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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第2章 チボリ国編
450/498

219,通せんぼミイラ


 やっぱりナト達はリンゴ売りのお婆さんの所かその近くで買い物してたのかな?

結局キャラバン村内でナト達を見つける事が出来ず、ナト達は『箱庭遺跡』にワープしてしまった。

明らかに危険なリンゴ売りのお婆さんを回避する為とは言え、この結果はかなり悔しい。

だからって悔しい悔しい言って立ち止まる程俺達は馬鹿じゃない。

元々はそのつもりだったんだ。

『箱庭遺跡』に行かれたなら直ぐに追いかければ良い。

そう気持ちを切り替えて、そのままレジャーシートに乗って『箱庭遺跡』に向かう。


正し、俺とルグとマシロの3人だけで。

クエイさん達4人には別ルートで来て貰うんじゃなく、そのままキャラバン村に残って貰ってる。


ナトの『レーダー』の様な魔法でマークされてるのは、多分俺だ。

だから俺達はそのまま素直にナト達を追いかける事で囮になって、クエイさん達には俺達をまんまと引き付けられたと思ったナト達がワープ系の魔法でとんぼ返りしても直ぐ対応出来る様にして貰ってる。

勿論、俺達がナト達を『箱庭遺跡』内で捕まえられるのが1番なんだけど、相も変わらず世の中そんなに甘くない。

ルグとマシロだけなら兎も角、誰も知らない裏道からの奇襲が不可能となった今、俺と言う戦闘に置いてのお荷物が居る訳だから『箱庭遺跡』を正面からガンガン攻略してナト達に追いつくと言うのは無理なんだ。

人飼いスライム並みかそれ以上に強い生き物が闊歩する場所を突き進むなんて無理無理!

本当に命が幾つあっても足りないって!!

だから出来るだけ罠は張っておかないと、狙った獲物を捕る事なんて不可能なんだ。


「見えた!!『箱庭遺跡』!!」

「ナト達はもう中に・・・・・・」

「いや、まだ居る!!まだ外に居る!!」


見えたと言うルグの指さす先に有ったのは、真黒な巨大ピラミッド。

遠くから見ると、そこだけ画面が三角形にくり抜かれた様に見えて、現実味の無い不思議な絵を見てる様な気分になる。


アレが表から見た『箱庭遺跡』・・・

あの中にナト達が・・・・・・


そう唖然とその不思議なピラミッドを見てると、ルグがまだナト達が中に入ってないと叫んだ。

それを聞いて反射的にナト達の名前を叫んで突っ込もうとした俺を、マシロが口を塞いで止める。


「キビ君、落ち着いて!!まだ行っちゃダメ!」

「んん!!?」

「良く見て。

赤の勇者達、『箱庭遺跡』から抜け出してきた魔物と戦ってるでしょ?

あの魔物と戦っていて私達に気づいてない」

「つまり、奇襲を仕掛けるチャンスって事だ」


そうルグとマシロに言われ、呼吸と一緒に気持ちを整えもう1度少し離れた場所に居るナト達の方を見る。

確かにナト達はポッカリ口を開けた『箱庭遺跡』の入口の手前で魔物だと思う生き物と戦っていた。


いや・・・アレは・・・・・・

本当に魔物なんだろうか?

ゴーレムとかじゃなくて?


そう疑問に思う位、その生き物は生き物らしくない姿をしていた。

その生き物の第一印象は、クリーチャーの。

ゴーレムに改造されたヤエさんの子供の様だと言う事。

そんな生き物を一言で表すなら、ゲームに登場するモンスターとしてのミイラだろう。

ボロボロの黒いシミが浮かぶ包帯の様な布を体中に巻いた、2mを超える巨人の骨格標本。

正し剥き出しの肋から腰辺りまでアンティーク調の虫籠の様になっていて、中には沢山の淡く光る巨大蛾が詰め込まれている。

そんな見る人によっては気絶しそうな、明らかに生きていくのに必要な内臓が無さそうな生き物。

でも、確かに間違いなくその生き物はこの世界の基準で『生きてる』生物に分類出来るんだ。

ルグやマシロだけじゃなく、通信鏡越しとは言え調べてくれたクエイさん達がそう言うんだから間違いない。


「確かに生き物だけと、生き物としてかなり歪で、異常。

間違いなく自然に生まれるはずがない生き物なんだ」

「あぁ、だから。

目撃情報が一切ない、本当に未知の生き物でも『『箱庭遺跡』から抜け出した生き物』って断言出来るのはそう言う事か」

「うん。キビ君の推理が正しいならね」


なるほど。

あのミイラも大昔白悪魔達が作り出したキメラの一種なんだな。

人飼いスライム以上に目撃情報が無いのは普段は誰も生還した事が無い『箱庭遺跡』の奥の方のエリアで暮らしてるからで、今此処に居るのはナト達のワープ系の魔法に巻き込まれてしまったのかな?

それとも他の理由?

それは全く分からないけど、ほぼ不可侵らしい他の魔物達の縄張りを抜けに抜け運悪く出て来てしまったのは間違いない。


そして、『箱庭遺跡』を造った王様がどうにか生き物として歪なこのミイラを生かそうとしたんだろう。


『箱庭遺跡』内の環境が良かった様で、あんな異常な生き物でも此処まで子孫を残す事が出来た。

でも、それは特別に整えられた『箱庭遺跡』の中に居たから。

檻であると同時に砦でもあったそこから出てしまったら、あのミイラの様な歪な生き物は生きていけないんだ。

それが本能的に分かってるのか。

だからこそ『箱庭遺跡』の魔物達は基本、簡単に狩る事が出来るはずの獲物で溢れ返ってる外に出ようとしない訳で・・・

兎に角、ナト達と戦ってるからだけじゃなく環境が酷く違う『箱庭遺跡』の外に出てしまったせいであのミイラの寿命はもう幾許も無いらしい。


「あの魔物がタカハシ達を通せんぼしてくれてる間にアイツ等を捕まえるぞ!!」

「だから気づかれる様な事はするなって事だな。

了解」


生きるのに必死なだけのミイラ本人にそのつもりは無いだろうけど、これは間違いなくチャンスなんだ。

本当に何があったのか分からないけど、生き延びる為に中に戻らず、残り僅かな命を燃やしてナト達と戦ってくれてるミイラがくれたチャンスを無駄にする訳にはいかない。

だからナト達に気づかれない様に慎重に事を進めないと。


「この煙幕使って視界を奪っても、タカハシが居るからチャンスはほんの一瞬だ。

オイラがルチアナ・ジャック・ローズ達の足止めをしてる間に、サトウとマシロはタカハシが冷静になって『心眼』のスキルを発動させるまでの僅かな時間で、タカハシ、タナカ、ラム、キャラを連れ去る」

「うん」

「けど、欲張るのも無理も禁物だ。

無理だって思ったら直ぐに離れる事。

お前等が逆にアイツラ等に捕まる事だけは絶対に有っちゃいけない」

「それはエドもだろう?

エドも無理せず直ぐに戻って・・・

いや、此処から離れて」

「分かってるって」


クエイさん達を呼びに戻る時間も合流する時間もないし、もし万が一失敗した時の保険としてそのままキャラバン村で待機していて欲しい。

そう言う理由で今ある手持ちと俺達3人だけで直ぐ様出来る作戦をパッパッと立てるルグにマシロと一緒に頷き返しつつ、レジャーシートから浮き木を使って作り直した木箱ボートに乗り換える。


昨日の大脱出に大いに貢献してくれた飛行船はあのままジンさん達に渡しっちゃって此処には無いし、そもそも体感時間よりもかなり短い少しの時間飛んだだけで気絶する位疲れたんだ。

つまり、木箱やレジャーシートで飛んでる時は苦じゃ無かった30分にも満たない時間を飛んだだけでもかなりの負担があるって事。

多分、壁の仕掛けを追加した人が設けた規制なんだろうな。

条件を満たしてないのに無理に大きな物を飛ばしたから、ペナルティで気絶する程の疲労って言うかなりの負担が圧し掛かって来たんだ。


だからやっぱり、俺が操作するならこのサイズまでの物で飛ぶ方が良いんだよ。

そう言う訳で多分、2度と飛行船の類は『フライ』で飛ばさないと思う。

思うと言うか、あんな大脱出、もう2度としたくないって言うのが正しいんだけど。

本当、あんな事がもう1度起きる前にナト達と一緒に俺達の世界に帰らせてくれよ?


「準備は良いな?」

「勿論!」

「よし、行くぞ!!!」


しっかりナト達が居る位置を確認して、覚えて。

力強くルグに頷き返すマシロに同意する様に、俺もコクコクと首を縦に振るう。

そんな俺達の様子を見回したルグは一瞬不敵な笑みを浮かべ、真剣な表情に変わった顔をナト達が居る斜め下に向けた。

そして投げられる、キャラバン村で買った人気商品の煙幕。

それとほぼ同時に木箱ボートを急降下させる。


「今度は何だ!?何処から攻撃された!!?」

「きゃああああ!!!」

「ッ!!」

「ルチア!?ダン!!?」

「ルチアさ、グッ・・・ぅあああ!!!」

「シャルまで!!?」


『箱庭遺跡』で生き延び続ける魔物達の視界すら容易に奪う、タコかイカが吐いスミが海中にモワッと広がる様な広大な真っ暗な世界。

その世界に今までの苦渋を晴らさんと持てる力全部注ぎ込んだ様な鋭い蹴りを放ちながら飛び出していったルグ。

そのルグの蹴りが魔女と兵士を捉えた様で、鈍い打撃音とほぼ同時に痛々しい2人の悲鳴が響く。

その悲鳴を気にする事ないルグは更に攻撃を繰り出した様で、今度は焦って魔女の名前を口にしようとした助手が悲鳴を上げた。

それにナトと高橋が驚いて声を上げてくれる。

その声でナトと高橋が煙幕を投げる前と同じ場所に居る事が分かって、近くに居たルディさんを掴んだのとは別の手をナトに向かって伸ばした。

伸ばしてあと少しで届くはずだったんだ。


「今直ぐその手を放せ!!!

『スラッシュ』ッ!!!」

「ッ!!」


他の冒険者達が改良を加えながら毎年の様に使い続けていたのも理由なんだろう。

この煙幕を使ってくる奴等は自分にとって最も厄介な敵。

いや、獲物だと本能に刻まれていた様で、ミイラが最後まで敵の敵は味方と言うスタンスでいてくれなかった。

煙幕が広がる直前まで真っすぐ高橋を狙っていたミイラはそのまま高橋を狙い続けず、飛び入り参加の俺達に標的を変えた様で、その体に巻かれていた布が煙幕を突き抜け隣のマシロを狙う。

それとほぼ同時に高橋の魔法で作られた斬撃までもが俺達を狙ってきた。


これ以上は無理だ。


そう自分でも驚く程瞬時に判断した俺は、ナトに伸ばした手をそのミイラの攻撃から庇う様に攻撃を繰り出しながら近くに来たルグを掴む事に使って木箱ボートを急上昇させた。

そのまま『財宝の巣』の中で飛んだ時と同じ様に、安全性を無視した最大スピードで休まず我武者羅に放たれる高橋の攻撃から逃げる。


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