205,『真の宝はその先に』 19粒目
「・・・え?行き、止まり?」
西の緑化ランプの道を進んで数時間。
思わずと言った感じでアドノーさんが呟いた通り、漸くたどり着いたこの道の終わりは唯の行き止まりに見えた。
他の壁と同じ岩で出来てるから、長い間に流れ込んだ砂が固まって壁になった訳じゃ無い。
最初からこの道は此処までだったって事だ。
だからって見た目通りに受け取っちゃいけない。
此処はもう旧王都の真下で、1番奥の行き止まりの壁近くまで緑化ランプは続いてるんだ。
予想通りウォルノワ・レコードがあるのか、それともこっちの道の方が罠だったのか。
どっちにしろ何かしらの仕掛けはあるはず。
「・・・取り敢えず、周りを調べてみましょう。
俺、こっち側調べます」
「じゃあ、私はこっち!」
そう言いつつ率先して右側の壁を触ったり叩いたりしながら慎重に奥に進む。
そんな俺の行動を見てなのか。
左側の方を調べると言ったマシロに続く様に、何も言ってないけど自然と『箱庭遺跡』の裏口の扉を調べた時と同じメンバーに分かれた。
「うーん・・・・・・何も、無い・・・わよね?」
「はい・・・こっち側は・・・
無さそう・・・・・・ですね。
・・・はい、多分、何も無い、って、エド?」
もう1度確認する様に辺りを見回しつつそう途切れ途切れ言うアドノーさんの言う通り、最奥まで上から下までくまなく探したけど右側の壁には何もなさそうだ。
仕掛けや罠どころかヒント1つすら無い。
それでももう1度俺も見直そうとアドノーさんに返事しながら同じ様に右側の壁中心に辺りをキョロキョロ見回してたら、気のせいか?
視界の端にマシロ達の方をジッと見てるルグの姿が映った気がした。
気のせいだ、見間違いだ、と思いつつも気になってシッカリルグの方に顔を向ければ、予想に反したルグの姿。
真剣な表情に反する様な、何処か虚ろな感じの目でジーとマシロ達を。
いや、壁しかないはずのその2人と1体の先を見てる様な感じで固まっている。
「どうしたんだ、エド?」
そう声を掛けようと口を開いたけど途中でやめた。
このルグの姿には見覚えがある。
でもそれはマンイーターの魔法に掛かった時じゃ無い。
もっと前。
前回の、あの巨大クロッグの事件の時だ。
「彼、どうしたの?
まさか近くにマンイーターが!?」
「アドノーさん、シッ!
多分違うので、少し静かにお願いします。
マシロとピコンさんも静かに。
多分ですけど、エド、何か小さな音聞き取ろうとしてるんです」
「分かってるならサトウももう少し声抑えてなー」
「あ、ごめん・・・」
傍から見てボーっとしてる様に見えても実際には違う。
エスメラルダ研究所の所長室の時と同じなら、ルグは耳に意識を集中させてるんだ。
だけどそんな事知らないアドノーさんが慌てて大声を出して、俺の方も慌ててそう注意した。
そのまま念の為にとマシロ達にも声を掛けたら、俺も自分が思ってるよりも大きな声を出してしまっていた様だ。
エスメラルダ研究所の時と同じく、またルグに静かにしろって言われてしまった。
いや、本当ごめん、ルグ!!
「ん~・・・・・・んん~・・・・・・
多分・・・・・・此処等辺?」
「そこの壁?何もなさそうだけど・・・・・・
そこから何が聞こえるの、エド君?」
「そう。砂?水?多分、水、かな?
ザザザーって何かが激しく流れてる」
「えーと、つまり・・・
この先に川があるって事か?」
「川って言うか・・・滝?
キッチンとかに設置してあるポンプ押してさ、こう・・・
ドパッと水流してる感じってのが1番近いと思う」
そう時々唸りながら首を何度も捻ってウロウロしだしたルグ。
そんなルグの様子を俺達は静かに見守っていた。
そして音を頼りに時々立ち止まりつつルグが辿り着いたのは、俺から見てマシロ達が居る所より左。
俺達が来た方に少し行った左側の壁だ。
その壁の奥で、手を洗う為に蛇口を捻った位の、少し勢いのある水が流れているらしい。
「多分、この位ならサトウ達でも壁に耳当てたら聞こえると思うぞ?」
「本当?・・・・・・あ、確かに聞こえる」
「だろう?」
ルグの言う通り、その壁に耳をギュって当てたら、確かに滝の様な音が微かに聞こえた。
激し目に流れる水の音と、溜まった水と上から絶え間なく振って来た水が飛沫を上げてぶつかり合う音。
滝っぽいって言えば滝っぽいけど・・・・・
どちらかよ言うと、蛇口を捻って水を溜めてる感じ?
いや、サルーの町のキビの泉の方が近いかも?
「水が流れてるって事はこの先に地底湖があるのかな?
って、あれ?」
「あれ、って・・・・・・
えーと、俺の顔、何か変な物付いてる?」
「ついてるかついて無いかで言えば、ついてないかな?
今キビ君、15歳の姿に見える」
「あー・・・
もしかして、四郎さんどこか行ってる?」
ウォルノワ・レコードじゃなくキタノさん達が居た地底湖の方がこの先に有るのかもしれない。
そう言いつつ振り返ったマシロが俺の顔を見て不思議そうな顔をした。
特に変な事は起きてないけど、何でマシロは急にそんな顔したんだ?
そう思って聞いたら、砂や土が着いて気になった訳じゃ無く、何時も憑いてる四郎さんが何も言わず急に離れて驚いていたらしい。
うん。
特にメールが来てる様子も無いし、何も言わずにどっか行ってる。
また『紺之助兄さん』の声が聞こえたのかな?
「あ、戻った」
「お帰りなさい、四郎さん。
どこ行ってたんですか?」
『ただいま。
何も言わずに離れてごめんね。
少しこの壁の先を調べて来たよ』
「え!?本当ですか!?」
近くに居たら返事をしてくれと言おうとして口を軽く開いた瞬間、マシロが『戻った』と言った。
戻ったって事は、『俺』じゃなく『四郎さん』の姿が見えてるって事だよな。
なら四郎さんがスマホに戻って来たって事だ。
そう思ってスマホの真っ暗な画面を見つつ声を掛けると、直ぐにそう書かれたメールが届いた。
どうも四郎さんは1人先にこの壁の先を調べてくれてたらしい。
「いや、そもそも、どうやってそれを!?」
『タカヤ君、俺が幽霊だって忘れてない?
一応俺も壁とか床とかすり抜けられるんだよ』
「いや、でも・・・
今までそんな事1度もした事ありませんよね?」
『挑戦した事は何度もあるよ?
でも、成功率がかなり低くててね。
失敗も多いし、出来ればやりたくないんだよね、すり抜け』
「低いんですか、成功率」
『ゲームじゃ無いんだから、普通人間が壁や床をすり抜けれる訳無いだろう?』
「・・・あぁ。
四郎さんって結構生前の感覚に引っ張られやすいんですね」
『君の異世界の同一人物だからね』
正気に戻った時には既にそうなっていた『取り憑く』とは訳が違う。
スマホに出入りするのや俺の体を使うのとは、すり抜けの技術は完全に別物で、練習しても上手くいかないんだ!
と力説してそうなメールを送ってくる四郎さん。
頭が固い所が悪く作用してるのか、四郎さんはヤエさん達や物語の幽霊の様に物理法則を無視してスイスイ壁をすり抜けれない様だ。
穴の開いてない壁は通り抜けれないし、ワイヤーや魔法を使わず人は浮かない。
悪霊時代ないざ知らず、『佐藤 四郎』である事を思い出した今はそう言う『常識』が邪魔してる、って事なんだろうな。
でも、不便だからってそう言う所を急に変える事は出来ない。
それが世界が違っても変えられない『俺』の魂の根本的な性質なんだから、仕方ないだろう?
そう最後に送られて来たメールから諦めた様に溜息を吐く四郎さんの姿と一緒にその言葉が浮かんで、俺も表に出ない苦笑いを内心に浮かべ頷いた。
『頑張って顔だけ突っ込んでみた感じ、この先に有るのはウォルノワ・レコードだと思うよ』
「それ、本当か、シロー?」
『多分?
奥の方にあのゴチャゴチャしてる方の動物像っぽい物が見えたから、きっとそうだと思う』
3種類目の動物像じゃ無ければ、この壁の向こうにはウォルノワ・レコードの動物像がある。
頭をすり抜けさせる事は出来たけど苦手な方法で覗いたから首を動かす事は出来なかったし、試しにやって軽く失敗してその状態で暫く動けなくなってメール送る余裕も無い位慌ててたし、この壁から動物像までは結構距離が有ったし、動物像も壊れてる様に見えた。
だから少し自信が無い。
と恥ずかしそうに書かれた途切れ途切れの追加のメールの文に俺達まで不安になる。
この四郎さんの情報、本当に信じていいのか?
流石に曖昧過ぎる気が・・・・・・
と思わなくも無いけど、此処は一旦四郎さんを信じてこの壁の向こうにウォルノワ・レコードがあると思う事にしよう。
「取り敢えず、この壁の近くを調べれば何かあるかもしれません。
マシロ、ピコンさん、さっき調べてみて何か有りませんでした?」
「壁には何も・・・
あ、でも、緑化ランプが少し変なの!」
「緑化ランプが?」
「うん。ほら、あそこ」
マシロが指さした右斜め上の緑化ランプ。
それをジッと観察するけど、他と違う所は・・・
あ、いや。
無いと思ったけど入口の所から変わらず両壁に等間隔で並んでた他のランプと比べて、マシロが指さした辺りの緑化ランプの間は少し広くなっている。
ジックリ見比べないと分からない位の些細な違いだけど、違いは違い。
音が聞こえた場所から大分離れてかなり奥の行き止まりに近いけど、あの緑化ランプの辺りに何かあるはず。
「マシロ達が調べて何もなかった訳だから、奥の・・・
うわぁ!!!」
「サトウ、大丈夫か!?」
「だ、大丈夫・・・」
流石に岩の壁で回転扉は予想外です。
マシロとピコンさんが1度調べてるんだから、何も無いだろう。
そう思いつつ念の為に強めにそこ等辺の壁を叩いていたら、忍者屋敷の様に岩壁の一部が回転した。
そのせいでバランス崩すして顔面から思いっ切り転んで少し痛い。
下が砂だったからエスメラルダ研究所の時よりは大分ましだけど。




