181,『強者と欲をかく者はただエサになるだけ』 5匹目
「で?どうする、サトウ?」
「・・・え?え、えーと・・・・・・
どうするって・・・何を?」
「『ドロップ』した金、どうするかって聞いてるの。
コイツに本当にあげちゃっていいのか?」
「えーと・・・・・・それは・・・」
「オイラが預からるとしても、この金は元々はサトウのスキルで出した物だ。
今この場で決めるのはサトウだぞ。
サトウはどうしたい?
それともこの金の扱いもいつも通りクエイやアル達に任せるか?」
「え・・・えーと・・・・・・」
ボーとするなとも、男性の圧に押されて弱気になるなとも言いたげな少し呆れ気味な表情で、男性に舐められない様にか。
何時も以上に強気な雰囲気を纏ったルグに背中を強めに叩かれてそう聞かれる。
今ならまだ俺がこのお金を好き使って良い。
でも何時も通りルグに渡したなら、その『ドロップ』したお金ごとその権利はルグ達に行くんだ。
だからルグに渡すか男性に渡すか、よく考えて選べ。
とルグは言ったんだ。
それに何時もの如く少し考え込んでいた俺は、その言葉の意味を理解する事含め直ぐに反応できなかった。
結果俺の口から出たのは驚愕の声だけ。
そのルグの質問に答えられたのは、タップリ考えた数分後だった。
「・・・・・・あの、今依頼書って持ってますか?」
「持ってるが、それがどうした?」
「なら、俺達の依頼を受けてください。
その報酬として今回『ドロップ』したお金は全部お渡しします」
『依頼?』
『ドロップ』のお金を渡す代わりに、依頼を受けてくれ。
ルグに『ドロップ』したお金をどうしたいか聞かれ、考え抜いた結果そう言った俺の言葉に、この場に居る全員と何時から繋がっていたのか。
アドノーさんの肩に乗った買ったばかりのフクロウの様な鳥型のゴーレムのお腹の部分に埋め込まれた通信鏡の鏡に映るリカーノさんが同時に疑問の声を上げる。
「はい。
今から何匹かコイン虫を生け捕りにします。
そのコイン虫を生きたまま無事にロホホラ村の博物館に届けて欲しいんです」
「え?何でコイン虫を・・・・・・」
「アドノーさんの依頼を達成する為に必要だからです」
その前からかもしれないけど、十中八九アドノーさんのお父さん達は『財宝の巣』の中でこのコイン虫達に襲われた。
多分見つけた財宝って言うのもさっき名言の事で考えた通り、本物のお宝じゃ無くて擬態したコイン虫の群れ。
いや、この先に間違いなくコイン虫の巣があるはずだし、知らず知らずの内にコイン虫達に追い込まれていたのか。
コイン虫は殺した獲物を巣に持ち帰るって『教えて!キビ君』に書いてあったし。
1匹だけとか少ない数のコイン虫だけじゃ獲物を全員『魅了』出来なくてそんな追い込み漁の様な事をしたのかもしれない。
いや、でも、コイン虫ってそこまでの知能があるのか?
さっき俺達を襲ってきたコイン虫達はそこまで出来る頭がある様に見えなかった。
と言う事は、『財宝の巣』に居る他の生き物が?
そこ等辺も分からないけどアドノーさんのお父さん達は最悪に運が悪い事にその巣に来てしまって、大量に集まったコイン虫の『魅了』の魔法を一斉に浴びてしまったんだ。
1匹ずつだったら耐えられた最後まで残れた冒険者達も、その群れから放たれる『魅了』の魔法には抗えず、殺し合ってしまったんだろう。
そしてアドノーさんのお父さんだけが無事だったのは、ランクの高い魅了系の耐性スキルを持っていたから。
それかコイン虫を直接見る前に先頭を進んでた冒険者達が殺し合いを初めて、命の危機を感じて逃げ出した。
「理由はまだ分かりませんが、この虫は世間に知られてません。
だからアドノーさんの依頼を達成させる為の1つとして、生きたコイン虫を安全に本部に送る必要があります」
紙芝居を見て考えた説が合ってるのか、それとも別の理由があるのか。
コイン虫が世間に知られてない理由はこれから調査出来れば調査するけど、アドノーさんのお父さんの無実を証明するには生きた状態のコイン虫は必須な気がする。
依頼書はやろうと思えば改造できるし、俺達アドノーさん側の証言だけじゃ信用できないし、そもそも言葉や依頼書の記録だけじゃコイン虫の『魅了』の凄さは伝えきれない。
でも、もし生きたコイン虫を証拠として出せたら?
コイン虫自体も証拠になるし、その生きたコイン虫の生態研究の成果も証拠になるはず。
だから、生きた状態で連れ帰る必要があるんだ。
でも、通信鏡じゃ生きた状態の生き物は送り合えないし、態々コイン虫を届ける為だけに今からロホホラ村に戻るのも時間が勿体無い気がする。
でも、だからって、コイン虫を持ったまま中を調べるのもそれはそれで色々危険な気がするし・・・・・・
「だから冒険者さんに運んでもらおうと思ったんですが、どうでしょうか?」
「確かにそっちの方が良いわね。
証拠になりそうな物は出来るだけサッサと本部に送りたいし。
と言う事で、受けるよな?
普通の運搬の依頼よりも報酬が良いんだ。
断る理由は無いだろう?」
「う・・・・・・あー・・・うー・・・・・・」
アドノーさん達の名誉の為にアドノーさんのお父さんの無実の証拠集めとは出来るだけ言わずそう伝えれば、そのぼかした事もちゃんと察してくれた様でアドノーさんが納得した様に頷いた。
そしてそのまま流れる様に、初めて会った時を思い起こさせる獲物を狙る様な鋭い目つきで男性に迫る。
そのアドノーさんの迫力に男性は声も出ない様で、『あー』とか『うー』とかの意味の無い音を口から漏らすだけ。
そんなアドノーさんの圧から逃げる様に目を忙しなく動かす男性に、更にアドノーさんが迫る。
「やるのかやらないのかサッサと決めてくれないか!!!」
「わ、分かった!やる!!やるから退いてくれ!!」
物理的にも迫って来たアドノーさんの態度に負けた男性が、そう悲鳴を上げる。
分かります。
あぁ言う時のアドノーさん、滅茶苦茶怖いですよね。
「よし!交渉成立!!
報酬のお金はリッカに渡しておくから、コイン虫と交換する様に!」
そう言って『ドロップ』したお金を全部ルグが持ってる通信鏡に押し込むアドノーさん。
最後は交渉じゃ無くて、脅し・・・・・・
いや、コレは口に出すべきじゃないな。
雉の様の打たれたら堪ったもんじゃない!
お利口にお口チャックしてよう。
「うぅ・・・・・・
こんなの予定外過ぎる・・・・・・
あんまりにもあんまり過ぎりだろう?
何で・・・何でおれがこんな目に・・・・・・」
「えーと、すみません。
言葉以上に危険な事を頼んでるのは重々承知しています。
ですが、こちらも人命が掛かった重大な依頼を受けてるんです。
だから、失敗する事は出来ない。
もしこの後またコイン虫を倒してお金が『ドロップ』したら、ある程度そちらの報酬に上乗せしま
「本当だな!絶対だからな!!」
す・・・・・・えーと、はい。
本当に戦闘は出来るだけ避けたいので、絶対とは言えませんが、極力そう言う方向で・・・
ですから、あの、そちらもどうかよろしくお願いします」
「任せろ!!」
うわぁ、思っていた以上に現金な人だなぁ。
アドノーさんの圧に負けて膝をついて落ち込んでいた男性は、報酬を上乗せすると言った言葉に勢いよく輝く顔を上げ、そう俺の言葉を遮った。
そんな男性の態度に少し引き気味になりながらも、俺はそう改めて依頼の事を頼む。
報酬の上乗せの事で相当やる気が出たんだろう。
男性は力強くいい笑顔で任せろと言った。
大丈夫かな?
フワフワの草使って極力コイン虫との戦闘を避けるつもりだって事も、そう言う訳だから必ず上乗せ出来るかどうか分からないって事も。
この人ちゃんと聞いて無さそうなんだけ・・・・・・
後で話しと違うって言われないかな?
「あ!それと、もう1つ」
「な、何だよ・・・・・・」
「暫くは此処に近づかない方が良いかと。
次コイン虫に襲われたら、今度こそ命は無いと思いますので」
「ぜッッッッッッたい!!!
もう二度と此処には来ないし此処の依頼も受けない!!!」
この人のお金に対する執着は根元からの物で、きっと何があっても変わらないんだろうなぁ。
そう思ったからこそのお節介だろう忠告。
それを聞いて男性は、『此処にはもう来ない』と任せろと言った時の何倍、何十倍は力強い木霊する程の大声で叫んだ。
 




