193,『真の宝はその先に』 7粒目
「『スモールシールド』!!!」
「兎に角逃げ・・・」
「ダメだ!!
煙が効果ない以上、どうにか足止めしないとッ!!
逃げても意味が無い!!
多分何処までも追いかけられる!!」
動けない通り越して何時かのリカーノさんの様に、刺激が強すぎて気絶してしまったピコンさんとアドノーさん。
アドノーさんは本当にギリギリのギリギリで意識を保ってる様だけど、ある意味短い気絶と覚醒を繰り返してる様な感じだ。
ほぼほぼ動けない事には変わりない。
そんな2人を守る事を優先しつつ、鎧の増援が来ない様に緑化ランプが無い通路にフワフワの草と『プチアースウェーブ』を駆使して蓋をして。
そして、鎧と戦うルグとマシロのサポートをする。
その合間合間にピコンさんとアドノーさんを念の為に木箱ボートに入れ、それが終わったのをチラッと確認し終えたらしいルグが逃げようと叫んだ。
でも、俺はそれじゃあ駄目だと言い返した。
俺も出来れば逃げたい。
逃げたいけど、多分無理だ。
コイン虫と違ってあの鎧は変わらずフワフワの草の煙が出てる部屋の中に入って来て、普通に戦えてるんだぞ?
多分、この鎧にはフワフワの草の煙が効かない。
その上瞬間移動みたいな事も出来る訳だから、『フライ』を使っても直ぐ追いついて何処までも追いかけてくるだろう。
もしかしたら、アドノーさんのお父さん達もコイン虫じゃなくこの鎧に襲われて奥に追いやられたのかもしれない。
それかあの肉塊生物の方?
「あ・・・まさか!!」
何にしてもこのまま逃げれないなら、上手く逃げれる状況を作り出すしかない。
そう思ってよくよく鎧や吹き飛ばされた頭を観察する。
中にナニカが入って動かしてる感じは無いし、漫画で読んだ様な小さな生き物の集合体って訳でもなさそうだ。
ルグ達と戦うあの姿を見るに、痛覚も無ければ他の神経や筋肉、骨。
そう言う物理的な繋がりも無いと思う。
だと、ゴーレムか別の場所から魔法で操っている系?
そう思って更にジックリ鎧を見てると、宝石が瞬いた。
光の加減でそう見えたんじゃない。
まるで瞬きする様に、パチリ、パチリ、と宝石の一部だけが瞬いたんだ。
と言う事は、多分動く鎧の正体はスライム。
デュラハンやグラススライムの様な岩や金属系のスライムだ!
「やっぱり・・・・・・
エド!マシロ!!宝石!胸の宝石狙ってッ!!!」
「宝石!?」
「多分その宝石が本体!!本体のスライムだ!!
本体を狙えば向こうの方が逃げるか、上手くいけば気絶してくれるかもしれない!!」
「分かった!!」
アドノーさんのウエストポーチから勝手に望遠鏡を借りて胸の宝石を見れば、分かりずらいけどジャックの目に似た大きくて真ん丸な目があるし、ビー玉の様な核も薄っすら見える。
多分、あの宝石の様な核を中心とした赤い部分が本体で、その周り。
手に持った西洋剣も含めてなのかな?
判断出来無いけど取り合えず、金属で出来てそうな周りの部分全部がコロナさんが魔法道具を使ってまで着てる鎧の様なものなんだと思う。
その証拠に頭や剣、腕や胴なんかの金属で出来た部分は幾ら攻撃してもダメージが無い様だったのに、分かったと言ったルグが宝石を蹴った瞬間。
痛そうに悶える様に体を捩ってルグとマシロから離れたんだから。
やっぱりあの宝石が本体なんだ!!
「いってぇええ!!!
何だあの宝石!?鎧より確実に硬いぞ!!?」
「本体だから守りも硬いって事か・・・・・・
エド!!せめて鎧から本体を引き離す・・・
金属の部分から宝石を外す事は!?」
「多分出来る!」
痛そうだけど、ルグの蹴りでも大したダメージは無い。
あの威力でも多分、そんなに勢いなく転んだ位の痛みしか無いんだと思う。
転んだ瞬間は痛いけど、直ぐに痛みが引く感じ。
痛みやダメージが入るって意味では逆にルグの方が酷いだろう。
それ程硬いって事だ、本体の宝石は。
多分、ダイヤモンドや超合金よりも硬くなってるんじゃないか?
まぁ、スライム達にとっての心臓でもあり脳でもある、1番大切な核を守る為なんだから当然と言えば当然か。
でもそうなると気絶させるのは無理って事だよな。
本体や体の構造がアレじゃ漫画の様にトスッとお腹を殴ったり首を絞めたりして気絶させる事も出来ないし、ルグの蹴りでも逃げ帰りたいと思う程の痛みを与えられないし。
ルグでも無理なら俺達はもっと無理だ。
でも体の1部として生やしてる訳じゃ無く、町に居るデュラハンの様に襲った冒険者達の鎧を利用してるのかな?
本体と金属の間には僅かに隙間がある。
だから本体と金属の部分を引き剥がす事は出来ると思うんだ。
そうすれば蹴り飛ばされた頭の様に全ての金属の部分が操れなくなるはず。
そう思って2人に指示を出した。
「なら、マシロはそのまま鎧の相手!
鎧が剣を振り上げる様に誘導して!!
そしたら俺が引っくり返すから、エドはその隙にッ!!」
「「分かった!!!」」
ルグにサポートして貰いながらマシロが鍔迫り合いしながら距離を取りつつ、鎧の大きな一撃を狙う。
そして狙い通り鎧が万歳する様に両手で剣を振り上げた瞬間。
俺は『クリエイト』で作り出しておいた柔らかい粘土の塊に『フライ』を掛けてその腕に向かって思いっ切り投げた。
「うりゃあああああ!!!
『プチアースウェーブ』!!『フライ』!!!」
「えいッ!!!エド君!!今だよ!!」
「任せろ!!!」
的も大きくて投げた物も大きい。
だからだろう。
投げた粘土の塊は上手く狙い通り鎧の腕に当たってくれて、そして勢いよく当たった事で形を変えた粘土の重さで頭を失ってバランスが悪い鎧はよろめいた。
更にダメ押しと『プチアースウェーブ』で足元を狙い、『フライ』で下側だけ軽くする。
それで更にバランスを崩した鎧に向かって、トドメのマシロの体当たりが見事に当たり、鎧はなす術もなく無残に仰向けにひっくり返った。
そして鎧が起き上がる前にルグが何処に隠し持っていたのか。
見慣れたどこか懐かしいルグ愛用のナイフを使って本体を抉り出した。
コン、コロリと勢い余って砂の上を何回か跳ねて転がっていく本体と、それとほぼ同時にパタリと動かなくなる鎧の部分。
「な、なんだ!?まだやるのか!?」
「・・・・・・多分、違う?
鎧を取り返そうとしてるのかな?
念の為に粘土詰めておくか」
予想通り誰かの鎧を乗っ取っていただけで、ルグの腕も良かったからかな?
鎧から外されても本体には特に影響は無い様だ。
『ドロップ』の着信音も鳴らないし、直ぐ勢いよく動き出した姿を見るに健康的に元気いっぱいって事なんだろう。
そんなやる気もいっぱいな様子で、デュラハン達と同じ様にコロコロと戻って来た鎧の本体のスライム。
その鎧スライムは鎧を取り返そうとしてるのか、動かない鎧の近くでピョンピョン跳ねている。
これも予想通りで、1度鎧との繋がりが外されると鎧を動かせなくなるのか、今の所近くに鎧スライムが居ても鎧が動き出す様子はない。
でも胸の所まで来たら鎧が復活するかもしれないし、念の為に鎧スライムが居た窪みに引っくり返す時に使った腕にまとわりつく粘土を詰めておく。
「あ、逃げた」
粘土を詰めたのが功をなしたのか、それとも最初から壊死の様な状態になっていたのか。
きっと流石に、剣も腕も足も無い硬いだけの本体だけじゃ俺達に勝てないと思ったんだろうな。
もう鎧を動かせないと分かって鎧スライムは、
「覚えてろよー!!」
って言葉が聞こえそうな勢いで、出て来た通路の方に向かって逃げていった。
本当に鎧スライムって硬いんだな。
結構厚めに作ったはずの土壁が簡単に壊されたんだから。
でも鎧スライムはそれ以上先に行こうとしない。
「どうしたんだ、あのスライム・・・・・・
って、痛い、痛い!!」
「え?え?やっぱりまだ戦う気!?」
今の俺達じゃ完全に鎧スライムを気絶させる事は不可能だし、鎧スライムの戦意も消えたならもういいかな?
って思ってたんだけど、やっぱりプライドが許さなかった様だ。
きっとこれが今出来る鎧スライムの最大の攻撃なんだろう。
戻って来た鎧スライムは嫌がらせの様に執拗に俺の足を狙ってくる。
簡単に倒れる程の威力は無いけど、鎧スライムがかなり硬いせいで地味に痛い。
1撃1撃の威力が弱くても、このまま足を狙われ過ぎたら何時か骨折するかもしれないな。
そう思う位チクチクと痛いんだ。
骨折まではいかなくても青あざは出来てると思う。
「『フライ』!!うぅ・・・痛いぃ・・・・・・」
「なぁ、オイラ達の言葉が分かるなら、話を聞いてくれないか?
もう勝負は着いたんだ。
お前等の巣に侵入したのはオイラ達の方だけど、ここは諦めて帰ってくれないか?
オイラ達も無暗にお前達を殺そうとは思ってないからさ。
必要な調査が終わったら帰るから、ここは見逃してくれよ。な?」
今ここにジェイクさんが居ないし、『箱庭遺跡』に入ってしまった以上3人の安全の為にも無暗矢鱈に連絡を取る事も出来ない。
でも、ジャックやクライン達の様に会話出来るタイプのスライムだと信じて、『フライ』を掛けて俺達の顔の高さまで浮かせた鎧スライムに代表してルグが声を掛ける。
確かに巣にズカズカ入って来た俺達は鎧スライム達からしたら排除すべき侵入者で、どっからどう見ても俺達の方が悪い。
襲われても仕方ないし、殺されても文句を言える様な立場じゃないってのも分かってる。
でもだからって、
「お詫びにこの命と体を捧げましょう」
とは俺達も言えないんだよ。
自ら危険な場所に入っておいてそんな事言うなって言われそうだけど、死にたくないものは死にたくないんだ。
そもそもこんな、魔女達に操られ、騙され、今も連れ回されてるナト達を連れ戻すって言う緊急事態な任務を成功させる為じゃなければなければ、絶対にこんな危険な場所入りたくなかった!!
入るどころか『初心者洞窟』の入り口付近にも近づきたくなかったよ!!!
そう泣き言の様な言い訳を叫びたくなるのをグッと我慢して、鎧スライムからの何かしらの返答を待つ。
「えーと。
大人しくなったって事は分かってくれたって事かな?」
「と言うよりも、何かグッタリしてない?」
剣を扱えるならクライン達あのディスカバリー山脈に居るデュラハン達と同じ魔族分類のスライムか、そこまで行かなくて幼い子供位の知能はあると思う。
けど、行き成り問答無用で襲ってきたし、人を連れ去るって噂もあるし・・・
もしかしたら、俺達の言葉を理解しても会話出来ないタイプかもしれないなぁ。
と不安に思いつつ1人と1匹のやり取りを見守っていると、暴れ続けていた鎧スライムが急に大人しくなった。
けど、ルグの言葉を受け入れて大人しくなったって言うよりは、気分が悪くてグッタリしてる感じだ。
「あ!
もしかして、本体だけだとフワフワの草に弱いって事?」
「じゃあ、さっき戻ってきたのもあのフワフワ草の中を通れなかったから?
それで今元気が無いのもフワフワ草の煙のせい?」
「多分?」
一種の防護服の様な物だったのかな?
鎧スライムは鎧をまとってる時はフワフワの草の影響を受けない。
いや、この鎧スライムと戦い始めてから大分経つのに一向に増援の鎧が来ない事を考えると、効果が弱くなるんだろう。
その中でも特にこの鎧スライムは影響を受けにくい体質だった。
でも、硬いだけの比較的弱い本体だけになってフワフワの草の嫌な影響をもろに受けてしまったんだろう。
だから今こんなにもグッタリしてる。
そう考えると自分達の身を守る為とは言え、やり過ぎたかもしれない。
流石に死にそうな位グッタリさせるのは過剰防衛だったよな・・・・・・
でも、鎧を今直ぐに返す訳にも行かないし・・・
せめて緑化ランプの無い通路の奥までは送り返すべきかな?
「俺達も出来るだけ君達の仲間や家を傷つけない様に気を付けるからー!
それで出来るだけ早く帰るからー!!
頼むからもう襲いに来ないでねー!!!
後、復讐も出来ればやめてー!!」
そう思って鎧スライムが来た通路の土壁をもう少し壊し、フワフワの草をかき分け、箱のイメージの『スモールシールド』を何重にも掛けて、『フライ』で浮かせて。
安全の為に撮影しつつ、そうやって鎧スライムをやって来た通路の奥の方まで飛ばした。
あの鎧スライムが人一倍鈍感な体質だったって考えは合っていた様で、その通路の奥の方では何体もの動く鎧が。
仲間の鎧スライム達が心配そうに待っていた。
無事あの鎧スライムを受け取った仲間の鎧スライム達は、スタコラサッサと奥へ帰っていく。
はてさて、あの鎧スライム達に俺の頼みは届いたのかな?




