165,『始まりの地に足を向けよ』 5歩目
キャラバン村に入る為にアドノーさんの依頼を含め無事3つの依頼をピコンさん代表の元受けた俺達4人。
俺達残り組以外の3人、クエイさん、ジェイクさん、ザラさんは、ついさっきのキャラバン村直通の臨時馬車に乗って行ってしまった。
俺達は依頼の場所近くに寄る定期馬車を待つって意味と、もう1つ。
情報収集の為にまだこの村に残っている。
「それで、情報収集って?」
「そうですね・・・・・・
柱の地図の最新版、って言えば良いのでしょうか?
出来るだけ『箱庭遺跡』と繋がっていた場所を確定させたいので、詳しい地図の情報が欲しいです。
それと、残っているようなら、お父さんの研究の資料も見せて貰っても?」
「そう言う事なら、博物館に戻りましょう!
そうと決まったら、ほら!!急いで、急いでッ!!」
「あッ!アドノーさん!?待って下さい!!」
まずはこの情報不足の状況をどうにかしたい。
そう俺が言うや否や、アドノーさんは博物館が最適だと言い出し走り出した。
その後を俺達も慌てて追う。
「此処ですか?」
「えぇ、そうよ。
降りるなら、表じゃなくあっちの裏の方にして」
「分かりました」
ギルドから博物館までは結構な距離がって、ルグは兎も角、俺は確実に最後まで走り切れない。
だから、直ぐにアドノーさんを引き留めて、ピコンさんが作ってくれた木箱ボートに『フライ』を掛けて飛んできたんだ。
「初めて空を飛んだ!」
と少し興奮気味のアドノーさんの案内の元飛ぶ事数分。
村はずれの小さなお城かと思う位大きな建物まで来た俺は、少し高い上空からその建物を指さした。
アラビアンナイトに出て来そうな宮殿の様なその建物が博物館だと確認を取り、アドノーさんの指示に従い裏口近くに降りる。
「エス!!?君、何で空から・・・・・・
いや、その前に今まで何処に行ってたんだ!!!
頼まれた仕事ほっぽいて・・・
何時も言ってるだろう!!?
どこか行くなら事前に・・・」
「ゲッ!リッカ・・・・・・」
アドノーさんが木箱を降りて直ぐ、唖然と裏口の前で立っていた男性の怒号が放たれる。
その男性は今朝会ったあのリカーノさんだった。
そんな怒り心頭と言った感じのリカーノさんを見て、アドノーさんが盛大に顔を顰める。
「何でお前が此処に居るんだ?
お前に合わない為にこっちに来たのに・・・」
「エスの考えることなんてお見通し・・・・・・
って、貴方達は今朝の!!」
「あ、こんにちわ。今朝ぶりですね。
あの後お父さんは大丈夫でしたか?」
「え、えぇ。お陰様で。
今はお客様の対応をシッカリ行える位落ち着いています」
お客さんを驚かせたり、邪魔にならない様に裏口に行くよう言ったんじゃ無いんですね・・・
そう呆れつつアドノーさんとリカーノさんを見てると、漸くリカーノさんが俺達に気づいた。
どうやら仕事をボイコットしたアドノーさんに対する怒りで、今まで俺達の存在に気づいて無かったらしい。
その事が少し気まずかったのか、リカーノさんは俺達から軽く顔を反らし、お爺さんが元気になったと言った。
「それで、あの・・・何で皆さんがエスと?
まさか、エスまで何かご迷惑を!!?」
「迷惑とはなんだ、迷惑とは。
彼等はアタシが正式に雇った冒険者だぞ?
本人達も納得してアタシの依頼を受けているんだ。
迷惑なもんか!」
「依頼って・・・例の?」
「それ以外何がある?」
「皆さん、すみません!!!
エスが我儘言ったみたいでッ!!
何度も何度もぼくの身内がご迷惑を・・・・・・
本当に申し訳ありません!!」
「だから、リッカ!!!
違うって言ってるだろう!!?」
今まで2人の間に何があったんだろうなぁ。
俺達がアドノーさんの依頼を受けたと聞いて、リカーノさんは真っ青な顔で土下座しそうな勢いで謝って来た。
その勢いに言葉が分かる俺だけじゃなく、リカーノさんの言葉が分からないルグ達まで困惑して引いている。
「い、いいえ!本当、お気になさらずに!!
アドノーさんの言う通り、俺達にも利益が有って俺達の意思でこの依頼を受けてるんです!
ですから、リカーノさんがそこまで気にする事じゃ・・・・・・」
「ほら、言った通りだろう?」
「エスは反省してッ!!!」
流石にリカーノさんの胃が心配になって来た。
出来る様なら後でクエイさんに胃腸薬調合して貰って、通信鏡で送って貰おうかな?
「それで、エス。何で戻ってきたの?
君の事だ。
依頼を受けてくれる冒険者が見つかったら、直接『初心者洞窟』に行くと思ってたよ」
「アタシもそのつもりだったんだがな?
彼が現場に行く前に情報収集する必要があるって言って戻ってきたんだ」
「彼?情報収集?あ、えーと・・・・・・」
「そう言えば自己紹介してませんでしたね。
俺は通訳の佐藤って言います。
此方が俺達の班のリーダーのピコンさん。
そして、ルグとマシロです」
「あ、すみません。
先にぼくの方から名乗るべきでしたね。
ぼくはリカーノ・アペリティフ。
彼女と同じく此処の職員です」
此処に居ないクエイさん達の事も含めお互い軽く自己紹介して、リカーノさんは改めて俺達が此処に来た理由を尋ねてきた。
それに俺は出来るだけ丁寧に、かつ、アドノーさんの機嫌を損なわない範囲でここまでの事情を説明したんだけど・・・・・・
それでもかなり親しい関係だからだろうか?
それとも単純に俺の説明が悪かったのかもしれない。
リカーノさんは余裕の無いアドノーさんのアレコレを察してしまった様で、アドノーさんをジットリと睨んでいる。
「やっぱり迷惑かけてるじゃないか・・・・・・」
「だから、違うって言ってるだろう?
迷惑って言うなら、館長の方が酷いじゃないか!
酔っぱらって道端で寝こけて。
正直言いな。これで何度目だ?」
「うッ・・・そ、それは・・・・・・」
俺達が此処に来た説明の最中に知った、俺達とリカーノさんが知り合った理由。
それを出して自分の方がマシだとアドノーさんはドヤ顔を浮かべた。
リカーノさんはまだその時の事を気にしてるのか、そんなアドノーさんに反論出来ずにいる様だ。
「リッカ。
お前は彼等に対して本当に申し訳ないと思っているんだよな?」
「そりゃあ、勿論。
色々迷惑かけたのに、お礼らしいお礼も出来てないんだ」
「自分が協力出来る事なら惜しまない位に?」
「まぁ・・・・・・
言っておくけど、君が仕事をサボったせいでぼくも忙しいんだ。
彼等が本当に必要としない限り、君の手伝いはしないかならね?」
「チィッ!」
ニコニコ笑顔を浮かべ誘導しようとするアドノーさんの作戦を長年の勘で見抜いたリカーノさんが、そう皆まで言う前に釘を刺す。
それに対し目論見を見抜かれたアドノーさんは盛大に顔を顰め、態とらしく大きな舌打ちをした。
そのアドノーさんの鋭く細められた目が、リカーノさんを説得しろと無言で俺を射抜く。
「えっと、あの今朝の柱とかの研究はリカーノさんが?」
「ぼくもそうだけど、主には父が研究していますね。
あの偶にある模様。
地図については父に聞いて貰った方が良いと思うのですが・・・・・・」
「あぁ。今高貴な方々が来客中でしたね。
それなら仕方ありませんよ。
俺達は俺達だけで何とか調べてみます」
「ちょっと待て!!
そこは遠慮なんかせず頼む所だろう!?」
「エス!!自分の我儘を押し付けないッ!!」
俺が思い通りの事を言わなかったからだろう。
少し顔を赤くして文句を言うアドノーさんに、すかさずリカーノさんが注意する。
そんなにリカーノさんの言葉が気に食わなかったのか。
アドノーさんは子供の様に頬を膨らませて拗ねてしまった。
その2人のやり取りがどことなく微笑ましいと言うか、見覚えのある懐かしさがあるって言うか。
少し気が抜けた気がする。
それにしても、まさかあのお爺さんがこの博物館の館長で、今コロナさん達の対応をしているとは。
今朝のあの時なら絶対に夢にも思わなかっただろう。
クエイさんの良く効く薬を貰ってアレから数時間経ってるとは言え、アルコール中毒で危険な状態だった上に見送った時は1人で歩く事もままならない状態だった。
それなのにコロナさんの対応をして本当にお爺さんは大丈なんだろうか?
俺が実際会った限りだとそんな事なさそうなんだけど、ルグから聞いた話だとコロナさんって結構怒りっぽいらしいし。
酔っぱらったのが原因で自分達に会うのが遅れたって知ったら、怒らないかな?
いや、ユマさんが関わらないから大丈夫か?




