3,スキル 前編
地下室を出て誰もいないピカピカに磨かれた静かな廊下を黙々と歩き続け、どの位経っただろう?
漸く着いたのは、無駄に豪華で大きな扉の前。
その扉の目で魔女と助手、ローブ集団は一息つくとフードを取った。
現れたのは手入れが行き届いた奇麗な銀髪と紫みを帯びたピンク。
近い物だとピンク色の薔薇の花だろうか?
その花の様な瞳の白い肌の美少女な魔女と、魔女の対に成りそうな金髪に瑠璃色の瞳の健康そうなイケメンな助手。
残りのローブ集団も魔女や助手に劣るものの皆整った顔をしている。
俺がもし、何も知らずに魔女に会っていたらきっと惚れていただろう。
そう思う位魔女も助手もローブ集団も漫画やゲームから出てきた様に整い過ぎていた。
この美形集団に囲まれた俺の場違い感。
俺が空気読んで無いみたいじゃないか!
どうせ、平民から税金を搾り取ってエステ三昧なんだろう?
けど、これは彼女いない暦=年齢、モテ無い俺への虐めか?
チクショウ、こんな所でも世界規模の顔面格差を感じるぜ。
「失礼します、ルチアナです。
生きたサンプルが召喚出来たので連れて参りました」
「うむ、ご苦労だったなルチア。流石私の娘だ」
助手が開けた扉の先は無駄使いしてます感が半端無い大きな部屋だった。
そこには煌びやかで高そうな礼服やドレスを来た数十人の人と部屋の奥の椅子に座った男女。
その人達を守る様にして立っている、これまたゲームに出てきそうな兵士らしい鎧を来た男達。
椅子に座ったおっさんが魔女を娘と呼んだから、この人がローズ国だっけ?
この国の王様で隣に座っているのが王妃様なんだろう。
魔女の親と言うだけあってダンディーなおっさんと一児の母とは思えない程若いお姉さんだ。
ここでも顔面格差が酷い、と言うかアウェイ感が酷い。
それでも俺は頑張って人の良さそうな笑顔を浮かべる。
「ほぉ・・・・・・・・・・
この猿みたいなのが生きたサンプルか?」
さ、猿!?
「はい、この猿がそうです」
こいつもですか!?
「知能があるとは思えん顔をしているが、我々の言葉を理解できるのか?」
「はい。確り私達と会話出来る事は確認済みです。
しかし、所詮は猿ですから」
「確かにそうその通りだな。所詮は猿か!ハハハ」
「フフ」
さっきから猿、猿うるせーいッ!!!
誰が猿だッ!!!!
周りの奴らもゲラゲラ笑うんじゃねぇええええッ!!
叫びたい。
凄く、ものすごーく、
「ふざけんな!」
と叫びたい!
だがここで叫んで喧嘩を売ったら殺される自信がある。
我慢するんだ俺。
ナトの実家でバイトした時に来た、
『クレームが趣味です☆』
みたいな質の悪いクレーマーを対応した時を思い出せ。
田中家の営業方針、
「どんな客にもポーカーフェイス。
営業スマイルは忘れずに」
だ!
耐えろ、頑張れ俺!
こんな状態でも笑顔を崩さない俺、偉いぞ!
「フゥ、まぁ良い。アレを持って参れ!」
「は!」
壊れたみたいに笑っていたおっさんが落ち着き、近くにいた兵士に命令する。
暫くして兵士が持ってきたのは一本脚のデザインが凝った丸い机と、胡散臭い占い師が使ってそうな2つの水晶玉。
1つは普通の水晶玉でもう1つは薄っすら中心が青く染まっている。
兵士が俺の前に机と水晶玉を置くと魔女が、
「サトウ、これに触れなさい」
と、普通の水晶玉を指差し言ってきた。
「何ですか、コレ。
まさか触ったらなんかの病気に罹って体が膨張して爆発して観客まで肉片や体液が飛んだり、とんでもない異臭を放って腐ったりしませんよね?」
あんた等が殺してきた他の被害者の様に。
「そんな事は起きません!
これはスキル玉と魔法玉。
透明なのがスキル玉、中が青いのが魔法玉です。
触った人物のスキルと魔法を目視出来る様にする道具。
私が発明した物です。
けして危険な物ではありません!」
尚更身の危険を感じるわっ!
「スキルに魔法?
俺が居た世界にそんなものありません。
異世界から来た俺が持っているとは思えませんが?」
「あるかどうかを確認する為でもあります。
この国に伝わる伝承によれば勇者召喚が成功した時、異世界の勇者様もスキルや魔法を持っていたそうです」
「そ・・・・・・・・・うですか。
解りました。それなら、触ってみますね」
説得は無理か。
これ以上言い訳しても無理矢理押さえ付けられて、触らせ様とするだろうな。
諦めて魔女が指差した水晶玉、スキル玉に恐る恐る手を載せる。
その瞬間何か良く解らないモノが体中を駆け巡り出て行く様な気持ち悪い感覚がした。
咄嗟に叫んで手を離しそうに成るのをグッと我慢していると水晶玉が光り、目の前の空中に薄っすら青緑色をした画面みたいなのが出てきた。
アニメで見た意識だけ電子の世界に入るゲームのメニュー画面みたいだ。
画面の左上端にカタカナでサトウの文字。
その下には固有スキル・追加スキル・付属スキル・創造スキルと書かれている。
「見ての通り、スキルは3つに分かれています。
その種族が必ず持っている能力を現す固有スキル、
教養や訓練、努力によって、身についた技術や能力を現す追加スキル、
特殊な衣服やアクセサリー、防具、武器を身に着ける事で一時的につく付属スキルです」
「3つ?
じゃあ、この創造スキルってのは何なんですか?」
「え?嘘・・・・・何これ。本当に書いてある。
ありえない。こんな事今まで無かったわ!!」
得意げに語っていた魔女は俺の言葉に慌てて画面を見る。
最終的に魔女は、その目をどんどん見開き何度も俺と画面を交互に見て叫んだ。
魔女の言葉に周りはザワザワしだし、助手やおっさんは俺を有り得ないモノを見たかの様な目で見ている。
それ程この創造スキルってのは珍しいんだろう。
画面に書かれている以上、俺はその珍しいスキルを持っているみたいだ。
そう思うとさっきまで馬鹿にされていた分、鼻が高くなる。
詳しく見たらザコでしたなんて落ちが無いとも言い切れないけどな。
「知りたいのは固有スキルだけですが、全部見てみましょう。
サトウ、先ずは1番上の固有スキルに意識を集中しなさい」
「え、あ、はい」
言われた通り固有スキルと書かれた所をジーと見るとその下に文字が出てきた。
出てきたのは4つ。
製作能力S・・・
鍛冶・大工・料理等物を作った時、品質のいいものが出来る確立が高い
集中力上昇A・・・
何かに熱中した時の集中力が格段に上がる。
この2つは普通っぽいな。
でも名前の横のSとかAはどういう意味なんだ?
ゲームみたいに能力のランクで良いのか?
「ローズ姫様、この『製作能力S』のSってどう言う意味ですか?」
「スキルのランクです。
中にはランクが無いスキルもありますが、下から順にC・B・A・S・SS・SSS・伝説に分かれています」
魔女曰く、
Cランクが覚えただけ。
Bが覚えている者なら人並みのランク。
Aがプロには及ばないけど人並みより少し上。
Sがプロの領域で、才能が無いものでも努力で伸びる最大のランク。
SSが才能あるものがプロの領域に到達したランク。
SSSが努力では超えられない、天才と呼ばれるもの達の領域。
「そしてその上が伝説。
これは天才達が生涯をかけてそのスキルを伸ばした時に到達するランクです。
伝説のランクが着いたスキルを持つものは歴史上でも数えられる程度しかいません」
「そして今、この国で伝説ランクのスキルを持つ者はルチア様だけなんだ!
ルチア様はそれだけ凄い魔法学の天才なんだぞ」
「おぉ、それは凄いですね」
助手が自分の事の様にドヤ顔して来る。
周りも其れに合わせて魔女を褒め称え始めた。
うん、そこ等辺はどうでもいいから次、次。
次のスキルは、
TKY・・・
とりあえず空気読むの略。
場の空気を読み解く集団行動を好む日本人にとって最も大切なスキル
うん、名前は兎も角内容は解らなくは無い。
場の空気を読むのは大切だよな。
で、最後、
スキル創造・・・
異世界に召喚されるまでに異世界ならあるだろうと思っていたスキルを新たに作り出す。
但し異世界に来たら特殊な条件が揃わないと新たに作り出せない。
これが創造スキルの元か。
異世界の存在を信じて無かった俺の事だ。
良いスキルは作り出せて無いよな。
なんか宝の持ち腐れみたいだ。
だからって元の世界で異世界や魔法を信じ続けるのもちょと・・・・・・
「『TKY』に『スキル創造』ですか。
始めて見るスキルです。
サトウの種族は皆持っているものなんですか?」
「種族と言うより俺の固有スキルは国民性から来たものですね。
『製作能力S』や『集中力A』は世界に誇れる物づくりの国だからで『TKY』は説明通りです。
『スキル創造』は今世界でも注目されている創造力豊かな国だからでしょうか?
もしくはちょっと特殊で独特な文化によるものですかね」
説明を見るとオタク文化っぽいし。
経済効果はそんなに無いらしいけど、アニメや漫画がきっかけで旅行や留学しに来てくれる海外の方達も居る位、世界に浸透している日本文化だと思う。
「だから日本人、俺が暮らす国の人間なら持っているスキルだと思いますよ。
ランクは地域や年齢によって変わると思いますが」
そう説明する俺の話を聞いたおっさんが満足そうに呟いた。
「なるほど。
では『スキル創造』がどれ程か見せてもらおうか」
「はい、お父様。サトウ」
「分かってますよ、創造スキルで良いんですよね」
創造スキルの項目に出たのは、
ドロップ・・・
魔物を倒した時、剥ぎ取り以外に魔物のマナを元にアイテムをランダムに自動で作り出す。
状態保持S・・・
一定の病気・精神魔法・呪術・毒が効かない
環境適応S・・・
通常時より体力を奪われるがマグマや深海、毒霧の中でも生きられ通常時と同じように行動できる。
又その世界で最低限生きられる能力がつく
言語通訳・翻訳・・・
異世界の言葉が必ず通訳され、異世界の文字が必ず読める
鑑定記録・・・
出会ってきた物・生き物・事件・思い出等を自動で記録し、スマートフォンアプリ『教えて!キビ君』から常時観覧できる。
物欲センサー・・・
欲しいと思えば思うほど欲しいドロップアイテムの出現率が下がり、欲しくないドロップアイテムの出現率が上がる。
の6つ。
RPGやファンタジーものの小説や漫画でありがちなものだ。
『ドロップ』はゲームでありがちだし、『言語通訳・翻訳』はトリップもので良くある。
『状態保持S』や『環境適応S』は漫画やゲームで見ないな。
あ、でもゲームの主人公やトリップものの主人公はマグマや深海でも普通に進んだり、俺の前のサンプル方みたいに召喚されて直ぐ死んだりしてない。
ゲームとかだと、
「これはゲームだから」
「この世界じゃこれが普通」
って、全く気にしてなかった。
そこからきたんだろう。
ただ、正直『物欲センサー』は要らんかった。
現実にも在るだろうと常日頃から思っていたけど、要らないスキルだよ!
なんで信じてたんだ俺!?
それと、『鑑定記録』。
これ自体はゲームのヘルプやヒントみたいな解説スキルだろう。
問題は説明に書いてある謎のアプリだ。
こんなふざけたアプリ、俺は見た事も無いしダウンロードした覚えも無い。
一応確認の為スマホを見ると、
「うっわー。本当にあるよ」
スマホの画面には身に覚えの無い明るい黄緑色のアプリが確り存在した。
名前も『教えて!キビ君』だし。
色々スマホを弄るけど、メールも電話もインターネットもLINEも繋がらない。
どころか、当然と言えば当然だけど、圏外だった。
それだけじゃなく、この謎アプリ以外のほぼ全部の機能が使えなくなっている。
試しにアプリを起動させると、軽快な曲と共にジャージを着た二足歩行のデフォルメされた猿が現れる。
ピョコピョコ動く猿から吹き出しが出て、
キビ君『ボクはキビ!よろしくね。解らないことはボクが教えてあげるよ!』
の文字。
この猿の名前がキビって事は俺の事か!!
この猿、俺がモデルかよ。
どこまでこの世界は俺を猿だと思ってるんだ?
怒りを通り越して呆れてきた。
俺がそう思っている僅かな間に画面がいつの間にか変わっていて、
『何を調べるの?』
と吹き出しが出た猿が小さくなって右下端に移っていた。
画面の中央には、
『用語』
『魔族・魔物』
『植物』
『動物』
『道具』
『食べ物』
『事件・伝承』
の文字。
上の方には検索バーと『撮影して検索』、『新しく魔法を作る』と出ている。
『新しく魔法を作る』ってのは気になるけど、魔女と助手がスマホを覗き込もうとしているから後で見る事にしよう。
「その四角いのがすまーとふぉんあぷりとか言うのか?」
「この機械がスマートフォンで、この画面に出ている小さな四角いのがアプリです」
「へー。じゃあ、貸せ!」
「あ!」
言うが否や俺が良いと言う前に助手が俺からスマホを奪う。
しかし、助手が魔女とスマホを使おうとした瞬間、まるで見えない何かに弾かれる様に魔女と助手とスマホの間に火花が散り2人は吹き飛ばされた。
俺は一応、心配そうに見える様に2人に声を掛ける。
「大丈夫ですか!?怪我は?」
「私は大丈夫です」
「僕もなんとも無いが、今のはどう言う事だ!
ルチア様に何か合ったらどうするんだ!!」
「そう言われましても、俺も何がなんだか・・・」
そう言いつつ、俺はいつの間にか普段スマホを入れているポケットに戻っていたスマホの画面を見る。
そこには赤い字でエラーと書かれた画面と、
『この道具は専用道具です。
契約者以外の使用は拒否します』
の文字。
何だこれ。
スマホにこんな機能無いはずだぞ。
や、でも変な奴に使われるよりは良いか。
「お前、何でこの事を言わなかったんだ?」
横からスマホを覗き込んでいた助手が殺気を放ちながら言ってくる。
「元の世界に居た時はこんな機能ありませんでした。
それにこの世界に着てから俺は今まで1度も触って居なかったでしょ?
気づきませんでした」
「ならば仕方ない。
ルチアもシャルトリューズもいいな」
「・・・・・・・・・はい、お父様」
「・・・・・・・・・は、王の仰せのままに」
不満がありそうだけどおっさんの言葉に魔女と助手は渋々従った。
だからと言って視線だけで殺そうとする程睨むのはやめて欲しい。
「皆もいいな。反論は許さんぞ?」
その言葉に周りで騒いでいた観客や兵士も落ち着く。
だが、俺は聞き逃さなかったぞ。
あのおっさん、
「世界を渡る事で物の性質が変わるか。
実に面白い」
って小さく呟いていたのを。
油断したら身包み剥がされて解剖されるかもしれない。