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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第2章 チボリ国編
393/498

162,『始まりの地に足を向けよ』 2歩目


「それでどうするの、クエイ君、ザラ君?」

「そうだなー・・・・・・

どうしても受けるって言うなら、こっちからも条件を出させて貰う必要があるな」

「それより詳しい説明をさせるのが先だろう?

あの依頼書の内容じゃ情報不足だ」

「取り合えず、アドノーさん。

非常に残念ですが、今の状態だと依頼を受ける事は出来ません。

この依頼に関わってるお父さんの事情も気になりますし、此処では他のお客さん達の邪魔になってしまいます。

ですので誰にも邪魔されずゆっくり話の出来る外で詳しく話し合いませんか?」

「・・・分かった。あ、分かったわ。

時間が惜しいし、表の隅でいいかしら?」

「あぁ」


マシロ共々サイン付きで説明されたジェイクさんが、クエイさんとザラさんにどうするか聞く。

その質問に答える2人の手が、アドノーさんに気づかれない様に軽くヒッソリと動いた。


『外に連れ出せ』

『任せろ。尋問する』


そう示されたサインに従い、どうにかアドノーさんを外に連れ出せた。

思いの外素直だったのはきっと、漸く自分の依頼を受けてくれそうな俺達を逃がしたくないからだろう。

さっきみたいに叫んでこれ以上俺達に悪印象を与えたくない。

そう言う雰囲気を漂わせたアドノーさんと一緒に、俺とルグ以外の全員が一旦ギルドの外に出る。

残った俺とルグは、念の為に職員さんにアドノーさんの依頼含め受ける予定の依頼を残して置いて貰う様に言ってから、その後を追った。


「・・・貴女のお仲間はこれで全員?」

「そうだけど、実際にアンタの依頼を受けるかもしれないのは、そこの4人だな。

俺様達は先にキャラバン村に行く」

「そう。まぁ、良いわ。

依頼書見て知ってると思うけど、改めて。

アタシはエス・アドノー。この依頼の依頼人よ」

「俺様はザラだ。

で、コイツが俺様達のリーダーのクエイで、その茶髪がそっち4人のリーダーのピコン」

「え!?・・・・・・よ、よろしく」


アドノーさんの自己紹介に続いて、そう紹介していくザラさん。

ザラさんがピコンさんを俺達残り組のリーダーと言ったのは、ピコンさんが依頼書にサインを書けって指示だろう。


俺はもう既に監視の為に他の依頼書にサインしちゃってるからなぁ。

前回の失敗もあるし、何処で誰か見てるか分からない以上、その情報が別の依頼書に記録されるのは避けたい。


それに伴って俺の監視役のルグとマシロも念の為に依頼書にサインするのは避けた方が良いだろう。

そうじゃなくてもルグは正体を隠してるんだ。

是が非でも依頼書にサインする事は出来ない。


と言う事で、俺達の方で何の躊躇いもなくサイン出来るのはピコンさんだけなんだよ。

元々どうにかピコンさんにサインして貰う流れにしようと思ってたけど、ザラさんのお陰でその手間が省けた。

まぁ、そのせいでピコンさんが驚いた様な不満そうな顔をしてるけど。


「で、他は」

「オイラはエド!こいつは、サトウな」

「ッ・・・つ、通訳の佐藤です」

「こっちがマシロで、そっちがマシロの兄貴のジェイクだ」


俺とマシロに後ろから覆いかぶさる様に俺達の肩を抱いて、ザラさんに促される様にそう自分達を紹介するルグ。

勢いよく覆いかぶさって3人の顔が凄く近くなった瞬間。

ルグが集中しないと聞こえない様な小声で、


「此処は危険だ。少し移動するぞ」


と言って俺とマシロをさり気無く引っ張った。

穏やか過ぎて気づかなかったけど、よくよく見回せば俺達がさっきまで居たのは風下。

アドノーさんを挟んで風上に居るクエイさんが指に挟んだ薬煙草の煙が届く範囲だ。

尋問。

つまりアドノーさんから無理にでも真実を聞き出すって事は、今クエイさんが持っている薬煙草には自白剤の様な効果があるんだろう。

あの煙を吸ったら俺達まで余計な事を言ってしまうかもしれない。

だからルグはああやって俺達を。

正確に言えばマシロを避難させたんだろう。


「それで、アドノーサン?アンタの目的は?」

「さっきも言ったでしょ?

父さんの為に『初心者洞窟』の奥を調査したいの」

「そうじゃ無くて、最初から順序だって説明してくれって言ってんの。

その親父さんの為って何なのかとか、『初心者洞窟』の奥に『流砂の間』があるってどう言う事だとか。

そう言うのを分かりやすく言ってくれって事」

「あぁ、そう言う事」


さっきの自己紹介も、この自白剤の煙がアドノーさんに馴染むまでの時間稼ぎだったんだろう。

目の中の秋夜の紅葉が、微かに淡い藤の花に覆い隠される。

アドノーさんの瞳の色が変わったって事は、アドノーさんに自白剤が効いたって事なんだろうな。

その瞳の色が変わったタイミングでザラさんが、


「お前の本当の目的は何だ?」


と聞いた。

それに素直に答えたアドノーさんの答えはギルドの中で聞いた物と同じで、目的に関してはアドノーさんが嘘を言っていない事が分かる。


「そうね・・・・・・

まず、アタシの1番の目的は父さんの無実を証明する事。

大量殺人の言われない罪で処刑されそうな父さんを助ける為に、『流砂の間』とその奥で起きた事件の真実を知る必要がある」

「だからその事件の現場だと言われてる『初心者洞窟』を調べたいって事か?」

「えぇ、そうよ。それで最初・・・

その事件が起きる切っ掛けになった最初の出来事は・・・・・・

20年位前の事からかしら?

事の始まりは、父さんが『初心者洞窟』で行方不明者が出る事を不審に思ったのが始まり」

「行方不明者?

そこに住んでる魔物や動物に骨すら残さず食われたんじゃねーの?

それか盗賊とかに襲われたか」

「それは無いわ。無い、と言われてるの。

『初心者洞窟』はその名前の通り、一切依頼を受けた事が無い本当に本当の初心者の冒険者でも安心して入れる場所。

素材にならない小動物位しか存在しなくて、まともに価値があるのは質の悪い光苔類だけ。

そんな一切の旨味すらない洞窟と言われてるのよ」


むしろ洞窟の周りの砂漠の方が危険で、有益な素材が手に入る位だ。

と魔物や盗賊に襲われたと言うザラさんの意見を否定するアドノーさん。

でもそのアドノーさんの表情を見れば分かる。

今伝わってるその『初心者洞窟』の話をアドノーさんは全く信じていないんだ。


「誰も知らない。

いえ、外に伝える暇もなく襲われるせいで誰も知る事が出来ないだけで、『初心者洞窟』には間違いなく危険な魔物が居る。

だから、その周囲の砂漠じゃ無くて洞窟の中で人が消えるのよ」

「一応聞くけど、本当に洞窟内で消えたのかよ?」

「えぇ、本当よ。

何人も目撃者が居るし、依頼書の記録にも残っているから間違いないわよ」


表向きの『初心者洞窟』の入口は1つだけ。

行方不明になった冒険者達の依頼書は、依頼を受けた冒険者ごと行方不明だから詳しい事は分からない。

けど、その『初心者洞窟』の入口近くで作業していた冒険者達によると、その行方不明者達は洞窟に入ったきり行方が分からなくなっているそうだ。

『初心者洞窟』はそこまで広くないそうで、


「下手な養殖物の方がまだまし」


と言われる位質の悪い光苔を取って帰ってくるだけなら10分も掛からないらしい。

勿論洞窟に住んでるげっ歯類や爬虫類や虫っぽい、小さくて数が多い事が唯一厄介な弱い生き物達を執拗に倒し続けてもその位の時間しか掛からないそうだ。

それなのに何時間経っても行方不明者達は一向に出て来ない。

目撃者達は自分達が見てない少しの間に出てきて、周りの危険な魔物や動物に襲われた。

と思っている様だし、世間的にもその説で通っているらしい。


「そんな事、ある訳ないじゃない!

大昔ならいざ知らず、依頼書の普及した現代でその説は通せないわ!!」

「確かにな。

今時の依頼書は高性能だからなぁ。

行方不明者全員、依頼書すら見つかって無いなら外で魔物に襲われた可能性は低いか。

まぁ、人に襲われたんなら別だけど」


証拠隠滅の為に依頼書を処分しないといけない、と理解出来るのは人だけだ。

『初心者洞窟』の中や周囲に居る魔物や動物は、知能が低いと言われる種族。


スライムで例えるなら、ジェイクさんが話す事が出来るクライン達の様な魔族分類の知的な種族とは逆の、俺達を何度も襲っていたローズヴィオラスライムやエヴィンヴラウデンススライムの様なジェイクさんと会話出来ない。

それこそ本能しか持ち合わせてない、俺達が想像する『動物』や『魔物』しか居ないそうだ。


だから、毎回律儀に依頼書を燃やすはずないし、行方不明者全員が必ず魔物に丸のみにされてるって可能性もかなり低い。

魔法や魔法道具を使って初心者冒険者専門に襲う盗賊とかが隠れているんじゃ無ければ、何人かの依頼書は残る筈なんだ。

それが無いなら、誰も知らない『初心者洞窟』に隠された『流砂の間』や秘密の抜け道の奥で襲われ依頼書すら回収されてないって事だろう。


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