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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 1 章 体験版編
42/498

41,苺とサラマンダー 2粒目


「此処がサラマンドラの森か~」


楽しみ過ぎてハイテンションのルグとユマさんに日の昇り始めた内から起こされ、予定通り弁当を作ってイチゴ狩りに向かった。


サラマンドラの森の近くの村までアーサーベルから蟹の甲羅を背負った馬サイズハムスター、ヤドカリネズミが引く新幹線かそれより少し遅い位の速さの馬車に揺られて約2時間。

その村からゆっくり30分位歩いてやっと森に着いた。


近くを流れる川のお陰で森の中は涼しく、ほどよく太陽の光に照らされた木漏れ日と明るい草木の緑が目に優しい。

近くの村の人達が良くこの森に来るのか、道も整備されている。

サラマンドラの森はイメージしていた鬱蒼とした森と違い、巨大な森林公園と言った感じだ。

近くの草むらを良く見ると、6本の足の蜥蜴やリクガメと蜥蜴を混ぜた様な生き物達が普通に居る事を除けば、だけど。

スライムやコカトリスと同じく、何も知らない俺からしたら恐ろしいモンスターだけど、俺達と同じ様にイチゴ狩りに来たらしい沢山居る近くの村の人達は、誰一人近くを通った蜥蜴モドキ達に驚いたり怖がったりしていない。

それに俺達と同じく、子供だけでイチゴ狩りに来てるグループも居る事だ。

見た目は兎も角、得に問題ないんだろう。


「えーと。

此処等辺は近くの村の人達が沢山居て、イチゴ摘めそうに無いね」

「そうだな。もう少し奥に行こうぜ」


ルグとユマさんの言う通り森に入って直ぐのこの場所では、近くの村の人達が思い思いに赤い実を摘んでいて俺達が入れる隙が無い。

奥に行けば行く程村人らしい服装の人から冒険者らしい服装の人に変わって、人が少なくなっている。

奥に行けば、それだけサラマンダーが居る可能性が高くなるから村人は近づかないんだろう。


奥に行くのは腕に自信がある冒険者か、自分の力を過信した愚か者か。


ルグとユマさんが強いと言っても奥に行き過ぎるのは危険だ。

周りの人達の様子を見てそんなに奥に行き過ぎない範囲を見極め、イチゴを摘む場所を選ばないと。


「あ!此処沢山生えてる!!

他に誰も居ないし此処で摘もうぜ!!」

「魔物や動物も~・・・・・・居ない、ね。

うん、此処にしよう!」


俺達が見つけたのは舗装された道から少し外れた誰も居ない、広場の様な所。

直ぐ側には幅が広く、深いけど流れが穏やかな川が流れている。

その広場には赤、ピンク、黄色、オレンジ、黒、紫、紺、青、緑、白。

色取り取りのラズベリーやブルーベリー、赤スグリ、クランベリー、ブラックベリー、桑の実などに似た実が3人でも採り切れない程群生していた。


此処に来るまでに見た村人や冒険者も同じ様な実を摘んでいたし、この世界のイチゴ狩りはストロベリーだけを摘むんじゃなく『ベリー』全般を摘むみたいだ。


「少し、奥に来過ぎたと思うけど・・・・・・

周りにも川の中にも魔物や動物は居ないし、人所か他の生き物の足跡や、イチゴや近くの草木を食べた後も無い、と」


近くに川があるから、魔物や動物が居た痕跡や何かの巣になって無いか慎重に調べる。

こんなにイチゴがあるんだ。

他の草食動物達が来ても可笑しくないのに、足跡や食べた跡、フンなんかの生き物が居た痕跡が一切無い。

それに爪で引っかいたとか何か他の生き物の縄張りの跡も無い様だ。

巣がある様にも見えないし、ここは森に住む魔物や動物も知らない、俗に言う穴場ってやつなのか?


「2人共、摘むのに夢中になり過ぎない様にな」

「うん!分かってるよ、サトウ君。

サトウ君こそ気をつけてね。

この前のスライムみたいに固まらないでね?」

「あー、うん。

魔物にも大分慣れてきたから大丈夫・・・だと思う。

・・・・・・・・・多分」


ユマさんの言う通り、俺が1番危ういな。

注意した奴が1番危なそうでは説得力に欠ける。

苦笑いしか出てこないよ。


「本当に気をつけてね?」

「あぁ」

「えーと、うん。じゃあ、私達も摘もうか。

もたもたしてるとルグ君に全部食べられちゃうよ?」

「確かに、そんな勢いがあるな。

ルグー、少しは俺達の分も残してくれよ?」

「分かってる~」


既に摘み始めたルグは摘んだそばからドンドンイチゴを口に放り込んでいる。

沢山あるからと言って、このままだと全部ルグの胃袋に入りそうで怖いよ。

ルグに全部食われる前にと、俺とユマさんも負けじとイチゴを摘み始めた。


「うん、美味いな」


口に入れて噛み締めると味が濃く、でもくどくない甘酸っぱさが口いっぱいに広がる。

店で売ってる物や俺の『ミドリの手』で出すよりずっと美味い。

ルグとユマさんも満足そうだし、それだけでも来たかいがあるな。

幾らでも食べれそうな程美味いけど、弁当もあるしここで食べるのは程々にしよう。

それにこんなに美味いならこのイチゴで菓子を作りたいし、ナトや父さん達へのお土産に持って帰りたい。

沢山持ち帰って食料庫で保管して、少しずつ使う事にしよう。


そう思い、バクバク食べたいのを我慢して俺は摘んだそばから袋に詰めた。

袋が足りなくなったら薔薇草を集めた時と同じ様に『クリエイト』でビニール袋を作り出して詰める。

そのイチゴを詰めた袋を満杯になる端から鞄にドンドン入れるけど、相変わらず鞄は羽の様に軽く重さを全く感じない。

入ってる物の量を考えると、本来なら1人で持てない程重いはずなんだけどな。


その理由はユマさん曰く、布の間に挟んだ時空結晶の板のお陰らしい。


本来なら、時空結晶の板を挟んだ鞄でも重さを消す事は出来ないそうだ。

どんな物でも幾らでも入るだけで、重さはそのまま。

しかし、この鞄に使っている雑貨屋工房の爺さんが作ってくれた時空結晶の板は、作る時の特殊で精密な工程で入れた物の重さを消しているそうだ。


「少しでもこの工程でズレやミスが有ると効果が無くなっちゃうんだよ。

ジャックター国の職人でもこれが出切る魔族はほんの僅か。

それが魔法道具作りにおいてそんなに進んでいないローズ国の職人でこれだけの技術が有れば王様の専属鍛冶師でもおかしくないよ!!」


そう言って昨日の夜、この鞄や雑貨屋工房の商品を見たユマさんが、何時もの様子からは想像出来ない程興奮気味に言っていた。

あんなユマさん、初めて見た。

ルグは慣れているらしく、気にしてなかったけど。

あとユマさんは、


「作った人の技術力と商品の値段が釣り合わない!!

安過ぎる!!

名前が売れてないのも可笑しい!!!」


とも言ってた。

俺は魔法道具や剣、防具の目利きなんて出来ない。

けど、『アイテムマスター』のスキルを持つユマさんがここまで言うなら、爺さんは本来『伝説の鍛冶師』とか『鍛冶の達人』とか呼ばれ持て囃されている筈だ。

それなのに爺さんは、何故新人冒険者御用達の街の鍛冶師に収まっているんだろうか?

あー、いや。

あの魔女やおっさんの専属になる位なら、街の無名鍛冶師さんのままが良いと思ってるのかもな。

他の国に行かないのもあの街に愛着が有るとか、家族の為とか理由があるのかも。

今度雑貨屋工房に行ったらさり気無く聞いてみるか?


とりあえず、この鞄は爺さんのお陰で幾ら詰め込んでも重さを感じない。

本当、雑貨屋工房の職員さんのお陰でこの世界に来て直ぐ良い物が手に入った。

雑貨屋工房様様だよ。


「う~ん。

ラズベリーみたいなのは沢山手に入ったんだけどなぁ・・・

イチゴ狩りに来たならやっぱ、ストロベリーが欲しいよな」


俺の中のイチゴ狩りのイメージはやっぱ苺を摘む方だ。

美味いこの世界のイチゴが手に入ったと言え、苺が無いのは違和感がある。

この世界でも苺の旬が過ぎているのか、この近くには・・・


「あ、あんな所に在った」


ふと視界に入った近くを流れる川の直ぐ側。

赤と緑の塊の様な対岸に群生している所から虫か鳥によってこちら側に種が運ばれ生えたらしい、それ。


そこに在ったのは俺が良く知る苺。

背の低いピーマンに似た茎から生えているけど、苺として食べる花たくの部分は色と言い形と言い、間違いなく苺そのものだ。

この世界の苺はあんな風に生るんだな。

川の直ぐ側だからともう1度注意深く周りを見回してから、光沢のある鮮やかでムラの無い赤い色の一段熟して美味そうなその苺に近づき摘もうとして、ふと手を止める。

意外と近くに在ったこの苺の存在にルグとユマさんが気がつかないのは可笑しい。

苺に似ているけど危険な植物なのかも・・・・・・

寧ろ植物の姿をした魔物とか・・・


「・・・・・・・・・ルグー、ユマさーん!!」

「サトウー?どうかしたかー?」


そう思った俺は苺から1歩離れ、振り返り2人を呼んだ。

その時鞄が苺にでも当たったのか小さく草の擦れる音がして、『スモールシールド』を唱えつつ慌ててもう1度苺を見る。

腰の辺りにも当たった気がするし、苺が魔物だったら鞄がぶつかった衝撃で襲ってくるかも知れない。

頭を過ぎった恐怖とは裏腹に今ので特に苺が襲ってくる様子も無いし、魔物じゃな・・・いんだよな?

唯の植物と思っていいんだよな?


暫く睨む様に見続けても風に揺れるだけで別段可笑しな動きをしない苺に少しホッとしていると、俺に呼ばれた2人が不思議そうにイチゴを摘む手を休め近づいて来る。


「この苺なんだけど・・・・・」

「あ、それはッ!!」



ガサッ



「ん?」


ユマさんが何か言おうとした瞬間、対岸の草むらから音がした。

魔物か動物か、それとも冒険者か。

何が飛び出すか分からない。

瞬時に警戒し武器を構えた俺達の前にガサガサ音を立てて現れたのは、カチカチ歯を鳴らす一昔前ペットとして人気者だったあの両生類。


「え~と、確か・・・・・・

ウーパールーパー?」


テレビで見たものより体が赤く、歯が生えていて、立ち上がれば俺と同じ位大きい事を除けば俺が知っているウーパールーパーと同じ。

高橋がウーパールーパーは水の中でしか生きれないとか言ってたけど、ウーパールーパーは両生類だし、ここは異世界だ。

ウーパールーパーが陸に居ても可笑しくないだろう。

俺が知っている動物の生態が記憶と違っても、大きさが異常でも、もう驚かねぇぞ!


「だからと言って油断は出来ないのは変わらないか。

・・・・・・・・・って2人共どうしたんだ?」


俺はウーパールーパーを見据えたまま、ウーパールーパーが現れてから一言も喋らない2人に声を掛ける。

ウーパールーパーから視線を外せないから2人がどんな表情をしているか分からない。

けど、何となく2人の雰囲気が可笑しい様に思えた。

それに2人が無言でゆっくり後ろに下がっている音がするし。

それに合わせて俺もバックしているけど。


俺達が下がる度にウーパールーパーは歯を鳴らしながらゆっくり近づいてくる。

俺達が1歩下がればウーパールーパーが1歩進む。

一行に距離が開かないどころかドンドン狭くなる。

それにしても、2人共本当どうし・・・・・・


「ん?ちょ・・・・・・・・・まさか!!」


漸くその事実に気づいて、サーッと血の気が引いた。

きっと今の俺は真っ青な顔になっていってるんだろう。

それとほぼ同時にウーパールーパーが歯を鳴らすのを止めた。

そして、正解だと言わんばかりに、ウパールーパーの口の近くに灯ったのは青白い光。

いや、



ボッ



青い炎だ!

その炎を見た瞬間、俺の脳内でドヤ顔をして親指を立てた高橋が、


「ウーパールーパーの日本での正式な名前は『メキシコサラマンダー』って言うんだぜ☆」


と言ってくる。

うん、出てくるのが遅いぞ脳内高橋!!

火を吐いて名前にモロ『サラマンダー』って付いてるって事は、このウーパールーパーが小母さんの言ってたサラマンダーじゃねぇか!!

もっと早く脳内高橋が出てくれば、即行ルグとユマさんを掴んで『フライ』で逃げてたぞ!!!


「サトウ君ッ!!伏せて!!」

「うわぁあああああああっ!!!!」


サラマンダーの口近くに灯ったのが炎だと気づいた俺は、脳内高橋に対するツッコミと言う名のパニックに陥った。

それでもユマさんの声に反応し伏せる様に地面を転がったのは、ここ一週間近くで染み付いた条件反射なんだろう。

そんな俺達の頭上擦れ擦れで火炎放射の様な青い炎が放たれる。

ウーパールーパーが吐いた炎によって俺達の後ろに在った木が一瞬で灰と化した。

後1歩遅かったら俺もあぁなっていたのか。


「大丈夫か!!サトウ!?」

「あ・・・あぁ。なんとか・・・・・・」


恐怖で震える足を何とか立たせ、ルグとユマさんに頷き返す。


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