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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第2章 チボリ国編
455/498

224,逃げて 後編


「キャラ!!ラム!!『スラッシュ』!!!」

「ッ!『スモールシールド』!!」


きっとその優しさが逆効果だって思い至れる様な時間は残されて無かったんだな。

『スモールシールド』でほんの少しだけ威力を削げたジェイクさんに向かった高橋の攻撃。

その攻撃の為の呪文と一緒にその口から飛び出したルディさんとキャラさんの名前が聞こえた時にはもう、キャラさんは電源を落とした機械の様にカクッと動かなくなってしまっていた。


「キャラ!!大丈夫か!!?」

「ボクは大丈夫だよ、勇者君」


キラキラと安堵に輝く汚い紫の両目を自分達を俺達から守る様に刀を構える高橋に向け、ごく普通の恋する少女の様に不自然な程自然な笑みを向ける。

そんなナトと一緒に飛んできた魔女のせいでゾンビに戻ってしまったキャラさんの表情が気持ち悪い。

出来れば違っていて欲しいと願っていたけど、やっぱり魔女達が欲しかったのはキャラさんの外見と魔法とスキルだけなんだな。

と分かる、完全に別人の言動。

まるで風呂上がりで何時も以上に大助兄さんとそっくりな紺之助兄さんを見てる様だ。

それが気持ち悪い。

兄さん達だとそんなこと全く思わないのに、何でキャラさんだとこんな・・・・・・

やっぱり、ゾンビにされ無理矢理この言動をさせられてる本人だから?

何にしても実の妹のミルちゃんはこの嫌悪感が俺よりも強いだろう。

ほんの少し話しただけの赤の他人の俺でもそう思ったんだ。

間違いなくミルちゃんは今のキャラさんが喋る度に、そして動く度たびに心が壊れそうな程の嫌な思いを重ね続けてる。


「でも、ごめん。

ボクの力が至らなかったばっかりに、ラムちゃんが眠らされてしまったんだ」

「そんな!!ラム!!しっかりしろ!!!

田中ッ!!早くこっちだ!!!」

「分かってる!!『リフレッシュ』!」


まだまだ何時も通り動けない4人をどうにか支え絶え間なく放たれるナト達の攻撃をどうにか避けるので手一杯で、漸く連れ戻せたルディさんと引き離されてしまった。


いや、俺達が引き離したんだ。


俺達はピコンさんを。

最後までラムさんを離そうとせず、ナトと高橋の攻撃を受けて死にそうな程ボロボロになって気絶したピコンさんを、見捨てられなかった。

だからピコンさんを助ける事を優先したんだ。

でもそれは唯の良い訳で、間違いなくピコンさんは怒るだろうし、絶望するだろう。

それでも俺はこの選択を後悔出来ないし、したくない。


「ん・・・・・・あ・・・れ・・・?

此処は・・・・・・」

「大丈夫か、ラム?何処か悪い所は?」

「はい。えーと、何が・・・」


ナト達が側に居るからだろう。

さっきみたいにルディさんは自殺しようとする素振りすらない。

その事だけは嬉しいけど、ボロボロのピコンさんを気にする事なく頬を赤く染めナトと高橋だけを見つめるルディさんに吐き気を覚える。

海月茸農園では必死過ぎてそこまで気にしてなかったけど、ルディさんの方もかなり酷い。


その表情はピコンさんにだけ向けられるものだ。

ナトと高橋が向けられていいものじゃない!!


ナトと高橋が魔女達に騙されて何も知らないのは良く分かってる。

でも、何も知らないからこそ目の前で繰り広げられる茶番に俺は叫びたくて仕方なかったんだ。

そんな事今ここで叫んだらまたルディさん達が自殺し(殺され)かけるから絶対に言えないけど。

その分その出せない言葉が体の中で暴れて、手の平も、心臓も、唇も、鼻の奥も、全部が耐えられない位痛い。

痛くて、痛くて、痛過ぎて頭痛までしてきた。

こんな・・・

こんな言葉で表せられない程の最低最悪なモノをピコンさん達はこの1年近く見せられ続けて、こんな今直ぐ体を突き破りそうな痛みを抱え続けてきたんだな。


それが漸く分かっても、ナト達を諦められない。

諦める事が出来ない俺は、酷く我儘で自分勝手な最低な人間なんだろう。


それでも、それが分かっても、俺は自分の意見も願いも変えるつもりはない。

何が何でもナトと高橋を連れ戻す。

そう俺の心はとっくのとうに開き直ってるんだ。


「・・・・・・・・・エド。

俺が出来るだけ時間を稼ぐ。

だから、その間に皆を連れて逃げて」

「はぁッ!!何言ってるんだ、サトウ!」

「クエイさんまで気絶しちゃったんだよ?

『ヒール』も使ってある程度応急処置をしたと言っても、このまま放置してたら間違いなくピコンさんが死んじゃう。

それに、何があっても絶対にあいつ等の手に落ちちゃいけない人が、人達が居るでしょ?」

「ッ!!!」


深く深く深呼吸して、隣に来たルグにナト達に聞こえない様にそう言えば、ルグが怒った様な驚きの声を上げる。

そんなルグにちゃんと全部理解してると笑ったつもりで言えば、ルグから大きく息を飲む音が聞こえた。


意地で気絶してないだけで、クエイさんだってラムネを食べただけじゃ回復できない位弱ってたんだ。

それなのに無理してピコンさんを治そうとしてクエイさんまで倒れてしまって・・・・・・

お陰でピコンさんは今直ぐ死にそうって状態からは回復出来たけど、まだまだ油断は出来ない。

1分1秒を争う重症なのは変わらないんだ。


それにルグだって、ピコンさんだって、クエイさんだって、ザラさんだって・・・・・・

キャラさんの情報をに加え、種族、血筋、身分。

そしてその能力的にゾンビにされたり洗脳されて魔女や黒幕側に行かせる訳にはいかない人達が俺達側には多く居る。

利用され尽くされて。

いやその前に捕まって直ぐ殺されてしまうかもしれない人が居るんだ。


「思った以上にクエイさん達、狙ってるみたいだしさ。

此処まで来ちゃった以上、ただ『フライ』で逃げても今みたいに追いつかれるのは目に見えてるんだ。

『最悪』が起きない様に、今何を1番優先すべきか、分かってるだろう?」

「だからって!!

だからって、サトウを置いてけるかよ!!」

「大丈夫!

捕まる気は全く無いし、四郎さんだって居るんだよ?

それに俺達には『フライ』がある。

だから大丈夫。必ず逃げ切れるって。

なにより、ジンさん達と一緒にコロナさんも向かってきてくれてるんだろう?

なら尚更大丈夫だ!

だから、エド。

『何に置いても優先しなくちゃいけない』って言ったなら、エドはそれをちゃんと実行しないと」

「ッ!!サトウ、お前・・・・・・・・・

分かった。

でもマシロ達を安全な場所まで送り届けたら、戻って来るから。

それまでは何が何でも耐えろ。良いな?」

「分かった」


想像以上にギラギラした目で俺達を値踏みする魔女達に、ルディさん達をまた奪い取っても簡単には逃がしてくれないな。

と本能が訴えてくる。

だから、誰かは時間稼ぎの為に此処に残るべなんだ。


そして、ある程度ナト達の興味を引けて、

逃げたルグ達を素直に追いかけるか迷う位には足止めとしての価値があり、

捕まっちゃいけないって意味での優先度が低い。


その条件に1番当てはまるのきっと俺だろう。

なら、俺が囮になる。

そう言ったら、ルグに心底嫌がられた。

でも、今回ばかりは嫌だろうが何だろうがそうしなくちゃいけないんだ。

俺の予想が合っているなら、ルグの極秘任務的にもマシロ達を守り通さないといけない。

だからあの時、『逆にアイツラ等に捕まる事だけは絶対に有っちゃいけない』って言ったんだろう?

そう遠回しに言ったら、一瞬唇を強く噛んだルグは覚悟を決めた顔をしてピコンさんを担いだ。

そんなルグと入れ替わる様に俺の隣に来たジェイクさんが不敵な笑みを浮かべる。


「ジェイクさん・・・」

「エド君が戻るまでって言ってもサトウ君達だけじゃ足止め役として不安だからね。

それに君を1人にする訳にはいかない。

だから同じく優先度の低いボクも残るよ」

「・・・・・・良いんですか?」

「勿論!

・・・・・・いざっとなったら3人位簡単に運んでくれるでしょう?」

「勿論です。任せて下さい!!

『アタッチマジック』、『ミドリの手』、

『プチアースウェーブ』!!

『スモールシールド』!!」


『クリエイト』で出したラムネのお陰で暫く時間稼ぎ出来る位には回復した。

そう言いつつ足止めの為にナト達を捕まえる様に影で攻撃するジェイクさんに続いて、俺も魔法を駆使して高く厚い壁を幾つも作り出す。

ナト達相手にこの壁が何時まで持つか分からないけど、自分も残ると叫ぶマシロを引きずって何時もより遅いペースで駆け出したルグ達が安全な場所まで。

近くに来てるはずのジンさんに保護されるまでの時間を少しでも稼がないと!


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