187,『真の宝はその先に』 1粒目
予定よりも10分は早く収まった風と宴の音。
定点通信鏡の映像で『初心者洞窟』の出入口の通路も中間終わり位から激しい砂の川になってる事に気づき、天井の大穴から直接『流砂の間』に入る。
定点通信鏡の映像と穴の外からチラッと見えた光景。
それで『流砂の間』の床に大きな穴が開いてる事は知ってたけど、中に入って直接見るとつい圧巻されてしまう。
足の踏み場もない程大きく口を開けた地獄の入口。
中にはアリジゴクの様な巨大な化け物でも住んでいるのだろうか?
そう不気味で恐ろしい想像を駆り立てる程大きく深くて、その周りを轟々と音を立て水飛沫を上げる滝の様に砂が流れ落ちていく。
元々『流砂の間』や『初心者洞窟』、その周りに在った砂だけじゃ到底足りない量の砂が四方八方から流れ続けるこの川は一体どこから来たんだろうか?
外?
地下?
それとも土の魔元素関係?
何にしても普段見えてる岩壁の下を通ってる事位しか分からない。
「・・・これがアドノーさんのお父さんの言っていた・・・・・・
何と言うか・・・実際に見ると・・・・・・」
「思ってたより大きい?」
「うん。それにかなり深そうだ。
多分、オアシス跡地と同じ位深いんじゃないかな?」
「それは流石に言い過ぎだと思うよ?」
漸く零したそのマシロ呟きを聞いて、ルグが小さな笑いと共にそう聞き返す。
確かにマシロの言う通り思っていたよりも大きいし、深い。
ピコンさんは言い過ぎだと笑っていたけど、マシロもこの穴がオアシス跡地と同じだと思ったみたいだ。
揺れる木箱ボートから皆が落ちない様に操作するので手一杯でマシロに同意出来ないけど、俺もそう思った。
いや、同じって言うか、オアシス跡地の精巧なミニチュア。
そう表現した方が正しい気がする。
光を飲み込む闇が本当オアシス跡地のあの大穴にそっくりなんだよ。
「ふぅ・・・・・・」
「証拠用の撮影は済みましたか?」
「えぇ。
十分記録できたし、通信鏡越しとは言え王子達含め沢山の人がこの光景を見たんですもの。
証拠としては十分よ!」
ちゃんと見てるか!!
と『流砂の間』に入って直ぐ辺りから鳥型ゴーレムを掴んで大暴れする勢いで騒いでいたアドノーさんが漸く、深く、深く、息を吐いて落ち着いてくれた。
そして満足そうな笑顔で答えてくれる。
この光景もお父さんの罪状を覆す大事な証拠になるんだ。
だからアドノーさんが、恐らく極々短い一時期しか現れないこの光景を一欠けらも逃さず撮りたいと躍起になるのも仕方ない事だろう。
でもそんなに鳥型ゴーレム掴んだら壊れそうだし、通信鏡の繋がった先に居るリカーノさんも画面酔いしちゃうと思うんだ。
何より揺れて危険だからやめて!
落ち着いて!!
と言った俺の言葉無視されたのはどの位前だったかな?
何度言っても俺の言葉は、目的の為に脇目も振らず真っすぐ突き進むアドノーさんに届かず、早々にアドノーさんの説得を諦めて俺達が乗る木箱の操作に集中する事にしたんだ。
そのアドノーさんが漸く落ち着いてくれた。
はぁ・・・
これでやっと少しは木箱ボートの操作が楽になるよ。
「さぁ、行きましょう」
「はい・・・・・・って、うわぁ!!!」
「きゃぁあああああ!!!」
そう言ってアドノーさんが指さしたのは出入口の通路の向かい。
仕掛けが無事動いて口を開けた『財宝の巣』への入口だ。
今の所コイン虫とかの危険な生き物は出てきていない。
だからって油断は出来ないんだよな。
漸く本番。
ちゃんと気を引き締めないと。
そう思って気持ちを切り替え木箱ボートを操作してゆっくり警戒しつつ降りる。
砂の川が起きてない『財宝の巣』の入口手前の地面まで後少し。
多分1mも無かったと思うけど、その位の高さまで木箱の底が来た時、何もしてないのに木箱が急に跳ね上がった。
それはまるでトランポリンだらけのアスレッチクで遊んでる様で、木箱ボートは俺の手を離れ何度も跳ね上がる。
「フ、ングッ!!?」
「サトウ!!これ以上『フライ』を使うな!!
逆効果だッ!!!」
「んん!?
・・・・・・ぷ、はぁ・・・
あぁ、そう言う事。止めてくれてありがとう、エド」
「どういたしまして」
もう1度『フライ』を掛けてナニカから木箱ボートの操作権を奪い返そうとしたら、ルグに口を押えられ阻止された。
そのせいで『フライ』の効果が消えた木箱ボートは重力に従ってあの大きな穴に向かっていく。
「急に何するんだ!」
とか、
「逆効果ってどう言う事だ!!」
とか、
「このまま落ちたら死んじゃうだろう!?」
とか。
そう口を塞がれても叫びたかった言葉は、何もしてなくても穴の上の空中で勝手に止まった木箱ボートの姿で消え失せた。
あぁ、なるほど。
予想通りこの大穴は、風の魔元素が溜まる沼なんだな。
試しに体を乗り出して穴に手を伸ばしたら、膨らませたスッゴク柔らかい風船の様な感触が返って来た。
ベッセル湖で溜まった水の魔元素を触った時と違い、この風の魔元素は弾力が凄くてこれ以上どう頑張っても手を中に入れられない。
先を鋭く尖らせた木の棒でも跳ね返すから、その弾力性はあの異常進化した巨大クロッグの皮膚と同じかそれ以上だろう。
それで全部の属性で起きる事なのかな?
磁石のS極同士やN極同士。
いや、水と油の方が近いか。
『風の泉』から流れて来た結合しにくいこの弾力性のある風の魔元素と、『フライ』に使われた様な普通の結合しやすい風の魔元素はお互いをはじき合う様だ。
その結果があのトランポリン状態。
試しに何もしてないピコン玉と、
『フライ』を掛けたピンポン玉、
『アタッチマジック』で『フライ』を掛けたピンポン玉を同時に穴に落としたら。
『フライ』を掛けたピンポン玉が2階から地面に向かって投げたスーパーボール以上に跳ねた。
軽く落としただけでそのまま跳ねまくって天井の穴から何処かに消えてしまったんだから、その反発力の凄さが良く分かるだろう?
因みに何も掛けてないピンポン玉は普通に浮くだけで、『アタッチマジック』がクッション材になってるのかな?
『アタッチマジック』で『フライ』を掛けた方は軽くドリブルしてる時のバスケットボール位にしか跳ねなかった。
「父さんの話にはなかったけど・・・・・・
取り合えず、今此処で風属性の魔法を使うのは危険だって事は良く分かったわね」
「はい。
でも、土や砂、石、後は土属性の魔法もかな?
いや、土属性全部だとさっきの木の棒やこのボートが浮いてる理由が分からない・・・・・・
えーと、兎に角!
砂が穴の中に流れてる事を考えると、反発しないものもあるみたいです。
反発し易い順位はあると思いますが、でも多分殆どのものは反発する。
例えば俺達の人の体とか」
「多分それは・・・
少しでも風のマナが入ってると反発するからじゃないでしょうか?
生き物の体を含め、基本目に見える物は全部の属性のマナが複雑に沢山混じって出来てるって言われてますから」
「でもそれだと砂が一切浮かずに流れ落ちてる状況と矛盾しないか?」
「え?あ・・・あー、そうか・・・・・・
そうだよね」
「だからアタシは、長年特殊な風のマナに晒されてこの地の砂や石、岩も特殊な変化を起こした説を押すね」
俺の意見からそう言って軽く議論を始めるアドノーさんとリカーノさん。
姿が見えないけどその声から他の職員さん達も途中からその議論に参加しだした事が分かる。
時間も無いからその議論は3分にも満たない短いものだった。
けどその短い時間で取り合えずある程度まとまったアドノーさん達の見解によると、
『『財宝の巣』の上にある砂や石以外は全部、トランポリンの上に乗ってる様に特殊な風の魔元素に浮くし反発する』
と言う事でまとまった。
その考えを参考にすると、使う魔法を制限しないとまずいな。
「取り合えず、『財宝の巣』の中でも極力『フライ』と『ファイヤーボール』は使わない方が良いですね」
「風の魔法は分かるけど、何で火の魔法も駄目なのよ?
反発するって言っても、風以外はそこまで反発も起きないでしょう?
さっきのアタシ達や風の魔法使ってどっかに行っちゃったボールの様にはならないわよ。
そこまで警戒する必要はないわ」
「いいえ。
物が燃えるには風の魔元素が沢山必要なんです。
恐らくそれは魔法で『火』や『炎』の魔法を出した時も同じはず。
だから火や火属性の魔法も『フライ』を掛けた物と同じ位反発すると思うんですよね。
『ファイヤーボール』」
何で『ファイヤーボール』を使わないのか首を傾げるアドノーさんにそう答えつつ、実際に『ファイヤーボール』をほぼ垂直に穴に向かって投げたら。
予想より威力は劣っていたけど、『アタッチマジック』で『フライ』を掛けたピンポン玉よりも高く跳ね上がった。
軽く投げた『ファイヤーボール』は1回で天井の岩にぶつかって消えたけど、投げる方向や勢いによっては縦横無尽に暴れてかなり危険だったろう。
「と言う事で念には念を入れて、極力火属性の魔法も使わない方が良いかなと思うんです。
特に遠距離攻撃出来るタイプは」
その軽い実験の結果を見て改めて火の魔法は使わない方が良いと言う。
シャンディの森で俺達が落ちた地下洞窟の様に『財宝の巣』の中を通って此処まで風の魔元素が流れてるかもしれないし、『流砂の間』の中だけじゃなく『財宝の巣』の中でも使う魔法は制限すべきだ。
そう皆に言って、もう1度安全に使えそうな自分の魔法を考える。
『フライ』は何かクッションが必要な時や、凄く反発する力を利用して一気に移動したい時とかに使うとして。
現状禁止にするの『ファイヤーボール』だけかな?
いや、念の為に『ボール』系は全部やめておこう。
上手く燃やしたい物や痺れさせたい物にだけに当てれればいいんだけど、少しでもズレたら縦横無尽に洞窟内を炎や雷、氷の球が暴れる事になって危険だからな。
俺の実力を考えると、何時も通りのそのまま『プチヴァイラス』を使うのに含め、『ファイヤーボール』と『サンダーボール』、『アイスボール』は使用禁止だ。
いや、『アイスボール』は安全な飲み水を用意する時だけは使おう。
攻撃に使用するのは禁止!
「と言う事で、アドノーさんも昨日コイン虫を燃やした魔法?
えーと、その銃から炎を出さない様にお願いします。
フワフワの草を燃やすのも、細心の注意をした上でマッチか火打石を使う様にしますので」
「分かったわよ・・・・・・」
「絶対に絶対ですからね?」
少し不服そうなアドノーさんにそう念を押して、どう頑張っても動かなかった木箱ボートを降りて『財宝の巣』の入口手前まで歩いていく。
東京タワーとか、スッゴク高い建物の透明度の高いガラスの床の上に立っている以上に見た目が怖いのは当然として。
水の上に乗せた柔らかい巨大浮き輪かビニールシートの上を歩いてる様で、ポヨンポヨンして歩きにくくてそれが更に怖い。
立って歩くのすら思ってる以上に結構厳しくて、何度転んだことか・・・・・・
多分、初めてスケートやスキーを経験した時以上に転んだし、立ち上がれなかったと思う。
結局ルグの様にスタスタ歩いて渡る事が出来なくて、俺とマシロ、アドノーさんはルグに運んで貰った。
ピコンさんはガクガクと四つん這いになりながらもどうにか自力で安全な地面まで来れたけど。
何か『財宝の巣』に入る前から俺達無駄に苦労してないか?




