173,『始まりの地に足を向けよ』 13歩目
「えーと。最後、4つ目。
俺達の目的にあんまり関係ないと思いますが、念の為に。
コラル・リーフについてです。
まずコラル・リーフの種族は人間で、性別は女性。
そして彼女なりにこの世界を。
いや、元の世界で守れなかった大切な人の恐らく異世界の同一人物達を守ろうとしていた」
コロナさんに非常に似てるとこの場に居る誰もが思うコラル・リーフだけど、種族はバルログじゃなく人間。
『オレの方が誰よりも先に君に会っていたなら、君はオレのこの思いに答えてくれたのか?
誰よりも、何よりも1番特別な存在だと思ってくれたのか?
オレのこの思いを汲んで世界の為じゃなく、自分の身を優先してくれるのか?』
そう作業に夢中になってるコラル・リーフを心底心配したコーガ・クー・アリーアの手紙の数々。
コラル・リーフはどれだけ切羽詰まっていたのか。
「ちゃんと休んでくれ。
自分の体も大切にしてくれ。
もう、こんな体を何時壊しても可笑しくない無茶な事はやめてくれ!!」
そう何度も手紙を出すコーガ・クー・アリーアに、コラルリーフは、
『私はバルログじゃない。
強力な炎生み出すオーガンも、
硬くて美しい黒い鱗も、
炎をものともしない白髪も、
大剣を振り回す腕すらも無い、
何もできない唯の弱い人間なんだ。
バルログに生まれる事が出来なかった私には強い力なんって無いし、誰かを一途に思う事も出来ない。
だからだ出会う順番なんて関係ないんだ。
お前に先に会っていたとしても、私は変わらない。
いや、それでもあの人達を救う事を優先させる。
なにより、彼女の様に勇者になる事が出来ない出来損ないの私には、この位の事しか出来ないんだ。
これは大切なものを何1つ救えなかった無力な私に、天国のあの人がくれた最後のチャンスなんだ!
今度こそあの人を、皆を助けられるなら、こんな命惜しくない!!
だから、邪魔しないでくれ』
と何枚もの手紙に掛けて卑屈に返していた。
コロナさんに似てるけど、コラル・リーフは今まで見聞きしていた話で想像していた、策略家で自信に満ちた天才って言う感じと大分違う。
それこそ正反対の様な、真っすぐ一途で大切なものの為に一生懸命になれて、でもかなりネガティブな性格。
いや、3000年前のこの世界に『召喚』される前、元の世界で何かあった様でその事を酷く引きずってるらしく、この手紙を書いてる当時はネガティブな性格になってしまっていた様だ。
大切なものを何1つ守れなかった未来のコロナさん。
それが解読された手紙の内容を聞いて思ったコラル・リーフの印象だ。
「もしあの時、タカハシ達にティフィンミルが殺されていたら、ネイもきっとこんな感じになっていただろうな」
とルグも手紙の内容を聞いて言ってたから、ネガティブでもやっぱりコラル・リーフはコロナさんに似ているんだ。
そんなコロナさんも、もし異世界に連れて来られてユマさんの異世界の同一人物を守れる立場になれたなら、自分の命を懸けてでも守るって言っていた。
「それが唯の自己満足だとしても、今度こそ絶対に守り切る」
と。
まぁ、実際コロナさんはそんな事しないと思うけど。
そんな事したらあの世で大好きで大切なユマさんに大っ嫌いだと言われ絶交されてしまうからな。
何度もユマさんに言われそれが分かってるからこそ、コロナさんは自分の命を粗末にしないはず。
「詳しい事が此処にある手紙に書いて無いので分かりませんが、コラル・リーフは元の世界での後悔をやり直す為にこの世界で色々やっていた」
ウォルノワ・レコードを造ったり、仕掛けを幾つも用意したり。
きっとコラル・リーフはその後悔をやり直す為に我武者羅に、出来る事を片っ端からやっていたんだろう。
実際は計画的にやってたかもしれないけど、手紙からはそう言う印象を受けた。
「その為に人間を裏切った。
いや、魔族側にその大切な『あの人』が居たって事かな?
守る為に裏切った」
「と言うよりも、最初からコラル・リーフは魔族側。
いえ、ホットカルーア国の人間だったんだと思いますよ?」
「え!?どう言う事だよ、サトウ!?
コラル・リーフを『召喚』したのはアリーア国の奴等だろ!?」
「そうだ!
なのに何で最初から私達の国の人間だなんて言えるんだ?」
大切な『あの人』を守る為に自分を『召喚』した人間達を裏切った。
その考えに思う所があるのか、真剣みを帯びた少し暗い顔でそう言うリカーノさん。
そのリカーノさんに俺は、裏切ったんじゃなくて最初からコラル・リーフはアンジュ大陸側の人間だったと言った。
それを聞いてルグとコロナさんが理解出来ないと叫ぶ。
「手紙の内容からの推測だから少し自信ないんだけど・・・・・・
多分コラル・リーフは、この世界のIFの世界の出身か、3000年前の時代から見て未来のこの世界の人間か。
その両方の要素がある世界から『召喚』されたんじゃ無いかと思うんです」
「えぇ!!?」
誰の物か分からない驚愕の声が響き、部屋中どころか廊下までもが騒めく。
動物像の部屋を調べた時。
いや、羊の像を調べてた時から薄々考えていた説。
未来予知が出来る可能性も完全に否定出来ないけど手紙の内容から考えると、
この世界のIF世界出身か、
この世界の未来人か、
少し未来のIF世界から来た。
その3つの説が有力だと思う。
あの地下の研究所で考えてた通り、同一人物だと考えると色々矛盾する6代目までは『5代目勇者』と同じ複数人の人物の逸話が混ざっている可能性が高い。
でもコラル・リーフの代からはそれが無いから、恐らくモデルは1人だけ。
なら、この手紙やウォルノワ・レコード関係のアレコレは全部1人の異世界人が行ったと言う事になる。
この世界の人が混じった『コラル・リーフ』って言う一種の集団が行っていたって言うなら、勇者ダイス達みたいな俺達の世界に似た世界出身説でも納得出来るよ?
でも、コラル・リーフは違う。
異世界人なのに当時からこの世界の殆どの人達も知らなかったはずの『夜空の実』の真実や各属性の『実』の場所を知っていたし、『召喚』された当時には存在しないはずのルディさんのヴァイオリンの事も知っていた。
そのコラル・リーフが持っていたはずの情報全部が、『この世界と全く異なる世界から来た異世界人』が持っているって事に違和感を感じる。
そして更に違和感を強めてるのは、その情報を使って自分で選択して行動して、あの黒幕一味たちを出し抜いて、周りを翻弄している事。
でもそのどれかの説が合っていたなら、ある程度納得出来ると思うんだ。
それに3000年前ならまだ『召喚』する世界の方向性も決まってなかったはずの時期だし、この世界のIFの世界や未来から『召喚』されても可笑しくない、はず。
あらゆるものを入れ替える『チェンジ』の魔法の上位互換とは言え、『召喚』で未来人を呼び出せるか分からない。
けど、『異世界』って言える位環境が違うならワンチャン・・・・・・
あるかなぁ?
『召喚』の魔法の事考えたら、やっぱり未来人説は厳しいか?
「色々細かい理由はありますが、ここでは大きく2つ。
『バルログに生まれる事が出来なかった』って事は『バルログ』が存在する世界で、手紙の内容的にその『バルログ』はこの世界の『バルログ』に似た姿。
いや、同じ姿をしていると考えられます。
そして、コラル・リーフはこの世界の人達以上にこの世界の事を知っている。
けど、『彼女の様に勇者になる事が出来ない』って事は、現在この世界で確認されてない『女勇者』が居た世界から来たと言う事になると思うですよ」
「だから、未来人かこの世界のIFの世界の出身と考えた訳か」
「はい。
あ、未来人っと言っても3000年前のですから、この時代の人の可能性もありますね。
彼女の様に〜、って言うのも勇者の様に勇気を持って凄い偉業を成し遂げた女性の様に、勇気を持って行動する理想的な勇者になれないって事かもしれませんし。
今までに聞いた噂が本当なら、2000年前以降の人だと思うんですけど・・・・・・
もしかしたら、3000年前の『召喚』された日のほんの数年後の未来とかから来た可能性もあります」
まぁ、動物像や、結局自分じゃ役不足だと諦めてしまったコラル・リーフがこの世界に来て欲しいと願った何処かの世界の『佐藤 貴美』の事。
後、『8つのウォルノワ』の曲の事を考えると、多分IF世界出身説かIF未来人説のどちらかの方が有力かな?
と、そう言う事を考えつつ、どうにか動物像や『レジスタンス』アジト奥のウォルノワ・レコードの事は言わない様に気を付けながらそう言えば、納得した様にアドノーさんが頷いた。
上手く納得して貰えた様だけど、ここ等辺を更にツッコまれたらボロが出そうだ。
その前にサッサと話を進めよう。
「そしてバルログの事を言った事や、名前の事。
後かなり濃厚になったサンゴ王妃と同一人物説。
そう言う事を考えると」
「異世界のホットカルーア国出身だった可能性が高いって事か」
「そう考えるとコラル・リーフは純粋な人間じゃ無いって事だよね?
両親や兄弟がバルログで、多分私と同じ先祖返りで人間として生まれた人。
そうだよね、キビ君?」
「うん。
手紙の内容から考えると、多分そうだと思う」
俺の言葉を引き継いで言ったコロナさんと、その先も続けて言ったマシロ。
その2人に頷き返し、俺はもう1度コラル・リーフは人間を裏切った訳じゃ無いと言った。
「元の世界からホットカルーア国の所属で、異世界の同一人物か本人か分かりませんが『あの人』も多分、ホットカルーア国の人。
王様とかの仕えてた人か、後は似てるコロナさんの様子的にジャックター国の王様とか?
そこ等辺の人で、その人の為にスパイ・・・
って程じゃ無いとは思いますが、『召喚』した人達を利用してたんだと思います」
「最初から『仲間』じゃないから、裏切った事にはならないって事か。
ますます・・・・・・」
ネイに似てるね。
とその更に細められたジンさんの目が言う。
そう言えばコロナさんもナト達の所でスパイ活動してましたね。
確かにそう考えるとますますコロナさんに似ていると思えてくる。
いや、もしかしたらコラル・リーフはコロナさんの異世界の同一人物なのかもしれない。
それかコロナさんの祖先か子孫か、その異世界の同一人物。
ここまで似てるって思うなら、完全に赤の他人とは思えないんだよな。
魂か血筋的に繋がりがあるはず。
「それでも、ネイは違う答えをくれるだろう?
もしオレの方が先に
「寝室はあっちだ」
一瞬不安そうに揺らいだ笑顔で何時も通りコロナさんへの愛を口にしようとしたジンさんの言葉を遮り、コロナさんは寝言は寝て言えとキッパリ言う。
その何時ものドライな返答にまた目に見えて落ち込むジンさん。
でもそのジンさんは口の端を少し上げ、何処かホッとした表情を浮かべた様にも見える。
ジンさんはコーガ・クー・アリーアの手紙と同じ様に、ユマさんよりも先に出会っていたら、
『自分の方を1番に思ってくれるか?』
って聞いたんだと思ったけど、もしかしたら、
『ユマさんの為に無茶しないか心配なこの思いを汲んでくれるか?』
って方を聞きたかったのかもしれない。
コロナさんがどっちの意味を察しって答えたか分からないけど、その返答で良い感じに解釈出来たジンさんは少し安心出来たみたいだ。




