159, 『箱庭遺跡』に入る為に
「残念ですが、そちらの皆さんをお入れする事は出来ません」
「あー、やっぱり?」
『箱庭遺跡』の諸々を管理してるロホホラ村のギルドの冒険者窓口で簡単な手続きをして、色々調べると言われて待つ事数分。
7人分調べるにしては早く終わったな、と思っていたら職員の物腰軟らかそうな男性にそう言われた。
予想していたけど、やっぱり俺達は駄目だったか。
「皆さんの中で現在『箱庭遺跡』に入る事が出来る冒険者の方は、ザザ・デュボネさんだけですね。
後は協力者として冒険者として登録されてない方2人までなら、ある程度の範囲まで入る事が出来ます。
入る際には、こちらの書類をしっかり読んで頂いた上サインをして頂く必要があります。
また、場合によってはテストを行わせて頂きます」
「テストですか?
具体的にはどう言うテストをするのでしょうか?
それと、3人全員やる必要がありますか?」
「現在の状況ですと・・・
クエイシード・ベイリーズさんならテストせず直ぐにでもザザ・デュボネさんと一緒に入る事が出来ますね。
ジェイクス・ジャマーさんとマシロ・ジャマーさんは依頼書による記録が無い為、テストを受けて頂く必要があります」
「そうですか・・・」
冒険者窓口で調べて貰った結果、予想通りストレートで許可が下りたのはザラさんだけだった。
そして協力者としてはクエイさんだけ。
マシロとジェイクさんは魔法道具によるテスト。
簡単な健康チェックと戦闘能力がどれだけあるかのチェックをする必要があるらしい。
その上、控えを含めた幾つかの書類にサインをしないといけないそうだ。
その書類には『自らの意思で危険な場所に入ります』とか、『死んでもギルドは責任を取りません』とか。
そう言う様な内容が書かれていた。
その書類の内容含め職員さんが話してくれた事を確認しつつシッカリ説明して、ちゃんと納得したマシロとジェイクさんに別室でテストを受けて貰う。
「あの、俺達も入るにはどうすればいいでしょう?
今年はもう、無理でしょうか?」
「いいえ、そんな事ありません。
基準に達しているのであれば、許可書は『箱庭遺跡』が消えるまでの期間何時でも取る事が出来ます。
『箱庭遺跡』はまだ現れてすらいませんので、十分間に合いますよ」
「なら、どうすれば良いでしょうか?
先程の2人の様に何かテストをすれば良いのでしょうか?」
「いいえ。
冒険者として登録している皆さんには通常通り依頼を受けて貰います。
そうですね・・・
ネグ・ローニーさん、現役ギルド職員含め多くの方達の推薦とは言え復帰したばかりですから・・・・・・
タカヤ・サトウさんは1つ討伐依頼を、新人登録したばかりのエドワード・グレップオーさんとピコーニャ・トリニダードさんは3つの依頼を達成して頂く必要があります。
3つの依頼の内2つは必ず討伐依頼にしてください」
直ぐに難しい依頼の冒険者活動も出来る。
とボス達に一言添えて貰ったとは言え、俺は復帰冒険者として登録したばかりでブランクがあるとして1つ、ルグとピコンさんは全く依頼を受けた事が無い新人冒険者だから3つ。
ギルドが指定した依頼を達成する必要があるそうだ。
職員さんは極々普通の新人冒険者でもまだ間に合うって言うけど、普通の新人は間に合わないと思うんだよなぁ。
凶暴な魔物や動物を倒す討伐系の依頼を必ず達成させないといけないし、見せて貰って読み上げた依頼はどれも新人には少し難しい依頼ばかりだとザラさんが言っていた。
ボス達の一言もあるし、本当の意味で新人じゃないルグやピコンさんなら問題ないと、ザラさんのお墨付きを貰ったから2人は大丈夫だと思う。
ただ、問題は俺なんだよなぁ。
「これ、1人1人で依頼を受けろって事じゃないよな?
冒険者同士のパーティーで参加するのはダメとか無いよな?」
「えーと、すみません。
今遺跡に入れない残り4人で一緒に3つ依頼を受けるのは大丈夫ですか?
テストを兼ねてるなら、冒険者は1人1人それぞれ依頼を受けないといけないとかあります?」
「いいえ、大丈夫です。
普段通りパーティーで依頼を受けて貰って構いません」
「でも、今俺達3人がザラさんと一緒に遺跡に入るのはダメなんですよね?」
「はい。
ザザ・デュボネさんと一緒に依頼を達成させた記録がありませんので。
ザザ・デュボネさんと一緒のパーティーで入ると言うなら、ザザ・デュボネさんをリーダーにしたパーティーで1つ依頼を達成して頂く必要があります。
この場合依頼の種類は問いません」
ザラさんは大丈夫だけど、俺達3人はダメ。
そう言われ、1人1人依頼を受けないといけないと思っていたけどそうじゃないらしい。
同じ様な不安を抱いていたルグに言われ職員さんに聞いたら、普段通りパーティーとして依頼を受けて問題ないと言われた。
俺達がザラさんと一緒に遺跡に入る許可が下りなかったのは、今一緒に行動していてもザラさんと一緒に依頼を成功させたって言う依頼書の記録が無いから。
ベテラン冒険者をリーダーにしたパーティーとして何か依頼を1つ成功させれば、新人冒険者でも3つも依頼を受ける必要が無いそうだ。
「―――と、言う事だそうです」
「なるほど。
俺様がリーダーなら全員簡単な依頼1つで済むんだな。
一緒に動くか、二手に分かれるか・・・
どうする、クエイ?」
「指定された依頼は最短どの位かかる?」
「うーん・・・・・・
馬車の時間にもよるけど、半日は確実に掛かるな」
「そうか。なら二手に分かれるぞ」
俺達と同じ様にギリギリの時期に許可を貰おうとした冒険者が他にも居たんだろう。
既に簡単に速く終わる依頼は出終わった後なのか、簡単に終わる依頼は此処から遠い物ばかりで、近い場所の依頼は時間の掛かる物だけしかなかった。
全員で一緒に行動したら約半日無駄に時間を消費する事になる。
けど、ザラさん達だけなら1時間もしない内にキャラバン村に入ってナト達を見つけられるかもしれない。
そう言う訳だからクエイさんの言う通り今回も二手に分かれた方が良いだろう。
「なんだか不満そうだな。
サトウは二手に分かれるの、反対なのか?」
「・・・いや。それが効率的なのは分かってるんだ。
だから、反対はしないよ。
ただ、気持ち的に割り切れてないだけ」
「あー、自分の手でタカハシ達捕まえられないもんな」
「うん」
最初から俺がナト達を捕まえるのは無理だったんだ。
と言いたげな苦笑いっぽい小さな笑顔を浮かべポンッと俺の肩を軽く叩くルグに、不満を押し殺せない俺は呻く様に頷いた。
二手に分かれた方が合理的で効率的で能率的な1番良い方法だって事は分かってる。
頭ではちゃんと分かってるけど、気持ち的に納得出来ない!!
俺が迎えに行くって言ったのに、これじゃあ約束破る事になるじゃないか!!
それが絶対嫌だからここまで来たのに、こんなのあんまりじゃないか!!
だからってクエイさん達に俺達が来るまでナト達を捕まえないでくれって言う訳にもいかないし・・・
黒髪の男って言う俺達の世界出身らしい新たな凶悪犯も出てしまった訳だし、これ以上魔女や黒幕達の被害者を出さない為にも。
ナト達がこれ以上の罪を重ねない為にも、出来るだけ早くナト達を捕まえないといけない。
それも分かってるからこそ、これ以上自分の我儘を通す事は出来ないんだ。
「まぁ、これもレーヤ様の導きって奴なんだろうな。
アイツ等は俺様達がチャッチャと捕まえるから、サトー君はクエイの指示に従って大人しく治療にだけ専念してろって事だ!!」
「うぅ~・・・・・・
あー、もう!分かった!!分かりました!
サッサと依頼終わらせて絶対ザラさん達がナト達捕まえる前に追いついてみせます!!
エド、ザラさん!
最短ルートで終わらせられる依頼はどれですか!?
それとも同じ場所の依頼、3つ同時にやった方が良いですか!!?」
ケラケラ笑いそうな雰囲気のザラさんのその言葉に、悔しさの方が勝ってどうにか吹っ切れた。
モヤモヤに押しつぶされる様に蹲って頭を抱えていた自分の体を思いっ切り両手の平で叩いて、気合を入れ直して声を張り上げて立ち上がる。
こうやって不満を抱えてる時間も勿体無い!!
悩んでる暇があるなら1分1秒でも早く依頼終わらせて、0.1秒でも早くザラさん達に追いつけばいいんだ。
そう思い立て気合を入れた勢いのままどの依頼が良いか聞く。
「どの依頼が良いか・・・・・・
サトウ、もう1度読み上げてくれるか?」
「分かった」
非常に残念で厄介な事に、職員さんが操作する魔法道具から出た画面に映し出された依頼の内容をローズ国語に翻訳する事は出来ないそうだ。
パッと見、使ってる魔法道具はローズ国のギルドで使われていた魔法道具と同じ物に見えるのに、実際は別の魔法道具なんだろうか?
それか最初から表示されたり印刷する依頼の言語を選ぶ機能が付いて無いとか?
マシロもジェイクさんもまだ帰って来ないから詳しく聞く事が出来ない。
けど、職員さんが知らないだけで翻訳機能や言語を選ぶ機能があるなら、ローズ国語に変えられないか2人が帰ってきたら聞いてみよう。
一々読み上げるのも今回みたいに比較して選ぶのも大変だし。
そう思いつつルグに言われもう1度指示された依頼書を読み上げる。




