192,『真の宝はその先に』 6粒目
直ぐに体力の限界が来ない様に休み休み道なりに進んで数十分。
自分達が通って来た道を含め5本に分かれる道が続いた広い部屋に出た。
部屋と言うか交差点の中心って言う方が正しいのかな?
「えーと・・・緑化ランプは・・・・・・
あそこの通路だけか」
「待て!!」
「ッ!!」
部屋の中もさっきまで見ていたのと同じ緑化ランプに照らされ、フワフワの草の煙に薄っすら彩られている。
その緑化ランプは残り4本の内の1本にも続いていて、そのままその緑化ランプがある通路に行こうとしたら急にルグに止められた。
「ど、どうしたんだ、エド!?
まさか近くにコイン虫が!!?」
「多分違う。でも気を付けろ!
向こうの奥で何かが動いてる!!」
「向こう・・・・・・」
身構え威嚇する様に唸るルグの視線の先。
緑化ランプの無い通路の1つの先の奥で、確かにナニカ白い物が蠢いていた。
色が違うだけじゃなく、かなり距離があってもその姿が微かに見える事からそのナニカがコイン虫じゃ無い事が分かる。
コイン虫よりもかなり大きい。
多分、人位はあるんじゃないか?
それがゆっくりゆっくり近づいてくる。
「おぉおおおい・・・・・・
おぉおおおい・・・・・・」
「え?あ・・・だ・・・・・・違う!!
何、アレ!?」
その通路の奥から聞こえる助けを呼ぶ様な呻く女性の声。
そして更に近づいて来て分かった這いずる様な人の姿。
そこからその通路の奥に居るのが、運よく今まで生き残っていてくれたアドノーさんのお父さんに雇われた女冒険者だと思ったんだ。
だから大丈夫か声を掛けてその人に近づこうとして、途中で足が止まった。
違う。
アレは冒険者じゃない。
アレは・・・アレは何だ?
姿は『人』に似てる。
でも人じゃない。
「おぉおおおい」
そう聞こえる様な鳴き声を発して這いずって来るのは、一切の毛が存在しない人の様な肉塊。
力士よりもブクブク、ブヨブヨと太った、服を着せる前のマネキンと芋虫を混ぜた様な生き物だ。
生まれてから1度も日の光に当たった事が無い様な不健康な程白い肌を波打たたせて、骨が有るかどうか怪しい1対ずつある丸太の様な手足を引きずって進む。
それだけだったら何時もの巨大な虫か、そう言う地下に住むモグラやネズミの様な動物か魔物だと思えただろう。
でもソイツは間違いなく『太り過ぎたヒト』だと思える姿と顔をしてたんだ。
そう、顔。
そのブクブクした体に見合わない小さな頭に描かれた顔は、『極々普通の人間の女性』の顔なんだ。
目が沢山あるとか、口が耳まで裂けてるとか、そう言う模様だとか。
全然そんなんじゃない。
理性も知性も何処かに落として来た様に口の端から涎をまき散らし、狂気に濁った眼をしてる。
けど、その顔は間違いなく人間のものなんだ。
「ッ!!
『アタッチマジック』、『ファイヤーボール』!!」
跳ね返って危険かもしれない、とか言ってる場合じゃない!!
その人に似ていて類人猿とすら思いたくないその不気味な生き物に本能的な恐怖と嫌悪感を感じつつも、どうにかそれ等を抑え込んで『教えて!キビ君』を起動させてその生き物を撮影する。
その結果出たとんでもない情報に、俺の中の警告音はMax音量で鳴り響いた。
その警告音に従い、フワフワの草や花を固めたボールをスリリングショットで打ち出し、燃やす。
炎が苦手なのか、それともやっぱりあの生き物もフワフワの草の煙が苦手なのか。
それを検証する暇はなんって一切ないけど、その生き物が少しだけ後ずさった。
「『アタッチマジック』、『ミドリの手』!!!
『フライ』!!!
マシロ!!皆をボートにッ!!
急いで逃げ・・・ッ!!?」
予想通りあの生き物に釘付けになった様に、ワナワナと真っ赤な顔をして固まってたり、興奮しすぎて鼻血を出して蹲ったり。
そう言う性的興奮で動けないルグ、ピコンさん、アドノーさんに『フライ』を掛け軽くして、木箱ボートに放り投げる様に、俺と同じく無事だったマシロに頼む。
頼もうとした。
でもその前に、ルグの瞬間移動の様に急に近づいて来た鎧に襲われたんだ。
「避けて、キビ君!!!」
「うわぁ!!!」
「まだ!!まだ逃げて!!
早く!早くもっと遠くにッ!!!」
「わか、分かった!!」
ルグ達の事はマシロに任せ、俺はスリリングショットと『アタッチマジック』、『ミドリの手』、『プチアースウェーブ』。
そこ等辺の魔法を駆使して緑化ランプが無い通路の入口をフワフワの草と土壁で蓋しようとしてたんだ。
でも、肉塊生物の通路を塞いでる間に緑化ランプがある通路とも、あの人の様な肉塊生物が居た通路とも違う通路の奥からソイツが現れた。
胸の中心に透明感のある大きな赤い宝石がある、同色の西洋剣を握った上から下まで輝く様な銀色一色の鎧。
コイン虫じゃなくて、こっちが『人かい鎧』の昔話に出てくる鎧の正体だったか!
そう一目で分かるソイツは通路のかなり奥の方に現れて、その姿が微かに見えたと脳が認識した次の瞬間には鎧がほぼ目の前に居た。
「ス、『スモールシールド』!!!」
「ッ!!」
「マシロ!!!」
驚きのあまり仕事を放棄した俺の脳の代わりにマシロの声が俺を動かし、間一髪でその振り上げられた剣を避ける。
そのままマシロの指示に従って転がる様に鎧から逃げて、『スモールシールド』を張って更に距離を稼ぐ。
その少しだけ距離の開いた俺と鎧の間に光の剣を構えて、俺を庇う様に割って入るマシロ。
鍔迫り合いの様に剣を交わらせているけどマシロよりもかなり大きい鎧の方が圧倒的に重くて力が強いんだろう。
砂に沈む様にマシロが押されている。
「この!!マシロから離れろッ!!!」
どうにかマシロに加勢しようと滅茶苦茶に魔法を鎧に向かって放つ。
けど、鎧には痛覚が無いのか、それとも俺の魔法が弱過ぎるのか。
近くで蚊が飛んでるとも言う様に軽く片手で追い払われる様に消されるだけで、何1つ効果が無い。
その上片手でもマシロより強い様で、変わらず両手で光の剣を構えるマシロは押されてる。
ルグ達3人は肉塊生物のせいでまだ動けない様だし、このままじゃマシロがッ!!
「うおりゃああああ!!!」
「エド!!!」
それでも俺達のヒーローは必ず助けに来てくれる様で、いつの間にか鎧の横に居たルグが飛び上がり強烈な蹴りを放ち鎧の頭を吹き飛ばした。
その蹴りを放った勢いのまま体を捻りもう1撃。
回転の勢いを載せて放たれた蹴りが鎧のお腹辺りに綺麗に入り、鎧が壁まで勢いよく飛んでいく。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁあああ・・・・・・
ごめん、遅くなった!!大丈夫か?怪我は?」
「だ、大丈夫。ありがとう、エド君」
多分、まだ肉塊生物の『魅了』が完全に解けてる訳じゃ無いんだろう。
何時もなら上がらない息を上げて、赤いままの顔で熱の籠った息を長めに吐いて。
少し落ち着いてきたらしいルグが少しだけマシロから視線を反らしながら助け起こす。
「エドの方こそ大丈夫か?」
「ッ!!!お、おう!!
だ、大丈夫!大丈夫だから!!
オイラは大した事無いからッ!!!」
「なら良かった・・・・・・
って、エド、マシロ!!!後ろッ!!!」
「ッ!!」
抜けきらない『魅了』の魔法のせいでまだ頭がちゃんと働いて無いからか、俺の方が先に声を掛けるって可能性が頭の中から抜けていたんだろう。
驚きのあまり挙動不審になるルグ。
本人が大丈夫って言ってるし、自力で動ける分ピコンさんとアドノーさんよりましだろう。
と胸を少し撫で下ろしたのもつかの間。
首を吹き飛ばされ、生身なら骨を折ってそうな勢いで飛ばされた鎧が立ち上がり、エドとマシロを襲おうとしてた。
「何でコイツ首吹っ飛ばしたのに動け・・・・・・
中身が無い!?」
「やっぱり幽霊がッ!!」
誰も入ってない空洞の鎧。
それがひとりでに動いてる。
昔話の通り幽霊の仕業なのか、予想した通りディラハンの仲間なのか、それとも別の生き物なのか。
その判断は首無し鎧が休まず襲ってくるから出来ない。
でも、飛ばされた首はピクリと動かないのに体の方だけが動くって事は、体の方に本体があるって事だよな?
何処に本体が居るのか探す余裕なんってくれそうにないけど。




