203,『真の宝はその先に』 17粒目
「えーと、仕掛けっぽい物は・・・
やっぱり、なさそう?
マシロ、そっちは?」
「うーん・・・・・・もう、ちょっと待て・・・」
ザッと全体を見ても仕掛けっぽい物は無いし、近くで見てもやっぱりない。
でもドアノブの類や鍵穴が無いのに、押しても、引いても、上げても、下げても、全然扉が動かないんだ。
スフィンクスガーゴイルのお陰か、扉は上から下まで綺麗に表に出てるから砂が理由って訳でも無いし・・・
だから自動ドアの様になってるか、何かスイッチや仕掛けがあるはず。
そう思ってピコンさんと鳥型ゴーレムと一緒に扉の反対側を調べてるマシロに声を掛けたけど、その表情的に向こうも何もなさそうだ。
「ダメ。
こっちにも鍵穴とかレバーとか仕掛けとか。
なんにも無い・・・」
「そっか。
そうなると・・・壁や柱の方に何かある?」
「それか内側からは?
外から開かなくても、内側からなら開くかもしれないじゃない」
「元々『箱庭遺跡』がペット達の家だったと考えると、その可能性は低いかと・・・
内側から簡単に開けれたら中に居る魔物達が脱走し放題じゃないですか」
「でも、よく考えなさい。
ビー・アド・アリーアはチョクチョク別荘に種類の違うペット達を連れ出してたのよ?
1匹だけをずっと別荘に置いていた訳じゃ無く、毎回律儀に連れ出したり戻してたりしてた。
ならその脱走防止の為に配下の人間が中に入ったら近くにその魔物を連れてくるまで扉を1度占めるはず。
そうなったらどうやって外に出る訳?」
「此処に残った仲間に開けて貰うんじゃないでしょうか?」
「通信鏡が存在しない時代よ?
どうやって連絡取るの?」
「えーと。ブザーを鳴らすとか?」
「取り敢えず、クエイ達の方で何かないか聞いてみるなー」
扉の開閉ボタンやセンサーがこちら側にしか無いと言う俺と、『箱庭遺跡』の中側にもあると言うアドノーさん。
どっちの考えが正しいかこの時点じゃ全く分からないけどルグの言う通り、何かないかクエイさん達に聞く方が早いよな。
その話はルグに任せて、俺達は壁や柱の方を調べよう。
「あ・・・」
「サトウッ!!!」
「えブッ!!?」
扉近くの右の岩壁を調べていたら、1部ここにも『箱庭遺跡』の黒い壁が出てる部分があるのを見つけた。
高さは俺の目線丁度位だろうか?
その部分は通路で見た黒い壁と違ってかなり狭く、大きな大人が手の平を広げたら丁度位しか無い。
その小さめの正方形の穴を詳しく調べようと更に近づこうとした瞬間、ルグに名前を呼ばれ、気づいた時には既に物凄い力で体が後ろに引っ張られていた。
「・・・え?」
「キビ君!エド君!!大丈夫!?怪我は!!?」
「え?は?え?」
「大丈夫!直ぐに離れたから掠りもしてないぜ!」
「え?え?」
本当に何が起きたんだ?
急に一気に遠のいた扉とその景色に、ルグに此処まで運ばれたって事しか分からない。
それだけを理解するのにも混乱し過ぎた俺の頭じゃかなりの時間を有して、未だに何でルグがそんな事したのかも、ここまでマシロが焦った様に心配しながら駆け寄って来たのかも分からないんだ。
いや、本当、何があった?
「罠だよ、罠。
サトウ、罠に掛かって死にかけたんだ」
「ワナ・・・・・・罠?・・・罠!?はぁ!!?
え?は?罠って・・・罠って・・・
死に掛けたって・・・・・・」
「そ、罠。
あー、サトウに見えるかな?
あっちのヴァルキリーの像が動いてあの矢が飛んできたんだ」
そのルグの言葉で混乱した頭が更に混乱する。
その混乱して冷静になれない頭のままルグの指を目で追うと、俺がさっきまで居た辺りの少し上の方。
丁度俺の額が有ったであろう辺りの岩壁に、眩しい位磨かれた銀の矢が深々と突き刺さっていた。
その矢は扉の辺りから見て真ん中よりも後ろの方にあるこの位置からでもハッキリ見える位太くて、もしルグが気付いて助けてくれなかったらきっと俺の頭は・・・・・・
熟してパックリ割れた柘榴位で済んでいただろうか?
「ル・・・え、あ・・・
エ、エド・・・あり、がとう・・・・・・」
「どういたしまして」
死に掛けたと言う事実に体ごと声が震え、上手くルグにお礼が言えない。
勿論心配してくれたマシロに大丈夫だって言う事も。
その上、引っ張られて地面に着いた膝に力が入らなくて、立ち上がる事も出来ない。
気持ち悪くてまた吐きそうだし、喉も痛いし。
本当最悪な気分だ。
申し訳ないけど、この気分が落ち着いて冷静に動けるのは相当先になるだろう。
そう、大丈夫だと励ましてくれる四郎さんの考えが流れ込んで生まれた、俺本来の冷静な部分が判断する。
「残念だけど、今のボク達じゃこの扉を開けるのは不可能だ」
「・・・どう言う事ですか?」
「サトウ君が見つけた場所がこの扉を開くスイッチになってるんだ。
けど、事前に顔を登録した人じゃないと開けれなくてね?
それ以外の顔が映るとさっきみたいに罠が作動するみたいなんだ」
「そこ等辺を改造する事は?」
「時間を掛ければ。
でも、確実に普通に依頼を終わらせて表から入ってきた方が早いよ」
裏側から『アイテムマスター』のスキルで調べてくれたんだろう。
俺が落ち着く位大分経った後、悔しそうな顔を浮かべたジェイクさんが今あの扉を開けるのは無理だと言った。
あの扉を開けるには顔認証か虹彩認証が必要で、道具が無い今改造するのはとんでもなく時間が掛かるらしい。
いや、道具があってもウォルノワ・レコードを見つけて外に出て表から中に入った方が早いそうだ。
と言うか、この扉に拘っていたらその間にナト達が他の国に行ってしまう。
そんだけの時間が必要な位、マシロやジェイクさんでも扱う事が難しいらしい。
その難しさはロストテクノロジーの中でもかなり上位に食い込む位で、覗き鏡とかの『箱庭遺跡』全体の技術を合わせたらもっと上。
今この世界に居る人達の中で解析含め好き勝手どうこう出来るのは、片手で数える位。
いや、居るかどうかも怪しい位だそうだ。
「なら、此処から中に入るのは諦めた方が良いな」
「そうだな。
だと人飼いスライム達が使ってるはずの穴を探すしかない訳だけど・・・・・・
そっちの方も厳しい感じかー」
「うん。多分その穴があるの、あっち」
諦めろと言うクエイさんに頷きつつ、ヒョイッと通信鏡を覗いたザラさんがそう直ぐに判断する。
そのザラさんの視線を追って振り返れば、
「絶対にやめておけ」
と言っているマシロとピコンさん、アドノーさんの顔。
もしこの近くにその穴があるなら、その穴は『箱庭遺跡』に1番近い、俺達が出てきた通路の向かい。
マシロが言っていた青い宝石の人飼いスライム達が出てきた通路の1つの先に有るだろう。
マシロ達が見た青い宝石の人飼いスライムやマンイーター達がどの位居たか分からない。
でも、直ぐに3人がこんな表情したなら、簡単に追い返せる数じゃなかったんだろう。
10か20か。
もしかしたらもっと?
流石に100は超えてないと信じたい。
「元々こっちはダメ元だったんだ。
さっさとウォルノワ・レコード見つけて出てこい」
「と言う事だから、俺様達ももう行くな!」
「・・・分かりました。気を付けてくださいね」
そう言って通信鏡を切るクエイさん達。
間違いなくナト達を追いかけて行ったんだろうな。
少し前の事もあるし、本当に無茶しないで欲しい。
その俺達の思いは、はてさて3人に届いたのだろうか?




