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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 1 章 体験版編
44/498

43,苺とサラマンダー 4粒目


 ユマさんのお陰でどうにかサラマンダーの炎は止められた。

そして件のサラマンダーは急に炎が出せなくなり、戸惑って・・・・・・ないな。

特に焦ったり驚いたりせず、口をパクパクさせてるだけだ。

炎が出せない事に気づいていないのか?

それとも、エラから酸素を吸えずに酸欠になってる?

そう思っていたけど、別に酸欠になっている訳ではなさそうだ。


その証拠にサラマンダーは口をパクパクするのを止め、ジーッと俺達を見ている。

川を渡らず遠距離で炎を吐いたり、炎を吐けなくなったら見ているだけって事は、火を吐く魔物故にサラマンダーは泳げない?

今の内に帰るか?


「そう言えば、サラマンダーって泳げるのか?」

「ううん。泳げないよ」

「あ、やっぱり。

なら、あいつはこの川を渡って来れないんだな。

今の内に帰ろう」

「あのさ、ユマ、サトウ」


警戒する様にナイフを構えたルグが、何とも言い難そうな顔で振り返った。

あ、何か嫌な予感がする。


「ホットカルーア国のサラマンダーと違って、ローズ国のサラマンダーは泳げるんだぜ」

「「え・・・」」


ルグの言葉とほぼ同時にドボンッと何か大きな物が水に落ちる音がした。

音がした方を見ると、陸に居る時よりも素早く泳いでくるサラマンダー。

流石、ウーパールーパー。

泳ぎがお上手な事で。


「て、そんな場合じゃない!!逃げるぞ!!

サラマンダーが炎を吐けない内に、もっと距離を開けないとオレ達3人じゃ勝てない!!」

「逃げるたって!!来た方向じゃ村の人達がッ!!

炎が出せなくなったって危険な魔物には変わりないんだぞ!?」

「2人共!こっち!!」


ユマさんが指差し走り出したのは近くを流れる川の川上の方。

何かユマさんには作戦があるんだろう。

考えても仕方ない。

ここはユマさんを信じて走る!!


「出来るだけ距離を離したいからルグ君!!」

「皆まで言わなくても分かった!!」


走り始めて暫く、サラマンダーに追い着かれそうになったのを見たユマさんはそうルグに指示を出す。

ルグはこの世界のネコに化けると、俺とユマさんを乗せ瞬間移動した。

ドンドン景色が変わるから今、サラマンダーとどれだけ間が開いてるのか分からない。

けど、こんなに速いんだ。

簡単には追い着けないだろう。


けれど、大きく激しい滝が見えた瞬間、ルグの体力の限界が来てしまったらしい。

段々とスピードが落ち、ゼィゼィと荒い息をしながらルグが倒れてしまった。


「ルグ!!大丈夫か!?」

「う・・・・・・そろそろ・・・限界・・・かも」

「ありがとう、ルグ君!

サトウ君!空飛ぶ魔法お願い!!」

「わ、分かった!『フライ』!!」


ルグにお弁当用に持ってきた太い竹筒の水筒を渡しながら、俺は事前に『クリエイト』で作っておいたレンジャーシートに『フライ』を掛けた。

空飛ぶレンジャーシートに俺達3人は乗り、ユマさんの指差す方に向かう。

デビノスさんとブルドックさんの時は上手くいったけど、3人乗りで『フライ』を操作するのはまだ上手くいかない。

デビノスさんとブルドックさんを運んだ時以来、まだ1度も成功していないのだ。


「頼むから、思い通りに飛んでくれよ!」


余計な事は考えず、『フライ』の操作にだけ集中する。

ここで俺が失敗したら3人共、サラマンダーに燃やされてしまう。

ルグの頑張りを無駄にする訳にはいかないんだ!!

その思いのお陰か、俺はユマさんが指差した滝の頂上まで無事レジャーシートを飛ばす事が出来た。

集中し過ぎて物凄く疲れたし、いつの間にか汗がダラダラ流れてて気持ち悪いけど。


「到着~。サトウ、お疲れ様」

「おー」

「ホットカルーア国のサラマンダーと違って泳いでいたから違ったらどうしようって不安だったけど、良かった~。

この国のサラマンダーも岩壁を登れないみたい。

此処ならサラマンダーも来れないね。

2人共ありがとう」


ユマさんと同じ様に滝壺を覗き込むと追い着いて来たサラマンダーがいた。

しかし、サラマンダーは滝や岩肌を登れない様で此処まで来れない様だ。

それにユマさんの魔法が解けて吹ける様になった炎も、どんなに此方に吹いて来ても半分も届いていない。


「サラマンダーが諦めるまで、此処で待つ?」

「そうだな~。

アーサーベルまでの馬車が出てる村にはこの滝を下らないと行けないし」

「けど、滝の下にはサラマンダーが陣取ってる、と。

取り敢えず、体力回復と魔元素の補給の為にも昼にする?」

「「うん!!」」


サラマンダーが諦めるまで弁当を食って時間を潰す事にした。

弁当を空にし、のんびり食後のお茶を飲む。

その間、滝壺にサラマンダー達がドンドン集まって来て積み重なっていってるのは、きっと気のせいだ。


「なぁ。

サラマンダーがスッゴク集まってるんだけど・・・」

「サトウ君、火炎苺、サラマンダーが襲ってくる前に見てたアレ、摘んでないよね?」

「いや、摘んでない。

あの時、摘もうと思ったけど、何かまずい植物や魔物だと怖いしルグとユマさんに確認しようと思って2人を呼んだんだ」

「ナイス判断、サトウ。あれ、サラマンダーの好物。

持てると何処までも追いかけて来るからな~」

「マジか」


迂闊に摘まなくて良かった。

なら何でサラマンダーがこんなに集まってるんだ?

もしかして近くに居たから臭いが移った?


「もしかして、俺、その火炎苺ってのの臭いが移ってる?

それで追われてる?」

「それは無いよ。

近くに居ただけで臭いが移る程火炎苺は強い香りはしないから」

「あーでも、スッゴク熟れた実には小さな棘が生えてるから服とかに引っ付く事があるな。

それで種を他の動物に運ばせるから」


まるでひっつき虫みたいだな。

あれ?

そう言えば火炎苺を見つけて2人を呼ぶ時、振り返った瞬間鞄か服が火炎苺に当たった様な・・・・・・


「ルグ、ユマさん。俺の背中に火炎苺付いて無い?」

「「あ、くっ付いてる」」

「と言うか、潰れてますねー。

・・・・・・着替えてくる」


ジャージの上着を脱いで確認すると、あの時当たった気がした腰の辺りに1つ形を保った火炎苺がくっ付いていた。

他にもくっ付いていたみたいで、俺が気が付かずに座ってしまってせいなのか、潰れてベッタリ服に染み付いている。

鞄中に予備のジャージを入れといて良かったよ。

直ぐに着替え、火炎苺が付いたジャージを側の川で洗う。


「そう言えば、この火炎苺って人間や魔族も食べれるのか?」

「あーうん、一応、食べ物だな。

特に体に支障がある訳でも無い普通の食べ物だ。

うん、一応」

「一応?」


側に来たルグに尋ねると、挙動不審になるルグ。

食べれる様なら使ってみたい。

そう思って、確認の為俺は形が残った火炎苺の先を軽く齧った。

その瞬間、ルグとユマさんの顔がサーッと真っ青になるのを最後に何処かに飛び去る俺の意識。

火炎苺を噛んだ瞬間、口いっぱいに炎を突っ込まれた様な気がした。

体中から滝の様に汗が流れ、目の前がチカチカする。

一言で言うなら、辛い。

この世の物とは思えない程辛い。


「~~~~~~~~~~~~~!!!????」

「サトウ!!?」

「サトウ君!!?しっかり!!」


一瞬遠のいた意識に身を任せ、頭から川に突っ込む。

川に頭を突っ込んだせいで息が出来ない苦しさと、痛い程舌の上で暴れる辛さから意識を取り戻した俺。

俺は、この地獄の様な辛さから逃れる為、慌てて川の水で舌を洗った。


「な、何・・・これ・・・・・・

甘く・・・ない・・・・・・」

「ごめん!!

言うの遅くなったけど、火炎苺は名前に苺って着いてるけど、列記とした唐辛子だから!!」

「唐辛子ぃいい!?

た、確かに唐辛子は食材だけど・・・」


何処からどう見ても苺なのに唐辛子ときたか。

齧った先を見ると中身が無く、スッカラカンの空洞になっている俺が知る唐辛子と違い、確り中身が詰まっている。

感触も俺が知っている苺と同じだったし。

いや、そう言えば、火炎苺の茎ってピーマンに似ていたな。

確かピーマンって唐辛子の仲間・・・

と言うか栽培品種だったよな?


「うわぁあ、モロに唐辛子だって主張してるじゃん!

でも実はどっからどう見ても苺なんだよなぁ。

何と言う正反対な味」


何か複雑と言うか、『ミドリの手』で普通の苺を出したら違いが全く無かった。

注意しないと間違えて使いそうだ。

火炎苺も『ミドリの手』で出せる様になったし。


「サトウ、何で今魔法で火炎苺出したんだ?」

「こっちは俺の世界の苺。

火炎苺との違いを探すために試しに出したら違いが見つかんなかったけどな。

食べてみる?」


そう言って2人に『ミドリの手』で出した、俺が良く知る苺を食べさせる。

最初は躊躇っていたけど、イチゴ好きな2人は1粒食べると俺の出すスピードが追い着かない程黙々と食べだした。


「ん~!!スッゴク美味しい!!」

「これ、前にサトウが作った生クリームのケーキに挟まれてた奴だよな!!

あの時は夢中だったから気づかなかったけど、火炎苺にそっくりだったんだな!!」


2人が苺をパクパク食べている傍ら、苺と間違えて火炎苺食べない内に『フライ』を掛け、崖下の遠くの森に投げた。

ギラギラと火炎苺を見ていたサラマンダーが投げた火炎苺を追いかけ、ドドドドッと森の奥に帰っていく。

ジャージに付いていた火炎苺も無事洗い落とせたし、集まったサラマンダーも1匹残らず居なくなった事だ。

さっさと帰る事にしよう。


「サトウ~」

「何?」

「苺、お代わり!!」

「はい、はい。そんなに食うと腹壊すぞ?」

「苺は別腹なんだよ、サトウ君!」


この様子だと、暫くの間は苺尽くしかな?

一層の事、屋敷の庭にでも植える方が楽か?


何はともあれ、こうして、俺の異世界初の休日は終わった。

何と言うか、休日と言う程休めた気がしない。

よし、来週は屋敷に篭ろう。


目指せ、ゆっくりのんびりした休日!!


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