206,『真の宝はその先に』 20粒目
その回転扉の先は四郎さんの言う通り、ウォルノワ・レコードバージョンの動物像の部屋だった。
ただ『レジスタンス』アジト奥の動物像の部屋より明らかに狭い。
入口からでも『キビ君』の背中が結構ハッキリ見えるし、多分半分位しか無いんじゃないかな?
まぁ、それ以外にも幾つか違いがあるんだけど。
「かなり動物像が崩れてるな。
まともに無事なのは『キビ君』の像位か?」
「そう、だね。
ウォルノワ・レコードの部屋も狭くなっちゃってるし、ゴーレムも動いて無い」
『財宝の巣』の中でも問題なく『教えて!キビ君』が使えたから此処に有る『キビ君』の像が無事なのは分かっていた。
けど予想以上に保存状態が良い。
ある意味1番大事な部分だから、保存にも気合を入れてたって事かな?
周りの動物像を見ると尚更そう思う。
殆どの像は体の1部しか残って無いし、逆さまの蝙蝠の像なんて周りの積まれた本位しか残っていない。
首が取れて不気味に地面に転がってる像もあるし、『キビ君』の像の次に比較的無事な兎の像も担いだハンマーの先と一緒に両耳を失っていて別の動物に見える位だ。
そしてそこまで酷く崩れてるのは動物像だけじゃない。
その下のウォルノワ・レコードの部屋もマシロの言う通り大分崩れてるんだ。
「元々ウォルノワ・レコードの部屋ってこんなに小さかったんだな」
「みたいですね」
あの時ジェイクさんは『キビ君』の像を調べて、各像の下に有る部屋を『小部屋だ』って言った。
でも実際はかなり広い図書館だったんだよな。
どうしてその情報が違ったのか。
此処を見て漸く納得した。
ローズ国のウォルノワ・レコードは空間結晶か時空結晶で大規模に拡張してたんだ。
チラリと覗いた兎の部屋はあの大図書館の様な部屋から一転。
ホームセンターでも売ってるだろう、外に置くタイプの物置位の広さしか無かった。
その部屋の中には今にも雪崩が起きそうな程ギュウギュウに石板が重なる様に詰まっていて、下の方の石板なんて上の石板の重さに耐えかね割れて砂にまでなっている物もある。
その石板に紛れて管理ゴーレムだった物や棚だった物の1部も見え隠れしてるし、見たまんまあの大きな部屋の全部がギュっと圧縮されてるんだろう。
急に空間結晶や時空結晶の効果が消えるとこうなるのか。
そうついついピコンさんと一緒に唖然とした声を出してしまった。
「ダメだ。全滅」
「こっちもだよ」
「でも、時間を掛ければ修理できそうじゃない?
ゴーレムを直せば正常にウォルノワ・レコードも動き出すはずよ?
だから・・・」
「残念ながら、スマホが無いとウォルノワ・レコードの中身を見る事は出来ないんですよねー」
全ての部屋を見終わって回転扉近くに集まって開口1番。
そう言って首を横に振るルグとマシロの言う通り、どの像の部屋も小部屋に戻ってしまってるし、見た目からは分からないけどコラル・リーフ製のスマホも壊れている様だ。
前回の事含めたマシロの見立てでは、管理ゴーレム自体に時空結晶の様な各部屋を広くして中の物の時間を止める機能が有るらしくて、だからアドノーさんの言う通り無様に砂の上に転がった管理ゴーレムの1体でも治せれば部屋自体をあの大図書館の様な姿に戻す事は出来る。
でも、それじゃあウォルノワ・レコードの中身を見る事は出来ない。
今ここで詳しく調べる事が出来ないから断言できないけど、現状コラル・リーフ製のスマホが直せない以上中身を見る事は出来ないんだよな。
俺も何時までも此処に居るつもりないし。
「・・・・・・さっきから思ってたけど、貴方達ウォルノワ・レコード見つけるの、今回が初めてじゃないでしょ?」
「あ、えーと・・・・・・」
「悪いな。
契約の関係でオイラ達の口からその事を言う事は出来ないんだ」
「どうしても?」
「命に関わる事だから何を言われようと、何されようと、無理なものは無理だ。
どうしても知りたいなら、ジンに聞いてくれ」
「王子?どうゆう事がちゃんと説明してくれるな?」
流石に直接この部屋やコラル・リーフ製のスマホを見たら嫌でも察するよな。
俺達がウォルノワ・レコードを1度見つけて、俺のスマホがウォルノワ・レコードと何かしらの関係があるって。
それを事前に察して、通信鏡の使い方講座の名目で離れた時2人でそこ等辺も相談してたんだろう。
これでもかと不機嫌に眉を寄せてウォルノワ・レコードを見るのが初めてじゃないと聞いてくるアドノーさんに、そう守秘義務があるから言えないと言葉を返すルグ。
何処かで話しが矛盾しない様にか、最初からこの事を聞かれた時には全部ジンさんが説明するって決めてたんだろう。
ジンさんに聞いてくれと言うルグの言葉に従い更に目を鋭くして聞いてくるアドノーさんにジンさんは特に驚いて無い様だ。
その微かな返答の声がアドノーさんが鷲掴んだ鳥型ゴーレムのお腹から聞こえる。
「と、取り敢えず!
俺達、向こうの部屋、もう少し調べて来まーす!」
ジンさんの邪魔しない様にそう言って俺達4人は、そそくさとその場から離れた。
そして向かったのは他の部屋と唯一違う蛇の部屋。
小部屋に戻ってる事には変わりない。
でもこの部屋は他の部屋と大分違うんだ。
「さて、何処から調べよう?
パッと見日記ぽい物は・・・」
「なさそうだよね?
壁とかにも文字とか刻まれてないし・・・・・・
此処で暮らしてたのが誰か分かる物って残ってるのかな?」
「ザッと見回した感じじゃ無かったよな?」
そう、マシロの言う通りこの蛇の部屋で誰かが。
草と石板と金属で出来たベッドの数からして恐らく2人の何者かが長い間暮らしてたみたいなんだ。
入口直ぐ側の壁際にはルグが見つけた水音の正体である、石板と壁のヒビを広げて作ったかけ流しの水飲み場。
その水飲み場から流れた水はこれまた石板を使って作られた水路を通って外へ。
その水路は蛇の部屋の入口から少し離れた場所から回転扉がある壁近くまで、狭いけど少し深めに作られた池に続いていて、その池の中では白い魚が沢山泳いでいる。
その池の側には畑が有って、緑化ランプの光に照らされて背の低い木々が、水サボテンや草花と一緒にたわわに実らせた枝を伸び伸び広げていた。
その外の光景だけでも誰かが此処に住んでいた事を物語っているけど、蛇の部屋の中が更にそれを後押ししてる。
他の部屋の様に石板の山は見当たらない。
石板と、恐らく人飼いスライムから奪っただろう金属を組み合わせて作られた家具が綺麗に置かれた、結構快適そうな部屋。
2人分ずつのベッドや椅子だけじゃなく、机やかまど、タンスっぽい物もある。
出来る範囲でお洒落な感じにしてるし、快適そうっちゃ快適そうなんだけど、ねぇ?
水路や池、水飲み場もそうだけど、専門家が見たら発狂しそうだよな。
ウォルノワ・レコードの石板を惜しみなく各所に使ってるし。
「緑化ランプがこの中にも設置されてるから、住んでたのは人飼いスライムじゃ無いと思うんだけど・・・」
「確かにそうですね。
でも3年前の冒険者かどうかは分からない」
「色々造ってるから手先が器用な奴が居るのは間違いないけどな。
後、そいつ等はつい最近まで此処に居た。
もしかしたら今も住んでるかもな」
「え!?それ本当!?」
「あぁ。
何年も放置されてるなら熟して落ちた実や種が転がってるはずだし、それにこの木見てみろよ。
実を取ったのか、刃物使った跡が幾つもある」
よくよく見たルグが指さした木の枝の一部は、ハサミを使ったかの様に綺麗に枝が切れていた。
確かにこの断面はどう見ても実の重さに耐えかねて折れた物じゃない。
それに自然に折れたなら落ちた枝が何処か近くに落ちてるはず。
でもどんなに見回してもそれが無い。
その事含め、枝が切られたのは比較的最近。
もしかしたら俺達が此処に来る少し前だったかもしれない。
まぁ、今日全部の枝を切られた可能性は低いけど。
断面の色とか感じとか微妙に少しずつ違うし。
1番古い枝の跡がどの位前のものかは流石に判断出来ないけど、部屋の様子含め今日まで長期的に誰かが住んでたのは間違いないと思う。
「なら3年前の冒険者かぁ・・・
『箱庭遺跡』から連れて来られた冒険者の誰か?
流石に先祖返りで人間として生まれたマンイーターって線は無いよな?」
「それは無いだろう。
先祖返りだとしても、人飼いスライム達に飼われている以上結局コイン虫のエサにされてると思う」
「だよ、な。
ならやっぱり冒険者の誰かかぁ・・・・・・」
通路や分岐部屋よりもこの部屋の方が緑化ランプが大きいし数も多い。
だから流石にフワフワの草の成分に比較的耐性が有る個体でもずっとこの中で暮らすのは無理だと思うんだ。
そして『マンイーターから生まれた人間』や『先祖返りで人間と同じ知能を持ったマンイーター』って可能性も無いだろう。
ある程度大きくなった後に『財宝の巣』に連れ去られた人達なら兎も角、生まれた時から人飼いスライム達に飼われていたなら・・・・・・
どう考えても自力で逃げ出す光景が思い浮かばない。
それこそ流行りの小説の様に生まれた時から前世の記憶があるとかじゃないと無理だ。
だけど1から10までそんな物語の様な都合が良い展開早々起きるはずないし、無いって良い程可能性は低いだろう。
もしそんな事が本当に起きてたら、間違いなくその人がこの世界の主人公だ。
そして流行りの小説然とした主人公だったなら早々にこの地下から抜け出してるだろう。
だから流行りの転生者説はないない。
と言う事で、現状1番現実的なのは『冒険者の誰か』って事になる。
それがアドノーさんのお父さんが雇った人達の生き残りなのか、それとも『箱庭遺跡』を経由して来た人なのか。
髪の毛とかは落ちてるけどDNA鑑定とか出来ないし、俺達でも分かる範囲の個人を特定出来る物が本当に無いから全く分からない。




