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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第2章 チボリ国編
430/498

199,『真の宝はその先に』 13粒目


 幸いな事にマンイーターは現れなかったけど、分かれ道の先や天井の隙間から襲ってくる人飼いスライムやコイン虫を倒したり追い返したり。

戦いつつ緑化ランプの道を導かれるまま進んで、体感数時間。

その位は経ってそうなかなりの時間が過ぎた頃、遂にソレは俺達の目の前に現れた。


「あれ?あそこだけ壁の色違くないか?」

「あ、本当だ」


不自然な程光苔の類が一切生えてない、俺達から見て左側。

日光に似た淡い色が重なった赤茶けた土壁の中に、星月夜が現れた。

月の様に上の方から降り注ぐ緑化ランプの光を反射して散りばめられた宝石達が輝く。

そんな風に思える綺麗な黒い壁。

ルグに指さされ遠目で見た時は瑠璃とかの星空を閉じ込めた様な大きな宝石が露出してるのかと思ったんだ。

でも何か違う。

近づく毎にそれが自然に出来た物じゃなく、誰かに加工された物だって事が分かった。


「これ・・・『箱庭遺跡』の・・・・・・」

「もしかしなくても壁の一部ですか?」

「えぇ。

同じ素材で出来てる感じがするから、多分ね。

・・・ねぇ、リッカ。

体感距離的にまだ此処、『箱庭遺跡』の出現地点から大分遠いわよね?」

「うん、かなり遠いね。1km近くは離れてる。

『箱庭遺跡』の中は表面に出てる部分以上にかなり広いって事でも有名だけど、この地点まで壁が続いてるなら今までの予想範囲を軽く超えてるよ!」


俺達全員が横に並んでも全身が余裕で映る位の、ストンッと切られた石か金属製の硬くて高く広い壁。

良く磨かれたガラスか鏡の様に滑らかなその黒い壁を軽く調べてそうポツリと言葉を零すアドノーさん。

その呟きを聞いて確認すれば、予想通り『箱庭遺跡』の壁の可能性が高いと言われた。

でも、まだ少しマンイーターの幻覚の影響を引きずって微かに頬を染めたアドノーさんの質問に答えたリカーノさんの言葉が本当なら、現れた『箱庭遺跡』の入口からかなり遠いって事になる。

予想通り『箱庭遺跡』の一部なのか、それとも同じ素材で造られた別の建物なのか。

さぁ、どっちだ?


「えーと、柱の地図で言うと・・・・・・

恐らく俺達が居るのは此処。

この『覗き鏡』って書かれてる場所ですね」


計算しつつ、アドノーさんから借りた地図と照らし合わせた感じ。

恐らくこの黒い壁は『箱庭遺跡』の一部で間違いないと思う。

順々に何度も改修工事。

いや、大掛かりな大掃除なんかのメンテナンスが行われてる、同じ名前で地図に幾つも書かれてる場所の1つ。

館長さん達がまとめてくれた地図の中では『箱庭遺跡』の出現地点から3番目に遠い『覗き鏡』って呼ばれる場所が今俺達が居る場所だと思う。


「なるほど。確かに良く磨かれて鏡みたいだ。

だから『覗き鏡』って名前だったんですね」

「じゃあ、『覗き』ってどう意味?

『鏡』の意味は分かるけど、穴なんって全然空いて無いし、別に鏡に僕達以外の誰かが覗き込んでるって演出はされてないよ?」

「それに態々この場所で壁の一部を出す意味も分からないよな。

柱に書かれてた工事の記録が本当なら、態々『財宝の巣』の壁削ってこの『箱庭遺跡』の壁の一部が見える様にしたんだろう?

目印にしては広く出し過ぎてる気がするし、その後も定期的にメンテナンスしてるみたいだし・・・」


そう納得するリカーノさんに言葉を返しペタペタ黒い壁を触るピコンさんと、アドノーさんが持ってる柱に書かれてた工事の記録を出来るだけ時系列順に並べた資料を覗き込んだルグが首を傾げる。

確かに2人の言う通り、見回した感じ『箱庭遺跡』の中を覗ける様な穴とかも無いし、態々大掛かりな工事をしてまで壁を露出させて定期的にメンテナンスする意味も分からない。

だけど、そう言う工事が実際に行われてた訳だから、必ず意味があるはず。


意味・・・

『覗く』・・・

『鏡』・・・・・・


そう頭の中で繰り返していた俺の視界に緑化ランプが飛び込んでくる。

緑化ランプ。

コラル・リーフが後から取り付けたと思われる、希少なランプ。

後から取り付けられた。

つまり、『箱庭遺跡』が作られた当時。

この工事やメンテナンスが頻繁に行われた当時には存在しなかったって事で・・・・・・


「もしかして、マジックミラー?

此処、マジックミラーになってるのか?」

「マジックミラー?魔法の鏡?通信鏡の事?」

「違う、違う。えーと・・・・・・

マジックミラーは別名ハーフミラーとも呼ばれる物でね?

部屋の明るさによって鏡にもガラスにもなる、不思議な鏡の事なんだ」


ハッと思いついて、思わず零れた言葉を聞いてマシロが首を傾げる。

暗い場所から明るい部屋の中を見るとガラスになって、明るい場所から暗い部屋を見ると鏡に見える。

メッキとか使って光を反射させたり透過させる性質を最大限利用した不思議な鏡。

コンビニのバックヤードとの間とか、防犯目的で付けられてるって聞いた事があるソレ。

ソレに似た物でこの黒い壁も作られてるんだと思う。

外から安全に箱庭遺跡の様子を覗き見る為に。

だからこの近くは光苔も生えてないし、頻繁にメンテナンスに来てたのに後から付けられた緑化ランプ以外何か光源になる物が設置されていた様な跡が無いんだ。


「マジックミラーと同じ原理なら多分、此処等辺一帯を暗くしたら中を覗けるはず。

だから、えーと・・・」

「分かった!

分厚い布か何かを緑化ランプに被せれば良いって事だね!」

「うん。と言う事でピコンさん。手伝って下さい」

「分かった」


魔法がある世界の物だから絶対そうだとは言い切れないけど、取り合えず俺達の世界のマジックミラーと同じと仮定して、此処等辺を暗くする。

でも、人飼いスライムやコイン虫が何処に隠れてるか分からないから、緑化ランプを止める事は出来ない。

と言う事でマシロの言う通り、緑化ランプのランプ部分に1つ1つ厚い黒布を巻く事にした。

その黒布をピコンさんと2人、『クリエイト』で量産していく。


「・・・・・・この位で大丈夫かな?」

「多分?

今でも薄っすら向こうで何かが動いてるのが見えるから、後はこの『プチライト』を消せば完全に向こうが見えると思うぞ?」

「・・・・・・やっぱり向こう側で何か動いてる?」

「動いてる動いてる」


此処が予想通りの『覗き鏡』の場所なら、もう少し先に『箱庭遺跡』と繋がる扉が。

『箱庭遺跡』を造った王様の別荘と行き来する為の扉があるはず。

セキュリティが今でもしっかりしてるなら俺達でも開く事が出来るのか。

いや、そもそも今も砂に埋もれずに存在してるかどうかも分からないんだよな。

人飼いスライム達だって風化して空いた非正規の穴から行き来してるかもしれないし・・・・・・

実際に見るまでは全く分からないけど、もし淡い期待通りその扉から中に入るなら、かなり近くにあるこの黒い壁の先に何が居るのかは事前にチェックしておきたい。


入る前に危険な魔物達がミッチリ居るとか分かってたら、速攻別の方法に切り替えられるし。


そう言う訳で緑化ランプに布を巻いてる訳なんだけど、運良くこの先に魔物が居ないって言う俺の期待はこの時点で既に消え去った様だ。

毎度の事、『フライ』で浮かせた木箱ボートに一緒に乗っているルグの言う通り、俺達以外の動く影が確かに黒い壁に薄っすら映し出されている。

俺達が少し離れた高い位置に居るし、『プチライト』で照らしてまだ周りが明るいから分かりずらいけど。

マジックミラーと同じ原理って事が当たってたのは嬉しいけど、これじゃ±0だよ!


はぁ・・・

せめて。

せめて、出来れば、この後扉から突撃出来る位比較的安全な魔物が1匹だけ居てくれる、とかだといいなー。

それか『箱庭遺跡』攻略中の冒険者さん。


「緑化ランプからちゃんと煙も出てるし・・・

近くに・・・・・・コイン虫とかも居ない、な」

「人飼いスライムが近づいてる様子もないよ」

「うん。なら、こっちの安全は大丈夫ですね。

じゃあ、『プチライト』を消しますね」


地面に降りて、最終安全確認をして、この淡い期待は裏切らないでくれと誰と無く祈って、一呼吸。

覚悟を決めて『プチライト』の球を思いっ切り壁にぶつけて消す。


「あ!ハッキリ見え・・・・・・ッ!!!」

「ラムッ!!!」

「ナト!!?高橋!!!?

それにクエイさん達もッ!!!」


予想以上にクリアなガラスになった黒い壁。

その黒い壁が映し出した光景にマシロが息を飲むのも良く分かる。

俺だってその光景が飛び込んできてまず、息と一緒に心臓が止まりかけたんだから。

ある事を忘れそうな壁の先に居たのは、ナト達7人と死闘を繰り広げる、クエイさん達3人の姿だった。


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