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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第2章 チボリ国編
413/498

182,『強者と欲をかく者はただエサになるだけ』 6匹目


 さて。

無事3匹のコイン虫を生け捕りに出来て、俺が『クリエイト』で作った大きな虫かごに入れて。

ロホホラ村の博物館まで運んでくれる男性の安全の為に、そのコイン虫入りの虫かごにピコンさん特製の通気性の良い黒い布を被せ、これまたピコンさん特製の空気穴が幾つか開いた箱。

素材が分からない、中の物が動かない様にクッション材らしき物が敷き詰められたその箱に布に包まれた虫かごを入れて、シッカリ鎖で縛って。

そうやって出来るだけ男性やコイン虫の安全に考慮した箱を男性に渡して、男性を見送ったのが、ほんのついさっき。

俺達は未だ『初心者洞窟』の外に居る。


「って事で、このままこの草を投げたり、植えるだけじゃ効果が薄いって分かった訳だけど。

後何を試すんだっけ?」

「フワフワの草と花を入れた水を掛けるのと、霧の魔法。

それと1番効果がありそうな煙を使うの」


そうルグの質問に答えながら、バケツに水を溜める作業を続ける。

中には『プチレイン』で出した水と、フワフワの草とその花。

そう、俺達が未だ外に居るのは、フワフワの草の1番効果的な使い方の研究をしてるからだ。

コイン虫を生け捕りにしつつ行った実験の結果、最初に使った外の草花を投げるのは1番効果が薄くて、2番目が『ミドリの手』で道沿いに生やす方法。

『ミドリの手』で出したからってだけじゃなく、どうも洞窟内に生える光苔とこのフワフワの草の相性が悪い様で、魔法で生やした事も相まって直ぐフワフワの草が枯れてしまうんだ。


「多分、光苔から出る光にフワフワ草を枯らす効果があるんじゃ無いか?

だからこんなに入口の近くにも生えてるのに、太陽の光が届く範囲の中には生えてない」


とルグが言っていた。

俺達全員そっちの方の専門職の人じゃないから絶対そうだとは言えないけど、確かにその説が今1番有力そうだ。


太陽光か、何らかの属性の魔元素の濃度の影響か。

この種類の光苔は『初心者洞窟』の外には生える事が出来なくて、逆にその光苔のせいでフワフワの草は洞窟の中に生える事が出来ない。

それはこの光苔やローズ国で良く生えてる光苔を含めた全光苔類と、ここ等一帯の砂漠に生える全植物で起きる事なのか、それともこの2種類の植物に限定された事なのか。


そこ等辺は分からないけど、その理由は近い内に分かるかもしれない。

その理由は、ここ等辺の話を聞いて最近スランプ気味だった植物関係の博物館職員さんの研究意欲に火が付いた様で、かなり張り切って調べてくれる事になったからだ。

うん、仕事にやる気が出てくれて良かった、良かった。

でも、今直ぐフワフワの草の効果を最大限に知りたい俺達は、その結果を待ってられないんだ。

と言う事で更に自分達で研究を進める。


「と言う事で、まずは水を直接かけてみましょう。

その次は霧で」


そう言いながら俺は『クリエイト』で出したペットボトルとストローで作った水鉄砲に、種類の違うフワフワの草入り水をそれぞれ入れていく。


まず基本は、


『プチレイン』で出した水にフワフワの草を入れただけの物。


フワフワの草を『プチライト』でカラカラに乾燥させてから水に入れた物。


汁が出る位まで磨り潰したフワフワの草を水に入れた物。


フワフワの草の絞り汁だけを使う物。


この4種類を草と花で2パターン。


更に普通の水の状態か、

1度沸騰させたか、

一緒に煮込んだか、

『アイスボール』で出した氷で作った氷水に入れたか、

フワフワの草を直接凍らせてから水に入れたか、

蒸して水蒸気だけを使うか。


計48パターン。

それを1つ1つ試して、水蒸気以外の残った40パターンの水はアドノーさんの魔法で霧に変えて貰う。


結果、どれも大した違いはない!


と言う事が分かった。

砂漠に住んでいて基本水不足気味だからか、寧ろ逆にコイン虫を喜ばせる結果に・・・・・・

やっぱり、ルグが言ってた通り煙を使うのが1番良いのかもしれない。


「なぁ、アドノーさん?

アンタの親父さん、喫煙者だったか?

それもかなり長い間吸い続けてるか、1日に吸う量が多いか」


そう、コイン虫を捕まえようとしてる時、何の前ぶりもなくルグはアドノーさんに聞いたんだ。

それを聞いたアドノーさんは心底驚いた様な顔をして、そうだと頷いた。

その顔がルグの次の質問で更に見開かれたのは、かなり印象に残ってる。


「その煙草ってさ、自作の花煙草だよな?」

「え!?何時の間に誰からその事聞いたの!!?

昨日も今日もそんな事博物館に居る間に聞いて無かったでしょ!?」

「聞いたんじゃ無くて、今思いついたんだよ。

何でアンタの親父さんだけ無事だったのかなー、って思って1つ可能性を思いついた。

クエイもそうだけどさ。

長い間花煙草吸ってたお陰で毒とか魔法の耐性が付いたんだよ」


俺はこの時のルグの説明で初めて知ったけど、クエイさんが趣味で吸ってる方の煙草は花煙草って言うらしい。

名前の通り素材に花が使われてる。


それでクエイさんが良く吸ってるあの煙草には『蘇生薬』の素材の1つである透明な薔薇草が使われているらしくて、だから本人も知らない内にゾンビ毒に対する耐性が付いていた。


勿論、『先祖代々医療に深く関わってきたカラドリウス』として遺伝的に元々毒や病気に対する耐性が有ったってのもあるだろう。

でもその元々の耐性のランクをゾンビ毒特化で何段にも上げたのはその煙草のお陰らしい。


「そう考えねぇとウィンがゾンビになって俺が無事な理由が分からねぇんだよ。

魔法道具で能力を封印してるとは言え、アイツは俺よりあらゆる面で秀でてるんだ。

それに毒に対する耐性が俺以上に強い奴なんざ、あの村にゴロゴロ居るんだ。

なのにそいつ等までゾンビになっちまった。

アイツ等と俺の違いなんざコレ(煙草)位だ」


と、初めて俺達の世界に来た日の夜、クエイさん本人が言っていたらしい。

言ったと言うかザラさんと2人で酒盛りしてる時に、酒が入った勢いでつい零してしまったそうだ。

きっと両親の事含め前日からの色々でクエイさんの心も、本人が自覚してる以上に弱ってたんだろうな。

他にも普段言わない様な事を酒の勢いに任せてザラさんに言ってたらしいし。

そんな2人の会話を何だかんだで察しの良い本人達に気づかれず盗み聞けたルグは流石シーフって言うか・・・・・・

あぁ、いや。

今重要なのはそこじゃない。

気にすべきは煙草の事だ。


「つまりエドは、アドノーさんのお父さんがこのフワフワの草を使った煙草を日常的に吸っていたから助かった。

って思った訳だ」


そうルグの話を聞いて思った事を簡潔にまとめて言えば、ルグはそうだと強くハッキリ頷いた。

流石にアドノーさんでも父親が吸ってた煙草の銘柄や素材までは知らなかった様で、通信鏡先のリカーノさん経由で館長さん達。

昔からアドノーさんのお父さんの事を知ってる人達に確認して貰ったら、大正解!

ルグの予想通り、アドノーさんのお父さんが好んで吸っていた煙草にはフワフワの草の花が使われていた。


「アイツの事だ。

そこの調査の間もずっと吸ってただろうな」


とアドノーさんのお父さんとかなり親しかった職員さんが言っていたとリカーノさんが言っていた。

夜も『初心者洞窟』に居た日や事件当時のアドノーさんのお父さんの状況を考えると、つまり、フワフワの草の花の煙が1番効果がある可能性が高いと言う事になる。

でも、そのヘビースモーカーなアドノーさんのお父さんと一緒に行動していた冒険者達は、最終的にコイン虫に『魅了』され殺し合いをしてるんだ。

その時既に煙草が終わってしまっていたのか、それとも耐性が付いたアドノーさんのお父さん本人は兎も角、流石に煙だけじゃ数の暴力には敵わなかったか。

そこ等辺の謎もまだまだ分からないままだけど、煙が1番有効的って結論はこの時には既に出てたんだ。


けど俺は待ったを掛けた。


勿論俺も煙が1番有効的だって話は納得してる。

でも、『煙を使う』って方法が安全だとは思えなかったんだ。


「煙で視界が悪くなるかもしれないし、『初心者洞窟』までなら兎も角、この後入る『財宝の巣』は基本閉じてるんだ。

俺達が安全に呼吸できる量の酸素が有るかどうか分からないし、有毒なガスが発生してるかもしれない。

そのガスの所に煙を持って行ったら引火して大爆発するかもしれないだろう?」


と、煙を使う危険性を説明して、念の為に他の方法も試そうと説得したんだ。

酸素や毒ガスの有無は当然の事、煙で視界が悪くなるのもNG。

コイン虫に効果があっても、居るかもしれない他の生き物にも効果があるか分からないからな。

上手く洞窟の中に居る間ずっと蚊取り線香位の煙を出せるか分からないし、その位の煙で効果があるかも分からない。

だからあの時は念の為に視界が悪くなる方法は避けた方が良いと思ったんだ。

他の安全で効果的な方法があるならそっちにした方が良いと。

けど、まぁ、実験の結果は御覧の通り。

俺が出した案はことごとくいい結果を出さなかった。


「マシロー、ピコンー。出来たかー?」

「んー・・・・・・もう少し待ってー・・・・・・」

「じゃあ、先に少し実験してるな」

「お願いー」


マシロとピコンさんは今、安全に煙を出したままゴーレムに運んで貰える入れ物の設計図を考えてる。

その方が俺達はいざって時の戦闘に集中できるし、一々俺が『ミドリの手』でフワフワの草を出して燃やして投げなくても良いから、と。

でも中々良い入れ物が思いつかず苦戦してる様だ。

俺達が実験を始める前から2人で悩んでいたし、結局かれこれ何時間考えてる事になるのかな?


「『ファイヤーボール』」

「おぉ!面白い位コイン虫達が逃げていくな!」

「ゲホッ、ゲホッ!!

でも、確かに煙が凄いわね。

このまま中に入るのは間違いなく危険だわ」


『クリエイト』で出した深手のフライパンにフワフワの草の花ひとにぎり。

大匙2杯位の、大きなフライパンに比べて少ない花に直接火を着ければ、予想以上の煙の量。

理想としてた蚊取り線香位の量を目指してたんだけど、盛大に失敗した。

最後まで残ってたコイン虫は1匹残らず逃げ出したけど、俺達まで気分が悪くなりそうだ。

マスクである程度の対策はしてるとは言え、そうじゃなくてもこんな煙を吸い続けたら間違いなく病気になってしまう!!

このフライパンは煙がある程度落ち着くまで『初心者洞窟』の中に一旦置いておくとして、俺達はこのまま外に出よう。

後の事はマシロとピコンさんの入れ物が完成してからだ!


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