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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第2章 チボリ国編
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169,『始まりの地に足を向けよ』 9歩目


「すみません!!遅くなりました!!」

「もう!トイレ位で何でこんなに時間が掛かるの!?

まさか道に迷ってたとか言わないわよね?」

「すみません、その通りです・・・

展示品に夢中になっていて道に迷ってまして・・・」

「やっぱり・・・

此処に沢山面白い物があるのは良く、良く、分かるけど!

ゆっくり見るのはアタシの依頼が終わってからにしてよね?

時間無いんだから!」

「はい。本当にすみません・・・・・・」


ピコンさんやマシロ達が2部屋分進んでる位、帰ってくるのが遅かった俺達にそうアドノーさんが怒る。

けどそう怒るアドノーさんの態度に俺はホッと内心で息を吐いた。

良かったー。

俺達がヒッソリ作戦会議してた事はバレてない様だ。


「それで、此処には何が展示されてるんですか?」

「コーガ・クー・アリーア王とサンゴ王妃が使っていたとされる日用品や玩具だ。

隣の部屋には2人が書いたと思われる手紙もある」

「本当ですか!?2人の物が此処に!?」


軽くこの部屋の展示品を紹介する館長さんの言葉に、俺は思わずそう声を張り上げていた。

グッドタイミング!

此処にも何かウォルノワ・レコードや『流砂の間』のヒントがあるかもしれない。

かなり幸先良いぞ!


「何?そんなに2人ばっかり興味持って・・・

何かあるの?

もしかして、『流砂の間』に関係ある話?」

「えぇ。もしかしたら?って段階ですけど。

俺の予想が合っていたら、何か俺達が探してる物のヒントがあるかもしれません」


アドノーさんの冗談交じりな質問にそう答えれば、俺の言いたい事が分かったんだろう。

アドノーさんだけじゃなく、ジンさんの目もキラッと嬉しそうに輝いた。

「何ッ!?

何が、この中のどれが『流砂の間』を見つける糸口になるの!!?」

「そ、それはまだ・・・・・・

でも、サンゴ王妃の品はかなり怪しいかな?

って・・・」

「サンゴ王妃?

コーガ・クー・アリーアの方じゃ無くて?」

「はい」


さぁ、言え!!

と近づけた顔ごと圧を掛け、部屋の中の展示品を指さすアドノーさん。

そんなアドノーさんに俺はどうにかそう伝えた。

『サンゴ王妃の品』っと言ったのがよっぽど意外だったんだろう。

キョトンとした雰囲気に呑まれ、少しだけアドノーさんの圧が弱まった気がする。


「なんで?」

「えっと・・・

俺の予想が正しければ、サンゴ王妃は・・・・・・

コラル・リーフと同一人物だと思うんです」

「何ですって!!!?」

「ヒィッ!」


これ、本当に伝えって良いんだろうか?

その思いから言葉を詰まらせながら、俺は時間を掛けてゆっくりそう伝えた。

それを聞いたアドノーさんの絶叫が俺の耳を突き破る。


うぅ・・・・・・

本気で鼓膜破けるかと思った・・・


その近くから放たれた大声に、思わず引きつった様な短い悲鳴を上げて耳を両手で隠す。

そのまま体が反射的に、身を守る様に目を瞑って体を少し丸めたのが分かった。


「えーと・・・・・・」

「サトウ、説明!!」

「えっと、あの・・・・・・」


暫く経ってそっと目を開けて見回せば、多種多様な驚愕の色に彩られた、顔、顔、顔。

自分でもすっかり忘れてたけど、アドノーさんやジンさん達だけじゃなく、ルグ達にもこの説を話し忘れていた様で、ルグ達まで固まってる。

それでも1番、そんなつもりは無い俺の突飛な話しに慣れてるルグは復活が早かった。

直ぐに説明しろと少し怒り気味に叫ぶ。


「ごめん。俺も今までスッカリ忘れてて・・・

だからまだこの説をまとめ切れてないんだ。

それでも良い?」

「勿論」

「えっと、じゃあ・・・まず何から説明しよう?

えーと、まず・・・まずぅ・・・・・・

コラル・リーフが女性だった可能性が合って、2人の名前の意味が同じで・・・・・・

後は・・・・・・」

「待って、待って!!

まずそこから意味が分からないわよ!

あのコラル・リーフが女?名前の意味が同じ?

まず、何処でそんな情報手に入れたのよ!」

「えーと・・・・・・」


ルグの次に復活したらしいアドノーさんが、信じられないと声を張り上げる。

ど、どうしよう・・・・・・

動物像の部屋での事も俺が異世界人って事も迂闊に全部言えないし・・・

どう説明する?

どう説明すれば違和感が最小限に抑えられる?


「・・・・・・コロナさんの故郷の話です。

コロナさんの故郷、ホットカルーア国のある地域の方言由来の女性に付ける名前に、『コラル』って名前があるんです」

「確かにあるな。縁起の良い人気な名前だ」

「それで、この『コラル』って名前は、『サンゴ』って植物のその地域の呼び方に一文字足したものなんです」

「『サンゴ』に『―』と一文字足して『コラル』だ」


この話はとっくの昔にアルさん達から聞いてたんだろう。

それに自分が今治めてる国の事だ。

ある程度予想出来て知識も豊富だった様で、上手くコロナさんが補足してくれた。

その詳しく丁寧なコロナさんの補足のお陰で、ここまではアドノーさん達も何も言ってこない。


「そこからコラル・リーフも女だって思った訳ね。

で、サンゴ王妃の名前も言語や方言の関係で違って聞こえる、同じ植物を指す名前だった。

そう言う事?」

「はい。そしてアドノーさん、言ってましたよね?

サンゴ王妃は今のホットカルーア国の出身だった可能性があるって。

それで・・・・・・」

「コラル・リーフの最後も不明。

いや、コーガ・クー・アリーアに捕まった後の情報が一切残ってない」

「はい。

コラル・リーフも異世界の方なので、その名前が本当に女性の為の名前かは分かりませんよ?

でも、コーガ・クー・アリーア側の方がそう判断した可能性は十分あると思うんですよね。

それに、自分達が『召喚』して、最終的に険悪になった元仲間と同じ意味を持つ名前の女性を態々たった1人だけお嫁さんにする。

普通に考えたらあり得ない事じゃ無いですか」


そうだったら流石に色々拗らせ過ぎてる。

そうもう1度心の中で思い、口に出さない様にどうにか喉元で止めた。


やっぱり、コーガ・クー・アリーアが実は女性だったコラル・リーフに一目惚れして、すれ違った後もずっと追いかけて、最後はその心を射止めた。

そっちの説の方がしっくりくるんだよなぁ。

子孫だって言うジンさんのコロナさんに対する態度を見ると、尚更。


「後、多分これはアドノーさん達の専門分野だと思うんですけど・・・・・・

コラル・リーフの消息が分からなくなった時期と、サンゴ王妃が現れた時期。

この時期次第では更にこの説は濃厚になると思いますし、此処に展示されてる資料次第でも・・・」

「はぁ・・・・・・そう言う事・・・」


片手で頭を押さえ、目を瞑ってため息を吐くアドノーさん。

悩んでるのか、怒ってるのか。

その眉間にシワの寄った表情からは判断出来ない。


「完全には信じられないけど、確かに可能性としてはアリね。

でも、そもそもコラル・リーフと『流砂の間』がどう関係あるの?

アタシの依頼とは関係ないでしょ?」

「コラル・リーフも『流砂の間』の奥に行った事があるって噂を聞いたんですよ。

それで俺達は『流砂の間』の存在を知ったので、何かヒントがあるかなって思ったんです」

「ふーん。そっちではそんな噂があるの。

こっちではそんな話聞いた事無いんだけど?

あ、でも、本当にサンゴ王妃とコラル・リーフが同一人物なら、その噂も本当の事になるのか」

「ですね」


上手く、誤魔化せた、か?

自分の依頼に関係ないと不機嫌そうに顔を顰めたアドノーさんも、どうにか納得してくれた様だし、リカーノさんや館長さんも違和感を感じてない様に見える。

ウォルノワ・レコードを探してる事は言えないし、どうにか『コラル・リーフの噂』で乗り切ったけど、大丈夫かな?

『風の実』の場所が分かってたなら1度は行った事あるはず。

って予想で咄嗟に言った事だから、他の話の様に信憑性が全く無いんだよ。

何処かでこの誤魔化しがバレないかな?


「と言う事で、サンゴ王妃所縁の品がある場所は出来るだけ丁寧に見ていきたいんですけど、良いですか?」

「少しでも『流砂の間』の手掛かりになるかもしれないならいいわ。

でも、此処には無いでしょうね。

あるとしたら手紙とかがある隣の部屋じゃない?」

「念の為にですよ、念の為」


そうアドノーさんに声を掛けてから、ゆっくり部屋の中を見回す。

さて、此処にこの国のウォルノワ・レコードのヒントは・・・・・・


「・・・・・・確かに無さそうだな」

「でしょ?

調べるなら隣の部屋を重点的に調べましょう」


食器にアクセサリー、ペンやこの世界のチェス。

確かに此処に展示されてるのは皆日用品ばかりで、特にヒントになりそうな物は無い。

無さそうだって呟いたピコンさんの言葉に頷いたアドノーさんの言う通り、さっさと隣の部屋に行くべきか?

でも1つ、何となく気になる物があるんだよなぁ。

そのせいで皆が部屋を出て行ってもその展示品の前から俺は動けずにいるんだ。


「キビ君、そのチェスボードが気になるの?」

「うーん・・・うん。何となく・・・・・・」


俺が動かない事に気づいたらしいマシロが隣に来て一緒にチェスボードを見る。

そんなマシロに俺はそう曖昧に頷いた。

石製らしい駒と一緒に展示された、サンゴ王妃が長年愛用していたと言うチェスボード。

前回借りていた館や『レジスタンス』のアジトで見たこの世界のチェスボードと同じ、正方形の枠組みにハニカム模様のマスが収まっている所は同じだ。


「3000年も前の物だからね。

今使われてる物と大分大きさや厚さが違うから、違和感を感じてるんじゃないかな?」

「そう、なのかな?でも、うーん・・・・・・」


地面に突き刺した様な剣や、テントウムシみたいな生き物。

そう言う俺達の世界のチェスの駒と全て違う形ばかりのこの世界のチェスの駒やマスの形は現在使われてる物とさして違いが無い様に思える。

違いと言えばマシロの言う通り、チェスボードの大きさや厚さが違う事位。

現代主流になっているこの世界のチェスボードは携帯用の俺達の世界のボードゲームの盤の様に薄かったけど、こっちは将棋盤の様に箱型をしてる。

将棋盤の様な脚は無いし、厚さも将棋盤の半分以下だけど。

でも、今のこの世界のチェスボードより厚くて箱型なのは確かだ。


「じゃあ、キビ君の世界のチェスと違う形してるから?」

「それも・・・違うかな?」


俺達が来ない事に気づいて戻って来た誰にも聞こえない様そっと耳元で囁かれたその言葉にも、俺は小さく首を横に振って答えた。

それは慣れてきた『当たり前』の事だし、それだけだったらここまで気になったりしない。

じゃあ、何でかって言われると答える事が出来ないんだよなぁ。

でも、本当に気になって、気になって・・・・・・


「あッ!そうか!!

枠組みに寄木細工みたいな模様があるから気になったのか!」

「ヨセギ細工?

この色んな木を組み合わせてる所の事?」

「そう!

もしかしたらこれもパズルになってるかもしれない」

「ッ!本当に?」

「コラル・リーフとの同一人物説が本当だったらね」


チェスボードの外枠の側面にはグルッと、何色もの色の違う木を綺麗な模様を描く様に組み合わせて作られた線が入っている。

それがスッゴク寄木細工の様に見えるんだ。


俺自身が推理物やパズルが好きだからかなぁ。

寄木細工を見ると、どうしても真っ先にカラクリ箱や組木パズルを思い浮かべてしまうんだ。

だからだろう。

俺が此処まで気になったのは。


それにサンゴ王妃の正体かもしれないコラル・リーフは、あの鍛冶師の爺さんのお父さんがリスペクトしていたかもしれない相手なんだ。

その事も無意識に思っていて、パズルかもしれないと言う期待から気になっていた。

納得すると同時に少し興味が薄れた気がする。


「ごめん。

完全に俺個人の興味で気になっていたみたい。

皆待たせてるし次の部屋行こう」

「本当に良いの、調べなくて?

もしかしたらこれもコラル・リーフが作った仕掛けかもしれないんでしょ?」

「そうかもしれないけど・・・

解いたり調べるなら時間掛かるでしょ?

俺達が調べてる事に本当に必要だったら、その時にちゃんと調べるよ」

「それなら良いんだけど・・・・・・

でも、キビ君。まだ気になるでしょ?」

「うッ・・・・・・しょ、正直言うと・・・・・・」


はい、仰る通りです!

メッチャ後ろ髪引かれてます!!

理性からどうにか興味を薄れさせたけど、でも正直言ってスッゴク気になってるんだよ。

だけど、俺達には時間が無いって事もちゃんと分かってるから、我慢してるんだ。

ここで趣味に走って周りが見えなくなる訳にはいかない!

そう自分に言い聞かせてその未練を断ち切る様にクスクス笑うマシロと部屋を出た。


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