38,コカトリス 3羽目
「これは、一体・・・・・・
サトウさん、貴方は何をしたんですか?」
「そうだぜ、サトウ!!
なんで軟化毒でコカトリスの毒の解毒が出来たんだ!?」
俺が水に混ぜたのは、ローズヴィオスライムのドロップアイテム、軟化毒。
「軟化毒の効果は相手を麻痺か無気力にさせて動けなくするものだろう?
軟化毒とコカトリスの毒は同じ場所にそれぞれ正反対の効果をもたらすんだ。
だから・・・」
「そうか!!
硬くなった体を軟化毒で柔らかくしたんだな!!」
「そう言う事。
『薬が毒に成り、毒が薬になる』って諺もあるだろ?」
薬も毒も使い方によっては、それぞれ毒にも薬にもなると言う諺。
ルグ達の反応を見るにこの世界には無い諺みたいだけど、正に毒である軟化毒がコカトリスの毒を治す薬になったんだ。
水に混ぜた軟化毒の量なのか、使用方法の問題か。
完全にデビノスさんとブルドックさんの解毒には成功しなかったけど。
だけど、これ以上使って何かあっては困る。
薬に成った軟化毒がまた毒に戻ってしまうかもしれないんだ。
今はこの状態で我慢して貰って、街に帰ったら直ぐ病院に行って貰おう。
「すみません。
本当は完全に解毒出来れば良かったんですが・・・
今、ユマさんにやって貰ったのは応急処置だと思ってください。
コカトリスから逃げる・・・・・・のは無理か。
もしもの時にコカトリスの攻撃を回避する位は出来ますか?」
「はい、それなら大丈夫です」
「なら、ルグ君、サトウ君。
私達でコカトリスを倒そう。
それで2人を早く病院か教会に連れて行こう」
「当然、そのつもりだって!!な、サトウ」
「それしか、方法は無いからな」
俺とルグはユマさんの言葉に頷き、作戦を考え始めた。
その間、デビノスさんとブルドックさんには休んで貰っている。
「まず、気になった事が1つ。
コカトリスがデビノスさんとブルドックさんを見つけた時の状況だ」
「それはオレも気になった」
「私も」
「どういう事でしょうか?」
俺達の言葉に首を傾げる2人に俺達が2人とコカトリスの戦いを見ていた事を説明した。
その時感じた違和感。
コカトリスは尻尾の蛇でデビノスさんとブルドックさんを見つけたはずなのに、ブルドックさんが叫ぶまで真後ろに居た2人に気づいていないみたいだった。
「そうなのか?
ならあの時、俺が焦って叫ばなければ、倒せていたかも知れないのか・・・・・・」
「ノンス・・・」
「起きてしまった事は仕方ありません。
今はどうしてコカトリスがそんな行動をとったのか答えを見つけて、次は失敗しないようにしましょう。
俺はそう思うんですが、どうでしょうか、ブルドックさん?」
「・・・・・・・・・そうだな。
どんなに悔やんでもやり直せない。
俺のせいでまたイスラを危険な目には遭わせる訳には行かない。
失敗を生かして次は必ず成功させてみせる!!」
そう言って笑うブルドックさんと、何処か嬉しそうなデビノスさん。
2人の行動と思いを無駄にしない為にも、コカトリスの行動の謎を解き明かそう。
尻尾の蛇で見つけたのに気づかなかった謎。
いや、そもそもコカトリスは本当に尻尾の蛇で『見つけた』のか?
俺達は見た目に騙されて、とんでもない間違いをしていたんじゃないのか?
「なぁ、コカトリスの尻尾の口が開いたとか、噛み付いたとかって事ある?」
「え、そんな話聞いた事無いよ?
尻尾の蛇に叩かれたり、巻き付かれたって話は聞いた事あるけど・・・・・・・・・」
ユマさんがルグ達に確認する様に声を掛けると3人共頷いた。
もしかしたら、俺の予想は当たってるかも知れない。
だけど、まだ確信するには情報が足りないな。
「じゃあ、誰かコカトリスの体の構造知ってる?
特に尻尾。
脳が頭と尻尾2つ在るとか、尻尾からも食道が通ってるとか」
「尻尾には脳みそも食道も・・・・・・・・・
無い、はずです」
「解体しても尻尾には、鱗と骨、肉しか無いぞ、サトウ」
「目玉も無いのか?」
俺が聞くとルグ達は頷いた。
うん、これで確信に変わった。
「やっぱり。
コカトリスの尻尾は蛇そっくりに擬態してるだけで、物を『見る』事は出来ないんだ!!
痛覚や触覚はあるかもしれないけど、視覚や蛇の目の様に熱を見る事は出来ない。
コカトリスの尻尾は蛇じゃない。
唯の尻尾なんだ!!」
「なッ!!そんな馬鹿な!!
そんな事ある訳無いだろう!!」
「そ、そうだぞ、サトウ!!
あの尻尾が蛇じゃ無くて蛇に擬態した普通の尻尾だって言うのなら、可笑しな事が幾つかある!
まず、コカトリスは毒の息を吐けるのに何で尻尾を擬態させて隠れる必要があるんだ!?
それに尻尾で見ていないなら、頭の方がよそ見しているのに真後ろに居る奴の行動が分かったり、『クラールハイト』とかの魔法を見破れるんだよ!?
尻尾の蛇の特殊な目で見破ってるはずだ!!!」
ブルドッグさんの叫びを援護する様なルグの言葉に、デビノスさんとブルドックさんが力強く頷く。
でも、ユマさんだけは何か考える様に黙り込んでいた。
擬態に関しては分からないけど、魔法を見破ったり真後ろに居る奴の行動が分かる理由なら説明出来る。
正確に言えば、高橋が言っていた話を思い出しただけなんだけど。
だけど、俺が勘違いしているかも知れない。
念の為に確認してから俺の考えを言った方が良いだろう。
「一応確認の為に聞くけど、あのコカトリスは俺達を追いかけていたコカトリスと同じ種類なのか?」
「うん。そうだよ」
と言う事は俺の予想通り、習性とか体の作りとかインコと似た所がまだ在るかもしれない。
それは『目』に関しても、さっきのルグの質問の答えにも当てはまるかも知れないんだ。
「ルグはどうしてコカトリスが真後ろに居る奴の行動が分かるのか。
どうして魔法を見破れるのかって聞いただろ?
今ので俺なりの答えが出た」
「と、言うと?」
「鳥全般なのかコカトリスに似た鳥限定なのか、俺も高橋って言う知り合いに聞いた話でそんなに詳しくないんだけど。
その鳥は人間の何倍も視力が良くて、視野も広いんだ。
そして紫外線って言う人間の目では見えない物も見えている」
高橋の話だと、インコの視野は片方で180度、両方で330度もあるらしい。
その上少し首を動かすだけで、真後ろだろうが斜め後ろだろうが何処でも見えてしまう。
そこまで視野が広くて人間と同じ様に色の判断が出来て、遠くても近くでも両方ピントが合うのに、遠くの細かくて小さな餌を見つける為に人間の3~4倍近くも視力が良いと言う。
コカトリスよりも小さいインコですら、見た情報を処理する能力の高い、体に比べて大きな脳を持っている賢い生き物なんだ。
それがコカトリスサイズになってみろ。
どんだけ賢くなっているんだよ。
魔族に分類されてないのが不思議な位だ。
それと『クラールハイト』がどう言う方法で魔法を掛けたものを見えなくしているか分からない。
けど、コカトリスも紫外線が見えるとするともしかしたら、紫外線と同じような物になっているのかもしれない。
後はブラックライトを当てると浮き出る文字とか絵とか。
そう言うの様になっているのかも。
ブラックライトの原理も良く分からないけど。
・・・・・・・・・あれ?
ここまで考えると俺達、とんでもない無理ゲーしてないか?
「と、言う訳でコカトリスも同じ様に視野や視力が良いと思うんだ。
だからよそ見している様で、コカトリスは後ろに居る奴でもしっかり見てるんだよ。
そして人間には見えないものも見えるから、魔法も見破れた」
「な、なるほど。じゃあ、サトウ。あれは?」
「・・・・・・・・・超ロックオンされてる?」
指差したルグの指を追いコカトリスを見ると、全く俺達と関係ない方を見ている様に見える。
だけど、今の話から考えるに、しっかりコカトリスの目には俺達が映り込んでいるだろう。
人間で言えばガン見している様な状況なのになんでコカトリスは俺達を襲ってこないんだ?
「・・・・・・・・・うん。
ルグ君、サトウ君、一緒にこれ持って?」
「これって・・・・・・」
何かを探す様に辺りをキョロキョロ見回していたユマさんが見つけて渡して来たのは、俺が出し目玉模様が見える様に広げた大きな布。
まさか、コカトリスはこれに恐れをなして近づいてこなかったのか?
その考えは正しかった様で、俺達3人で広げた布の目玉模様を見たコカトリスは少しだけ俺達から距離を離した。
「サトウ君が思った通り、コカトリスはこの模様が嫌いみたいだね」
「それでも逃げないって事は、この模様が無かったら俺達を直ぐにでも襲う気満々って事か?」
「う~ん。
これを見て逃げてくれれば1番良かったんだけどな~」
まさか無駄になったと思っていた布がこんな所で役に立つとは!!
何処で何が役立つか分からないな。
これで分かった事は俺が居た世界の鳥と同じ様に、コカトリスは目玉模様が苦手だという事。
良い情報が入ったぜ。
「このまま移動する?」
「やめておいた方がいい。
何かあってその模様が少しでも見えなくなったら俺達は襲われるんだ。
すまないが、俺とイスラはまだまともに戦えそうに無い。
それなのに、これを持ったまま移動しては他の魔物に襲われても対処出来ないだろう」
「たしかに、ブルドックさんの言う通りだね。
このままコカトリスを牽制して作戦を立てよう?」
なるほど。
言われて見れば、確かに危険はコカトリスだけじゃない。
あの俺達を襲って来たスライム達だって居るんだ。
だけど、このまま牽制し合っていてもデビノスさん達の症状が悪化したり、後遺症が残るかも知れない。
早く作戦を立てないといけないけど、まずはコカトリスの尻尾が唯の尻尾だとルグ達に納得して貰わないと。
不安や疑問から生まれた一瞬の隙をつかれ、デビノスさんとブルドックさんの様に失敗してしまうかも知れない。
後は擬態の理由さえ分かれば・・・・・・
「ねぇ、コカトリスの尻尾の擬態。
あれって雛の頃の名残なんじゃないかな?」
「え?それってどう言う事ですか、ユマさん」
ずっと俺達3人で布を持っているのも辛いからと、俺は『ミドリの手』で布がピンッと張る様な間隔で2本の木を生やした。
その間に布を広げていると、おもむろにそう話し始めるユマさん。
さっき考え込んでいた様だし、何か気づいたんだろう。
「クロッグって卵から孵ったばかりだと、鯰の様な姿をしてるでしょ?
その姿の時はオーガンがまだ上手く機能していなくて技が使えないよね?
それと同じ様に、コカトリスの雛も毒の息が吐けないんだよ。
だから尻尾を蛇に擬態させ身を守っている」
「そう言えば、コカトリスは雛の頃は毒を吐かないって言われるよな。
もしかして、ユマの言う通り吐かないんじゃなくて、吐けない?」
「どんな種類のコカトリスもそうなのか分からないけど、そう考えるとサトウ君の考えも納得出来るでしょ?」
へぇ、雛やおたまじゃくしの頃は技が使えない魔物も居るのか。
そう言えば後で『教えて!!キビ君』で調べたら、ジュエルワームはジュラエナに羽化すると技が使えなくなるって書いてあったな。
反対に技が使えなかった魔物が成長すると使える様になるのも納得出来る。
「納得出来たか?」
「あ、あぁ。
まだ少し信じられないけど、2人の話を聞く限りだと辻褄が合う気がするな」
「とりあえず、今出た話を纏めてみよう」
・呼吸器官型のオーガンによって毒の息が吐ける。
息が掛ると体が石の様に固まる。
→ローズヴィオスライムの軟化毒で解毒可能。
・尻尾の蛇に視覚はなく、唯の尻尾。
→毒の息を吐けない雛が身を守る為に擬態させていた名残。
・視力が良くて視野が広い。
関係ない方向を見ていても、実は自分達を見ている可能性がある。
・目玉模様が嫌い
・種族によっては求愛行動として、吐いた物を相手にプレゼントする
・つがいを見ると独身コカトリスは邪魔したくなる?
そう『クリエイト』で出したノートに書き、ルグ達に見せながら尋ねた。
「この位か?」
「うん。
この情報を元に、あのコカトリスを最短時間で倒す為には・・・・・・」




