227,悪役ヒーロー 後編
雷を纏った虹色の5枚の板同士がピッタリとくっつき、底の板が四方向から生成されだして数秒。
透明化の魔法が解けるとほぼ同時に体の1部が水晶に侵された魔女達が次々に倒れていった。
水晶の中で眠るゾンビにされたローズ国民達と同じ様に眠っていく中、スキルのお陰で効果の薄いらしいナトと高橋が魔女達を起こそうと必死に動いてる。
けどそれも時間の問題だろう。
ナト達も段々動きが鈍くなっていて、何時魔女達と同じ様に眠っても可笑しくない所まで来ている。
頼むからナト、高橋、このまま大人しく眠ってくれ。
次にナト達が目を覚ました時には俺達の世界で、この世界の全部はルグ達が終わらせてくれた後になってるはずなんだ。
だから、だから、抵抗しないでくれ!
「チッ!やはり赤いの達は簡単に眠らないか」
分かっていた。
そう願う俺の思いは届いてくれないって。
木箱ボートで飛んだまま近くの上空で見守る俺達の視線の先には、何時までも抵抗を続けるナトと高橋の姿が嫌に長く映っていた。
魔法を使い、剣で砕き、必死に起きてようとするナト達。
その一進一退なナト達の姿にコロナさんが盛大に舌打ちする。
「ジェイクの話が本当なら、あの水晶が壊されるのも時間の問題だ」
「だな」
昨日実際に刀を持った高橋と対峙して気づいたらしいんだけど、ジェイクさん曰くあのレーヤの試練で高橋が手に入れた刀はとんでもない魔法とスキルが付属された刀だったらしい。
名前だけならこの世界の誰もが知ってる伝説の剣。
有名な予想図とかなり違っていたからルグ達も昨晩ジェイクさんから言われるまで気づかなかったらしいけど、あの刀はレーヤが1万年前の魔王を倒す時に使ったジャックターの最高傑作の刀らしい。
有名な伝説の方では製作者不明だけど、解読したリーンの『蘇生薬』研究日誌にそう書いてあったそうだ。
元々愛用していた刀が修復不可能な程壊され、口説き伏せられたジャックターが苦節の末に対1万年前の魔王用に作った渾身の1振り。
『渾身の1振り』と自他共に認める通り、かなりぶっ飛んだ性能をしているんだ。
『返還』や『ゲート』の様に数か月かけてゲージを溜めないといけないけど、持ち主が強く切りたいと願えば、全ての因果を無視して自分を中心としたある程度の範囲内のものに対し『切った』と言う結果を引き起こす魔法。
そんなまさに必殺技の中の必殺技って魔法が付属されてる上に、同じく付属されたスキルのお陰で範囲内に刀が有れば持ってなくても『切った』って結果を起こせるそうだ。
と言う事を昨日俺が気絶してそのまま朝まで寝てる間に詳しく話してたらしい。
俺は今朝、軽く説明された。
「けど、だからこそジン達が向かってるんだろう?」
「あぁ」
第1作戦が失敗した時の為に軽く戦闘態勢になって真剣な表情でナト達を見下ろしながらそう言うルグに、コロナさんが同じく真剣な表情で剣を構えて頷き返した。
詳しい事は4人で空に避難した時に教えて貰ったけど、ルグ達が魔法か魔法道具で身を隠しながら駆けつけてくれた時からサインを駆使して教えてくれたジンさん考案の作戦。
それはは失敗しても必ず自分達側に利益がる様に3つの段階に別れてるらしい。
まずナト達にバレない様にヒッソリ水晶の魔法で閉じ込める、今発動中の第1作戦。
俺の願った通り、このままナト達全員を眠らせて捕まえる。
もしあの刀の魔法を使って水晶を壊されて脱出されても、問題ない。
いや、それも作戦の内だ。
1万年前の魔王戦で使われたゲージを一瞬で溜める魔法道具が現存してないから、暫く高橋は厄介な『切った』と言う結果を起こす魔法を使う事が出来なくなる。
失敗してもそう言う利益を得れるのがこの第1作戦だ。
「チッ!!!やっぱり壊されたか!!」
「サトウ!!先にマシロ達の所に向かってろよ!!」
「分かった。
エドもコロナさんも無茶しないで。
絶対、死なないでッ!!!」
「分かってる!サトウもジェイクの事頼んだぞ?」
「任せて!必ず無事にマシロ達の所に連れてくから」
作戦通り高橋が刀の魔法を発動させたんだろう。
吹き飛ばされたままだった刀が光り出し、瞬き程の一瞬の間には既に2重の水晶の箱がナト達の体を犯しだしていた水晶ごと壊れていた。
それを見てすぐさまルグとコロナさんが飛び出していく。
第2作戦は多勢に無勢のこの人数差による戦闘での捕縛。
第1作戦の効果でナト達が万全の状態じゃ無い所にこの圧倒的大軍ならひねくれ者の神様も俺達に味方せざるをえないと思うのが普通だけど、そうならないのがナト達なんだよな。
ピンチになればピンチになる程新しい魔法やスキルを作って幾らでもチャンスに変える事が出来るなんって、本当厄介で仕方ないよ。
神様を魅了するのも大概にしてくれ!
だからこそどんなに屈強で戦闘慣れした兵士達を集めても、一切の油断が出来ない訳で、その為に第3作戦が控えてる訳で・・・・・・
そこまで改めて考えを巡らせてため息が出そうになる。
本当はそんな2人を、ジンさん達を止めたい。
ルグ達にナト達と戦って欲しくないし、自分の手でナト達を捕まえたいんだ。
でももう、俺の我儘でそれを止める事が出来ない所まで来てしまった。
いや、今回はそう言う俺の思いや願いの事も分かった上でジンさん達の方が先に手を打っていたって言うべきか。
妥協して諦めたフリした自分達だけでナト達を止めるって宿願をなす為に。
その為に俺に聞かせる情報を制限していた所があったんだろうな。
寧ろジンさん達にも利益があるからと言っても、1番最初に水晶の魔法を使ってくれただけありがたいと思うべきだろう。
だから気づいたら戦いを止めらない所まで来てしまってたのは仕方ない事だろうし、それにジェイクさんを見殺しにする事なんって絶対に出来ないんだ。
少し前のピコンさんやクエイさんの様に応急処置をしても酷い状態のジェイクさんは、素人から見ても急を要する重症に見える。
だからルグの指示通り、直ぐにでもマシロ達と合流して本格的な治療をして貰わないといけないんだ。
だから、だから、どんなに後ろ髪を引かれても俺は俺の役割を全うしなくちゃいけない。
それは分かってる。
頭では、嫌と言う程理解してるんだ。
でも・・・・・・
「・・・・・・行こう。行かなくちゃ」
俺の我儘を押し通す為にも、ここは妥協しなくちゃいけない。
ナト達を連れ帰る為にも自分の手で、って思いは押し殺さなくちゃいけないんだ。
それでも拭いきれない未練に引っ張られ、ナト達を攻撃する様に五点着地を決めるルグとコロナさんをもう1度見てしまう。
それじゃダメだと訴え続ける理性に漸く従って、俺はそう声に出して自分に言い聞かせ木箱ボートを動かした。




