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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 1 章 体験版編
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40,苺とサラマンダー 1粒目


 毎日採取依頼をこなし、この世界にも慣れてきた今日この頃。


明日はルグとユマさんと決めた7日に1度の依頼を休む日だ。

毎日依頼を受けても体力と気力が持たないし、疲労から失敗する可能性も高まるだろう。

だからやっぱ、休日って言うのは大事なんだよ。


という事で、明日は何をやろう。


立派な庭があるんだ。

ここいらで何か植え直すのも良いし、毎朝の掃除で行き届かない所を徹底的に掃除するのも良いよな。

それか、何時もは出来ない難しい料理に挑戦するか。


一層の事外に出てこの街、アーサーベルを探索するってのもありだよな。

いや、自分のスキルの事を知る為にも、毎晩寝る前に少しずつ読んでいる勇者関係の本を読み終えるのが先決か。


本を読んで俺の持っているスキルの事が少し分かったけど、まだまだ不十分。

それどころか、謎が増えた気がする。


まず、分かった事は『ドロップ』の発動条件と『状態保持S』の一定の範囲、世界移動以外で新しく魔法やスキルを作る方法だ。


『ドロップ』の発動条件は基本的に


『俺が敵と認識した魔物を俺自身が攻撃したり、


魔物の攻撃から防御したり、


仲間の回復やステータスを上げる魔法を使ったり、


囮になったりして殺すのに関わった場合』


だと言う事が分かった。

本の情報と今までの経験を思い出すに、作戦を立てるだけや近くに居るだけでは『ドロップ』は発動しないらしい。

ただし『ある1部の魔物』は降参したり、戦意を喪失したり、気絶しただけでも『ドロップ』が発動するようだ。

いや、本を読むと殺してしまうと『ドロップ』しない魔物がいるみたいなんだよな。

だけど、その『ある1部の魔物』が何なのかはまだ分かっていない。

本を読んでも良く分からないし、俺自身もまだ出会っていないのかもしれないな。


本の情報を元にすると、その魔物が居るのはアンジュ大陸らしい。

その魔物がローズ国に連れて来られて野生化していなければ、今ある情報でも『ドロップ』のスキルを頼った作戦を実行に移せるだけ、今の所は良しとしよう。


次に『状態保持S』が効く範囲。

本の情報だと、病気、幻術、洗脳、催眠術、記憶改竄、チャームが一切。

それこそ魔法だろが、道具や薬だろうが、スキルだろうが効かないみたいだ。

ただ、毒は魔法や技を使われると効いてしまう。


つまり、風邪みたいな空気感染でなる病気や怪我をしてそこから病原菌が入った場合や食中毒なんかは効かないけど、コカトリスの毒の息やローズヴィオスライムの軟化毒、俺の『プチヴァイラス』は俺自身にも効果があると言う事だ。

ただ本を読むと勇者は『状態保持S』に似たスキルを修行だか別のスキルの効果だかでランクを上げていたらしい。

俺のスキルの方がランクが下だろうから、勇者が無事だからと言って俺にも効かないと妄信する事が出来ないんだ。

逆に、もしかしたら勇者はダメでも俺には効かないものだって有るかも知れない。

こればかりは俺自身がこれから体験しないと分からない事だ。


最後に新しく魔法やスキルを作る方法。

アプリの魔法を新しく作る条件の2番目の項目も解放されたから、間違いなくこの方法で合っている。

だからこそ、残念な事に俺は世界移動以外では絶対魔法を作り出せない事が分かった。

これは知りたくなかったな。


新しく魔法やスキルを作るには『あるスキル』が必要だ。

そのスキルの正式な名前は分からないけど、俺はそのスキルを仮に『主人公補正』と呼ぶ事にした。

ユマさんの話しにもあっただろ?


『負けそうに成ると新しい魔法やスキルを急に覚えて強くなる』って。


あれこそが新しい魔法やスキルを作り出す2番目の条件。

『主人公補正』のスキルによってピンチになるとその戦いで絶対に勝てる魔法やスキルを新たに、自動で、作り出せてしまうんだ。

勇者は主人公らしくピンチをチャンスに変える。


現実にはありえない。


本来なら創作物でしか起きるはずの無い。


敵からしたら厄介でご都合主義な条件だよ。


だから、


「そんな都合の良い事、現実に起きるはずが無い」


と思っている俺には無理なんだ。

新しく魔法を作る条件が分かった今でも、信じる事が出来ない。

『ある』と自分に言い聞かせても、いつの間にか俺は否定しているんだ。


「こんな事妄信する位なら、今の魔法のままで良い!!」


と。

自分でも信じられないけど、俺は心底。

それこそ無意識にでも信じる事が出来ない頑固者らしい。

自分では結構柔軟な方だと思っていたから、ちょっとショックを受けたかな?


まぁ、魔法に関しては今のままでもさして困らないだろう。

・・・・・・・・・俺のコントロールさえ上がれば。

やっぱ、明日は1日中魔法の練習しようかな・・・


「あ・・・・・・」


この世界に来て初めての休日をどう過ごそうか考えながら、ルグとユマさんとギルドに今日受けた依頼の品を出した帰り。

今日の朝まで閉まっていた雑貨屋工房が営業を再開していた。

良かった。

無事、再開できたんだな。


「ルグ、ユマさん。ちょっと寄ってても良い?」

「え、うん。良いよ。何か買うものでもあるっけ?」

「ん?いや、前お世話になった店が営業再開したから顔出そうかなって」


折角だし、顔位出した方が良いだろう。

そう思って、ルグとユマさんに声を掛け俺達は雑貨屋工房に入った。

中の商品も客も始めて来た時に比べ少ない。

けど職員さん達が元気そうでホッとした。


「こんにちは。営業、再開出来たんですね」

「あら、久しぶりじゃない!!

お陰様で無事商売が出来そうよ!」


俺は小母さんと他のお客さんの話が終わるのを待ってからそう声を掛けた。

俺に気づいた小母さんは嬉しそうに笑っている。

鍛冶の工房に居たらしい爺さんも顔だけ出して、軽く手を上げてまた工房に戻ってしまった。


「ありがとうね。

色々ウチが出した依頼を受けてくれたみたいだし。

それに・・・・・・」

「いえ、お気になさらず。この鞄のお礼です。

それに、俺が迷惑を掛けた様なものですから」

「そんな気にしかくて良いのに!!

アンタのせいじゃないよ。

ウチの店でアンタが迷惑を掛けたなんて思ってる子は誰も居ないよ」


小母さんの言葉に周りに居た職員さん達が無言で頷いてくれた。

それだけで、少しホッとする。

その後も暫く小母さん達と他愛も無い世間話をしていると、雑貨屋工房を散策していたルグが声を掛けて来た。


「サトウ、これ」

「何だ?イチゴ狩りフェア?」


ルグに連れて来られた場所。

多分その日の目玉商品を置く場所なんだろう。

ほんの少しの間、俺が採ってきたジュエルワームの糸も置かれて居た一角に、『イチゴ狩りフェア』と書かれた可愛らしい看板と袋や虫除けスプレーみたいな道具、小さな鋏が普段より安い値段やセットで売られていた。

イチゴ狩りって1月から5月に行うものだと思っていたけど、この世界ではこの時期に行うらしい。


「あら、知らなかったのかい?

今がイチゴの旬なのよ」

「そうなんですか?」


小母さんの話を聞くと俺が知ってる農家が育てたイチゴを摘むイチゴ狩りと違い、森や草原に生えた野生のイチゴを摘みまくる感じらしい。

ローズ国ではこの時期になるとイチゴが摘んでも摘んでもドンドン生えてくるらしく、村娘から冒険者や貴族まで幅広い人達がイチゴを摘みまくる。

一種の伝統行事なんだそうだ。


ただ、農家が育てたイチゴを摘むのと違い、森や草原に生えている物を摘むから魔物に襲われる危険性が高い。

そう言えばギルドの掲示板に『イチゴ狩りの護衛』って依頼が幾つかあったな。

直ぐに別の冒険者達が依頼を受けに行ってたから、見間違いだと思ってた。


「ギルドの依頼でもイチゴ狩り中の護衛依頼がありました。

依頼が出たそばから、ドンドン他の冒険者が依頼を受けていて詳しい事は分からないんですけど。

そのイチゴ狩りって冒険者がこぞって受けたがる程報酬が良い、危険な行事なんですか?」

「場所に因るわね。

でも、この街の近くならそんな危険は無いわよ。

たぶん、まともに戦えもしない貴族を護衛して依頼料も手に入って美味しいイチゴにもありつけるから受けるんでしょう。

貴族が独占してる店で売ってる物より美味しいイチゴが生える場所って結構有るから」

「あぁ、そう言う事ですか」


確かに美味しいイチゴは食べたいけど、そこまでして食べたいかと言われると微妙だな。

イチゴなら俺の『ミドリの手』で作り出せるし。


「サトウ~。明日、依頼受けない日だろ?

イチゴ狩り行こうぜ!な?」

「う~ん。そうだな~」


ケット・シーの姿に戻っていたら尻尾を振ってそうな程、目をキラキラさせてルグがそう言ってくる。

『ミドリの手』で出せるんだから、行かなくても良いと思うんだけど・・・


「サトウ君、サトウ君」

「ん?何、ユマさん?」


いつの間にか傍に来ていたユマさんもルグと同じ目で見てくる。

2人の期待に満ちた目が俺に突き刺さった。


「2人共イチゴ好きなの?イチゴ狩り行きたいの?」


無言で力強く何度も頷く2人。

あー、うん。

これは、行かないって選択肢が消えたわ。

何時も俺の依頼を手伝って貰ってるし、この位の願いは叶えないとな。


「すみません。

イチゴ狩りに必要な道具のセット3つ下さい」

「はい、ありがとうね」

「「やったーーッ!!」」


万歳するルグとユマさんを見て、クスクス笑いながら商品を渡してくる小母さん。

セットの中身は虫避けや葉っぱや棘で怪我した時用の薬が複数と、イチゴを摘むのに使うのだろうか?

小さな鋏が1つ。

摘んだイチゴを入れる為の小袋が5枚。

最低限必要な道具しか入っていないらしく、他の道具は別に買わないといけないそうだ。

けど初めて行くんだし、今回はこれで良いだろう。


「それで、イチゴ狩りに行くなら何処がお勧めですか?」

「そうね~。

この近くだと、『サラマンドラの森』がお勧めね」

「サラマンドラの森・・・・・・」


アーサーベルの西、ルグが見せてくれた地図のチボリ国の方に出っ張った部分一帯にある森。


サラマンドラの森はローズ国で1番湧き水が豊富で、泉や水深や流れる速さの違う川が数多く流れる。

ただ、チボリ国に近いせいか川や泉の水温が比較的高い場所らしい。

まぁ、場所によってはスッゴク冷たい場所もあるそうだけど。


だからなのかな?

『サラマンドラ』の名の通り、サンショウウオや蜥蜴に似た動物や魔物が多く住んでるそうだ。

その中でも特に気を付けないといけないのが、


「ローズ国内で唯一、サラマンダーって言う火を吐く人間と同じ位大きな魔物が住んでいるから、その魔物にさえ気をつければ大丈夫よ!」

「分かりました。出来るだけ気をつけます」


ルグからオーガンの説明を聞いた時サラッと言ってたから、サラマンダーが居る事は分かっていた。

俺が居た世界だとサラマンダーは火蜥蜴や火竜とも表記される、『火』と深く関係があるモンスターだ。

だからレッドバー島やホットカルーア国、チボリ国の様な『火』や『熱』を連想する所にしか生息して無いだろうと予想していたんだけどなぁ。

まさか、ローズ国にも居るとは。


『サンショウウオや蜥蜴に似た動物や魔物が多く住む』森に居る『人間と同じ位大きな魔物』って事は、たぶん火を吐くオオサンショウウオとかか?

確かオオサンショウウオは日本の特別天然記念物で魚や貝、蛙、ミミズを食べる。

時には共食いをする程貪欲な奴だって高橋が言ってたな。


それで火を吐くのか。

ゲームだと中ボスとか強力なキャラとして出てくる事が多いし、予想通りと言うか・・・

かなり危険だな、サラマンダー。


まぁ、でも、


「サラマンダーは森の奥深くに住んでいるから、イチゴ狩りに来ている他の人達から離れ過ぎなきゃ大丈夫」


だと小母さんも言っている。

それに、オオサンショウウオって水ん中に住んでるらしいし、それ以外の爬虫類も水辺の近くに居るイメージがあるから、川や泉に近づきすぎなきゃ大丈夫だろう。

あ、でも火を吹くなら逆に水は苦手なのかな?


「じゃあ、明日は弁当でも持ってイチゴ狩りかな?」

「「わーい!!」」


明日のイチゴ狩りを楽しみにしているルグとユマさんに引かれ俺達は屋敷に帰った。

だけど、やっぱり俺の考えは甘かったんだ。

そう。

この時の俺は自分が根本的な間違いをしている事に気づかずにいた。 


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