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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第2章 チボリ国編
415/498

184,『強者と欲をかく者はただエサになるだけ』 8匹目


 結局仕掛けらしい仕掛けも見つからないまま日が暮れて、俺達は『初心者洞窟』の外。

フワフワの草が生えてる辺りにテントを張って野宿する事になった。

無事冒険者さんからコイン虫が届いたし、念の為にクエイさん達の方にも大量のフワフワの草と花を送ったし、『初心者洞窟』の中や周辺で出来る事も、多分もう無い。


そんな今は夕飯の時間。

寒い砂漠の夜対策に温かいシチュー味のスープを作ってる所だ。


ジャガイモ、

ニンジン、

玉ねぎ、

カブ、

ブロッコリー、

白菜、

グリンピース。


そう言う『ミドリの手』で出した野菜達に、ロホホラ村のお店で買った一口大に切って炒めたトリ肉を加え、コトコト、コトコト、ジックリ煮込む。

野菜とトリ肉にいい感じに火が入ったら、コク出しの為にバターと塩で炒めた『プチヴァイラス』で出したシメジやマッシュルーム。

それとシチュールー代わりのルディさんの所で食べたシチュー味のキノコを入れ、『クリエイト』で出したコンソメ顆粒と塩で味を調える。


小さめの寸胴並みに大きな鍋いっぱいに作ったその食べ応えあるスープが出来上がったタイミングで、他のおかずの準備。


別の焚火でキノコを炒めたフライパンを洗わずそのまま使って作っていたほうれん草とシュピオール、他の依頼で『ドロップ』したベーコンの様な燻製肉の卵炒めと、

千切りキャベツといちょう切りにしたリンゴ、塩ゆでしてバラバラにしたトウモロコシ、ミニトマトを蜂蜜とレモン汁で作ったドレッシングで和えたサラダ。


この2つは大皿と人数分の取り皿にそれぞれ少しづつ。

スプーンやホーク、飲み物も用意して・・・

『ミドリの手』で出したパンを8枚切りの食パン位の厚さに沢山スライスして・・・

スープをそれぞれ盛って・・・・・・


「ご飯出来たよー!!!」

「よっしゃぁあああ!!待ってました!!!」

「はーい!!直ぐ行くね!」


そう『初心者洞窟』に向かって言えば、両手を上げて喜んでそうなルグの声と、クスクス笑ってそうなマシロの声が返って来る。


「パパッと簡単に作った手抜き料理で申し訳ありませんが・・・・・・」

「うん。相変わらずだね、キビ君は」

「確かにねぇ。

そろそろサトウ君は『簡単』とか『手抜き』って言葉、調べ直したら?」

「何と言われようと切って煮込んで炒めて和えただけの料理は、俺からしたら手抜きですよ。

本格的に作るなら、キノコ使わずホワイトソースから丁寧にシチュー作ってます。

それより、アドノーさんは?」


事前にピコンさんが作ってくれた机の上に料理を並べつつ、そう洞窟から出てきたルグ、マシロ、ピコンさんに言う。

その料理を見て何処か呆れた様な顔をしたマシロとピコンさん。

そんな2人にディスカバリー山脈でお昼を食べた時にも言われた言葉に似た様な言葉を返し、『初心者洞窟』の方を見る。

幾ら待ってもアドノーさんが出てくる様子はない。

間違いなく、飽きもせず流砂の様子を見てるんだろうな。


「まだ中に居るって。

あの様子だと多分食べに来ないと思うよ」

「そう・・・なら、持って行った方が良いな。

先食べてて」

「分かった」


まだ外に出る気が無いと言うマシロの言葉を聞いて、そう言って俺はアドノーさんの分の夕飯を『クリエイト』で出したお盆に乗せ、洞窟の中に入った。

相も変わらず先食べてって言う前に誰よりも早く食べ始めてるルグに関してはノーコメントで。


「アドノーさん」

「・・・あぁ、サトウさんか。どうかした?」

「夕飯持ってきました。

本番はまだ先なんですから、今から根詰めても体が持たないですよ?」


コイン虫除けに所々でフワフワの草を燃やしてる道を進んで見てきたアドノーさんの背中。

その後ろ姿は微動だにせず、相変わらず真剣に『流砂の間』を見ている様だ。

定点カメラの様に何カ所にもコイン虫を運んでくれた冒険者の男性が持って来てくれた本部と繋がる通信鏡を設置してあるし、今ここでアドノーさんが休まず頑張る必要はない。

でも、父親の無実を証明する為に、一分一秒でも此処の様子を見逃したくないんだろう。

その気持ちは分からない訳じゃ無いけど、でも本番はこれからなんだ。

今無理をして『財宝の巣』に入って直ぐ倒れたら本末転倒だろう?

そう思いつつアドノーさんに声を掛け夕飯を渡す。


「そうだよ、エス。

通信鏡使ってぼく達も見てるんだから、君達はちゃんと休まないと」

「・・・・・・でも・・・」

「休むんだ」


チラッと俺の方を見て素直に夕飯が乗ったお盆を受け取ってくれたけど、そのアドノーさんの顔は不服そうだ。

その表情を見て鳥型ゴーレムのお腹にある鏡に映ったリカーノさんが、静かに小さな子供を叱る様な声で言葉を掛ける。

その強めのリカーノさんの言葉を聞いてもアドノーさんは踏ん切りがつかないんだろう。

小さく声を零してまた視線を『流砂の間』の方に戻してしまった。

そんなアドノーさんの態度を鏡越しに見てリカーノさんはさらに強く言葉を放つ。


「大丈夫ですよ。

交代しますので、アドノーさんはゆっくり食べて休んでいてください」

「・・・・・・そう言う事なら・・・

お言葉に甘えて休ませて貰うわ」

「あ。此処外みたいに焚火無いから寒いですよね?

良かったこれもどうぞ」

「ありがとう」


冬間近とは思えない程暑かった昼間とうって変わって、今は冬が少し間を開け隣に座った晩秋らしくかなり寒い。

その上夜の冷気を纏った風が微かに天井の穴に向かって通り抜けて更に洞窟内の熱を奪い、まるで冷蔵庫の中に居る様な気分になるんだ。

そんな通路に点在するフワフワの草の焚火の熱が意味をなさない位寒いのに、アドノーさんは相変わらず『流砂の間』が見える範囲から動こうとしない。

だから『クリエイト』で簡易的な机と椅子を出すついでにひざ掛けも出してアドノーさんに渡したんだ。

後、焚火ももっと増やした方が良いかな?

いや、これ以上何か燃やしたら二酸化炭素中毒になってしまうか。


「・・・・・・ん~!!

見た事無い食材ばかりだけど、思ってたより美味しいな、コレ!!」

「ありがとうございます。口に合って良かったです」

「貴方、冒険者じゃなく料理人になった方が良いんじゃない?

お世辞じゃ無くて、本気で。

近くでお店開くならほぼ毎日行くぞ、アタシ」

「そう言って頂けるのは嬉しいですが、それはちょっと・・・

俺達にも色々事情がありますので・・・・・・」

「そう?」


せめてもと『プチライト』をアドノーさんの近くに出し、もう一口スープの野菜を食べて顔を綻ばせるアドノーさんに内心に苦笑いを浮かべつつ答え、『流砂の間』を見る。

光苔が真っ暗な洞窟内を淡く照らす様になった事を抜かせば、来た時とさして変化の無い洞窟の最奥。

でもただ見回すだけじゃ分からない変化が確かに起きてるんだ。

その1つが刺し直した測定器の木の棒。

最初に刺した木の棒よりも間違えようがない程太く長い俺と同じ位の横幅があって俺の2、3倍は長いそれは、最初の時よりも速いスピードで砂に飲み込まれて行っている。

多分倍位は速いんじゃないかな?

でも排水溝を開いて水を流した時や緩やかな川よりゆっくりなのは間違いない訳で、こう言う道具を使わず歩き回っていたら相当鋭い人じゃないと多分足元の砂が動いてるとは気づかないだろう。

本当、最初に石が動いてる事に気づいた四郎さんは大手柄だ!


「・・・・・・何時になったら開くんだろうね?」

「それはアタシ達の方が聞きたいんだが?

あれから何時間も経っているのに全然大きな変化が無い。

流石に嫌になって来たぞ!!」

「そうですねー・・・はぁ・・・・・・」


ポツリと零れたリカーノさんの言葉にチボリ国語で愚痴るアドーのさんに同意する。

そんな俺とリカーノさんのため息が重なった。

いや、本当、俺達がそうなるのも仕方ないし、アドノーさんが愚痴りたくなるのも良く分かる。


アレから6時間以上は優に超えてるんだぞ?

それなのに起きた変化は砂の流れるスピードが少し早くなっただけ。


流石に俺もアドノーさんもリカーノさんも、殆ど変わり映えの無い変化に嫌気がさしてきたんだ。

それはルグ達も同じで、洞窟から出てきた3人の疲れ切った表情がそれを物語っていた。

いや、疲れてたのは、定点通信鏡を設置する為に壁に穴を開けたからか。

浅くて狭くても硬い壁に穴を開けるあの作業は、魔法を使っても疲れる。


「でも、明日の9時にはきっと穴が開いて仕掛けの扉が開くはずですよ!」

「本当に?」

「そう信じましょう!!」


じゃ無いと俺達の気持ちが耐えられない。

そうネガティブな事は言葉にせず、俺は出来るだけ明るくタイムリミットは必ずあると言った。

『流砂の間』が現れ『財宝の巣』に続く仕掛けの扉が開くのは、ベッセル湖と同じ1年の内の数日だけ。

昼間調べ尽くしてその説で間違いないって結論になった。


問題はその『数日』が何時かって事だ。


アドノーさんのお父さん自身の事や博物館に残ってるメモの事。

それと此処に来る冒険者の母数の事やここまでコイン虫や『財宝の巣』の事が伝わって無い事を考えたら、


『箱庭遺跡』と同時期かその少し前って可能性が高いだろう。


もし『箱庭遺跡』が現れるずっと前や消えた後まで此処に変化が合ったら、普段通りのかなりの数の冒険者達がその変化を見てとっくのとうに『流砂の間』とかの事が世間広まってるはずだからな。

それでその毎年微妙に現れる時期が違う『箱庭遺跡』が今年現れるのは、明日の朝9時から約1週間。

そう予測されてるってロホホラ村で売られてた新聞にも書かれてたけど、天気予報以上にその『箱庭遺跡』出現予報が外れているのかな?

それとも俺達の推理が間違ってる?

後12時間以上あるとは言ってもそろそろ大きな変化があっても良いだろう、と言う思いに反する『流砂の間』の変化の無さ。

それに不安を募らせつつ、


「『箱庭遺跡』が現れるまでにはきっと必ず此処にも大きな変化があるはずだ。

そう希望を持って頑張って待とう」


と何度も自分に言い聞かせる。


「「はぁ・・・」」

「2人してそんなに大きなため息吐かないでくれないか?

アタシまで気が滅入る」

「すみません・・・でも・・・・・・

はぁ、ああああ・・・・・・・」

「ほら、言った側からまた吐かないでくれ」

「・・・・・・すみません・・・」


そのつい漏れてしまった言い聞かせる言葉を聞いたリカーノさんとまたため息が重なった。

それを聞いて食後の温かいお茶をゆっくり楽しんでいたアドーさんが不機嫌そうにそう言ってくる。

それに慌てて謝るけど、つい、また、無意識にため息が出てしまった。

後12時間以上は待たないといけない。

そう思い直すと何度でも重い息が口から飛び出してくるんだ。

あぁ、やっぱり、ただ待つだけの時間は苦痛でしかないな。


「クシュッ!!・・・・・・クシュン!!」

「大丈夫ですか、アドノーさん?

一旦外の焚火の所行きましょう?」

「そう、だな・・・・・・うぅ・・・寒い・・・」


急に威力と量を増しだした冷たい風のせいで洞窟内が一気に冷凍庫になった様な気がした。

流石にこれには、父親思いのアドノーさんも耐えられなかったんだろう。

今度は素直に外に出てくれた。


「すみません、リカーノさん。

暫くお願いできますか?」

「何なら明日の朝までぼく達が交代で見てますよ。

サトウさん達は早めに温かくして休んでください」

「いいですか?」

「はい」

「なら、お願いします」


そう定点通信鏡で明日まで監視してくれると言うリカーノさんの言葉に甘えて、明日の本場に備え俺達は早めにテントに入る事にした。


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