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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第2章 チボリ国編
435/498

204,『真の宝はその先に』 18粒目


「俺達も先に行きましょう」

「待って。その前にもう少しだけあそこ調べるわよ」


この裏口からナト達に奇襲を仕掛ける作戦が頓挫した以上、何時までも此処に居る意味はない。

クエイさん達にも早く終わらせろと言われたし、サッサとジンさん達との約束のウォルノワ・レコード探しを終わらせて外に出よう。

そう思って立ち上がって1歩西の緑化ランプの通路の方に踏み出したら、直ぐ様アドノーさんに止められた。

そして調べると言ってアドノーさんが指さしたのは右端辺りのガーゴイル。

多分、他よりも砂が出てないあのガーゴイルの事かな?


「あそこって・・・あのガーゴイルですか?

1つだけ砂を吐く量が少ない?」

「えぇ。ほら、コレ使ってちゃんと見て。

布みたいなのが詰まってるでしょう?」

「あ、本当・・・・・・

ア、アドノーさん・・・あの・・あの・・・・・・

アレって・・・」

「見ての通り、腕よ。人の」


やっぱりぃいいい!!!

そう思わず息と一緒に詰まった言葉の代わりに、内心で絶叫する。


他よりも勢いがないもののかなりの量が流れる砂に紛れプラプラ揺れる、ボロ布がまかれた先に石がくっ付いた枯れ枝。

砂が詰まった原因らしい口から垂れ下がるソレ。


渡された望遠鏡を使って見たソレは、元々かなり逞しかっただろうボロボロの服の残骸から伸びる干からびた人の左腕だった。


服を着てるって事は、コイン虫の食べ残し(マンイーター)じゃない。

恐らく3年前の冒険者の誰かの物だと思う。


「見つけた以上、あの人も送り届けるわよ」

「は・・・い・・・・・・」


入口で見つけた人だけ大切な人の元に送り届けて、この腕の人は無視する。

そんな事、流石に出来ない。

そうアドノーさんも思ったんだろう。

そう言うアドノーさんにどうにか頷き返し、『フライ』を使ってそのガーゴイルの元に向かう。

この人は一体何処で襲われたんだろう?

赤い宝石の人飼いスライムに襲われたのか、道具を使って引っ張り出したその人の体は最初から腕しか詰まってなかった。

切り飛ばされた先だけが、流れ流れこのガーゴイルの口に詰まったんだ。

そして、本体の人は・・・・・・


「握っていたのは・・・・・・袋?」

「中身は・・・・・・

依頼書と手紙。それとイヤリングだな」


石だと勘違いする程硬く握られたそのミイラの拳の中に有ったのは、小さな革袋だった。

ヒヅル国産の、ローズ国で言えば時空結晶が使われたダーネア製の鞄に当たる物らしい、ソレ。

時空結晶のお陰で無事だったその袋の中身は、3種類。

暗い赤みと黄色みが入った茶色のリボンが巻かれた丸まった依頼書と、2つ折りにされた1枚の手紙。

それと片方だけの、イヤリングにしては大ぶりの鬼の涙が使われた銀細工で出来てるらしいイヤリング。


「・・・・・・・・・えーと・・・」


何かの有益な情報があるかもしれないと見た手紙の中身。

そこに書かれていた内容に、俺達は皆思わず複雑な表情を浮かべてしまった。


ミイラになった腕の持ち主でもある、手紙を書いた人の名前は、ホマレ・キタノさん。

ヒヅル国の山の方に有る、カルクラと言う村出身の鬼だそうだ。

予想通り、3年前アドノーさんのお父さんが雇った冒険者の1人だった。


俺達はフワフワの草のお陰で事前に回避できたけど、あの時フワフワの草を焚かなかったら『初心者洞窟』にはコイン虫達と同じく人飼いスライム達も現れていたらしい。

特に夜は活発に人飼いスライムやコイン虫が現れていた様だ。

そう手紙に書いてある。

それで夜の調査当番だったキタノさんは一緒に仕事をしていた冒険者達と一緒に人飼いスライムに襲われて『財宝の巣』に来てしまったらしい。


敗因はキタノさん以外の全員がコイン虫の『魅了』に掛かって使い物にならなくなった事。


キタノさんの実力がどの位か分からないけど、多分赤い宝石の人飼いスライムだったのかな?

あの戦闘職の物凄い硬くて強い人飼いスライム5人に1度に襲われて、頼りの仲間は使い物にならい。

そんな状況だったから唯一正気だったキタノさんも、連れ去られてしまったんだ。

そしてそこから始まるマンイーターとの・・・・・・

どうにか人飼いスライム達の隙を見て2人だけ連れてキタノさん達は逃げ出せたみたいだけど、1人は完全に正気を失っているし、外に出るのは不可能。


『微かな希望に掛けこれを砂に流す。

外に居る仲間達よ、この手紙に気づいたら助けてくれ。

自分達は大きな地底湖の側にいる。

そこで生きて助けを待っている。

もし、間に合わなかったなら、せめて私の最後が記録されただろう依頼書と一緒にこのイヤリングを家族の元に届けてくれ。

そして、シナノに、婚約者に、帰れなくてすまない。

私は最後までお前を愛していた。

だからこそ、どうか私の事は忘れて幸せになってくれ。

と伝えてくれ』


そう最後に書かれた手紙。

そんな手紙が入った袋をどうしてこの腕は握って本体から切り離されたのか。


追手の人飼いスライムの仕業?

それとも正気を失った仲間の冒険者のせい?


砂に流す前にキタノさん達に何があったのか分からないけど、この手紙が書かれてからもう3年も経ってるんだ。

腕を切り離されるって言う大怪我を負った以上、キタノさんの生存は・・・・・・

限りなく低いだろう。


「・・・・・・これ・・・この人の最後の頼み。

婚約者さんにって言う、この内容を叶える事は・・・」

「時間を掛ければどうにか」

「そう・・・」


年単位の時間が経ってしまった以上、助けて欲しいって言う1番の望みは叶えられない。

でも、もう1つの方なら・・・

そう思って聞いたら、ルグに時間を掛ければ出来ると言われた。

名前も故郷も分かってる。

だから、キタノさんの婚約者さんにコレを届ける事は比較的簡単だろう。

でも、やるべき事がある今の俺達にはそれを叶える時間なんって無いんだ。

俺達がこの願いを叶えるとしたら、『蘇生薬』の素材を集めにヒヅル国に行く時についでにか、全ての事件が終わって落ち着いた後になるだろう。

だからルグも『時間を掛ければ』って言ったんだ。


「・・・すみません、リカーノさん。

この手紙の内容も含めて、キタノさんの事はそちらでお願いします」

「分かりました」

「エド、お願い」

「あぁ」


俺達がこの願いを叶えるより、他の冒険者さんを雇って届けて貰った方が早いだろう。

それかコロナさんやジンさん経由で『レジスタンス』に協力してくれてるヒヅル国の王族の人に頼むか。

そこ等辺の判断含め、後は本部の方でどうにかしてくれと頼み、ルグにキタノさんの腕ごと袋とその中身を通信鏡を使って送って貰う。


「・・・・・・ねぇ、その地底湖、探しましょう」

「気持ちも言いたい事も分かるけど、ダメだよ、エス」

「どうして?

もしかしたら彼等が生きてるかもしれない!

それを見捨てるって言うのか!?」

「うん。

地底湖が何処にあるか分からないんだよ?

沢山魔物達が居る所を通らないと行けないかもしれないんだ!

エス達を危険に晒してまで生きてるかどうか分からない人の捜索をさせれない!!」


俺達まで閉じ込められて帰れなくなるかもしれない。

キタノさんやキタノさん達が居た地底湖を探すのは、何時でも『財宝の巣』と地上を行き来出来る様に安全な場所に穴でも開けた後。

今回の俺達のこの経験を元にちゃんと装備を整えたチボリ国兵達に行って貰うべきだ。

そう言ってウォルノワ・レコード探し以外の探索はこれ以上許可出来ないと言うリカーノさん。


「オイラも反対だ。

ホマレ・キタノ達が生きてるなら兎も角、そんな危険な事まで付き合う事は出来ない」

「申し訳ありません、アドノーさん。

今回みたいにウォルノワ・レコードの所までで見つけた証拠は出来るだけ集めます。

ですから、キタノさん達の事は諦めて下さい」

「ッ・・・・・・・・・分かったわ・・・」


アドノーさんはお父さんの無実の生き証人としてキタノさん達を是が非でも見つけたいだろうけど、今でもいっぱいいっぱいなんだ。

想定以上の人飼いスライムの強さや、マンイーターの危険性。

そう言う事を考慮するとフワフワの草があっても今の俺達じゃ緑化ランプがある道から大きく外れた探索は出来ないんだ。

今までの探索でそれを嫌と言う程思い知ったからこそ、真っ先にルグはそう反対したんだろう。

マンイーターのせいで頼みの綱のルグやピコンさんがまともに動け無くなる以上、俺も素直に頷く事は出来ない。

だから俺もそう断ったし、どうにかアドノーさんを説得しようとしたんだ。

それに、何も言わないけどマシロとピコンさんもアドノーさんの意見に反対だってその険しい表情が物語ってる。


そしてそう思ってるのは俺達5人だけじゃない。

館長さん達本部に居る職員さん達もそうだ。

皆、無事にアドノーさんに帰って来て欲しい。

そう強く、強く、思っているんだ。


それで漸くアドノーさんも多勢に無勢だって分かったんだろう。

悔しそうに絞り出す様だけど、分かったと。

今回は諦めると言ってくれた。

それに俺達全員がホッと胸を撫で下ろす。


「他には何もありませんよね?」

「多分?

・・・うん。もう何も引っかかって無さそうだよ」

「なら、次に行こう」


キタノさんの腕以外誰も居ない事をもう1度シッカリ確認して、大丈夫だと言うマシロに頷き返して。

俺達は漸く西の方の緑化ランプの道を進んだ。


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