ごめん。まだ、待ってて?」
「うん、約束。・・・・・・破らないでね?」
「勿論!」
不安そうに聞くマシロに、俺とナァヤ君は力強く頷いて答えた。
そこまで話して、ずっとタイミングを計ってたんだろう。
そろそろ村に向かおうと話しかけてくるチボリ国兵士さんの言葉に従って俺達は馬車に乗り込んだ。




