190,『真の宝はその先に』 4粒目
「だと・・・可笑しく無いか?」
「可笑しいって何がだ?」
「アドノーさんのお父さん達がこの緑化ランプを無視して奥に行った事」
アドノーさんのお父さんもあの緑化ランプで盛り上がる職員さん達の一員だったんだ。
そしてそんなアドノーさんのお父さんに雇われていた冒険者の中には長年チボリ国で活動してた人達も居た。
事前にアドノーさんから聞いたり博物館で調べた感じからして、アドノーさんのお父さんが雇った冒険者は出稼ぎのヒヅル国人より断然チボリ国人の方が多い。
だから最後までアドノーさんのお父さんと一緒に居たのが、チボリ国のお宝事情に疎いヒヅル国人だけと言う可能性はかなり低いはずなんだ。
だからこそ、此処に緑化ランプがあるって気づいたなら、冒険者達もこの入って直ぐの所から動かなかったはず。
と言うかその冒険者の中の誰か1人位、
「こんな仕事やってられるか!!
俺はこいつを売って豪遊しまくるんだ!!」
とか言って緑化ランプ取り外してアドノーさんのお父さんの依頼ボイコットして外に出るはず。
どんなに真面目な人でも多くの同業者が途中で消えて、コイン虫とかに襲われて。
この先に進んだら自分の命も危ういかもしれないって極限状態で億や兆を超えるお宝が沢山ある光景を目にしたら、1人位魔が差しても可笑しく無いと思うんだ。
でも、1年後アドノーさんのお父さんが出てくるまで誰1人途中で外に出ず、何の躊躇いもなくかどうかは分からないけど、仕掛けの扉が閉まった事に気づかない位の奥にまで進んでいった。
もし『初心者洞窟』でコイン虫とかに襲われて、外に繋がる出入口方面も塞がれて、天井の穴から出るのに必要そうな空を飛べる魔法や魔法道具も無くて。
泣く泣く『財宝の巣』の方に追い込まれる様に逃げて来たとしても、鳥型ゴーレムが持ってる入れ物の様に緑化ランプからもフワフワの草の煙が出てるんだ。
だから、コイン虫はこの通路まで追いかけて来れないはず。
安全も確保されて、その安全を提供してくれたのが緑化ランプだと気づいたら、やっぱりアドノーさんのお父さんもこの近くから基本動かないと思うんだよ。
緑化ランプを持って誰かが逃げ出したとしてもやっぱりコイン虫に襲われる事なく脱出出来るはずだし・・・
「アドノーさんはお父さんから此処に緑化ランプがあるって聞いて無いんですよね?」
「聞いてないわよ。
そもそも父さんが緑化ランプの事言ってたらもっと兵士達も真剣に『流砂の間』を調べて、今アタシ達が此処に居る事も無いし、父さんだって死刑を言い渡されたりなんてしてないわ!!」
「その前にアイツなら、緑化ランプを見つけた時点で1度戻ってきそうなんだよ。
それが無いなら気づかなかったって事じゃ無いか?
流石にその状況で気づかないと言うのは無理があると思うが・・・」
「そうですよね。
ですから、恐らく、アドノーさんのお父さんが来た時はこのランプが動かなかったんだと思います」
もしアドノーさんのお父さんも緑化ランプに気づいていたなら、入り口付近から動かない。
どころか、一緒にこの世紀の大発見を調べる為に1度博物館に戻ってきて職員さん達を連れて戻って来るはずだ。
とアドノーさんのお父さんと親しかったらしい職員さんの声が教えてくれる。
職員さんの言う通り1度戻って来たなら、3年前の時点で『流砂の間』や『財宝の巣』の事は世間に知れ渡ってたはずだし、此処の情報が伝わってるんだから閉じ込められても外に居る誰かが迅速に穴を開けて助けてくれたはず。
それは雇われた冒険者の誰かが逃げ出した場合でも同じ事。
そして何らかの理由で伝えに行かず緑化ランプを調べていたとしても、入口がこんなにもハッキリ見える此処等辺に居たなら閉じ込められそうになってるのに気づいて急いで出ていくはずだ。
そして、無事出れた人達の証言や持ってる依頼書から救助隊が組まれたはず。
何にしても緑化ランプに気づいたなら、アドノーさんのお父さん達が1年間も閉じ込められたり、コイン虫達に無残に襲われ命を落とすなんて事、起きなかったはずなんだ。
だけど実際にはその最悪過ぎる事が起きてしまった。
なら、逆説的に、
『アドノーさんのお父さんは緑化ランプに気づかなかった』
って事になる。
でも、こんなに明るくて、通路の遥か遠くまで緑化ランプが続いてるんだぞ?
職員さんの言う通り、気づかなかったって言うのは流石に無理があるだろう。
なら、どうして気づかなかった?
どうしたら『気づかない』って状態になる?
何らかの理由でアドノーさんのお父さん達全員の目が一時的に見えなくなった。
とかそう言う状況じゃ無ければ、
『ランプが動かず、洞窟内が薄暗いままでかなり上の隅の方にあるランプに気づけなかった』
って状況が1番現実的だろう。
緑化ランプが動かないって事は、魔法道具としての効果で上に昇らずランプから壁伝いに下に流れる煙も出なかったって事。
フワフワの草以外にも色々煙草の素材が混じってるからか、アドノーさんのお父さんが吸っていた煙草だけじゃコイン虫を完全に追い払えなくて、その上追加の純粋なフワフワの草だけの煙も無い。
そんな状態で追いかけられるまま奥へ、奥へ、追いやられて・・・・・・
そこまで考え、骸骨さんの事を思い出しブルリと体が震えた。
「ッ・・・・・・
このランプが点いて直ぐは人感センサー・・・
えーと・・・・・・
人を感知して点く仕掛けが施されてると思ったんです。
でも、アドノーさんのお父さんの状況を考えると、多分違う。
証拠として、俺達が来た時とアドノーさんのお父さんが来た時の違いと、何を感知してランプが点いたか。
そこ等辺は調べた方が良いと思うんですよね」
「つまり、緑化ランプ調べていいって事!!?」
「この先の調査の時間考えて、調べるなら軽くだけね。
詳しい調査は何時でも此処に来れる様にこの先にあるはずのウォルノワ・レコードの真上にでも穴を開けた後・・・・・・
いや、来年また改めてって事で」
「えー・・・・・・」
震える体をどうにか抑え、そう口にする。
最初俺達が入った時ランプは1つも点いて無かった。
そしてただ歩いていたら急に点いたって事を考えると何かのセンサー。
俺の予想通りアドノーさんのお父さん達が来た時はランプが点かなかったとしたら、恐らく人の姿や熱、重さ以外のナニカを感知して点いたんだと思う。
アドノーさんのお父さんの無実を証明する為にもそこ等辺と、俺の考えが合っている証拠を探さないと。
そう思ってランプを調べたいって言ったら、目に見えてマシロの目と顔が輝いた。
でも、ずっと此処に留まってるつもりはないからね?
調べるならナト達の事まで全部終わった後で。
そう言ったらこれまたあからさまにマシロの顔が膨れた。
「そもそも、そこ等辺まで調べる必要あるか?
証拠としてはもう充分だろう?
『流砂の間』や『財宝の巣』の存在も証明できたし、コイン虫も捕まえた。
裁判をやり直すなら十分だと思うけど?」
「確かにそうですね。
さっき送って貰った死体。
その死体が持っていた鞄の中に依頼書も入ってたんです。
だからエスの最初の目的はもう達成してるんですよ」
まさかの嬉しい誤算。
あの髑髏さんの依頼書が残ってたとは・・・・・・
だからだろう。
まだ詳しく内容を調べてないらしいけど、リカーノさんはそれでも十分証拠は揃ったと思った様だ。
だから緑化ランプを調べるのに反対したルグに賛成した。
「後はウォルノワ・レコード見つけて、そこから『箱庭遺跡』に今でも行けるかどうか確認して。
緑化ランプの事は全部来年に回して、それで戻ってくればいいじゃないか」
「そうですねぇ・・・・・・
『裁判をやり直す』って点では確かに今のままでも十分でしょう。
でも、完璧な『無実放免』を勝ち取るには弱いと思うんですよ」
「何処が?
冒険者達を殺したのはコイン虫だろう?
サトウが前言った通り、仕掛けのせいで帰れなくなってコイン虫に『魅了』されて死んだ。
今の証拠でも十分それが証明出来る訳だから、当然無罪も勝ち取れると思うけど?」
「そう?
でも、責任問題、って言えば良いのかな?
どう言う契約内容で依頼を受けたか分からないけど、何時もと違う事が起きたのに誰にも言わずに中に入ったからいけないんだとか、冒険者達が止めるのを無視して先に進んだからいけないんだとか。
そこ等辺ネチネチ突っつかれたら厳しくない?」
直接殺してないけど、雇った冒険者達が死んでしまう原因を作った。
緊急事態だとか仕方なかったとか関係ない。
間接的に殺したって事で有罪!!
ってこの世界の検事の様な役職の人に言われるかもしれないし、この世界に『正当防衛』や『緊急避難』の考えがあるかも分からない。
そもそも此処はまだ『財宝の巣』の入口。
この先どれだけのコイン虫が。
正確に言えば昨日見かけたコイン虫達の後何倍、何十倍居るか。
そこ等辺も全く分からないけど、確実に昨日見かけたアレよりも沢山居るのは確かで、だから今みたいにゆっくり証拠集めが出来る訳無いんだよな。
そう言う色んな事を考えると、念の為にそこ等辺を言い負かせる証拠や、集められる証拠は出来るだけ集められる内に集めた方が良いと思うんだ。
いや、俺、この世界の裁判とか全く分からないから杞憂に終わるかもしれないけど。
と言うかルグ達の表情的に完全に俺の杞憂だったな。
「流石にそれは考え過ぎだぞ、サトウ」
「そうかな?
俺の地元の裁判とか題材にした物語だと、重箱の隅を突っつく様な感じでさ。
あの手この手。
証拠のでっち上げまでしてでもで被告人に有罪判決を下して欲しい側と無罪や減刑を下して欲しい側でバッチバチに何日もかけて戦うんだよ。
だからそう言う考え過ぎな細かい所まで突っ込まれてさ・・・・・・
こっちだと違うみたいだな」
「違うなぁ。
そもそも証拠の捏造って・・・・・・
サトウの地元じゃどうだか知らないけど、あの手の職業に着ける奴の中にそんな性格の悪い奴なんてそうそう居ないだろう?
と言うかそこ等辺まで思いつく奴がまず居ないって」
どうもこの世界の検事さんや弁護士さんはとても純粋な人じゃないとなれない様だ。
それだと俺達の世界の弁護士さん達はかなり強烈で個性的な人達に見えるだろう。
そう思いつつ今ナト達の事で激闘を繰り広げてるだろう弁護士さん達の事を思い出したらしい少し渋い顔をして考え過ぎだと言うルグに、気を付けながら言葉を返してアドーのさんに向き直る。
「と、俺の考えはこうですけど、アドノーさんはどうしたいです?
調べます?それとも十分と先に進みます?」
「そう・・・ねぇ・・・・・・
やっぱり集められる証拠は集められるだけ集めたいし、緑化ランプの事も調べましょう」
「珍しい魔法道具だからじゃなくて?」
「そんな訳あるか」
「流石に今回は冗談だよ。
でも、出来るだけ早くやるべき事終わらせて、早く出てきてね?」
「分かってる。
この調子ならそんなに時間も掛からないさ」
あーだこーだ言っても最後に決めるのは依頼人のアドノーさんだ。
俺達じゃない。
そう思ってアドノーさんに聞いたら、かなり真剣に悩んだ後念の為に調べると言った。
それを聞いてコテンと首を傾げるリカーノさんに、
「馬鹿にしてるのか?」
と言いたげな声音で言葉を返すアドノーさん。
ユマさんやマシロの様に仕事中でもつい趣味に走る訳じゃ無く、あくまでも父親の為。
そう声と雰囲気にその思いを表すアドノーさんに、リカーノさんは小さく笑って冗談だと言う。
悪い予想がことごとく外れて思ったよりも順調に進んで、何時も通りの2人の遣り取りなのかな?
リカーノさんにも少し意地悪な冗談が言える位の余裕が出て来たって事だろう。
行きの今が良い分、帰りが酷く悪くなるって事が無いと良いんだけど。
この不安も杞憂で終わってくれるかな?




