42,苺とサラマンダー 3粒目
「あれ、サラマンダー、だよな?」
「うん。まだ子供なのかな?
私が知ってるサラマンダーより小さいけど・・・」
「あれよりまだ大きい奴が居るのかよ・・・・・・」
サラマンダーが頭のヒレ?をピコピコ動かしながら吐いた炎の威力が段々弱くなっている。
多分、変換した魔元素が尽きてきたんだろう。
炎が尽きるか尽きないか、その瞬間サラマンダーは大きくカチンッと歯を鳴らし、また炎を吹いてきた。
こう、ずっと炎を吹かれてると、逃げるにも逃げれない!!
「『スモールシールド』!!」
『スモールシールド』を発動させるけど、たいした時間も掛らず炎に敗れてしまった。
だけど、何度も諦めずに連続で『スモールシールド』を出す。
そして『スモールシールド』で威力が弱まった所で、
「サトウ、伏せろ!!」
「OK!!」
「此れでも喰らえぇえええええええええッ!!」
ルグが貯水晶の性能を引き出した水鉄砲で炎を打ち消す。
水と炎がぶつかり合い生まれた水蒸気で蒸し暑いし、視界が悪くなる。
だけど、それで良い。
「ルグ君、サトウ君!出来たよ!!速く入って!!」
「ナイス!ユマ!!」
俺とルグでサラマンダーの炎を押さえている間に、ユマさんが魔方陣を書き上げた。
その魔方陣の上に俺達3人が乗り、魔法が発動すると同時にサラマンダーの炎が襲い掛かる。
だけど、もう無意味だ。
「『オンブラフォール』。影で出来た砦か。
本当にサラマンダーの炎を受けてもビクともしないな!!
流石、ユマ!」
「でも、一々魔法陣を書かないといけないし、魔法陣を書くのに時間かかるし、20分しか持たないよ。
それに、ここは闇属性の魔元素が少ないから、1度使ったら最低でも30分以内は連続で出来ないと思う」
「クールタイムって奴か。
この魔法が発動している20分以内に何とか、この炎を止めないといけないって事だよな?」
「うん」
早くこの連続火炎放射を止めないと。
サラマンダーのオーガンは呼吸器官型。
大量に吐いた魔元素がこの炎の元だ。
「なぁ、サラマンダーの口の直ぐ近くや口の中に『スモールシールド』を出して、変換した魔元素が他の魔元素と結合しない様に出来るか?」
「う~ん、出来ると言えば出来るけどな~。
そう言う方法で呼吸器官型の魔物の魔法を封じる方法は確かにある。
でも、準備もしてないし、オレ達素人だから・・・」
「見よう見まねでやっても、90%失敗すると思うよ?
ベテランの人でも殆どやら無い方法だし・・・」
「うん、うん。
サトウも、成功率の低い事はしたくないだろ?
それはもし、他に良い方法が思い付かなかった時の最終手段って事で」
「あぁ、そうだな」
結合阻止作戦は難しいか。
となると、他に何か方法は有るか?
・・・・・・ルグに聞いた話では思いつかない。
なら、元の世界で習った事や聞いた事で何か無いか?
例えば、物が燃える仕組みとか、ウーパールーパーの体の構造とか。
それと目の前に居るサラマンダーを良く観察すれば、コカトリスの時の様に何か糸口が掴めるはず!
「えーと、火は熱によって燃える物と酸素が化学反応を起こして発熱、発光した状態の事だったよな?
だから、物が燃える為には可燃物、点火源、酸素配給源が必要だったはず。
で、俺達は火を消したいんだから、可燃物、点火源、酸素配給源のどれかを消せば良いだよ・・・な?」
さっきルグがやったみたいに水を掛けて熱を奪うか、砂や濡れた布を被せ、酸素を奪う。
後は可燃物を奪う。
と言うか、サラマンダーが吐く炎の可燃物って何?
勇者関連の本から推測するに、俺の『ファイヤーボール』は磁石に集まる砂鉄の様に空気中の魔元素を集める効果の『音の魔法』の一種である『言葉』で点火源を作り、点火源を中心に周りの空気中の酸素と可燃物になる魔元素をある一定量取り込み結合させ、火の塊を作り出す魔法だ。
それなら、サラマンダーの場合、オーガンで変えた魔元素が可燃物で良い・・・・・・・・・んだろう。
「ユマ、サトウが変な呪文唱えてる・・・・・・」
「うん。何か凄い魔法使うのかな?」
「呪文じゃない、呪文じゃない。
魔法を使おうとしてないって」
ごめん、ルグとユマさん。
そんな期待を込めた目で見ないで。
さして真面目に授業を受けていなかった俺の説明じゃ、2人に100%伝えられなかっただろう。
それでも、
「つまり、サラマンダーの火炎放射をサトウの世界流に考えると、オーガンで変換した火属性の魔元素、空気中に漂ってる風属性の魔元素って事だよな?」
「うん。たぶん、それであってると思う。
後は火をつける物が分かればそれを何とか奪って・・・
そうしたらあのサラマンダーも火が出せなくなるよね?」
と、理解してくれた。
お、おぉ!
俺の下手糞な説明でよく2人共分かったな。
自分達が習った事に置き換え理解したらしいけど、ルグの様に説明出来なかった俺の言いたかった事が理解できた2人は凄く頭が良いと思う。
いや、その話は置いといて。
今はサラマンダーだ。
俺の説明のせいで、時間を無駄にしてしまった。
「・・・・・・・・・なぁなぁ。
サラマンダーって炎を吐く前に歯をカチカチさせて、エラをピコピコさせるよな。
何か理由があるのか?」
「う~ん・・・・・・歯をカチカチ。
・・・・・・カチカチ・・・・・・・・・あ」
「サトウ、何か分かったのか!?」
「まだ、可能性の段階だけど・・・・・・
ルグとユマさんは動体視力良い?
サラマンダーが歯を鳴らした時、火花とか・・・」
ルグとユマさんがジーッとサラマンダーを見る。
俺には何も見えないけど、魔族の2人なら人間よりも目が良いかもしれない。
暫くサラマンダーを見ていると、ユマさんが確信したように頷いた。
「うん、確かに火花が散ってる」
「え~、オレ見えなかった~」
「そういう時もあるよ、ルグ君。
それで、サトウ君。
サラマンダーが歯を噛み合せた時に出る火花が、あの炎の点火源・・・なんだよね?」
「あぁ!」
多分、サラマンダーの歯はフリント式ライターや火打ち石の様に噛み合わせると、火花を散らし魔元素に火をつける役割があるんだろう。
もしかしたら、魔法道具屋にあった『火打石』はサラマンダーの歯を加工したものなのかもしれない。
問題は、
「サラマンダーの歯を折ったり抜いたり出来る?」
「「火を吹いてるのに?無理無理」」
「だよなー」
はい、詰んだ。
はい、オワタ。
原理が分かっても、打つ手なしじゃないか!!
点火源の歯は抜く事も折る事も出来ないし、空気中に漂う風属性の魔元素を全部消す事は出来ない。
出来たとしても炎が止まると同時かそれより前に俺達が窒息する。
変換した魔元素を止めるのは成功率が低過ぎる!
どうしろって言うんだよ!!
こう言う時こそヒントをくれ、ナト!
ダメならもう脳内高橋でもいいから!
その思いが通じたのか、俺の頭の中に出てきた頼りになるナト、
「ウーパールーパーは両生類だから肺呼吸もするけど、エラにあるヒラヒラからも酸素を取り込めるんだぜ☆」
では無く、ドヤ顔の高橋。
ドヤ顔やめろ、高橋。
今の状況だと、スッゴク殴りたくなるから。
ものすっごく、顔面に拳を叩き込みたくなるから。
後、その情報今要らない。
「ウーパールーパーがエラでも酸素を取り込んでるのが分かっても意味が無いんだよ、高橋!!
確かに、炎の色とかガスバーナーを使う時の炎の色と同じだけどッ!!
サラマンダーはガスバーナーじゃないんだよ!!
エラから空気を取り込んでも炎の状態に影響を与える訳が無いだろぉ!!!?
時間も無いんだよ!!!」
「サトウ君、サトウ君」
「何、ユマさん?」
もう直ぐで魔法が消える。
もう、ダメだ、と地面に拳を叩きながら最後に俺の脳内に現れた高橋にツッコミを入れていた俺の肩にポンッと手を置いたユマさんが声を掛けて来た。
この状況でまだ何か、策があるのかユマさん!!
「そのガスバーナーってどんな物なの?」
「はい?」
「この状況で趣味に走らないで、ユマ」
「ルグ、お前が言えた事か?」
キラキラした目でガスバーナーの説明を求められるとは・・・・・・
うん、何か、もう色々諦めた俺は自分が知ってる限りでガスバーナーの説明をした。
俺の説明を聞いたユマさんは何度も頷くと、サラマンダーに向かって魔方陣を書く。
そして、無常にも魔法の効果が切れた。
「こうなったら、一か八か『スモールシ・・・・・・
あれ?」
「え、どういう事だ?ユマ、何やったんだ?」
サラマンダーの炎が来る事を覚悟して『スモールシールド』を発動させようとしたけど、どういう訳かサラマンダーは炎を吹かない。
いや、吹けなくなっていた。
さっきの魔方陣の魔法でユマさんが何かしたのか?
一体どんな魔法で?
「『デナイアル』。
どんな魔法も攻撃も呪術も、指定した魔元素を拒否する事で無効化させる魔法。
これもクールタイム?って言うのがある魔法で、1回使うと26時間は使えなくなるんだ。
後、効果がある時間は15分だけだから」
「そ、そんな凄い魔法があるんだな。
それで、ユマさんは何を拒否したんだ?」
「風の魔元素だよ。
サラマンダーのエラに掛けて吸い込めなくしたの」
「え?それだけで、何でサラマンダーは火炎放射が出来なくなったんだ、ユマ?」
「ルグ君とサトウ君が言ってたでしょ?」
え、俺達?
何か、言ったか?
全然心当たりが無い。
「サラマンダーはエラから炎を作るのに必要な風の魔元素を取り込んでいたんだ。
そして、口の中で風と変換した火の魔元素を混ぜて、歯を噛み合わせた時の火花で点火して吐き出す。
ルグ君のエラがピコピコ動いているって言うのと、サトウ君のガスバーナーの構造の話。
2つの話を聞いてもしかしたらって思って試したんだ」
それで成功したって事か。
流石、魔王。
そして、ごめん、高橋。
お前の話、役に立ったよ。




