164,『始まりの地に足を向けよ』 4歩目
「それで、アドノーさんのお父さんが処刑されそうになっている理由は、その行方不明者達をお父さんが殺したと思われているからですか?」
「あぁ、そう・・・あ、いや。
えぇ、ある意味そうよ」
「ある意味?」
「アリーア国の王様達の事もあるから何かあると思った父さんは、人を雇って『初心者洞窟』を調査していたの。
その雇った人達を、父さんが全員殺した。
そう言う事になってるのよ」
約1年の長期間かつ、何十人もの冒険者を雇った大規模な調査が、アドノーさんのお父さんの指揮の元今から約3年前に行われたそうだ。
長い時間を掛け色んな資料と人を雇うお金を集めて、調査に必要な最新の機器を揃えて。
長年の夢だった『初心者洞窟』の徹底的な調査を始めたアドノーさんのお父さん。
その調査を始めて約半年後から丁度1年間。
その雇った人達と一緒にアドノーさんのお父さんの消息が分からなくなった。
いや、その前からチョクチョク雇ってた冒険者達が居なくなっていたらしいんだけど。
多分その居なくなった人達の中に鬼やエルフを含めたヒヅル国人が居たのも理由なんだろうな。
アドーさんのお父さん達がその人達を雇った時期は、ヒヅル国の人達が他国に出稼ぎに行く様になってそんなに経ってない頃で、今よりももっと偏見が酷かったらしい。
同じ人間でも酷い偏見をされてるのに、元々良い印象が無い魔族も交じっていた。
誰もハッキリ口に出してなかったらしいけどそう言う酷い理由含め、思っていた以上にハードだった仕事が嫌になってボイコットした、と判断されたらしい。
そして、そう思われていた人達含め冒険者達は全員今でも行方不明で、結局帰って来たのはアドノーさんのお父さんだけ。
「その日父さん達は『初心者洞窟』の奥で『流砂の間』を見つけて、試しに奥に進んだ。
その奥には『箱庭遺跡』に居る様な危険な魔物が沢山居て、逃げ惑う内に山の様な財宝を見つけたらしいの。
そして、その財宝に目が眩んだ冒険者達が財宝を独り占めしようと殺し合った」
「そう、アドノーさんのお父さんは言ったけど、誰も信じ無かったんですね?」
「えぇ。
逃げ出した冒険者達含め全員父さんが殺して、罪から逃れる為にそんな嘘を言っているって・・・
1年間行方が分からなかったのも、その罪から逃げる為だって・・・
父さんは絶対そんな事しないッ!!!
絶対そんな事出来る訳が無いんだッ!!」
全員で迷子になったのか。
暫く見つけた『流砂の間』の奥を調査していたアドノーさんのお父さん達は入り口を見失い、他の出口を探し奥へ奥へと進んでいった。
そこで危険な魔物に襲われドンドン人を減らし、アドノーさんのお父さん以外の残った人達は見つけた財宝を奪い合い殺し合い全滅。
そんな状態で帰るに帰れず、アドノーさんのお父さんは1年キッカリその洞窟の奥で暮らしていたらしい。
「だから自分だけが漸く出口を見つけて出てきた。
雇った冒険者達の遺体や依頼書は魔物に襲われ回収できてない」
それがアドノーさんのお父さんの言い分だ。
確かにこれは・・・・・・
言っちゃ悪いけど、アドノーさんのお父さんが凄く怪しい。
その真実を伝えられるのは、容疑者の自分だけです。
魔物に襲われたり殺し合ったりで、証拠も証人も一切ありません。
そんな幾らでもでっち上げられる事言われた上、チボリ国の兵士達による徹底的な調査でもその見つけたって言う『流砂の間』が見つからない。
なにより、その事件前から仕事をボイコットしたと言う名の行方不明者を何人も出していて、ハッキリとじゃ無いけど人種差別も起きていて、現場の雰囲気もギスギスとかなり悪い。
そんな最悪な労働環境を作ったと言われる人が容疑者だったんだ。
そんな状態なら、チボリ国の王様の判決は確かに現実的に判断された『正しい』ものの様に思える。
そんな状態でもお父さんの事を信じる続けるアドノーさんの方が可笑しいと、きっと周りは思うはずだし、アドノーさんの身を案じる本当に親しい人達は説得を試みていたはずだ。
こんな状態なら傍から見てきっと、周りの人達の方が正しいはず。
でも・・・・・・
「『流砂の間』を見つけて、その奥に残されてるはずの依頼書を見つければ、父さんが本当の事を言ってるって証明できるの。
父さんの無実を証明できる!
だから、何が何でもアタシは『初心者洞窟』で『流砂の間』を見つけないといけないのッ!!
でもアタシ1人じゃ・・・・・・」
「だから依頼を出した、か」
溜息の様に出たザラさんの確認の言葉に、堪える様に俯いたアドノーさんが小さく頷く。
父親の無実の証拠は集めたい。
でも、戦闘経験皆無の自分1人じゃ危険な生き物だらけの『流砂の間』の奥の調査。
どころか、『初心者洞窟』に辿り着く事すら出来無い。
だからアドノーさんはここまで必死に自分の依頼を受けさせようとしてるんだ。
アドノーさんも大切な家族の命を守る為に、今の自分が出来る事を精一杯、我武者羅にしてる。
「だとさ。どうする?」
「どうするって・・・そりゃあ」
「言っとくけどなぁ、サトー君。
同情を抜きにして、考えろよ?
客観的に見て、本当にこの依頼は受ける価値があるのか?」
「ッ・・・・・・少し、待って下さい」
俺達と同じだと思った。
ルグ達この世界の人達に何を言われ様と、ナト達を連れ戻したい俺達と同じだと。
その俺の心情を見透かしたんだろう。
ザラさんが、そう言う共感や同情は捨てて、本当にこの依頼を受けるべきか考えろと言った。
その質問に俺は直ぐに答えられない。
今答えたらきっと、その追い出しきれない感情に従って答えてしまうから。
「俺は・・・・・・
効率を重視するなら調査を終わらせる日時を改めてシッカリ決めた上で、この依頼、受けるべきだと思います」
「理由は?」
「『流砂の間』の奥と『箱庭遺跡』が今も繋がってるかもしれないからです!」
何度か深呼吸して、気持ちと頭の中を落ち着けて。
改めて俺はアドノーさんの依頼を受けるべきだと言った。
『効率重視』って言葉によっぽど納得出来なかったんだろう。
「それは唯の言い訳か?
さっき注意したばかりなのに、同情心が理由だったらぶっ飛ばすぞ?」
と顔にデカデカと書いたクエイさんに理由を聞かれた。
それに対し俺は、少し慌て気味にメモ帳に書いてルグ達に見せた理由を言う。
「運が良ければ3つの依頼をクリアして此処に戻ってくるよりも早く、ナト達の所に行ける。
ダメでも3つの依頼をクリアすると言う正式に『箱庭遺跡』に入る条件は満たすので無駄にはならないかと」
「本当かよ?
そもそも、何で『流砂の間』と『箱庭遺跡』が繋がってるって話になるんだ?」
「えーと・・・・・・覚えてる?
今朝、柱の地図の面を読み上げた時言ったと思うんだけど・・・」
「あぁ!
そう言えば、『流砂の間』の奥には『箱庭遺跡』に居る生き物が居るんだったね」
アドノーさん自身は白だとしても、油断は絶対出来ない。
だから、勇者ダイスやDr.ネイビーの日記の事は黙っておいた方が良いだろう。
そう思って、俺はウエストポーチからメモ帳を出すフリをして、本当かどうか疑うルグにチラリと持ってきたDr.ネイビーの日記の1冊を見せた。
それで俺が何を言いたいのか、ルグより先に気づいたんだろう。
マシロがそう言えばと叫ぶ。
それでアドノーさん以外の皆も俺が言いたい事に気づいた様で、納得した様に頷いた。
「と言う事で。
あの地図の面に書かれた事を考えると、『流砂の間』と『箱庭遺跡』が繋がっていたのは間違いないと思うんですよね」
「まぁ、確かに?
そう言う事なら2つの場所が繋がってるってのも納得出来るけどさぁ。
そもそも、『流砂の間』は本当に『初心者洞窟』にあるのかよ?」
「あるに決まってるでしょ!!」
「だーかーらッ!!
そう思う証拠や客観的な根拠が欲しいって言ってるの、俺様はッ!!分かる?」
繋げる工事をしていた証拠もあるし、『箱庭遺跡』にしか居ないはずの生き物が『流砂の間』の奥にも居るなら間違いない。
と、全部柱に書いてあったと言う事にして、補足する様に今朝考えていた事を伝える。
その結果、『流砂の間』と『箱庭遺跡』が繋がっているのは信じられるけど、『初心者洞窟』に『流砂の間』がある事はまだ信じられない。
と言うザラさんに、アドノーさんが噛みつく。
そんなまた険悪な雰囲気になった2人に、俺はタジタジになりながらもどうにか口を開いた。
「えーと、それはまだ・・・・・・
情報が足りないので、判断できません。
ですが、さっきも言いましたけど、条件次第では成功しても失敗しても俺達に損は無いと思うんです」
「確かに、そう・・・か?
・・・・・・でも、この依頼を受けても僕達的には失敗する可能性が高いんだろう?」
「はい」
どっちに転んでも損は無い。
そうもう1度言う俺の言葉に、ピコンさんは受けてもいいかと思い始めた様だ。
ピコンさんが言う『僕達的失敗』。
つまり、『流砂の間』と『箱庭遺跡』がもう繋がっていない可能性は、かなり高い。
例え『初心者洞窟』に『流砂の間』が在っても、あの工事が行われたのが『箱庭遺跡』が造られた7000年も前なら、今も繋がってる可能性は低いと思う。
当時から見て地形だって間違いなくかなり変わってるだろうし、時間と共に崩れて砂に埋もれてるだろうし。
それでも俺はこの依頼を受けるべきだと思ってる。
「俺達がこの依頼を受けるかどうか決める理由は、1つ。
やって後悔するか、やらずに後悔するか、です。
俺は、どっちにしろ後悔するなら行動を起こして後悔したい。
だから、1%に満たない少しの可能性でも、繋がってる可能性が。
ナト達に1秒でも早く会える可能性があるなら、この依頼、受けるべきだと思ってます」
皆さんはどっちですか?
そう聞けば、皆真剣に考えだした。
どっちの後悔をするか。
そう押し黙って考える真剣な表情。
そんな顔見なくても、その答えは解り切っている。
「・・・・・・・・・1日。
何も見つからなかったら、明日のこの時間までで必ず何があっても依頼を達成した事にする。
その条件を飲めるなら、この依頼、受けてやるよ」
予想通り、暫く考えた後全員の顔を見回したクエイさんが、アドノーさんの依頼を条件付きで受けると言った。
それに誰も反対しない。
結局の所、俺達は皆同じって事なんだろうな。
ナト達の事で、
『あの時ああしてれば・・・・・・』
と後悔したくないだけ。
大切な人を助ける為に、今自分が出来る事は何でも試したい。
1分1秒でも早く救い出せるなら、少しの可能性でも掛けてみたい。
だからこそ、今俺達は此処に居るんだ。
「ッ・・・・・・・・・分かったわ。
その条件、受け入れましょう。
その代わり、もし『流砂の間』が見つからなかったら、貴方達の用事が終わった後にでももう1度手伝って。
その時は最後まで全員に付き合って貰うから」
「良いぜ。その条件、飲んだ!」
少しだけ悔しそうに唇を噛んだアドノーさんが、新たにそう条件を付け足して頷いた。
クエイさんに代わってその言葉に自信満々に頷くザラさん。
上手く話が纏まった俺達は一旦ギルドに戻った。




