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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第2章 チボリ国編
438/498

207,『真の宝はその先に』 21粒目


「なんにしても俺達以外に生きてる人が此処に居るのは間違いないんだ。

その人がまだ此処で暮らしたいって言うんじゃ無いなら、一緒に外に出たいんだけど、出来るかな?」

「まだ近くに居て、そいつが凶悪な逃走犯じゃ無くて、正気なら、な。

最悪の場合、見捨てる覚悟もしておけよ?」

「・・・・・・分かってる」


自分達の1番の目的を忘れるなよ?

そう言いたげに目を細めるルグに、どうにか頷き返す。

分かってるから出来るかどうか聞いたんだけど、それでも見殺しにしなくちゃいけないかもしれない罪悪感に胸が痛い。

でも現実問題、今の俺達じゃかなわない事の方が多くて、ナト達を連れ帰る為にも木乃伊取りが木乃伊になる訳にはいかないんだ。

俺達じゃ手に負えないと判断した場合、その人を容赦なく見捨てて外に出ないといけない。

後でチボリ国の兵士達が助けに来てくれるからとか、仕方が無かったんだとか。

そんな言い訳で自分を正当化しても、結局、


「あの時自分達がもう少し頑張っていたら・・・」


って後悔するんだろうな。

それでもナト達を連れて生きて帰るって誓ったんだから、その後悔含めちゃんと覚悟しておかないと。


「シッ!!お前ら静かに。外に誰かいる。」

「ッ!?・・・・・・此処に住んでる人?」

「分からない。

けど警戒するに越したことはないだろう?」


バッと1度回転扉の方を見て、小さいのに良く通る声でそう言いつつ急いで未だにジンさんに文句を言い続けるアドノーさんの口を押えに行くルグ。

そんなルグを追いかけもう1度集まった俺達はアドノーさんを守る様に警戒しつつ回転扉を睨んだ。

何時でも攻撃出来る様に構えた俺達の前でガタガタ動き出す回転扉。

その回転扉がゆっくり動き出して・・・・・・


「ッ!!『スモールシールド』!!!」


入って来たのは1人の人飼いスライムだった。

その姿を見て咄嗟に自分達の前に張った『スモールシールド』の横をすり抜け、ルグとマシロがその人飼いスライムに向かって駆け出す。


「ぎゃああああああ!!!?

何だ何だ!?何なんだ!!?」

「え?喋った?」


そして2人が人飼いスライムの目の前まで来て、その走りながら振り上げた片足と光の剣を人飼いスライムに向かって振り下ろそうとした瞬間。

その人飼いスライムが尻餅を着いて叫んだ。

スマホをアップデートさせてないのに今まで分からなかった人飼いスライムの言葉が分かる。

そしてその言葉が分かったのは俺だけじゃない。

その呟きから分かる通りピコンさんにも分かった様だし、多分目を見開いて固まるアドノーさんにも分かったんだろう。

そして勿論、ルグとマシロも。

だから2人は無理な体勢になると分かっていながらも急激に攻撃の軌道を変えたんだ。


「あ、わ、あわわ・・・・・」

「タキ!?大丈夫!?」

「え?あ、もう1人居たんだ・・・・・・」


無理に攻撃の軌道を変えた影響でバランスを崩し上手く体を起こせないのか。

自分の両隣で攻撃したままの体勢で暫く固まっているルグとマシロを交互に見て尻餅を着いた人飼いスライムが悲鳴の様な声を漏らした。

そんな人飼いスライムの後ろにはもう1人。

心配そうに慌てて膝をついて尻餅を着いた人飼いスライムを後ろから支える様に覗き込む別の人飼いスライムが居た。


「何が・・・・・・え?ひ、と・・・?」

「えーと・・・あの、俺達・・・・・・」

「ま、待ってッ!!!攻撃しないでッ!!

わたし達は動く鎧じゃない!!同じ人間よッ!!!」


鎧越しで分かり辛いけどその後ろの人飼いスライム。

いや、自分達が倒した人飼いスライムの体を見た目通り鎧として使っていた人が俺達を見て、心底驚いた様な声を絞り出した。

そして俺が何か言う前に慌てて脱ぎ捨てた兜から出てきたのはツンツンと跳ねた癖の強い長い髪が特徴的な。

どことなくオズの魔法使いに出てくる臆病なライオンを思い起こさせるチボリ国人の若い男性だった。


そのチボリ国人の男性が同じく兜を脱がして現れたのは、鮮やかで濃い金髪のヒヅル国人の男性。

怯えさせてしまったからだろうか?

流れてはいないけど日本人に似た明る目の焦げ茶色の黒目を涙で濡らしているし、そのせいか髪の色と相まって何処かアヒルの雛っぽさがある。


人種の違いから少し分かりずらいけど、2人共年齢は多分ピコンさんと同い年位。

もしかしたらもう少し上かもしれないけど、クエイさんやジェイクさんよりは年下だろう。

後多分、若干ヒヅル国人の男性の方がチボリ国人の男性より年上。


「突然攻撃してしまいすみません。お怪我は?」

「わたしも彼も大丈夫よ。

わたし達の方こそ驚かせてごめんなさいね?

貴方達も此処に連れて来られたなら知ってると思うけど、此処は本当に危険でこの格好してないとまともに外の探索すらできないのよ」

「あ、いいえ。

俺達は自分の意思で此処まで来たんです。

人飼いスライムに連れ去られたわけでも、コイン虫やマンイーターに誘われた訳でもありません」

「えぇ!!?自分で!!?

ど、どいう事!?一体何が・・・・・・」

「そ、それに何時もと洞窟の中が違った!!

それもお前達がやったのか!?

もしかして俺達を助けに来てくれたのか!!?」

「えーと・・・・・・」


よく無事に此処まで来れた。

と言いたげな雰囲気のチボリ国人の男性に自分の意思で此処に来たのだと言ったら、よっぽど予想外だったんだろう。

目に見えて動揺させてしまった。

そんな動揺に瞳を忙しなく動かすチボリ国人の男性とは正反対に、恐怖に近い驚きから復活したヒヅル国人の男性が別の強い光を目に宿し、嬉しそうに叫ぶ様にそう言ってきた。

確かにこの人達を助ける事は、一緒に外に出る事は出来る。

でも、本当にこの人達は『安全で正気な人達』なのだろうか?

普通に会話できるし、見た感じ狂ってる様に見えないし、人間に擬態した未知の危険な魔物って感じもしない。

でも、救助しようとして一緒に行動してたら後ろからバサーって言う様な事が起きないとはまだ言えないんだよなぁ。


2人が着てる鎧には宝石が無いから普通に人飼いスライムの体を加工した可能性の方が高いだろう。

でも、顔しか表してないし、もしかしたら鎧の方が本体。

獲物を油断させる為に寄生能力のある人飼いスライムがこの2人の人間の体を利用してる可能性も否定できないんだよな。


いや、当然ここまで2人で協力して頑張って生き残って来た人間って可能性の方が圧倒的に高いよ?

でもこの『財宝の巣』に居る生き物達はどれもこれも『人の心』を利用してくるからなぁ。

顔を見せて仲間だとホッとした所を襲う。

って事位しそうだなぁ、って思ったんだ。


「取り敢えず中に入れよ?

そこに居たら何時襲われるか分からないだろう?

オイラ達も直ぐには外に出れないし」

「そッ!・・・そう・・・だな」


自分でも分かってる。

人飼いスライムと同じ姿で現れたから疑心暗鬼に陥っているだけで、今回は完全に最初から俺の杞憂だって。

でも念には念をって事でそう言う考えをサインを駆使してどうにかルグとマシロに伝えると、同じくサインで、


「念の為にこの2人の話を聞こう」


と返された。

そしてそのサインを出して直ぐ、立ち上がってチボリ国人の男性達に声を掛けるルグ。

チラッと見た人飼いスライムの体を着込んだ2人の後ろ。

俺達がこの中に入って大分経つからだろう。

外の緑化ランプは完全に消えていた。

だから何時本物の人飼いスライムがこの近くに来ても可笑しくないんだ。

もしかしたら直ぐ近くまで迫ってるかもしれない。

そう言う訳でルグも混乱する2人に取り敢えず中に入ろうって声を掛けたんだ。

そんなルグの直ぐに出ないって言葉に絶望したのか。

頷いたはいい物のかなり肩を落としたヒヅル国人の男性続いてチボリ国人の男性も中に入って来た。


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