160,役割マーク
時間の無駄を省く為にもザラさんと一緒に依頼を受ける事は出来ない。
だから俺とルグ、ピコンさんが『箱庭遺跡』に入るには3つの依頼を成功させないといけないんだ。
その3つの内2つは必ず魔物や動物を倒すか生け捕りにする依頼じゃ無いといけないし・・・・・・
サッサと比較的簡単で早く終わらせられる依頼を決めないと!
そう思ってギルドから指定された依頼を読み上げるけど、中々決まらない。
「10番、6番、8番の順番でグルッと・・・・・・
いや、4番行って、7番と13番を同時に・・・
あぁ、でも・・・う~ん・・・・・・」
「一層の事、此処まで行っちまうか?
馬車の時間入れたらその方が早いと思うぞ?」
「それだと、この依頼が厄介だろう?
4人居てもお前等だけでコイツを2匹も倒すのは厳しいと思うぞ?
だからやっぱり・・・・・・」
そう紙の地図と俺が簡単に依頼内容と依頼場所を書き写した紙を片手に、あーでも無い、こーでも無い、と話し合うルグとザラさん。
完全に冒険者業素人の俺達には分からないけど、なかなか俺達の実力に合った最短ルートが見つからないらしい。
「サトウー。
絶対この中か3つ選ばなきゃダメか聞いてくれるか?」
「分かった。
すみません、職員さん。
選ぶ依頼は絶対さっきの依頼の中から選ばないといけないんですか?」
「いいえ。
討伐依頼の2つはあの中から選んで貰う必要がありますが、残り1つは自由ですよ。
そちらの掲示板に張り出されている依頼でも構いませんし、何か指定があればこちらで検索してお出しします」
「分かりました。ありがとうございます。
討伐依頼はさっきの中から選ばないといけないけど、残り1つの自由枠はなんでも良いらしいよ。
掲示板の依頼でも良いし、言ってくれれば検索してくれるって」
「よしッ!!それなら決まりそうだ!」
3つ全部さっき出してくれた依頼から選ぶのは難しかった様で、ダメ元でそう職員さんに聞くよう言うルグ。
その聞かれた内容の答えを伝えると、ルグとザラさんは直ぐに依頼書が張られている掲示板の前に行ってしまった。
2人だけじゃ張り出された依頼書を読めないと分かっているので、俺も急いで追いかける。
「えーと。上から順に読んでけばいいですか?
それとも、ある程度絞り込んであります?
あるなら、その辺りの依頼を読み上げますけど?」
「念の為に全部読み上げてくれ」
「分かりました。
えーと、まずは・・・
『初心者洞窟』の調査。初心者洞窟の奥を―――」
念の為に全部読み上げるかどうかザラさんに確認して、言われた通り左上から指さしながら読み上げていく。
毎年この時期は殆どのこの国に居る冒険者達が『箱庭遺跡』の方に行ってしまうからだろう。
真新しい外された跡が無い所を見るに、最初から掲示板には6枚の依頼しか張り出されていなかった様だ。
その6枚の依頼も半分以上が長い間放置された依頼の様で、何枚かは少し見ただけでも分かる位色あせていた。
「・・・・・・あれ?
この依頼、ローズ国語が混じってません?」
「え?どれどれ?」
「これ。
真ん中下の『シーフの役割の人募集』の依頼です」
「うーん・・・・・・」
順々に依頼書を読み上げて行って、少し気になる依頼を見つけた。
それはパーティーの仲間募集の依頼で、俺が気になったのはその募集してる『シーフ』の文字。
他全部は、チボリ国語だと思う他と同じ文字で書かれてるんだけど、その『シーフ』の役割を表す文字だけローズ国で見た事ある文字で書かれてたんだ。
周りのチボリ国語と文字の形が大分違うし、何度もローズ国のギルドの掲示板に張られていた依頼書で見たから間違いない。
だから『シーフ』の役割を表すこの一文字はローズ国語で間違いないと思う。
「どこがだ?」
「え?」
「確かに先生の言う通り、全然ローズ国語で書かれてないよ?
サトウ君の見間違いじゃないの?」
「え、でも、この『シーフ』って文字、ローズ国語ですよね?
ローズ国のギルドで見た依頼書にもこの文字が書かれてましたよ?」
「それも見間違いだろう?
簡単な方だろうが難しい方だろうがこんな文字、ローズ国には存在しないぞ?」
そう思っていたけど、生粋のローズ国民のクエイさんとピコンさんがハッキリと違うと言った。
ローズ国で見た事あると言っても違うってクエイさんに言われるし、本当に俺の見間違いか記憶違い?
そう不安に思っていると、笑いながらザラさんがその文字の正体を教えてくれた。
「サトー君が言ってるのはコレの事だろう?
コレ、ローズ国語じゃ無いぞ。
ほら、アレだ。前5代目様に聞いた・・・」
「あぁ!
コレがあの時言っていた『役割マーク』なんですね」
俺達の世界に居る時に話だけは聞いていたけど、コレが噂の役割マークなのか。
この世界中の冒険者の間で昔から使われてる、冒険者の役割を表す記号。
『役割マーク』の通称で冒険者達に親しまれるそのマークの1つが、このシーフの1文字だった様だ。
専門用語って言えば良いのかな?
冒険者間では『?』や『!』、数学の『+』や『-』みたいに全国共通で使われる物だけど、この役割マークは一般的じゃない。
だからピコンさんもクエイさんも、実物の役割マークを知らなかったんだ。
今は冒険者として登録してるけど、ピコンさんはこの事件が起きなけらば冒険者になる事も無かった。
だから知らないのは当然の事だし、クエイさんもそうだろう。
冒険者と深い中と言ってもクエイさん本人は冒険者じゃないんだ。
とっても仲がいい飲み友達の協力者でも、ザラさんもそこまで詳しい仕事の事は話さないだろう。
宿場町の酒場での様子的に、酒の肴になりそうな依頼の成果や愚痴はチョクチョク話してる感じだったけど、その肴に余計な雑味を与える専門用語までは聞かれるまで話す気が無いって感じだった。
「へぇ、コレが。
メモとかに良く書くってのは聞いてたけど、依頼書にも書かれてるんだ」
「一種のショクギョービョーって奴だな。
癖だよ癖。
長年冒険者やってると、依頼書の様な正式な書類とかにもついこっちで書いちまうの」
「良いのかよ、それで?依頼書だぞ?
長い間依頼書事記録が残る物なのに、本当に書き直さなくて良いのかよ?」
「良いんだよ、依頼受ける冒険者に意味が伝わるんだから。
それにこのマークの書き方を見れば仲間を募集してる冒険者の実力や人柄もある程度分かるんだよ。
この依頼書の様に書きなれてるなら、チョクチョク新しい仲間を募集してるベテランって事だな。
実力はあるんだろうけど、絶対性格が悪い!」
「マーク1つでもそこまで分かるんですか!?」
「こう見えて俺様もベテラン冒険者に片足突っ込んでるからな!!」
依頼書にも役割マークが書かれてる事に驚くピコンさんも、正式な書類に略語の様な記号を書く事に難色を示すルグも、自信に満ち溢れたザラさんの説明を聞いて俺と一緒に納得した様に頷いた。
流石ベテラン冒険者。
同業者が書いた依頼書の一文字からでもそこまで判断出来るとは・・・・・・
どれだけの長い間冒険者をしていればその域に達するんだろうか?
「にしても、コレが5代目様達と関係ないモンって言うのは、未だに信じられないな」
「木場さん達も言ってましたが違います」
ザラさんやボス達曰く、そもそも冒険者の役割はこの世界に居た当時の木場さん達の職業や役割からきている。
と伝わってるそうで、この役割マークも木場さん達が使っていたギルドの会員番号からきているらしい。
まぁ、どっちも速攻木場さんと高橋のお父さんに否定されたけど。
公民館の2階で話し合いをしている・・・
確か、木場さんが5代目勇者のモデルの1人だと判明した辺りで初めてこの役割マークの話が出たんだ。
その時の木場さん達の返答を聞いた『レジスタン』所属の冒険者さん達やボスと同じ、納得出来ないと顔全体で表す様な表情でザラさんは呟く様にそう聞いて来た。
また聞いてくるって事は、木場さん達が何度も説明して否定しても他の人達と同じく未だにザラさんはその事に納得してないらしい。
「でも、カンジって文字、沢山種類があるんだろう?
サトー君達が知らないだけで本当はニホン語なんじゃ・・・・・・」
「木場さん達が会員番号として使っていた字、分かってますのでその可能性は低いですよ。
木場さん達がギルドの会員番号として使っていた大字の漢数字はこう書きます」
確かに木場さん達は、当時その手の才能が有ってギルドを運営していた木場さんの奥さんが管理しやすいって理由で会員番号を持っていた、と言っていた。
それと態々大字の漢数字を使っていたのは、当時使われていたヒヅル国語と混ざらない様にする為らしい。
普段使う数字を使ったら、当時雇ってたヒヅル国の人が混乱して大変だったと言っていた。
それで確か・・・・・・
初代ギルド会長の木場さんの奥さんが『零』番で、
『太郎』だからか木場さんが『壱』番。
それで高橋のお父さんが『弐』番だったかな?
次に仲間になった丸山さんと小林さんって人が『参』番と『肆』番で、
亀岡さん夫婦が『伍』番と『陸』番。
亀岡さんが『伍』番で旦那さんが『陸』番、だったはず。
「ですので、残念ですがその話もかなり後の時代の誰かがそう言うていで付け足したんでしょう」
「えー・・・」
「そんな顔しても、違うものは違うんですってば」
「でも、どことなく似てない?」
「そうでしょうか?」
「似てるって!
ほら、コレの左側とか崩して簡単にしたら『格闘家』の役割マークに似てるだろう?」
「うーん・・・そうでしょうか?」
大字の方の漢数字をメモ帳に書いて見せながら否定しても、ザラさんは口を尖らさせ不満の声を漏らすだけ。
多分、ザラさんなりの拘りが有って何を言われても納得出来ないんだろう。
確かに木場さんや高橋のお父さん含め、冒険者の役割と同じ役割や職業の人は居たよ?
2人分足りないけど。
確か木場さんが『シーフ』で、
高橋のお父さんが『戦士』、
丸山さんが『狙撃手』、
小林さんが『格闘家』、
亀岡さんの旦那さんが『魔法使い』だったって言っていた、はず。
それで冒険者の役割として残ってなかったのは、
『商人』だった木場さんの奥さんと、
『魔法道具職人』の亀岡さん。
詳しい事を知らない俺達からしたらそこも木場さん達がモデルで良いと思うけど、本人達が違うって言うから違うんだろう。
まぁ、木場さん達がそう言っても『冒険者の役割は5代目勇者とその仲間の職業から来てる』って話に関してはバッサリ否定する事は出来ない。
『実際の5代目勇者』じゃなく、あくまで『今信仰の対象になってる5代目勇者』の、って話な訳だからな。
木場さん達が違っても他の5代目勇者のモデルの人達やその仲間の話って可能性は十分ありえる。
でも、役割マークの方は別だ。
大字の漢数字を書いた隣のページに全役割マークを書いて力説するザラさんには申し訳ないけど、どっからどう見て見比べても大字の方の漢数字に見えない。
『肆』に似てるって言う『格闘家』の役割の記号だって、縦の線が長い『レ』と『<』を組み合わせた感じで、全然左側の『镸』の部分に似てないと思うんだよ。
あー、でも、かなり崩した行書体で書かれたと思えば少しは・・・似てる・・・?
いや、やっぱ無理だ。
どう頑張っても似てる様には見えない。
「サトウやキバもずっと否定してるだろう?
ザラもいい加減諦めろよ」
「えー・・・でも俺様の勘が同じって言ってるんだ!
絶対5代目様達と関係あるって!!」
「はいはい。
それより今は依頼を選ぶ方が先だろう?
早く決めないとマシロとジェイクが帰ってきちまう」
「う~・・・
絶対何時か同じだって証明してみせるからな!!
サトー君、最後の依頼読んで」
「あ、はい。分かりました」
本来の目的を忘れた様に盛り上がる俺達に、呆れた様な声でそうルグが声を掛けてくる。
マシロもジェイクさんもまだ帰って来ないとは言え、いつ帰って来ても可笑しくない位の時間は経った。
2人が帰ってきたら直ぐにキャラバン村と依頼の場所に向かいたいし、ルグの言う通り早く受ける依頼を決めてしまわないといけない。
それが分かってるからこそ、ザラさんもそう捨て台詞の様な事言って俺に張り出された最後の1枚を読む様に言ったんだ。
「これで此処にあるのは全部ですけど、良い依頼ありました?」
「全然。調べて貰った方がよさそうだな」
「分かった。条件は?」
「ロホホラ村の近くの川向うの辺りか、『初心者洞窟』って呼ばれてる『箱庭遺跡』近くの洞窟。
依頼の内容は、討伐か採取。無いなら運搬。
護衛や調査なんかの時間が掛かる依頼は無しで」
「了解です。
すみませーん!依頼書の検索お願いします」
最後の1枚を読み終え、もう1度最初から軽く読み上げて確認の為にそう言えば、ルグが良い依頼は張り出されてないと言う。
その後検索して貰う条件が有るかどうか聞くと、ザラさんが細かく指示を出してくれた。
その内容を間違えない様にメモして、職員さんに声を掛ける。
「えーと、幾つか条件がありまして・・・・・・」
「はい、どうぞ」
「場所はこの村近くの川向う辺りか、『初心者洞窟』
「君ッ!!
『初心者洞窟』の依頼を受けたいんだな!!
ならば、アタシの依頼を受けて貰おう!!!」
ッ!?貴女、何処の何方ですか!!?」
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