174,『始まりの地に足を向けよ』 14歩目
「コラル・リーフについてはこの位でしょうか?
けど、まぁ。
時間もありませんし、参考にしたのが暗号の手紙と信憑性の低い噂だけです。
ですから、絶対正しいとは言えません」
「でももし、本当にコラル・リーフがこの世界の今よりも未来の人間だったら、この時代の事もコラル・リーフは知ってたかもしれないんだよな?」
「はい。ですので・・・・・・」
「ローズ国でこっちまで影響が出る不穏な事件が起きてるみたいだし、その事件の結末を知る為にも可能性があるコラル・リーフやサンゴ王妃について調べて欲しいって事ね」
「はい。暇がある時でいいので、ダメでしょうか?」
さっきはああ言ったけどこの世界の未来人説が当たってた場合、コラル・リーフは今よりも未来から『召喚』された可能性が高いと思う。
今は秘匿されてる『夜空の実』や各属性の『実』の事を知ってるし、『キビ君』像とかの技術の事を考えると、多分。
だから、もしかしたらコラル・リーフは黒幕の正体やこの事件の結末を知ってるかもしれない。
いや、黒幕の事は間違いなく知っていただろう。
自分が『召喚』される前から居る事を知っていたのか、これから現れる事を知っていたのか。
そこ等辺は分からないけど、コラル・リーフの事をもっと知れれば黒幕が何時の時代から居たのか位は分かるかもしれない。
そう俺と同じく期待したピコンさんに頷き返し、2人でチラリとアドノーさん達の方を見る。
それで俺達が言いたい事がある程度分かったんだろう。
アドノーさんが不敵笑ってそう言った。
「そうね・・・・・・
なら、貴方達の副リーダーが言ってた成功時の追加報酬。
それにしましょう!」
失敗する事を前提に受けた依頼で、マシロ達の協力の元早々に予想外に依頼人にとって有益な情報が手に入った。
だからだろう。
このままアドノーさんの依頼を受けると言った時、今日を入れて最大3日の期限だけじゃなく追加報酬も出す様にザラさんはアドノーさんに言ったんだ。
『財宝の巣』の出入口の仕掛けを見つけられなかったり解けなかったら、報酬無しの依頼完了。
仕掛けを解いて期間中に中を少しでも調査出来たら、依頼完了の最初から依頼書に書いてあった報酬を。
期限を過ぎても無事アドノーさんのお父さんの無実の証明になりそうな物まで見つけられたら、その価値に応じて追加で何か報酬を出す。
そうザラさんは言ったんだ。
このまま上手くいけば、現実逃避の空想だと否定され続けたお父さんの無実が現実になるかもしれない。
だからこそ、それにアドノーさんも承諾した。
「と言う事で、貴方の副リーダーに連絡して」
「今してるー」
依頼内容の変更やら報酬やら、ド素人の俺達じゃ判断出来ない。
そこはザラさんにお任せしないと・・・
そう昨日言ったのを覚えていたんだろう。
直ぐにでもザラさんに連絡してくれと言うアドノーさんに、ルグが既に呼び出してると言う。
でも、ザラさんどころか通信鏡を管理してるクエイさんも中々出ない。
朝9時を過ぎたこの時間帯なら寝てる訳無いし、何か遭ったのかな?
そう不安に思ってたら、ただ買い物していただけらしい。
と言うか値引き交渉中だった様だ。
暫くして言い値でお目当ての品を手に入れた上機嫌のクエイさんが出て、もう暫くして交渉に失敗したらしい悔しそうなザラさんが出た。
その後ろでジェイクさんの笑い声が雑踏音に混じってるから、3人共かなり買い物を楽しんでる様だ。
「・・・・・・ふん、ふん・・・なるほどねー」
「で、コラル・リーフの更なる調査を報酬にして貰おうと思うんですが、どうでしょうか?」
「それだとなぁ・・・・・・」
「何か問題が?」
「こっちが報酬の貰い過ぎだ。
これからの事を考えるとかなり真剣に調べて貰いたい。
その労働を考えると、こっちが貰い過ぎになっちまうんだよ」
「なるほど」
確かに暗号の手紙を調べるだけでも、マシロはスッゴク疲れてた。
それよりも大変な事を頼むなら、とっても時間が掛かるし、本業の方もあるなら更に大変になるだろう。
家族の命が掛かってるとは言えどう転んでも俺達にも利益がある訳だし、そうなるとザラさんの言う通り俺達の労働力と釣り合わない。
俺達ばかりが美味しい思いをして、アドノーさん達が損するだけだ。
なら、どうするべきか・・・・・・
「なら、無実の証拠。
いや、確実に裁判のやり直しが出来る証拠を無事見つけたら、依頼書の報酬は無しで調査一本にして貰うのは?」
「それなら問題ないな」
「と言う事でどうでしょう、アドノーさん?」
「アタシの方もそれで問題ないわ」
「なら交渉成立って事で、他に話し合う事が無いなら・・・・・・」
無事ザラさんとアドノーさんの交渉話も終わり、俺はそう言いながら辺りを見回した。
特に・・・今の所・・・・・・
疑問点がある人は居ないな。
居ないって言うか、皆衝撃の事実を知った現場に早く行きたくてウズウズしてるって所か。
「『初心者洞窟』に行く準備をしましょう」
「なら私達も買い物だね!」
「の、前に。
まず、可能ならですけど、此処を本部として此処に常に誰か残って俺達と通信鏡で連絡を取り合う人が居て欲しいんです」
「連絡を取り合う人?」
「はい。
アドノーさんのお父さんの二の舞を防ぐ為です」
俺達が入ろうとしてる『流砂の間』の仕掛け扉は時間と共に閉まってしまう。
どの位開いてるか、そして『財宝の巣』側から開けれるか。
そこ等辺が一切分からないのにそのまま無策に入ったらアドノーさんのお父さんの様に閉じ込められてしまう。
それを防ぐ為に常に外に居る人と連絡を取る必要があると思ったんだ。
「仕掛けの場所や解き方、現在位置を含めた『財宝の巣』のリアルタイムな情報。
そう言うのを常に外に居る仲間に言っていれば、いざって時直ぐに救出して貰えますし、何も残せずにって事も無くなります」
「なるほどね。
通信鏡が普及しだした今ならそう言う方法も取れるわね」
「それに噂の最新式の通信鏡なら、ある程度の物も送り合えるよ。
薬とか足りなくなったら外から送れるし、証拠品も無理して持ち帰る必要もなくなる」
あ、物を送り合える通信鏡って世間にも知れ渡ってたんだ。
てっきり『レジスタンス』の人達とそのパトロンの人達しか知らないと思ってた。
ただアドノーさんとリカーノさんの会話を聞くに、ルグ達が持ってるタイプの通信鏡はまだ一部の人しか持てない様で、世間には出回ってないらしい。
「王子。
貴方、全力でアタシ達を支援するって言ったな?
あれは本当の事か?」
「勿論。
心配しなくても君の言いたい事は分かってるよ。
最新式の通信鏡は直ぐに用意しよう。
それとも直ぐに『初心者洞窟』に行くなら今持ってるのを貸そうか?」
「貸してくれるなら、貸して貰った方が助かるな」
「良いよ。
操作の説明に時間が掛かるから、少し向こうで話そうか。
その間話進めてて」
「分かりました」
アドノーさんの言いたい事を察したジンさんと、通信鏡を借りたいと言ったルグが部屋を出ていく。
多分、借りたって設定で最初からルグが持ってる物をやり取りできるタイプの通信鏡を使うんだろうな。
その事を悟られない様に2人は部屋を出たんだ。
いや、『時間が掛かるって』事はもしかしたらまた何か2人で話し合うのかもしれない。
その事は後で聞けたら聞くとして、俺は俺のやる事を進めよう。
「通信鏡はジンさんから快く借りれそうなので、マシロとアドノーさんはいざって時の為に此処に残ってください」
「「えぇえええ!!!」」
『初心者洞窟』の先で何が待ち受けてるか分からないからな。
『初心者洞窟』には最低3人は行った方がいい。
とっても危険な古代生物の事を考えると戦闘能力の高いルグとピコンさんは是非そっちの方に行って貰って、でも依頼人を危険にさらす訳にはいかない。
だから最初ついて行く予定だったアドノーさんを抜かしたこの4人の中で残るなら、俺かマシロ、どっちかになる。
でも、最初からどっちがどっちに行くかほぼ決まってるんだよな。
マシロはコロナさんが行かせない様にすると思うし、俺はルグ達について行く条件があるから1人なる事が出来ない。
だから必然的にマシロが連絡係になるしか無いんだ。
と言う事で、安全の為にマシロとアドノーさんに残ってて言ったら、2人から躊躇いの無い不満の声が上がった。
「何を言ってるんだ!!依頼したのはアタシだぞ!?
アタシが自分と自分の父親の為に依頼したんだ!!
アタシが行かなくて何の意味がある!!」
「私もちゃんと戦えるんだよ!?
だから私も絶対に行くからね!
大体、念の為に此処でお留守番するなら1番体力無くて弱いキビ君が残るべきだよ!!
何度も言ってるでしょ!?
病人が無茶しないでッ!!」
「い、いや・・・・・・でも・・・・・・」
絶対自分も『初心者洞窟』に行く!!
と声をそろえて頑なな態度をとるマシロとアドノーさん。
その怒った様な圧は非常に強く、説得の言葉が上手く出て来ない。
代わりに説得してくれとピコンさんに目で訴えたら、小さく首を横に振られた。
「地下には大昔この近くの遺跡で暴れた危険な魔物が沢山居るかもしれないんだろう?
依頼人さんが残るのは兎も角、僕もサトウ君が来てマシロちゃんが残るのは反対だな」
「ですが、ピコンさん・・・・・・」
「分かってるよ。
サトウ君1人を残す事は僕達も出来ないからね。
それにあの様子だと依頼人さんも絶対に行くって言ってるんだろう?
なら最初の予定通り、僕達4人と依頼人さんで向かえば良いじゃないか?」
「いや、それだと安全面に問題が・・・・・・」
「なら、その連絡係はぼくがやるよ」
「本当は行かせたくないが・・・・・・仕方ない。
そう言う事なら、いざって時にマシロを救う係は私達に任せておけ。
安心しろ。
どんなに深い場所に居ても必ず助けて見せるからな」
「え、えぇえええ・・・・・・」
リカーノさんとコロナさんが手伝ってくれるって言ってくれたし、そんな2人に同意する様にナァヤ君も何度も大きく頷いてる。
何も言わないけど、館長さんや廊下から様子を覗いてる他の職員さん達もやる気があるって態度で示しているし・・・・・・
本当にいいのだろうか?
後でやっぱり駄目だってならない?
あの時俺達5人全員で行かせなければ、って本当にならない?
「タダで手伝わせるのが申し訳ないって思ってるなら、オイラ達でこの国のウォルノワ・レコード見つけて、ついでに今の『財宝の巣』の地図も作ればいいだろう?」
「エド・・・・・・」
「って事で、ネイ。
そんな事起こすつもりは一切ないけど、もし、最悪の場合は頼めるか?」
「あぁ、任せろ」
そう不安な思いでマシロとコロナさんを交互に見たまま中々頷けずにいると、ルグがそう言いながらジンさんと一緒に戻って来た。
そして、ウォルノワ・レコード関係も自分達が代わりにやるって言った時の明るい声音と表情から一転。
そう真剣過ぎる程真剣な表情でコロナさんに頼む。
きっとその『頼む』は俺達の救出の事じゃ無くて、ルグの秘密の任務に関わる事なんだろう。
そのルグの態度と声でルグの真意を察したコロナさんが、少し複雑そうな真剣な表情で任せろと答えた。
そのコロナさんの返答を聞いて、ルグが笑顔で振り返る。
「って事で、必要な物そろえて『初心者洞窟』に行こうぜ」




