213,『真の宝はその先に』 27粒目
「一旦止まれ!」
シラタキさんの案内の元、安全な最高スピードで木箱ボートを飛ばして数十分。
シラタキさん達のお陰で緑化ランプが無い道でも比較的安全に此処まで来れた。
道中燃やしたフワフワの草を振りまきまくったから、人飼いスライム達とも戦う事なく此処まで来れたけど、問題はこの先。
止まれとシラタキさんが言った通路の先に有ったのは、今までで1番広い分岐部屋だった。
分かれ道は10以上。
その内大分離れた2ヶ所の通路には、今まで見てきたのと同じ。
等間隔の緑化ランプが並んでいる。
多分、恐らく、そのうちの1つは『箱庭遺跡』の裏口の分岐部屋で進まなかった北の緑化ランプの道と繋がっているんだろう。
「最悪だ。アイツ等が居る」
「え、デカ!!
あのデカい人飼いスライム、一体なんなんですか!?」
「この通路の1つに黄金と宝石で彩られた部屋。
サトウのおっちゃん達の話からすると、コイン虫と人飼いスライムの子供と女王が居る部屋があるんだ。
アイツ等はその女王や子供守る、護衛職の人飼いスライムだ」
その分岐部屋の1つの通路の両脇には3mは有りそうな巨大な人飼いスライムが、門番よろしく立っていた。
女王と王子や王女を守る、選び抜かれたエリート親兵。
そう悪態を吐くシラタキさんの言う通り、あの親兵は他の人飼いスライムより大きいだけじゃなく、かなり強そうだ。
今までで1番輝いてる黒い金属の体の胸にはその巨体に見合った巨大な紅蓮の炎。
その他の赤い宝石の人飼いスライムよりも色濃く丈夫そうな本体は、大きいのに核も目も何処に有るのか一切分からない。
そんな見た目からだけじゃなく、雰囲気からも歴戦の戦士感が漂っている。
うん。
アレには本気のルグやザラさん、コロナさんでも中々勝てないだろうな。
いや、戦いを挑む事すら自殺と変わらないと思う。
「いいか?
失敗したらアイツ等に殺されるか、女王の部屋に追い込まれてコイン虫のエサにされるからな?」
「い、今、そんな怖い事言わないで下さいよ・・・
恐怖で覚悟が揺らいでしまいます!」
「だからシッカリ覚悟決め直せって言ってんの。
アイツ等が交代するか女王に呼ばれて消えるまで待ってる暇なんて無いだろう?
だから此処から先は時間との勝負だ。
おれ達で一瞬の隙を作る。
そのタイミングで一気にあの緑化ランプの道に行くぞ」
「わ、分かりました」
そう言って事前に出して置いたフワフワの草を手に持つシラタキさん。
そのシラタキさんの様子を見てルグ達もそれぞれ動き出した。
そんなルグ達の姿を少しの間見守っていたけど視線で、
「大丈夫だ」
と言われ、俺は深呼吸を何度も繰り返して真っすぐ前だけを見る事にした。
最初の分岐部屋でマンイーターから逃げた時と同じ。
周りを一切気にせずシラタキさんが指さした緑化ランプの道へ突き進む。
あの道を通り過ぎるまでは、安全性はガン無視だ!!
合図を聞き逃さない様に耳に意識を集中させ、後は逃げてキタノさん達の元に辿り着く事だけを考えろ!!
「最初に言っておきます。
ハイスピードで行きますので、しっかり木箱に掴まって舌噛まない様にッ!!」
「今よッ!!!進んでッ!!!」
背後で聞こえたフワフワの草がパチパチと燃える音が風を切る様な音と一緒に遠ざかって直ぐ。
硬い物同士がぶつかり合う音を打ち消す様に叫ばれたロマンさんの声を合図に、俺は一切の躊躇いなく木箱ボートを飛ばした。
後ろから何人もの悲鳴が聞こえるけど、気にしてる余裕は無い。
少しでも振り向いてスピードが落ちたら、あの親兵人飼いスライムに追いつかれるかもしれないんだ。
だから、早く、速く、この道の先へ!!
「だぁああああああ!!?」
「きゃぁあああああああ!!!」
そのまま通路を進み続けて出たのは、広大な夜の海。
てっぺん辺りに昇った大きな大きな満月と、その周りで瞬く星々。
そのプラネタリウムを思わせる淡い光に照らされるのは、岩肌にぶつかる白い波と紺色のグラデーションの深い水が美しい、海の様に広い湖。
そんな幻想的な世界に勢い余って飛び込んだ木箱ボートは俺のコントロールを離れ、水を切る石の様に湖の上を進んで行った。
「と、とま
「止まらせるなッ!!!飛び続けろッ!!!」
ッ!!はい!!!『フライ』!!!」
此処にも少し特殊な風の魔元素が流れてるのかな?
あの時よりも勢いが有ったとは言え、スペクトラ湖で巨大おたまじゃくしに襲われた時よりも跳ねた気がする。
そう思う位、かなりの回数飛び跳ねてから木箱ボートは湖の真ん中辺りで漸く止まった。
それにホッとしちゃいけない!
この真下に広がった深淵の先ではシロウネリの様な凶悪で凶暴な生き物が待ち構えてるんだ。
ほら今も、無様に浮かんだ俺達を狙って泳いで来るぞ!!
そう言う思いをたった二言の言葉に力強く乗せたシラタキさんの叱責が、鋭い刃の様に俺のホッと緩んだ気持ちを切り裂く。
その衝撃に心臓ごと飛び出したんじゃないかと思う程、俺の口から瞬時に『フライ』の呪文が飛び出した。
「うわぁ!!!」
「グッ!!」
何があった!?
何が起きたんだ!!?
特殊な風の魔元素と『フライ』が反発しただけじゃない。
それだけじゃ説明できない大きな衝撃がもう1度猛スピードで飛ぶ木箱ボートを襲う。
その衝撃でバランスを崩しかけたけど、どうにか持ち直した。
「気にするな、サトウ!!!
大丈夫だから!!!兎に角飛び続けろッ!!!」
その持ち直して直ぐ、第2、第3の衝撃が木箱ボートの後ろ側を襲う。
その衝撃に何が起きてるか、振り返りそうになったほんの一瞬。
ルグの怒号と何かかがぶつかり合う様な音、それと地を這う様な恐ろしい獣の咆哮が響いた。
あぁ、きっと。
いや、間違いなくルグ達は襲い掛かってくるシロウネリの様な生き物と戦ってるんだ。
でも、その生き物との戦闘に参加する事も、気にする事も出来ない。
俺の一瞬の油断でこんな事になってるんだ。
これ以上、迷惑をかける訳にはいかない!!
兎に角俺は俺の役目を果たさないとッ!!!
「後・・・少しぃいい!!!
うわぁ!!!うわぁあああ!!!」
「きゃあ!!」
漸く目指していた対岸が見えてきた。
でも、勢いが付き過ぎた木箱ボートを止める事が出来ず、岸が見えたと思った瞬間にはもうその岸に着いていて。
木箱ボートを止めようと脳が動いた時にはもう、俺達は勢いよく正面の壁に開いた巨大な穴の中に突っ込んでいた。
「止まれ!!止まれ!!!
止まれぇええええええ!!!」
そう叫んで必死に木箱ボートを止めようとするけど、中々止まってくれない。
目の前に迫ってくるのは、地面から生えた太い鍾乳石。
アレにこの勢いでぶつかったら俺達は唯では済まないだろう。
最悪頭をかち割るか首の骨を折って死んでしまうかもしれない。
そんなの絶対ごめんだ!!!
「とぉおおおまぁあああれぇえええええええ!!!」
「『スモールシールド』!!!『フライ』!!!」
鉄を切り裂く様な音に混じり、誰かの止まれと言う叫びと俺の呪文が重なった。
スローモーションの様な世界の中『スモールシールド』を目の前に何重にも掛け、ぶつかり壊す事で木箱ボートの威力落とし、『フライ』を掛け直して木箱ボートのコントロール権を奪い返そうとする。
それでも木箱ボートは止まってくれなくて、薄く張った氷かガラスを割る様に簡単に『スモールシールド』を突き破って木箱ボートは進んで行く。
「受け身は忘れるな!!!飛び降りろッ!!!」
「ッ!!!」
この声は誰のものだ?
聞き覚えのある、低い男性の指示の声が洞窟内に木霊する。
その声の最初の指示が聞こえた時には俺は誰かに引っ張られていて、理解する前には誰かと一緒にその引っ張った誰かに抱きかかえられながら地面を転がっていた。
「・・・・・・ふぅ」
「ッ!!エド!!ごめん、ありがとう、大丈夫!?」
「勿論、大丈夫だ!
サトウは大丈夫そうだな。マシロは?」
「わ、私も大丈夫・・・・・・」
俺とマシロを助けてくれたのは、何時も通りルグだったらしい。
ルグのお陰で俺達3人、少しの掠り傷位で無事木箱ボートから脱出出来た。
大きな怪我がない事に取り敢えずホッとしつつ、2人に『ヒール』を掛けながら辺りを見回す。
ピコンさん達4人は無事だろうか・・・・・・
そう思って辺りを見回していると、丁度俺の真後ろの少し離れた場所にピコンさんとアドノーさん、シラタキさんとロマンさんが守り重なる様に倒れていた。
「ピコンさん!!!」
「大丈夫!!こっちも全員無事!!」
まさか4人の方は大怪我をッ!!
そう不安になって慌てて声を掛けると、大丈夫だと声を張り上げながらピコンさんが起き上がった。
それに続いてアドノーさん達3人も起き上がってくる。
無事と言うピコンさんの言葉通り、その4人は大怪我を庇ってる様な変な動きはしていない。
それでもルグやマシロの様に軽い傷を負ってしまったかもしれないと、俺は急いでピコンさん達の元に行こうとした。
行こうとしたけど、無理だったんだ。
ドガンッ!!!
その煩く木霊する爆音と共に始まった、爆風によって。




