216,『真の宝はその先に』 30粒目
「キビ君!!」
「マシロ!
良かった・・・
みんな無事に来れた様で本当に良かったよ。
湖の生き物とかに襲われなかった?」
「うん、大丈夫だよ。
それでエド君は・・・・・・
クエイさんのお手伝いしてるみたいだね。
患者さんは大丈夫そう?」
「まだ、分からない。
キタノさんから聞いて想像してた状況より酷いみたいだけど・・・・・・
どうにかしようとずっと動いていてくれてる」
「そう・・・・・・」
俺達3人が奥の部屋から出て暫く経った後、漸くマシロ達が追いついた。
ダージャさんもロマンさんの事を知っていた様。
と言うか長年一緒に行動していたパーティーの仲間同士だった様で、その変わり過ぎた姿での再会にお互いに叫び合う声をBGMに俺はそうマシロに説明した。
「いやいや!デューの方が変わったって!!」
「いいえ!!ダージャの方が変わり過ぎてるわ!
昔の貴方が今の貴方見たら指さして爆笑してるわよ!?」
「昔の自分に気持ち悪いって切り捨てられそうな奴が言うな!!」
「はいはい。
センセー達の邪魔になるから、2人共その辺にしておけよ?」
「「ングッ・・・・・・」」
信用出来る仲間のロマンさんとの再会でどん底まで暗く落ち込んだダージャさんの気分が少しでも浮上した事は良い。
でも何ともくだらない事で言い合いを始めるのは、流石にルグとクエイさんの邪魔になるんじゃないか?
そう思ってたらシラタキさんがロマンさんとダージャさんを注意してくれて、2人は同時に口を押えた。
長年一緒に行動していた仲間同士だけあって本当タイミングがピッタリだなー。
ほら、今も一緒にルグ達の方をチラッと見てる。
「・・・・・・大丈夫、そうだな・・・」
「・・・・・・まさかあのダージャにそんな顔させる人が現れるなんてね。
そんなに彼女達が大切?」
「あぁ。
お前等とつるんで色々やらかしてた頃の事を後悔する位、自分よりも大切な、何よりも守りたい、最後まで側に居たい特別な人達だ。
お前もそうだろう?」
「えぇ、そうね。
・・・・・・本当変わったわね。あたしも、貴方も」
「だな」
最愛の人達を助けよとしてるクエイさん達の邪魔になっていないとホッと息を吐き、愛しさと不安をこれでもかと書き重ねた表情でチトセさんとツムギ君を見るダージャさん。
そのダージャさんの横顔を見てロマンさんは心底あり得ない物を見た様な表情でそう呟いた。
そんなロマンさんの言葉を聞いて、チラリとシラタキさんを見てそう言うダージャさん。
そのダージャさんにロマンさんは懐かしそうな困った笑顔で頷いた。
「そこまで言わせるなんて」
と何とも言えない表情で笑い合うロマンさんとダージャさんはこの衝撃的な再会を上手く飲み込めた様だ。
「ちょっといいですか?」
「はい、何でしょう、リカーノさん?」
「副リーダーさんからお話があるようです」
「時間が無いから1回しか言わないからな。
しっかり聞けよ?」
治療に専念していてルグの方から伝える事が出来ないからだろう。
リカーノさんが持ってきた通信鏡にはかなり真剣な表情のザラさんが映し出されていた。
それだけ重要って事だよな。
「クエイからの伝言だ。
まず、マシロちゃんも中の手伝いに入ってくれ」
「分かりました」
「他は此処等一帯の探索だ。
別の出口を急いで探し出してくれ」
「別の出口?
・・・つまり、『初心者洞窟』から出たら間に合わないって事ですか」
「あぁ。
患者の症状が想定よりはるかに酷いらしい。
出来るだけの処置で時間を稼ぐけど、2時間以内に本格的な治療を始めないと命が無いそうだ」
そのザラさんの硬い伝言の声を聞いてダージャさんが絶望に息を飲んだ。
タイムリミットはたったの2時間。
確かにどんだけ頑張ってもそれだけの時間内にあの出入り口から出るのは不可能だ。
ならこの近くに有るかもしれない別の出口から出る必要がある。
「リッカ!!私達の現在位置は!?」
「オアシス跡地の真ん中辺りだ!」
「オアシスの真ん中・・・・・・まさか!!!
アドノーさん!!望遠鏡借ります!!」
「あ、ちょ!!サトウ君!?」
その事を直ぐに察したアドノーさんがすぐさま地図を取り出してそうリカーノさんに聞く。
それにパッと返って来たのはあのオアシス跡地の大穴の真下だと言う声。
その言葉を聞いて俺は直ぐに望遠鏡を借りると同時にピコンさんの腕を掴んで外に飛び出した。
「やっぱり・・・・・・
でも、そうすると・・・・・・」
「何が分かったんだよ、サトウ君?」
「あの天井の満月っぽいもの。
あれ、巨大な光苔の集合体じゃ無くて、穴なんです。
オアシス跡地に繋がった穴」
「本当に!!?」
「はい」
望遠鏡を使って見たプラネタリウムの満月。
それは周りの星々と同じ固まって生えた光苔じゃ無くて、距離があり過ぎて小さく見える巨大な穴だった。
その大きさは多分あのオアシス跡地の大穴か、それより少し小さい位。
角度と距離の関係で此処からじゃ穴の先が何処に繋がってるか分からない。
でも今ある情報から考えるに間違いなくあの満月はオアシス跡と繋がってるはずだ。
そう思って俺の条件の為に引っ張ってきたピコンさんに望遠鏡を渡す。
「確かに穴になってるね・・・・・・」
「なら、サトウさんの魔法を使ってあの穴を通れば直ぐに脱出できるって事ね!」
「はい、理論上は。
でも、『フライ』であんなに高い所まで飛べるかどうかは・・・・・・」
俺達は知らず知らずの内にこんなにも深い場所まで来ていたんだな。
確かにアドノーさんの言う通り、『フライ』を使えばあの穴から脱出出来る。
でも、飛行機が飛んでる様な場所かそれ以上に高い場所にあるその天井の穴に果たして俺は辿り着けるのだろうか?
今までの経験から思うに・・・
多分無理だろう・・・・・
あの高さの半分にも辿り着けない!
「・・・・・・・・・ねぇ、サトウさん?
貴方の魔法って道具が有れば多少補正が掛かるわよね?
空を飛ぶにも魔法を掛ける物の形で1度に飛べる人数が変わるみたいだし」
「え、えぇ。まぁ・・・・・・」
「なら、飛行船造りましょう!!
そしたらあの穴の外にも行けるはずだから!!」
「え?え!?えぇえええ!!?」
サラリと言う効果音が付きそうな軽い感じで言われた。
でもその軽さに比べシッカリと自信に満ち溢れたそのアドノーさんの言葉に、俺は驚愕の声しか上げれなかった。
いや、飛行船造ろうって・・・・・・
どう考えても無理でしょう?
「何を言ってるんだ、エス!!
君達の今の状況でそれは無理だ!!」
「流石に本格的な飛行船を造ろうとは思ってないわよ?
あの木箱の応用」
「木箱の応用?
・・・・・・・・・あぁ、なるほど。
それなら多分いけるかもしれない」
「え!?いけちゃうんですか、リカーノさん!!?」
「はい、浮き木の性質を利用すれば恐らくは」
「浮き木を、ですか?」
「はい。
元々浮き木はその名前の通り、風のマナで空に浮いてる木ですからね。
風属性の魔法ともかなり相性が良いんです。
だから飛行船の素材に重宝されてる訳で・・・・・・
詳しくは省きますが、兎に角エンベロープとゴンドラを浮き木で造れば、サトウさんの魔法であの穴を抜ける事が出来るはずです」
『フライ』をエンジンとした飛行船を造って脱出する。
詳しい事は説明してる暇がないから省かれたけど、兎に角理論上はそれが可能らしい。
今までの経験から考えるに今回も卓上の空論になりそうだと思うけど、時間が無いんだから出来るかどうかウダウダ言わずこの案でやり通す!!
そう力説するアドノーさんとリカーノさんに圧され、俺は頷く事しか出来なかった。
勿論、それはピコンさん達も同じ。
もう、この場に居る全員が生きて外に出るには、この案に掛けるしか無いんだよな。
アドノーさんのお父さんの無実を証明する生き証人のロマンさんも見つけられたし、助からないと思っていたキタノさん達も無事見つけられた。
此処に来てそれだけの運の良さを発揮したアドノーさんが押す案なら、もしかしたら今回もどうにかなるかもしれない。
なら俺もそのアドノーさんの運の良さを信じてやってやろうじゃないか!!
「サトウさんとシラタキ君は浮き木の板と浮き木の実を量産して」
「分かりました」
「ピコン君はその板を繋げる金属の方」
「了解」
「残りは私と一緒に組み立てよ!!」
「あぁ!!」
そう言う事に詳しい職員さんから送られてきた設計図を広げ、そう指示を出すアドノーさん。
それに従って俺達はそれぞれ行動に移った。




