201,『真の宝はその先に』 15粒目
「おい。お前等、今何処に居る?」
「あ、クエイさん。
大丈夫ですか?怪我、ちゃんと治しましたか?
後、そこ、本当に安全ですか?
ギルタブリン達や他の危険な魔物は本当に居ませんか?」
「そこまで心配しなくても俺様達は大丈夫だから、質問を質問で返さないでくれる?」
「す、すみません・・・・・・」
傷口を洗い流して、『ヒール』である程度治した後薬を塗って、元の世界から持ってきたガーゼと包帯を巻いていく。
そうやって自分の手をルグとマシロに手伝って貰いながら治してたら、繋ぎっぱなしになっていたらしい通信鏡にクエイさんの顔が映った。
見える範囲の怪我は治ってる様だけど、さっきのアレの今だ。
ドンドン心配と不安が溢れてきて、ついつい質問に答える事無くそう聞き返してしまったら、ザラさんに軽く怒られてしまった。
「えーと。今、俺達、先程の・・・
ナト達と戦っていた部屋の壁の向こうに居るんです」
「壁?」
何時から見てたんだ?
と悪態を吐きながら戻って来たクエイさんが、ヒョッコリと右の出入口から顔だけを出す。
そして直ぐに、不機嫌に歪んで消えた顔が通信鏡に移った。
「何も見えねぇよ。本当にお前等居るのか?」
「居る居る。
さっきもクエイ、入口から顔出しただろう」
「じゃあ、今俺様は何本の指を立ててるでしょーか!」
「分からないよ。
通信鏡に写って無いし、入口からこっち見てるのザラさんじゃなくてジェイクだもん。
ジェイクだって両手とも指は立ててないし・・・
でも顔と右こぶしは部屋の中に突き出してるよね。
後、その斜めの体勢、大変じゃ無い?」
「あ!だ、大丈夫ですか、ジェイクさん!?
思いっ切り転んでましたけど、怪我は?」
意地悪なザラさんの問題に協力してマシロの言う様な無茶な体勢を取っていたジェイクさん。
その『エイ、エイ、オー!』と言ってそうなジェイクさんは暫く握った拳を突き出した態勢のままキョロキョロしていたけど、遂にバランスを崩して拳を突き出したまま顔から倒れてしまった。
通信鏡を持ったクエイさんが離れているのか、壁からだけじゃなく通信鏡からもその時の音は聞こえなかったけど、その光景だけで凄く痛そうだと思ったんだ。
少し遠いジェイクさんの、
「大丈夫だよ」
って声が通信鏡から聞こえたし、直ぐに立ち上がってケロっとした顔で砂を払っていたから本当に大丈夫なんだろうけど。
「本当に見えてるんだな」
「だから言っただろう。壁の向こうに居るって」
「あの、部屋の中が安全なら向かって・・・・・・
左側の壁の所に来て頂けませんか?」
ナト達が全部の魔物を連れて行ったのか、今は黒い壁の先の部屋は安全な様だ。
暫く警戒心剥き出しに出入口から中を覗いて辺りを見回してたけど、直ぐに躊躇いなく部屋の中に入って来てくれた。
「ん~・・・・・・・・・此処等辺?」
「はい。それで、ジェイクさん。
影を操る魔法を使って、そこの壁半分位の場所、暗くする事できますか?
そしたら俺達の姿、見えるはずですから」
「出来るよ。ちょっと待ってね」
「お願いします。『プチライト』」
そしてルグの指示で俺達の前にクエイさん達が来た所で、俺はそうジェイクさんに頼んだ。
ニッコリと大丈夫と言いたげな微笑みを浮かべ、出来ると言った通りこの位は朝飯前だったんだろう。
直ぐに3人の足元から真後ろに伸びた影のドームが、頼んだ通り壁半分ごとクエイさん達を包む。
そんな3人の前で、薄くともクエイさん達の姿が映る様に調節した『プチライト』の光の玉を持って俺は手を軽く振った。
「おーい!見えてるー?」
「見えてる、見えてる!
お前等の姿、ちゃんと見えてるぞ!!
ハハッ!コレ、面白いな!!」
俺と一緒に手を振ってそう言うピコンさんの声を聞いて目を見開いて固まっていたらしいザラさんの顔が薄っすらでも分かる位輝く。
殆ど輪郭だけって言う位の薄さでも分かる位通信鏡から響くその声は楽しそうだし、影のドームがある場所無い場所行ったり来たり飛び跳ねたり。
ガラスのままの場所で輝く笑顔を見せたザラさんは、新しい玩具かゲームを手に入れはしゃぐ子供の様に色々試しだした。
うん。
ナト達と戦ってる時と違って元気そうで何よりだ。
「ジェイク。
仕組みとか、そう言う詳しい話は暇な時にな。
と言う事で、えーと・・・・・・
お前等、何があったんだ?」
「何がって、見てたなら分かるだろう?」
「違う。アイツ等に何されたんだ?
何時もと様子が違ったぞ?」
「・・・・・・・・・」
通信鏡に微かに映った、詳しい事を聞きたそうなジェイクさんが口を開く前にそう釘を刺したルグ。
そのルグがそう何があったのかクエイさんに尋ねる。
その質問に、
「通信鏡が鳴り出した辺りから見てたなら、自分達が赤の勇者達と戦ってたのは分かってるだろう?」
と言いたげに眉を寄せ、不機嫌を隠さず言葉を返すクエイさん。
そのクエイさんの答えは俺達が聞きたかったものじゃない。
だからルグも首を横に振って違うと言ったんだ。
聞きたいのは、3人して何であそこまで冷静さを欠けさせたか。
この場に居る全員が気になっていた、その理由だ。
でも、更に不機嫌な表情を浮かべるだけでその答えをクエイさんは答えてくれない。
よっぽど聞かれたくない理由で冷静さを欠けさせていたんだろうか?
「なぁ、何でだよー。
そんなに言いたくないのかよー?」
「・・・・・・・・・」
「ローズ姫の歌や彼女達が使った何らかの魔法道具が原因ですか?
それともその場所自体や先程のギルタブリン達が原因ですか?
・・・・・・もしくはナト達?」
「・・・・・・・・・」
「それか・・・・・・ラムのヴァイオリンが原因か」
これからの事があるから、何があっても絶対に言え。
そうふざけた様な態度に隠した目に言葉を宿し、壁をコンコンと叩いて何度も聞くルグ。
そんなルグの質問にも、俺の少し躊躇いがちな質問にも、クエイさんは不機嫌なまま黙ってるだけだった。
だけだったのに、辛そうなピコンさんが絞り出す様に質問した時には黒い壁に映った薄い影だけでも分かる位、確かにクエイさんはピクリと反応したんだ。
「ラムが・・・原因・・・なんだな・・・・・・」
「・・・・・・チッ!!あぁ、そうだよ!
ピコンの恋人だ!ピコンの恋人が・・・・・・
弾いた曲が原因だ」
「ッ!・・・・・・・・・そう・・・」
そのクエイさんの小さくても確かな反応に、確信を得てしまったピコンさんが絶望した様に言葉を漏らす。
そのピコンさんの泣きそうな声に諦めた様に舌打ち1つ。
その1音に、折角の気遣いを無駄にされた相当な不満を込めて、
『心底言いたくないです』
と顔にデカデカと書きそうな表情で悪態を吐く様に仕方なくクエイさんはそう言った。
そのクエイさんの嫌々な叫びを聞いて、分かっていても受け入れる準備も覚悟も足りてなかった俺達の息が詰まる。
確かにクエイさん達と戦ってる時、ルディさんはヴァイオリンを弾いていた。
でも、コロナさんから聞いた何時も通り、ただ単に魔女のサポートで弾いてると思たんだ。
でも、でも・・・実際は・・・・・・
あの優しい本来のルディさんなら絶対に弾かない、他人を傷つけ、苦しませる曲。
それを操られて、喜々として弾かされた。
そのルディさんの人格を踏みに踏みにじった事実を、ピコンさんに言いたくなかったからクエイさんは口を噤んだな。
その気遣いを察したのか。
そう、と唯の息と勘違いしそうな程小さく言って、俺達と同じ様に息を詰まらせていたピコンさんの体から少し力が抜ける。
「ピコンさん・・・・・・」
「大丈夫。僕はもう、そこまで弱くないよ」
また酷く落ち込んでしまったのか。
そう心配で見上げたピコンさんは、もう大丈夫と言った通り、完全に揺るがない覚悟を手に入れていたんだろう。
今まで奥の方で常に燻ぶっていた様な不安を全て消し去ったその目には強い光しか宿ってなくて、その瞳はただ真っ直ぐこれから俺達が行く予定の道の奥を。
『箱庭遺跡』への入口を、
「これが最後の戦いだ」
と言わんばかりに睨んでいた。
それだけで何も言わなくてもピコンさんが、
「早く先に行こう」
って言ってるのが分かった。
そう、だな。
危険な魔物が近くに居ない今が乗り込むチャンスなんだ。
グダグダ考えるより行動すべきだよな。
不安になって弱気になって、揺らいでいたのは俺の方だったみたいだ。
「クエイさん。すみませんが、俺達先に進みます」
「そうかよ」
「はい。
それで、この近くに『箱庭遺跡』に入れる扉があるはずなんです」
「・・・あぁ、あれか」
「隣の部屋の奥に有ったあの扉の事だね。
かなり近くにあるはずだし、1度そこで合流しよう」
「はい。あ、ピコンさん。
俺とエドで緑化ランプに掛けた布回収するので、アドノーさん達と一緒に先に進んでて貰えますか?」
「分かった。行こう!」
隣の部屋に扉があると言うジェイクさんに頷き返し、そうピコンさんに頼む。
それを聞いてザラさんと一緒に色々試していたらしいマシロとアドノーさんの手を引いて駆け出していくピコンさん。
その後を鳥型ゴーレムが追いかけていく。
クエイさん達も右の部屋に戻っていったし、俺達も安全の為のやる事やって早く追いつこう。




