191,『真の宝はその先に』 5粒目
「と言う事で。あそこまで調べに行くならぁ・・・
やっぱり『フライ』より脚立?」
「別に『フライ』で大丈夫じゃないか?
此処、風の魔元素が流れてる感じしないし」
「そう?じゃあ、『フライ』!」
アドノーさんの意見を優先させると決まって、近くの緑化ランプを見上げてからもう1度辺りを見回す。
ルグの言う通り、歩き辛いとかポヨンポヨンした感じがするとか。
入る前に予想していた様な風の魔元素が流れてる様な感じはない。
だから『フライ』を使っても『流砂の間』の様な事は起きないと言われ、俺は木箱ボートに『フライ』を掛けた。
「どう、マシロ?
何に反応してランプが点いたか分かる?」
「うーん・・・・・・
道具が無いから細かい所までは分からないけど・・・
多分・・・煙か・・・匂い。多分、煙の方かな?
フワフワ草の煙を感じたらランプが点くんだと思う」
「煙かぁ・・・・・・
だとぉ・・・まずぅ・・・・・・」
マシロとアドノーさんを連れて1番近くの緑化ランプの元まで行って、心の中でゆっくり60数える。
その後マシロの様子を見て、少し待ってから声を掛けた。
軽くマシロが調べた感じ、此処にある緑化ランプには煙センサーが付いてる様だ。
それだと俺達とアドノーさんのお父さんの間にどんな違いがる?
アドノーさんのお父さんはヘビースモーカー。
此処に初めて入った時もフワフワの草の花が使われた花煙草を吸っていたはず。
だからその煙草の煙を感知してランプが点くはずなんだけど・・・・・・
光苔や風の流れの影響?
それか、フワフワの草以外が混じってるとダメとか?
それとも、俺達の五感じゃ分からないけど『財宝の巣』の中には重さの違う気体が溜まってる?
その気体の層の何番目よりも、色々混ぜたフワフワの草の花煙草の煙が重くて、センサーまで煙が届かなかった?
あぁ、それかアドノーさんのお父さんの身長の問題とか?
いや、煙草の煙って結構広範囲に広がるって聞いた事あるし・・・
でもクエイさんの吸ってる煙草の煙の事思い出すと、この世界の煙草の煙はそこまで広がってる感じしないんだよなぁ。
いや、この世界の煙草全種じゃなくて、花煙草や薬煙草の様な一部の煙草だけがそうなのかもしれないけど。
そうじゃなきゃアドノーさんに自白剤の薬煙草使った時、間違いなく俺達にも影響があった。
だから素材だけじゃなくそう言う煙とかのアレコレも俺達の世界の煙草とは大分違うかもしれないんだけど・・・
クエイさん特製で、人間時に基礎魔法を使う時にも使う物な訳だし、クエイさんが吸ってるからそこ等辺もコントロール出来るって事かもしれないし・・・
取り敢えず、どんな考えでも出来るものから1つ1つ確認していくか。
「アドノーさん。
お父さんの身長ってどの位でした?
背がとても小さくて煙草の煙が届かなかったって事は?」
「無い、無い。
父さん、今でもピコン君よりも大きいのよ」
「・・・アドノーさんのお父さん、かなり背が高かったんですね」
「そう?
確かにヒヅル国人からしたら大きいかもしれないけど、こっちだと普通位じゃないかしら?」
確かにロアさんもリカーノさんも館長さんも、ロビビアの宿屋の息子さんや博物館の男性職員さん達も。
今まで出会ったチボリ国人の男性は皆俺よりも背が高い、を通り越してアドノーさん達女性陣も基本俺より背が高いんだ。
人種柄ローズ国人と同じく背が高いらしいチボリ国人からしたら、俺は小さい方だろう。
でも、180cm以上は間違いなくデカいって言いたい!!
何度でも言うけど、周りがデカいんだ!!!
そのせいで小さく見えるだけなんだ!!
俺はッ!小さくッ!無いッ!!!
「まぁ、あの入れ物の煙が届いたなら、父さんの煙草の煙も届いてたはずよ。
身長のせいで煙が届かないって事は絶対に無いわ」
「なら、気体の重さが原因か、不純物があると反応しないんでしょうね。
アドノーさんのお父さんが吸っていた煙草を送って貰って此処で実験するか・・・」
「父さんが吸ってた花煙草なら持ってるわよ。
・・・ピコン君ー!エドくーん!!」
「なに
「ちゃんと受け取ってね!!」
か・・・・・・うわあ!!!」
「あっぶな!!
投げるなら投げるでちゃんと言ってくれ!!!」
証拠集めに必要になるかもしれないから、昨日の内に送って貰った。
そう言って銃と一緒にぶら下げたウエストポーチから小さな革製のケースを出すアドノーさん。
そしてそのケースから煙草を1本取り出したと思ったら名前を呼ぶだけで詳しい事は何も言わず。
振り返りつつ返事しようとしたピコンさんの言葉を遮って、下に居るルグとピコンさんに向かってその煙草を投げた。
ルグの怒りの言葉を軽く流すその態度から言っても聞いてくれなさそうだって事は分かってるけど、これだけは言わせて?
アドノーさん、ルグが上手くキャッチしてくれたから良いけど、今のは流石に無茶ぶりが過ぎます。
もう少し、言葉のキャッチボールもして!!
「うーん・・・・・・見た感じぃ・・・
煙が届かないって事は無さそうですね」
「なら、何も混じってないフワフワ草の煙じゃ無いと反応しないって事かしら?」
「恐らくは・・・・・・」
ルグとピコンさんに、花煙草の煙で軽く実験したいって事を伝え、ルグが火を着けて立ち上った煙を見る。
薄くて見えにくいけど、煙は間違いなく緑化ランプの辺りまで立ち上っていた。
風の影響や気体の重さとかの影響も殆どなさそうだし、多分純粋なフワフワの草の煙にしか反応しないって事なんだろう。
もっと詳しく実験したら別の答えが出るかもしれないけど、今は一旦此処まで。
もう、決めてた時間だ。
「・・・・・・おーい!5分経ったぞー!!」
「はーい!!
って事で、マシロ、アドノーさん。戻りますよ」
「待って!待って、キビ君!!
もう少しだけ・・・・・・」
「ダメです。延長は無し!
ほら、ほら。ランプから手を放して」
「うぅ・・・・・・」
最初に緑化ランプを調べる時間を決めておかないとマシロが動かなくなる。
そうルグに言われ緑化ランプの調査時間は5分と決めた。
その5分は話し合ったり軽く実験したりであっと言う間に過ぎてしまった様だ。
5分経ったと懐中時計を見ながら言うルグに返事をして、5分間ずっと緑化ランプに噛り付いていたマシロを見る。
まだまだマシロは調べ足りなそうだけど、これ以上は絶対にダメ!
何を言われ様と、どんな態度を取られ様と、何が何でもルグ達の元に戻ります!!
「もう少し見てたかったぁ・・・
調べたかったぁ・・・・・・」
「何度も言ってるだろう、マシロ。
駄目なモンは駄目だって。
まだまだこの先に凄い魔法道具あると思ってさ、キッパリ諦めて先に・・・
進んで良いんだよな?」
「うーん・・・・・・もう少し待って。
1度ランプ消して、煙草の煙で本当に点かないかチェックしたいから」
シクシク泣いてそうな声で緑化ランプに対する未練を訴えるマシロ。
そんなマシロを宥めつつそう言ってルグは首を傾げる。
本当にフワフワの草だけを燃やした煙じゃ無いと緑化ランプが動かないか、ちゃんと調べておかないと。
ここのチェックを怠って後で検事さんに、
「実際にはその花煙草の煙でもランプは動いた!
だからお前達の推理は根本的に間違ってる!!」
って、
「異議あり!!」
されるかもしれないし。
いや、相変わらずの杞憂かもしれないけど、ここまで来たならそこも調べた方が良いよなぁ。
って思ったんだ。
アドノーさんも賛成してくれたし、一旦入れ物の中のフワフワの草の火を消して、煙も出ない様に蓋をして。
そして出入口の小部屋まで戻る。
「じゃあ、煙草に火を着けますね!
いいですかー!?」
「良いわよー!!」
俺達の安全の為に蓋を外して入れ物の中のフワフワの草に火を着けて待つ事数分。
完全に緑化ランプの明かりが消えたのを確認して、『プチライト』片手に俺とルグはさっきランプが点いた場所まで来た。
薄暗くてもちゃんと俺達の姿が見えてるか、そして鳥型ゴーレムの通信鏡にも映ってるか。
そこ等辺もしっかり何度も確認してからルグに火打石で俺の手の中の花煙草に火を着けて貰う。
「・・・・・・3分経過。全然点かないな」
「次!フワフワの草に火を着けます!!」
「りょうかーい!!」
さっきルグとピコンさんが火を着けた時と同じ様に、フワフワの草が混じった花煙草から薄い煙が立ち上る。
でも周りが薄暗いからその煙がさっきよりもよく見える。
何処かに流される事なく真っすぐ真っ直ぐ立ち上る煙。
天井にぶつかって広がる様に消える煙に、緑化ランプ達は無反応だ。
勿論煙草を持ったまま緑化ランプの下に行ってもそれは変わらない。
最初にこの通路に足を踏み入れた時の様に暗闇に慣れた目を焼く様な強烈な光を直ぐに放つ事なく、無反応のまま3分も経ってしまった。
そう懐中時計を見るルグに教えて貰い、少し短くなった煙草を地面に落とし砂を掛け、トドメとばかりに『プチレイン』を使って水も掛けておく。
そこまでシッカリ火の処理をしてから、ゴミ袋用のビニール袋に煙草を入れる。
ポイ捨て、ダメ、絶対!
そこまで処理を終わらせて、ある程度花煙草の煙が落ち着いたのを確認して、出入口の小部屋に居るマシロ達3人に声を掛けて。
今回もそこまでシッカリやってから、地面にこんもりと置いた『ミドリの手』で出したフワフワの草の花の山に火を着ける。
「ウッ・・・・・・」
「今度はちゃんと動いたな」
「そう、だな・・・・・・
ウゥ・・・やっぱ眩しい・・・・・・」
「大丈夫、エド?
ごめん。グラサンとか出しとくべきだったな・・・
配慮が足りなくて、本当ごめん」
「もう大丈夫だからそんなに気にするなよ、サトウ」
「・・・ありがとう」
今度は無事ランプが点いたけど、俺達よりも五感の鋭いルグにはこの急に灯るランプの光は強烈だったろう。
薄暗いと言ってもかなり暗いよりの所から急に激しく輝いたなら尚更だ。
そこ等辺を考えて事前に対策出来なかった。
そう反省してたら、ルグが気にするなって言ってくれた。
それでもちゃんと考えるべきだったとか、火を着ける前に目を瞑っててと一声掛けるべきだったとか。
色々言いたい言葉は渦巻いてるけど上手くまとまらなくて、結局お礼を言うだけになってしまった。
「サトウ君の予想は当たってたみたいだね」
「はい。
アドノーさんのお父さんが此処に来た時にはランプは点かなかった。
コイン虫など危険な魔物から逃げてたのか、自分達の意思で進んだのか。
そこはまだ分かりませんが、ランプが点かなかった事でドンドン奥に進んでいったのは間違いないと思います。
それで・・・」
「どう言う理由で奥に進んだのかは依頼書の調査待ち。
って事で、アタシ達も奥に行きましょう」
「はい」
そうピコンさんとアドノーさんに頷き返し、此処で出来る調査が無い事を確認して、漸く俺達は『財宝の巣』の奥に歩みを進めた。




