177,『強者と欲をかく者はただエサになるだけ』 1匹目
少し寄り道が過ぎたかもしれないけど、必要な買い物は無事済ませられた。
そのままリカーノさんの解説に出てきた巨大オアシス跡地近くに止まる馬車に乗り込み、まずアドノーさんの依頼と一緒に受けた他の依頼を終わらせに向かう。
「うわぁ・・・・・・
これがオアシスの跡地かぁ・・・・・・
落ちたらひとたまりも無いな」
砂漠の真ん中に口を開けた巨大穴。
飛行機の窓から覗いても全貌が見えなんじゃ無いか?
って思う程広くて、デュラハン達の所の奈落の様な深い崖が可愛く見える程絶望的な闇を溜めている。
この広く深いオアシスに水が満ちていたら、きっと濃い青色の海の様だったろう。
きっとそれは壮大な絶景だったに違いない。
「この上を『フライ』で飛ばないといけないのか・・・」
「いけないんだよ。
目的のゴーレムはあの浮き木の林に居るんだからな」
頼りにしてるからな、サトウ。
ってルグに言われるけど、何か遭ってこの闇に堕ちる恐怖が勝って任せろとは自信満々に言えない。
俺達の1つ目の目的地である目の前の小さな林は、プカプカオアシス跡地の穴の上に浮かんでいた。
名前の通り空に浮かんだ『浮き木』はこのオアシス跡地と、クランリー国の一部。
恐らく風の魔元素が多いか溜まるスポットの近くでしか生きられない植物で、幹は徳利や洋ナシの様な形をしている。
その膨らんだ部分に風の魔元素が溜まっていて、この魔元素のお陰で浮かんでいられるそうだ。
幹の形や上の方に花や実を着ける感じから、ヤトロファに近いって言えば分かりやすいんじゃないかな?
鉢植えで育てられてるイメージの強いヤトロファと違って、浮き木の方はヤシの木の様に大きいけど。
そして俺達が受けた依頼は、この林で増えすぎた宝虫。
『商人』の駒に使われてるあの虫の駆除だ。
浮き木は木の部分や花、実、葉。
その全てが飛行船や、アドノーさんが持ってきたこの世界の銃の様な最新の魔法道具に使われてる。
今注目度の高い素材の1つらしい。
そんな浮き木やチボリ国民も大好きなダグブランを食べたり病気にしたりする宝虫は、穴の開いてないアリーア金貨に似た姿。
『教えて!キビ君』に書かれた情報によると、正確に言えば人間を騙して食べる為に穴の開いてないアリーア金貨そっくりに進化してったコイン虫と言う魔物に擬態しているらしい。
簡単に言うと、コカトリスとバジリスクの関係だな。
多分『人かい鎧』のモデルになっただろう、その擬態元のコイン虫が既に絶滅してしまってるんだろう。
だから今も生き残ってる宝虫は縁起が良いと商人に人気な様で、だからこそ『商人』の駒にも使われている。
でも逆に、農家とか植物関係の職業の人達にとっては、チボリ国で育ててる殆どの植物をボロボロになるまで食べてしまう、厄介な天敵なんだ。
当然増えすぎたら商売あがったりになってしまう。
だから定期的に、林を巡回してる宝虫除けゴーレムの電池みたいな物を交換するこの依頼が出てるらしい。
「定期的って事は、エド君の故郷の事件の様な感じじゃ無いんだよね?」
「多分?
でも、もしもがあるかもしれないし、その可能性も頭の片隅に置いて何時も通り油断せず作業しよう?」
「そうだね」
ウィルオウィスプの時の様に何かが突然現れて逃げてきた。
その可能性は無いのか聞くマシロに、俺は多分そう言う事は無いと首を傾げる。
その定期的の時期が運悪く『箱庭遺跡』の出現時期と重なって、何時も駆除してくれてる冒険者達が依頼を受けてくれなかった。
そう言う経緯で俺達にまで回って来たとかだと思うけど・・・・・・
今までのこの世界での経験から考えると、絶対大丈夫とは妄信出来ないんだよな。
何時も通り、油断せず宝虫の駆除をしよう。
「・・・・・・サトウ、少し左にズレて」
「この位?」
「うーん・・・・・・大丈夫。
暫くそのまま真っすぐ」
「了解」
全員が乗り込んだ木箱ボートに『フライ』を掛けて浮き上がって直ぐ、依頼人からの支給品の地図とコンパスを見ながらそうルグが指示を出してくる。
安全の為に木箱ボートの運転に集中したいから俺は地図を見る余裕が無い。
だからルグにナビゲートを頼んだんだ。
その指示に従って1体目のゴーレムが居る場所へ。
ゆっくり目に飛んで数分もしない内にそのゴーレムが見つかった。
「マシロ、もう少し近づけた方が良い?」
「大丈夫!」
浮き木の太い枝に括られた、壁が一面無い小さな家の様な形の鳥の巣箱。
その中には鳥じゃなく気球の様な形のゴーレムが収まって居た。
そのゴーレムのバーナーの部分等辺に設置されてたビー玉の様な電池の様な物をマシロが手早く交換する。
電池の様な魔法道具を交換して直ぐ、替えの電池と一緒に渡された説明書通り球皮の部分が赤く点滅しだした。
その点滅が終わり、無事球皮の部分が緑色に変わりゴーレムが動き出す。
これを後12回繰り返さないといけないんだ。
「サトウ君止まって!宝虫が居た!」
「何処ですか?」
「右等辺の幹が3つに分かれ木の所」
「えーと・・・・・・あぁ!あれですか。
あの木に張り付いた・・・」
「そうそう。あれ」
ピコンさんが指さす方を見ると、確かにアリーラ金貨の様な物が浮き木の1本に張り付いていた。
遠くから見ると確かにアリーア金貨に似てるけど、近くで見ると巨大な金色のテントウムシにしか見えない。
チェスの駒や暗号の手紙のイラストにはかなり似てるから、あの2つはかなりリアルに作られたり書かれてたんだな。
「えっと、宝虫が居た場合は・・・・・・」
「はい、これとこれ。
穴に落ちない様にこの網を木の周りに着けて、これの煙で殺すのよ」
「ありがとうございます、アドノーさん。
『ファイヤーボール』!」
誰かにとっては縁起がいい虫でも、やっぱり農家としては害虫を生かす事は出来ない。
でもその死体は、専門家達が有効活用します!
そう心の中で思いつつ、言われた通り目の細かい網を張り巡らせ、アドノーさんから渡された乾いた太い木の枝の先に火を着け、その木から出た桃の様な甘い香りの煙を宝虫に向ける。
その煙を浴びて数秒。
ピクピク痙攣しだした宝虫がコロリと木から剝がれ網の中に落ちた。
宝虫は網に落ちた後も暫くの間軽く足を閉じて微かに動いていたけど、それもつかの間。
数分もしない内に硬く足を閉じ、完全に息を引き取った。
「他に・・・宝虫は・・・・・・」
「近くに・・・居ないね。卵も無し!」
「なら、次行きましょう」
全員で丁寧に辺りを見回したけどピコンさんの言う通りこの近くに他の宝虫も、宝虫の卵や幼虫の姿も無い。
本命のゴーレムも動き出してるし大丈夫だろうと、木の枝の火を消し未だに出る煙が漏れない様に専用のケースに入れ、宝虫の死体をこれまた支給品の専用の木箱に入れて、網を回収して。
そこまでちゃんと出来たのを確認して、漸く俺は止めていた木箱ボートを動かした。
そうやって作業して約1時間。
お昼前にはどうにか浮き木の依頼は終わらせられた。
そのまま次の討伐依頼の場所へ。
そうやってアドノーさんの依頼以外の依頼を終わらせつつ『初心者洞窟』に向かって数時間。
昼の2時過ぎ位には1番の目的地である『初心者洞窟』の手前まで来れた。




