172,『始まりの地に足を向けよ』 12歩目
「さて、無事必要な物全部の解読が終わった訳ですが」
「中々興味深い事が分かったね!」
「えぇ、そうですね。
取り合えず、一旦この内容をまとめましょう」
興味深いと笑るジンさんに、俺はそう返す。
結局あの後博物館に泊まり込んで作業を続けた俺達。
今は博物館の研究棟にある、アドノーさんの研究室に集まって会議中だ。
「まず、結論からい
「『流砂の間』は『初心者洞窟』の奥にある!!」
うと・・・・・・え、えぇ、はい。その通りですね」
『何も無かったら』の時間はとうに過ぎてるけど、問題ない。
嬉しそうに食い気味に叫んだアドノーさんの言う通り、『流砂の間』が『初心者洞窟』の奥にある事も、『流砂の間』の奥と『箱庭遺跡』が繋がっていたって事も、どっちも確定したからだ。
その事は既にルグがクエイさん達に連絡してくれたし、このままアドノーさんの依頼を続ける許可も貰ってある。
まぁ、今回も期限付きだけど。
「コラル・リーフの手紙の内容をまとめると、『流砂の間』の奥。
『財宝の巣』と書かれてる場所の出入口は元々5つありました」
その『財宝の巣』とコラル・リーフが呼んでいた場所は物凄く広い様で、チボリ国の南西一帯。
オアシス跡地の南側全体にまで広がっていた様だ。
だけどそんなに広いのに出入口はたった5つだけ。
1つ目は俺達が見つけたい『箱庭遺跡』と繋がってる出入口。
2つ目は王都アリーアに在った、今はもう塞がってるだろう出入口。
そのアリーアに在った出入口の1つが『王都遺跡事件』の時に古代生物を呼び出した魔法陣だったらしい。
その魔法陣は元々『箱庭遺跡』を作った王様が、別荘に『箱庭遺跡』に居るペットを呼び寄せる為に使っていた物だそうで、恐らく『箱庭遺跡』との出入口と繋がっている。
アドノーさん達の推測によると、恐らく飼っていた魔物達をまず裏口である『箱庭遺跡』と繋がってる場所から連れ出し、その出入口と直通のある程度離れた安全な場所にある魔法陣で別荘に呼び寄せた。
王様の安全の為に別荘の場所を隠していたからって理由の他に、王様が安心して癒しの時間を満喫できる様にとか、魔物達の負担とか、国民の安全の為とか。
そう言う理由で地下にそう言う道を作った、と言うのがアドノーさん達の考えだ。
つまりその2つの出入口は約7000年前の王様の為に作られたもので、その王様が亡くなった後は誰も使わず、安全の為に封印されていた。
その封印が魔法陣共々長い年月で壊れ、少しの刺激で暴走した結果起きたのが『王都遺跡事件』。
と言う事は、『王都遺跡事件』で暴れたドラゴンっぽい超強くて凶悪な古代生物の仲間も『箱庭遺跡』や『流砂の間』の奥にもまだ居る可能性があるって事か・・・・・・
そして『箱庭遺跡』を作った王様が白悪魔とズブズブだった可能性が高い、と。
前半は兎も角、後半は今あまり関係なさそうだから、この依頼が終わった後にでも専門家の人達に調べて貰うとして。
今重要なのは残り2つの出入口についてだ。
「1つは何処にあるか一切不明。
そして最後の1つが今も繋がってる可能性の高い、『初心者洞窟』にある『流砂の間』の出入口。
正し、この出入口はコラル・リーフが現れるずっと昔に何者かの手によって何らかの仕掛けが追加され、簡単には見つからない様になっています」
「父さん達はその仕掛けを見つけて解いて、『財宝の巣』に入った。
でも仕掛けが戻って1年間閉じ込められた」
「はい、恐らくは」
自動ドアやエレベーターのドアの様って言えば良いのかな?
どうもその『流砂の間』の仕掛け扉はある程度時間が経つと勝手に閉じる様で、コラル・リーフも1度閉じ込められたらしい。
まぁ、事前に正確な『財宝の巣』の知識を持っていたコラル・リーフは直ぐに別の出入り口から出てきた様だけど。
ただ、その事をコーガ・クー・アリーアが物凄く気にしてた。
また閉じ込められてるのかとか、魔法で砂漠に大穴開けて助けに行こうかとか。
結構頻繁に暗号の手紙で聞いていたみたいだ。
この博物館に残ってる分だけでも結構な枚数合ったし、実際のその頻度は相当な物だったんだろう。
それに対するコラル・リーフの返事の手紙らしい内容は基本、
「いい加減にしろ!!」
の一言だけだった。
「他に分かっている事は4つ。
1つは『財宝の巣』の奥には、物凄いお宝が眠っている事。
2つ目はその財宝を守る、コラル・リーフでも恐れる詳細不明の魔物の群れが居る事」
多分、ベルエール山のダゴン達の様な存在なんだろうな。
奥で眠る物凄いお宝、『風の実』のお陰で子孫を残せる魔物達が居て。
居るって言うか、その自分達にとって心地良い『風の実』の周りにその魔物達が作ったのが『財宝の巣』なんだ。
とんでもなく大きな群れが先祖代々居るのか、幾つもの群れの巣が折り重なっているのか。
その魔物達の情報が暗号の手紙にも、石碑の柱にも書かれてないから、『教えて!キビ君』で調べる事すら出来ず、そこ等辺も一切分からないんだよな。
でも、その魔物は巨大なアリの魔物なんじゃ無いかと俺は思ってるんだ。
リカーノさんと館長さんが調べてまとめてくれた最新版の石碑の地図を見ると、『財宝の巣』はアリの巣の様な形をしてる様に思える。
まぁ、『箱庭遺跡』と繋がった一部しか書かれてないから絶対とは言い切れないけど。
全体で見たら違う形をしてるかもしれない。
でも、『財宝の巣』は地下にある訳だし、この世界の法則から考えて巨大アリの可能性は十分あり得ると思うんだ。
「そして3つ目。
その魔物達についでに守らせる為に、コラル・リーフが『財宝の巣』の奥にウォルノワ・レコードを隠した事です」
やっぱりコラル・リーフが『財宝の巣』に籠って行っていた秘密の作業は、ウォルノワ・レコード造りだった。
『財宝の巣』は勿論王都アリーアの地下にまで広がっていて、その一室を勝手に改造してウォルノワ・レコードを造った様だ。
行き成り侵入してきた見知らぬ生き物が、勝手に自分達の家を改造して、家主である自分達が入れない様にする。
そう考えるとコラル・リーフは結構悪い人に思えるけど、これもこの世界をコラル・リーフなりに守る為なんだよな?
「まさかこの国にあのウォルノワ・レコードが隠されてるとは思わなかったよ!」
「えぇ、そうですね、王子!
これはとんでもない大発見ですよ!!!」
「うん、うん。
伝説が本当なら、是非本物を見て見たいなぁ。
ね、ネイ?」
「あぁ、そうだな」
「それならば、是非私達が調査をしましょう。
私達も是非本物のウォルノワ・レコードを見てみたいですからね」
「本当?なら、オレ達も全力で支援するよ」
「あぁ、何とありがたい事か!」
純粋な顔で言葉巧みに館長さん達この博物館の職員さん達を巻き込むジンさん。
館長さんもリカーノさんも、昨晩の内にこの話を知って部屋の外で興味津々と聞き耳を立ててる他の職員さん達も、皆ウォルノワ・レコード探しにやる気を出してるみたいだ。
こうなると分かって自分の立場を利用したジンさんはやっぱり、とんでもない爪を隠し持っていたな。
まぁ、アドノーさんは不満そうだけど。
「言っておくが、アタシ達は参加しないからな?
アタシの目的はあくまでも父さんの無実の証拠探しだ。
そのアタシに雇われた彼等も王子の命令でもアタシの依頼を優先させて貰う!!」
「エス!流石に今それを言うのは・・・・・・」
「良いよ、良いよ。
彼等の知識と技術は魅力的だけどね。
先約は君の方だ。オレ達の方が諦めるよ」
「・・・・・・・・・何を企んでる?」
「何も。
ただ、どんなに広くても探す場所は同じなんだ。
運よく君達がウォルノワ・レコードを見つけてくれる事を期待してるだけさ」
注意するリカーノさんの言葉が聞こえてないかの様にジンさんに向かって疑いの目を向けるアドノーさん。
その声はかなり重く低く、まるで今にも飛び掛かりそうな獣が唸っている様だ。
そんなアドノーさんの態度をサラッと流す様に、ジンさんが飄々と笑顔で答える。
「・・・・・・邪魔だけは絶対にさせないから」
「邪魔をする気は一切ないさ」
アドノーさんは今もジンさんをお父さんの事で疑ってるんだろうな。
その事がありありと分かる態度でそう言って、アドノーさんはジンさんから視線を反らした。
その視線が俺に向き、無言ながら話の続きを促す。




