168,『始まりの地に足を向けよ』 8歩目
コロナさん達と再会を果たした部屋を後にして数歩分。
ほんの少し廊下を歩いただけでコロナさんが急に立ち止まり、チラリと後ろに居る俺とルグの方を見てきた。
何だろう?
何か俺達したかな?
「なぁ、次の展示室に行く前にトイレ行ってきていいか?」
「トイレ?
それならホールに戻って此処の2つ隣の扉の先よ。
案内した方が良い?」
「大丈夫!先に他の部屋見てて。
あ、でも、時間勿体無いし、他に今行きたい奴いたら一緒に行かないか?」
「あ、なら俺も・・・」
「・・・・・・少し席を外す」
流石、幼馴染。
たったアレだけでコロナさんの意図を汲み取ったルグが、そう先頭に居るアドーのさん達に尋ねる。
そしてアドノーさんからお手洗いの場所を聞いたルグと一緒に、俺とコロナさんもその場を離れた。
急いでる事を表す様に速足でエントランスホールまで出て、言われた扉へ。
そのまま急いで目的のお手洗いへ・・・
は行かず近くの部屋に入る。
「此処なら直ぐ見つからないな」
「あぁ」
別に俺達3人は本当に催してた訳じゃ無い。
本格的に仕事を始める前に、サインだけじゃ伝わらなかったちゃんとした情報の交換と、シッカリした作戦会議の為に代表で出て来たんだ。
だから直ぐに人が来なく、大きな展示品に紛れて簡単には見つかりそうにないこの部屋に入った。
本当はスズメ達ロックバードが居てくれたらもっと安心なんだけど、誰も連れてないんだから仕方ない。
チョコチョコ外を警戒しつつ、まずは情報交換だ。
「それで?何で俺達を連れ出した?
まぁ、大体予想出来てるけど」
「予想出来てるなら聞くな。
今ここでアイツ等と離れた理由なんて1つに決まってるだろう?」
「はいはい。
ちゃんとした情報交換するんだろう?
まず、何から聞きたい?」
「お前が何で今そんな事してるか。
その理由からだ、グランマルニ」
「・・・・・・・・・お前も気づいてたのかよ」
「当たり前だ」
コロナさんにまで正体がバレていた事に渋い顔をするルグ。
俺以外にはバレないと思ってたからか、少し。
いや、かなり悔しいらしい。
「・・・・・・もしかして、俺のせいでルグの正体に気づきました?」
「関係ない」
「なら、俺の変化や演技が下手だって言うのかよ?」
「馬鹿か?そんな訳無いだろう。
私かユマ様でも無ければ気づけない程、肉体的にも言動的にも他人だ」
私でも直ぐに気づけなった位なんだからその演技力は誇っていい。
と悔しそうに顔を顰め、遠回しにそう言うコロナさん。
仕事で長い間離れていても、そこは幼馴染。
正反対な様に見えて何だかんだで似た物同士だからか、尚更お互いの事が良く分かる様だ。
「・・・・・・・・・お前がそうしてるのは・・・
やはり・・・・・・」
「何に置いても優先しなくちゃいけない、最重要な極秘任務。
それ以上はコロナでも教えられないな。
コロナには酷な事だと思うけど、何も見なかった、聞かなかった事にしてくれ」
「・・・・・・・・・・・・・分かった」
全身が引き裂かれる様な悲痛で悔しそうな表情で唇を噛み締め、呻き声を絞り出す様に微かな声でそうコロナさんは頷いた。
それでもコロナさんの顔は心底納得出来ない様な悔しそうな表情のままで、一歩踏み間違えれば今にも自らの感情が爆発して死んでしまいそうな雰囲気を放っている。
それ程悔しい思いをしてるのに、コロナさんはその極秘任務を自分がやるとはけして言わない。
コロナさんにも、未だに詳細不明なルグの極秘任務の心当たりがあるんだろう。
コロナさんにとっても、とても、とても。
それこそ自分の命よりも大切な心当たりがあるからこそ、自分の本心を必死に押し殺して適任で信頼出来るルグに任せると決めたんだ。
「ちょっとちょっとッ!!
人の婚約者、いじめないでくれる?」
「え!?ジンさん!!?」
そう焦った様な怒り声がしたと思ったら、後ろから抱き締められる様にコロナさんが俺達から引き離された。
その引き離した相手は拗ねた様な表情のジンさん。
どうやらあの後ジンさんも抜け出してきたらしい。
「ジンさんも来たんですね」
「ネイが心配だったからね!
やっぱり来て正解だったよ。
ごめんね、ネイ?遅くなっちゃって・・・
オレが来たからにはもう大丈夫だから!」
「あの、お言葉ですが、勘違いですからね?
俺達、コロナさんに酷い事、一切してませんからね?」
「そうだぞ、ジン。
私がコイツ等なんかに後れを取るはずないでしょ?
だから、離せ」
「無理!!絶対離さないからね?」
「はーなーせぇえええ!!!」
心底嫌そうに物凄い形相を浮かべて、ジンさんの腕の中で暴れるコロナさん。
そんなコロナさんの抵抗なんて一切気にせず、ジンさんはコロナさんを愛おしそうに抱き締めていた。
「あの、ジンさん?
此処には俺達しか居ないんですから、俺達の前でまで婚約者の設定続けなくても・・・
コロナさん、本当に嫌がってますし・・・・・・」
「設定?なんの事?」
「え?」
何となくコロナさんの周りだけ気温が高くなってる気がするし、このままじゃ堪忍袋の緒が切れたコロナさんにジンさんが燃やされてしまいそうだ。
そう思ってジンさんにコロナさんを解放する様に言ったら、
「何言ってんだコイツ」
と、心底理解出来ない事を聞いた様な顔をされた。
あれ?
もしかして、そう言う設定とかじゃなく正真正銘本当に本当の婚約者同士?
こんなにコロナさん嫌がってるのに?
「あの、コロナさんと婚約してるって話、周りから違和感持たれず調査の仕事をする為に作った設定なんですよね?
ナァヤ君が弟子って言うのもそう言う理由で・・・」
「違う違う。
確かにナァヤ君はティアレ殿の弟で、ある事情からネイと一緒に保護してる子だ。
だから君の言う通り弟子でもない。
でも、ネイとは愛し合う正真正銘の婚約者さ!
これだけは変えようのない事実だよ」
「アイツ等の様に何も知らない異世界人に嘘を吹き込むなッ!!!
お互いの国のより良い同盟の証拠に婚約してるだけだろう!!
唯の個人的な連合相手!!
だから私はお前を愛してないし、好きでも無い!
私の『特別』なお方はユマ様ただ1人だけだ!!
何度も言わせるな!!
後いい加減放せッ!!!」
あー、はい。
なるほど、そう言う事ね。
つまり、コロナさんにとってジンさんはジャックター式の結婚相手。
所謂ビジネスパートナーみたいなものでしか無いけど、ジンさんは本当にコロナさんに惚れていて心の底から愛していると。
恋愛的に見れば完全にジンさんの片思いな訳ね。
・・・これ、どっちの味方をするのが正解な訳?
それとも放置するのが正解?
「兎に角!
長く此処に居たらアイツ等に違和感持たれるだろう。
無駄な事してないでさっさと必要な話し合いをするぞ」
「わ、分かりました・・・・・・」
ジンさんのお腹に思いっ切り肘を叩き込んで、漸くジンさんの腕から逃れたコロナさん。
一応大切な婚約者の筈なんだけどなぁ。
スッゴク嫌な事されても燃やさないだけ、コロナさんなりに大切に思ってるって事なんだろうか?
まぁ、それをこの不機嫌なコロナさんに聞いたら俺の方が燃やされそうだから、絶対に言わないけど。
後、ルグ!
お前は笑ってないでジンさん介抱するの手伝って!!
「それで、お前等が此処に来た目的は・・・」
「ウォルノワ・レコードを探す為、で合ってます?」
「その通り!良く分かったね」
俺達側の今までの出来事を説明し終えたルグの言葉を引き継ぐ様にそう言えば、正解だと痛みから回復したジンさんが言う。
やっぱりウォルノワ・レコードを探しに来てたのか。
アーサーベルのウォルノワ・レコードのコラル・リーフ製のスマホは壊されてるけど、他のウォルノワ・レコードには無事なスマホが残ってるかもしれない。
風山 紅太郎と連絡が中々取れない以上、木場さん達からの情報も限られてくるし、ウォルノワ・レコードの情報はこれから先も必要だろう。
だから念の為に探すのは良い案かもしれない。
「やはり、この国のウォルノワ・レコードはアリーアに?」
「多分ね。
そこが1番ありそうだとオレ達は思ってるんだ。
でも・・・」
「『王都遺跡事件』のせいで直接アリーアの『召喚』の間を見つけて、真下に掘っていく事が出来ないと?」
「あぁ」
だから此処に残ってる文献を調べに来た。
そう軽く苦虫を潰した様な顔でため息を吐くジンさん。
さっきの展示室での雑談で知った事だけど、巨大クロッグの事件でバトラーさん達から教えて貰った『王都遺跡事件』。
巨大古代生物が暴れたあの事件は、旧王都のアリーアで起きた事件だったらしい。
巨大オアシスが枯れてアリーアと同じく、かなり距離のあるこのロホホラ村以外近くの町や村も消えてしまったから人の被害は殆ど無かった。
当時はそれに皆ホッと胸を撫で下ろしていただろう。
けど、まさか何十年も経った後のここに来てこんな問題が発覚するとは・・・・・・
思わぬ落とし穴があった物だ。
それともあの事件も、時限式の壁の仕掛けの人の仕業だった?
いや、流石にそれは・・・・・・無いよな?
唯の、偶然だよな?
「そこで君達の出番。
1度ウォルノワ・レコードを見つけた君達ならまた見つけられるんじゃないかって思ってるんだ」
「何よりお前はコイツ等が苦戦したアジトの仕掛けを直ぐに解いたと聞いている。
ならウォルノワ・レコード自体見つけられなくても、此処に残った文献から場所の予測位は出来るだろう?」
ニコニコ笑ってるけど拒否権の無い視線を向けるジンさんと、ルグを指さし首を小さく傾げるコロナさん。
2人の期待と強制力を持った雰囲気が重い。
そんな恐ろしい雰囲気漂わされても、毎回毎回上手くいくとは限りませんって・・・
それに、アドノーさんの依頼の事もありますし・・・
「えっと、期待して下さるのはありがたいんですが・・・
すみません。
俺達もナト達を追いかける為の下準備で依頼を受けてるんです。
ですから、最後まで協力出来るか分かりませんし、期待通りの成果を出せるか分かりません。
それでもよろしければ微力ながら協力させて頂きます」
「勿論それで構わないよ。よろしくね」
「はい。よろしくお願いします」




