208,『真の宝はその先に』 22粒目
「えーと。改めて、僕はピコン。
一応この即席パーティーのリーダーで、こっちから順にパーティーの仲間のエド君、マシロちゃん、サトウ君。
そしてこっちが依頼人のアドノーさん」
「おれはシラタキ。で、こっちはロマン。
おれ達も一応冒険者だ。
だったの方が良いかもしれないけど」
チボリ国人のロマンさんとヒヅル国人のシラタキさんが暮らしてる蛇の部屋に集まって、魔法で煮出したお茶を飲んで一息。
改めてそうお互いに自己紹介をした。
不安からかこの部屋に戻って直ぐはロマンさんもシラタキさんも軽く情緒不安定気味だったけど、今はゆっくりお茶が飲める位落ち着いている。
多分、鳥型ゴーレムに搭載された通信鏡で常に外と連絡を取り合ってるって知ったからだろうな。
外に居る人達にも自分達が生存してる事が伝わって、何が有っても必ず何時かは救出が来るって安心出来たんだと思う。
まぁ、安心出来たって意味では俺達もそうかな?
ロマンさん達が鎧を全て脱いでくれたお陰で、元々考え過ぎだった人飼いスライム本体説が完全に否定された。
だからって2人が正真正銘の『良い人』や『正気な人』と証明された訳じゃ無いけど。
でも、少しは警戒を緩めてもいいかな?
危険で異常な地下世界で何年もサバイバルしていたせいで正気を失って快楽殺人鬼や食人鬼になってる。
って可能性もあるし、最後まで完全に警戒を解く事は出来ないけど。
「アドノー・・・・・・
もしかして貴女、メース・アドノーの家族?」
「あぁ、そうだ。
メース・アドノーはアタシの実の父だ。
父さんを知ってると言う事は、貴方達は父さんが雇った冒険者の1人なんだな?」
「・・・えぇ、そうよ。
でもあなたのお父さんに雇われてたのはわたしだけ。
タキは違うわ」
「え!?」
シラタキさんが居るからもしかしたらそうじゃないかと思ってたけど、やっぱり。
あ、いや。
予想と大分違ったけど、ロマンさんはアドノーさんのお父さんが雇った冒険者の生き残りだった。
で、思わず大声が出る位予想外だったのはシラタキさんの方。
同じくアドノーさんのお父さんが雇った冒険者の1人だと思っていたら、全く関係ないって言われた。
「そんなに驚く事か?
そもそもおれ、鎖国明けの1番に出稼ぎに出た1人だからな?
だから、成人する前にはこっち来てたんだよ。
チボリ国に来たって意味でも、この地下に連れ去られたって意味でも」
「えぇ!!?」
「お前もかよ。
だから、そこまで驚くなって。
どうしてアンジュ大陸の奴等もカンパリ大陸の奴等もおれ達を子供に見るかなぁ?
お前等からしたら分かりずらいだろうけど、こう見えて俺の方がロマより先輩なんだぞ?
此処で暮らしった年数って意味だけじゃなく、実年齢としても、冒険者としても」
「いや、流石にそれは・・・・・・」
「あ、それは何となく分かります。
シラタキさん、ロマンさんより2つか3つ年上ですよね?」
「そう!2こ上。おれが22で、ロマが20。
同じヒヅル国人ならちゃんとそこ分かってくれると思ってたぜ!」
「嘘だろう!?逆じゃ無いの!!?
ロマン君がピコン君と同い年位なのは分かるけど、どう上に見てもシラタキ君はエド君達と同じ位だろう!?
どう見てもロマン君の方が年上じゃないか!」
どう見てもシラタキさんの方が年上に見えるけど、どうもピコンさんとリカーノさんはそう見えなかった様だ。
特にリカーノさんの驚きはかなりのもの。
多分、俺達である程度の年齢の認識のズレに慣れてるルグ達と違い、リカーノさんはそう言うのに慣れて無かったんだろう。
画面が揺れるんじゃないかって位の大きな音を響かせて、思わず座っていた椅子を倒す勢いで立ち上がって。
画面からはみ出して分かりずらいけど、多分シラタキさんを指さしながら叫んでいた。
そんな心底驚くリカーノさんの事は、一旦置いておいて。
今気にするべきはシラタキさん達の年齢じゃなく、シラタキさんがアドノーさんのお父さん達と全く関係ない冒険者だったって事だ。
まさかのシラタキさんが『箱庭遺跡』を攻略しようとしていただけの冒険者だったとは・・・・・・
その上アドノーさんのお父さんやロマンさん達が『財宝の巣』に来る前。
出稼ぎ最初期の更に最初期のメンバーの1人だったと言う話だから、最低でも5年。
長ければ10年近くは此処で暮らしてるって事になる。
改めてそう考えるとシラタキさん、かなり凄いな。
そんなに此処で暮らせる人も居るって事は、最初から諦めていたキタノさん達の生存もあり得るかもしれない。
ジンさんに言ってもっと早く穴を開けて貰って救助部隊を編成して送って貰うか、一層の事俺達が助けに行くか。
いや、シラタキさん達が今まで無事だったからって俺達も無事地底湖まで行って帰れるとは限らないよな。
ここはやっぱり安全を考慮して部隊編成を速めて貰うべきか?
「リッカ!!
彼等の年齢の事なんか今はどうでも良いんだ!!
騒いで邪魔しないでくれッ!!」
「んぐッ・・・・・・
ご、ごめん、エス・・・・・・」
「それより、兎に角、ロマン君!
貴方に聞きたい事がある。正直に答えてくれ」
「何かしら?」
「貴方、何時まで父さんと一緒に居た?」
「ッ・・・・・・」
弱々しく謝るリカーノさんを無視して、射抜く様に真っすぐロマンさんだけを鋭く見るアドノーさん。
その唇が一瞬震え、静かに紡いだのは、父親と何処まで一緒だったかと言う質問だった。
キタノさんの様に何時かの夜の当番で誘拐されたのか、それとも財宝に目が眩む最後までアドノーさんのお父さんと一緒に居たのか。
そう父親の無実の生き証人なってくれるか聞くアドノーさんの質問に、ロマンさんは唇を噛んで俯くだけで幾ら待っても答えようとしない。
その態度と俯いていても分かる罪悪感に駆られた横顔で、恐らく此処に居る全員が察しただろう。
ロマンさんが最後までアドノーさんのお父さんと一緒に居た冒険者の1人だって。
「・・・・・・・・・ごめんなさい」
「ッ」
漸く口を開いたロマンさんから零れた、謝罪の言葉。
それにアドノーさんの息が言葉と共に詰まった。
そんなアドノーさんに気づいてるのか、気づいて無いのか。
泣きそうに歪められた顔を上げたロマンさんは、溢れ出した様に言葉を続けた。
「本当に、ごめんなさい。
態々こんな所までお父さんを助けに来たんでしょうけど・・・・・・
彼はもう・・・・・・死んでるの・・・・・・
この依頼書見たら分かるでしょうから言い訳しないわ。
貴女のお父さんはわたし達が。
此処の魔物達じゃ無く、わたし達が殺した」
「あ、大丈夫です。
アドノーさんのお父さんなら生きてますし、ロマンさん達より先に外に出てます」
「え?えぇ!!!?
動く鎧の群れの囮にしたのに!?
あの状態から彼、生きて脱出したの!!?」
「囮って・・・・・・
詳しく話を聞かせて貰おうか?」
懺悔する様な雰囲気から一転。
アドノーさんのお父さんが生きてると言ったら、ロマンさんは心底驚いた様に叫んだ。
それを聞いてアドノーさんの目が獲物を狙う様に鋭くなる。
「・・・・・・あの時は心底邪魔だったのよ、貴方のお父さんが。
あの時は此処にわたし達の欲を満たす物が何でも揃ってるって思ってた。
溺れる程の黄金と宝石に、夢から抜け出してきた様な魅惑的な美女。
幾ら食べても無くならない美味しい物に、わたしの言う事ならどんな無理難題でも聞いてくれる人達。
正に王様になった様な気分よ」
「えーと、黄金や女性は分かるんですが、食べ物や何でも聞いてくれる人達って言うのは・・・・・・」
「動く鎧。
えーと、人飼いスライムって言うんだっけ?
そいつ等の1部が使ってくる魔法だ。
オレンジ色の宝石の人飼いスライム達が見せてくるんだよ、そう言う幻覚を」
赤い宝石の人飼いスライム達が物理的に対処出来ない相手要員なのかな?
俺達は運良く出会わなかったけど、どうも魔法使いの様な役職の人飼いスライムは『幻覚』の魔法が使えるらしい。
その『幻覚』は起きたまま魔法に掛かった相手の願望が叶う夢を見せる様な物で、武力で敵わないなら終わらせたくない『幸せ』な幻覚を見せて動けなくして連れ去る。
そう言う事なんだろうな。
だから戦闘に関しては同年代に比べ頭一つは抜けていたロマンさんもそう言う『幸せ』な幻覚を見て動けなくなってしまったらしい。
でも、その幻覚はアドノーさんのお父さんの活躍で途中で終わった。
「今はそんな事無いんだけどね。
あの時はあそこまで幸せな事なんって無いって位幸せだったのよ。
それにあの時はそれが魔法に掛かった結果だったなんって思ってもみなかったもの。
だからそれを無理矢理終わらせた貴女のお父さんが憎くて仕方なかった。
お金を独り占めしようとした時も邪魔してくるし、もっといい物があるはずの奥に行こうとすれば何度も先に行くなって言ってくるし・・・
本当、煩くて、邪魔で・・・・・・
何度殺そうと思った事か」
「だから囮にした?」
「えぇ、そうよ。
依頼書があるからお金を持って外に出ても誰か殺したら直ぐバレて捕まるでしょ?
正気じゃなくてもその位の理性は有ったの。
だから他の一緒に居た冒険者達と共謀して囮にした。
丁度目の前に一生遊んで暮らしても終わらない位の財宝の山も有ったしね」
戦闘職の赤や黄色の宝石の人飼いスライム達に追いかけられつつ見つけた財宝部屋。
正確に言えば人飼いスライム達に追い込まれて辿り着かされたコイン虫養殖場兼託児所の様な場所なんだろうだけど。
コイン虫を飼育しながら取れたて新鮮な鉄分を幼い人飼いスライムの子供に与える場所。
そこに人飼いスライム達の計画通り追い込まれたロマンさん達はアドーさんのお父さんを真後ろに迫った人飼いスライム達の方に突き放し、これまた計画通りお金の山や宝石の山に擬態したコイン虫や人飼いスライムに向かっていった。
そこで放たれるコイン虫達の『魅了』に掛かって独り占めしたいって欲求を上長され殺し合いする事になるなんって露知らず。
「そして逆にアドノーさんのお父さんの方が助かった」
「えぇ、そうみたいね」
フワフワの草の煙草のお陰で人飼いスライム達から、
「マズい!
コイツ、体に毒が溜まってるぞ!
これじゃエサとして利用出来ない!!」
と判断されたのか、アドノーさんのお父さんは助かった様だ。
その助かったアドノーさんのお父さんがホッとして見た先には、理性を失って殺し合うロマンさん達の姿が有ったんだろう。
いや、その時にはもう決着が着いてたのかもしれない。
「わたしは戦い始めて直ぐにベテランの冒険者に遠くまで吹き飛ばされて気絶しちゃったから、詳しい事は覚えてないの。
次に気が付いたらタキに助けられてた」
「おれも久々に見た生きてて助けられそうな奴だったからな。
形振り構わずロマだけ連れて逃げ出したんだ。
他に正気な人間が居たなんって気づかなかったんだよ」
シラタキさん曰く、ロマンさんとの出会いはかなり衝撃的だったそうだ。
まぁ、詳しく話を聞いたら俺達も、『そりゃそうだ』と納得したんだけど。
何年もの時間を掛けて少しずつ『財宝の巣』内を探索してたシラタキさん。
その日もシラタキさんは少し遠くまで探索に出ていて、その最中直ぐ目の前を岩壁を壊しながら飛んで来たのがロマンさんだったらしい。
正確に言えば、一緒に居た冒険者の1人にそこまで飛ばされたんだけど。
人飼いスライムの宝石程じゃ無いけどかなり硬いあの岩壁を壊す威力がある攻撃をもろに受け飛ばされたロマンさんは、当然虫の息で気絶してしまった。
でもそれが逆にロマンさんにとっては幸運だったんだ。
お陰でシラタキさんに出会えて命拾いしたんだから。
そんな何時死んでも可笑しくないボロボロな状態のロマンさんを見て、シラタキさんは彼ならまだ自分の知識と経験、魔法を駆使すれば助けられると思って、周りを気にする事なくこの拠点に戻って来た。
「ずっと1人だった中で漸く会えた生きた人間だったんだ。
あの時は何が何でも絶対助けるって必死だったんだよ」
と、照れた様に赤く染まった頬を掻くシラタキさん。
2人が壮大で運命的な出会いをしたのは良く分かった。
でも、そのロマンさんを吹き飛ばした、恐らくその殺し合いの勝者の冒険者がその後どうなったかは分からないんだよな。
運よく無事だったアドノーさんのお父さんに襲い掛かったのか、独り占め出来たと思い込んだコイン虫の群れに飛び込んで食べられてしまったのか。
それとも1人だけなら捕まえられると判断した人飼いスライムに襲われ、マンイーターの・・・・・・
そんな雇った冒険者の最後の1人を見てアドノーさんのお父さんは逃げ出したんだろうか?
それとももっと前?
どっちにしろ、アドノーさんのお父さんがその人達を諦めたのは仕方がない事だったんだ、とロマンさん達の話を聞いて思った。
そしてそう思ったのは俺だけじゃない。
声に出してないけど、アドノーさんも画面の先のリカーノさん達もそう思っていると、その表情が語っている。




