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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第2章 チボリ国編
410/498

179,『強者と欲をかく者はただエサになるだけ』 3匹目


「金じゃない・・・金じゃない・・・・・・」


そう心を何処か遠くに飛ばして呟き続ける男性。

コイン虫の正体を見せるって言うショック療法が上手くいってコイン虫の『魅了』は無事解けたけど、別の方向で正気を失ってしまった様だ。

それ程この男性はお金に執着しているって事なんだろう。

コイン虫の標的になってしまったのも、ある意味必然だったんだろうな。

流石にこの状態の男性を正気に戻す方法は思いつかないぞ?


「取り合えず、全員一旦外に出ましょう」

「何で?

怪我してた訳じゃ無いんだし、その男を安全な場所に連れて行くだけなら全員で出る必要ないでしょう?」

「アドノーさん、ちゃんとシッカリ正気を保って奥見てください。

この先にもポツポツ金貨が落ちているでしょう?

あれ、多分全部コイン虫です」

「よし!一旦全員外に出て作戦会議しましょう!!」


目の色は変わってないけどアドノーさんも多少コイン虫の『魅了』に掛かっているのかもしれない。

そう思いつつ苛立った様に出ようと言った俺の意見に反対するアドノーさんに、俺は洞窟の奥を指さしてそう言った。

最奥に続く様に不自然にポツポツと落ちてるアリーラ金貨。

十中八九あれ全部コイン虫なんだろうな。


あんなにコイン虫が居るんだ。

1匹位『魅了』が効かず拾おうとしなくても近くを通っただけで多分尻尾で刺してくる奴が居るかもしれない。


この洞窟、天井が意外と低いから安全な高さで飛んでいくのも難しいし・・・・・・

そうじゃなくてもあんなに沢山のコイン虫が一斉に『魅了』の魔法を掛けてきたら、男性程お金に執着していない俺達でも耐えらるかどうか分からないんだ。

そうなったら俺達は仲間同士で争う事になるし、ルグが居るから俺達の生存は絶望的だろう。

と言う事を少し前の討伐依頼をこなすルグ達の様子から察したアドノーさんが、手の平と一緒に体を高速で回転させて早速と言わんばかりに外に向かいだした。

その後を唖然としたまんまの男性を引っ張って俺達も続く。


「ッ!!!」


ゾワッと背中を冷たく撫でる様な嫌な予感がしてチラリと後ろを振り返れば、明らかにコイン虫が移動していた。

それも俺達の方に向かって。

俺が見てるからかコイン虫は微動だにせずアリーア金貨のフリをしているけど、きっとだるまさんが転んだの様に俺達全員が背を向けたら一気に移動してくるんだろう。

何でこんな危険なだるまさんが転んだ、強制参加させられてるんだよ、俺達は!!

一生参加したくなかった!!


「皆走って!!!」

「え?」

「コイン虫がついて来て、ヴゥ!!!?」


コイン虫がついて来てるの『る』を言い終わる前に、ルグの肩に痛い程勢いよく後ろ向きに担がれた。

あぁ、これ、ディスカバリー山脈で歩キノコ達に襲われた時と同じ流れだぁ・・・・・・

そう飛びそうになる意識をどうにか引き戻し、痛みに耐え顔を上げると、本性を現したコイン虫たちがカサカサと高速で追いかけてきていた。

その足の速さはまるでゴキブリみたいで、ドンドン距離が縮まっていく。


「あああああああああああああ!!!

『スモールシールド』!!『フライ』!!

『プチアースウエーブ』!!!」


『スモールシールド』を何重にも張ったり、『フライ』で近くのコイン虫を遠くに投げ飛ばしたり、『プチアースウエーブ』でひっくり返したり。

そのコイン虫達が追いかけてくる光景に恐怖心の限界が来そうな俺は、そう滅茶苦茶に魔法を打ってどうにかコイン虫達が来ない様にした。

でも、あまり効果が無い。

一体どこに隠れてたんだか。

ポツポツと擬態していたコイン虫以上に増えたコイン虫達が、動けない仲間を乗り越えドンドン追いかけてくる。

うぅ・・・

虫恐怖症とか集合体恐怖症になりそう・・・・・・


「はぁ・・・はぁ・・・・・・

こ、此処までくれば・・・・・・」

「駄目です!!まだ追いかけて・・・・・・あれ?」


『初心者洞窟』の入口から少し離れた場所まで走り切り、そう息を切らしながらフラグの様な事を言うピコンさん。

最悪な予感通り、俺達が洞窟の外に出てもコイン虫達は追いかけて来た。

但し、洞窟の入口の所までだけど。

何故かコイン虫達は洞窟の入口でウロウロするだけで、全然出ようとしない。

入口で集まってるなら、まだ俺達を諦めた訳じゃ無いはず。

なのに出て来ないって事は・・・

出て来ないんじゃなくて、出れない?

初めて依頼を受けた時襲ってきたあのコカトリスの様に、俺達を襲いたくても襲えない何かが洞窟の周りにある。

もしくは、コイン虫もキメラの一種で洞窟から出るなって本能に設定されてるか。


「・・・もしかして・・・・・・

エド、試したい事があるから降ろしてくれる?」

「何する気だ?」

「コイン虫が何を嫌って出て来ないのかの確認」


この『初心者洞窟』の周りに有る物はかなり少ない。

その中で洞窟の外に在って中に無い物は2つだけだ。


1つは大型の生き物。

でもその生き物のお陰と言う可能性は低いだろう。

天敵の魔物や動物の縄張りで出て来れないって言うなら、コイン虫達はもう少し外にまで出てくるはずだ。

博物館で読んだアドノーさんのお父さんの調査メモによると、この岩が密集した辺りはどの生き物の縄張りでもないらしい。


この砂漠には理由が判明してるかどうかは兎も角、何らかの理由で野生の生き物達が縄張りにしないスポットが幾つかあるそうだ。

そして、『初心者洞窟』の入口から半径数mの比較的狭い範囲もその1つ。

それは長年のチボリ国の冒険者達の活躍で絶対間違いないとギルドや専門家達も認めた事らしい。

だから外の生き物説は無いと思う。


いや、その外の生き物もコイン虫達が嫌がってるナニカに怯えて此処等辺一帯を縄張りにしないんじゃないかな?


その可能性がある、外にしかないもう1つの物。

それにルグに降ろして貰った俺は慎重に触れた。


「・・・・・・『アタッチマジック』、『フライ』」

「あ!コイン虫が逃げていく!!」

「やっぱりコレが嫌だったんだな」


チボリ国の砂漠地帯なら何処にでも生えてる雑草。

物によっては煙草の素材にされる。


『教えて!キビ君』にもそれしか書かれてない。

他の個別の名前すら無い砂漠に生える植物達と一緒くたにされた、名前もないフワフワの草。

その草と花を少し採って、まず花に魔法を掛けてスリリングショットでコイン虫達に向かって打つ。


そのフワフワの草の花がコイン虫達の近くの地面に落ちた瞬間、殆どのコイン虫達は蜘蛛の子を散らす様に洞窟の奥に逃げて行った。

次に草の方も。

残りのコイン虫も草が近くに来た途端逃げて行った。


多分、花も草もどっちも嫌いなんだろうな。


こんなに有益な効果がある植物なのに、名前すら無いなんて・・・

凄い塗料のメイン素材になるカゲスマイよりも扱いが酷く無いか?

と言う事で、タスクニフジ研究所さん。

是非このフワフワの草、研究して学界で発表してカッコいい正式名称付けてあげて下さい。

そう心の中で送ったら、俺の頭が作り出したものか、それとも四郎さんの影響か。


「遠すぎて研究しに行けないよー。

僕達に頼まないでー。

近場の他の人に頼んでー」


って返事が脳内に眼鏡をしてない紺之助兄さんの姿で返って来た。

何で!?

簡単にあきらめないで!

もう少し頑張って、脳内タスクニフジ研究所所員さん!!


「えーと・・・

サマースノー村の音の結界の匂い版みたいな物って言えば良いんでしょうか?

多分、防虫作用のあるハーブと同じ様にコイン虫が嫌う匂いを出してるんだと思います」

「なるほど。

僕達には分からないけど、ヒツジやオオカミみたいにあの虫にはこの花の匂いが分かるって事なんだね。

そしてそれが嫌で、あの時のオオカミ達みたいに逃げ出した」

「はい、恐らくは」


そう脳内で恐らく自分で作った妄想にツッコミしてたら、相変わらず放心状態の男性以外の全員から説明しろと目で訴えられ、俺はそう軽く説明した。

それを聞いてピコンさんが故郷の事を思い出し、納得した様に頷く。

ピコンさんの言う通りこのフワフワの草の草や花からは、本物の植物か疑いたくなる程何の匂いもしない。

クエイさん(医者)にもバレない位精巧に人間に化けても、相変わらず俺達の中で1番鼻が良いルグは少しスーッとする匂いがするって言ってたけど。


全部の虫がそうなのか分からないけど、虫は犬より嗅覚が良いらしい。

フェロモンと匂いの違いは良く分からないけど、蛾とか遠くに居るメスのフェロモンでも気づいて追いかけられるってテレビで言っていたし、その凄い嗅覚から医療とかの分野にも利用される虫も居るって言うのもどっかで見た事がある。

俺達の世界の小さな虫でもそこまで凄いんだ。

なら、あり得ない位体の大きいこの世界の虫ならもっと凄いだろう。


「でも、まだ逃げてないコイン虫も居るよ?」

「確かに・・・・・・あのコイン虫、どうしよう?」


数は確かに減ったけど、マシロの言う通り入り口近くにはまだコイン虫が何匹か居る。


鼻に当たる器官が壊れてるのか、


嫌いな匂いを一切気にしない根性があるのか、


それとも単純に死にそうな程お腹が減っていて漸く現れた俺達(獲物)を逃がしたくないのか。


更にフワフワの草を打つけど、逃げても直ぐ戻ってきてしまうんだ。

このフワフワ草を持ってればある程度安全に中を調査出来るけど、アイツ等をどうにかしない限り中に入る事すら出来ない。

さて、どうするべきか・・・・・・


「そうだなぁ・・・・・・じゃあ


「燃やしましょう!」


え?」


そう俺の言葉を遮って、横に倒した丸いフラスコの丸い部分に持ち手が付いた様な形の、木製の銃の丸い部分に赤い石をはめ込むアドノーさん。

俺達の誰もが驚きのあまり止められずにいる間にアドノーさんはその銃を片手で構え、何の躊躇いもなくコイン虫達が居る『初心者洞窟』の入口に向かって打った。

その銃から出たのはビー玉の様な綺麗な丸に整えられた小石で、元からそう言う素材なのか、それともさっきはめ込んだ石の効果なのか。

小石は淡いけど綺麗な赤い光に包まれていた。

その小石が俺が打ったフワフワの草花と同じくコイン虫近くの地面に当たった瞬間。


地面に石が纏ってたのと同じ様に赤く光った魔法陣が現れ、洞窟の岩肌を焦がす勢いで火柱が上がった。


そして鳴り響く『ドロップ』のアラームと俺の周りに散らばる幾つもの『ドロップ』アイテム。

流石にオーバーキルにも程があると思います、アドノーさん。


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